フロリダで、ワニが吠えたら、ハリケーン。

 Craig Hooper 記者による2020-3-20記事「Using Navy Hospital Ships To Help With Coronavirus Is A Dangerously Bad Idea」。
      セクデフのエスパーがパフォーマンスで口にした、2隻の巨大病院船『USNS Mercy (T-AH-19)』と『USNS Comfort (T-AH-20)』を新コロ対策に動員するとの決定。これは、最悪の愚挙である。

 トランプの選挙向けの格好良いシンボル写真を得たいというのが底意で、大衆をちょっとばかり安心させる以上の実効など無い。いま、そんなことやっている場合ではないのだ。

 エスパー長官が『米海軍協会ニュース』に対して語ったところによれば、この病院船が、非新コロ患者たちの面倒をまとめてみてやることにより、沿岸の陸上の病院は、重篤な新コロ患者のケアに集中できるようになるのだという。

 抗ウイルス薬もなく、新コロかどうかを短時間でテストできる器材や技法が間に合っていない現状では、まるで非現実的である。『サンクレメンテ』級の原油タンカーを改装した2隻の巨大病院船は、ソ連やイラン相手の激戦の最前線では大量に発生すると予見された外傷性患者を、最前線の繃帯所からさらにヘリで後送して治療する野戦病院=「トラウマ・センター」としての機能を持たされていたもので、伝染病のことなんか、何も考えて設計されちゃいないのだ。

 たったひとりの無症状感染者がその病院船の中に混じっただけで、たちまち船内は、新コロ患者の大量培養実験装置に化してしまう。それによって却って、既存の病院システムがダウンするのを助長してしまうだろう。

 何の持病もない受診者を、陰性か陽性か見極めるのさえ難しいのに、すでに心臓病や怪我で入院している患者の感染症を検査するなんて、なおさら厄介な話。

 陸上と、病院船との間を、連絡・搬送要員や、汚染された物品が、おびただしく、行ったり来たりを繰り返すことになる。かならず船内に、伝染病は持ち込まれる。

 この2隻の病院船、実はいまどきレアな、スチーム・ボイラー機関である。※重油焚き?

 米海軍は、スチームタービンの機関科兵教育を、とっくの昔にやめてしまった。
 したがって、この2艦に配乗されている機関兵/機関将校も、全員、年寄りばかりだから、新コロの餌食になりやすい。

 この病院船を1隻運用するには、同乗クルーが1000名以上、必要である。このクルーたちにも簡単に伝染してしまうだろう。

 この2隻の病院船が建造された1980年代後半時点では、対ソ戦がありえたので、スタッフ定員はしっかりと充足されていた。
 しかし冷戦後、大戦争はもう起きないと考えられて、軍内の医療関係スタッフはその人員をすっかり削減されたままなのである。
 病院船を機能させるためには、その2000名のスタッフをどこかから、また集めねばならないのだ。おそらく陸上の既存のトラウマセンターから転勤させるしかない。いま、そんなことができるわけあるか?

 病院船『コンフォート』号がすぐにも準備ができて、NYC沖に派遣できるなどという政府のアナウンスは、誇張されたフカシである。ペンタゴンも18日に釘を刺した。このフネは準備が整うまでにあと数週間かかる、と。

 もう1隻の病院船『マーシー』は、母港サンディエゴに所在するが、動員にはもっと時間を要する。また、あまりにも低速であるがゆえに、東海岸へ派遣するのは現実的ではない。西海岸専用となるだろう。

 重要な事実を指摘しよう。新コロ専用の簡易検査キットが用意されるのならば、専用の病院船など必要はないのだ。すなわち、正規空母や、ヘリコプター揚陸艦などの大型の「フラットデッキ艦」の格納甲板に臨時に隔離病室区画を設けて、患者を受け入れることが現実的となるのだ。

 いま、『コンフォート』は、メンテナンス工事をされている途中である。
 だから、ついでに、伝染病病棟にふさわしいエアコン・システム等を、応急的に追加することが、海軍には、可能だろう。

 米軍は、これから何をすべきか。
 既存の民間ホテルのうち、「回復期患者の保養所」として役立てられそうなものを探し、そこに、ケア要員を派遣できるだろう。
 ケア要員は、ふつうの衛生兵の訓練+化学防護隊の除染の訓練しか受けていない兵隊でよいはずだ。
 そうしたケア要員を急速に増やす緊急速成教育プログラムを軍は始動させるべきである。すでに特技をもっている兵隊が、持っていない兵隊たちに教官となって教えればよい。その流儀で、急速に大量に増やさねばならない。

 数週間以内に、そうしたケア要員が、米本土には、おびただしく必要となるのだ。

 次。
 Ryan Browne and Barbara Starr 記者による2020-3-20記事「US military says it is working to convert buildings into hospitals in three or four weeks」。
     米軍は、軍が保有している建物の一部を臨時病院化し、ニューヨーク州にとりあえず1万床のベッドを提供するつもりである。

 このため、米陸軍工兵隊が動き出した。クオモ知事の要請による。
 とりあえず、改装工事は4週間以内に竣工させる予定である。

 軍所有の建物だけでは足らないので、使われていない民間ホテルや、大学寮も、物色中である。

 ※同じ事を何度も言って恐縮だが、わが海自にとっては『拡大しらね型』の艦型こそが、将来何が起きても、いちばん重宝するんだ――というわたしの数年来の主張、そろそろ、理解していただけただろうか?