こういう時代にこそ、旧著『兵頭二十八の農業安保論』(2013年刊)を再読して欲しい。

 大量の失業者やホームレスやニートをどうやって住まわせ、食わせて行くことが行政としてできるのかを、非常時農業の視点から論じてある。
 あの本の提言が、じっさいに必要となる時代が、じぶんが生きているうちにやってくるとは、じぶんでは想定していなかった。が、まさにそれは、やってきてしまったように見える。

 次。
  Alex Whiting 記者による2020-3-30記事「How Stone Age Humans Unlocked the Glucose in Plants」。
     氷河期&石器時代の先史人類が何を食って生き延びていたのか、植物に関しては、ほとんどわかっていない。なにしろ、動物の骨のように残ってはくれないので。

 根茎(ヤム芋の類)と禾穀類は、澱粉(スターチ)=グルコースに富む。じつは、それらこそが、氷河期石器人の基礎カロリー源だった。グルコースなくして、脳も発達しないし、エネルギーも維持できない。

 一部の米国人が、肉食中心にして穀物を排除すれば原始人のように健康になれると、新ダイエット法を売り込んでいるのは、デタラメな宣伝だ。第一に、氷河期の原始人で体重を落としたいと考えた者など一人もいなかったのだから。

 化石生物学者は、4万年前の人類による、根茎食・禾穀食の痕跡のイビデンスを発見している。

 イラクとベルギーの洞窟で発見されたネアンデルタール人の残留物は、彼らが睡蓮の根茎や、今の小麦や大麦の親類の野草を食べていたことを明らかにしてくれた。

 問題は、根茎類の多くは、生のまま食用すると、人間にとっては毒があることである。古代人類はどうやってその毒抜きをしていたのか?

 ドナウ河流域の1万年前の人骨の歯石を解析した結果、いろいろなことがわかってきた。それをまとめた本が『HIDDEN FOODS』。
 石器人の「歯石」を調べたところ、澱粉の細粒が、水を使った加熱によって変質している痕跡が認められている。
 ボイリングすれば、植物からエネルギーを取り出しやすくなったし、毒抜きにもなったのだ。

 別な研究者たちは、10万年以上前の南アフリカの石器人が、炉辺で根茎類を調理していた痕跡を見つけ出している。

 最終氷期が、北部欧州のほとんどを氷で覆ったとき、ひとつの発明が急速に古代人類の間に普及した。ローラーの代わりに石の擂粉木を用いる薬研……原始的な石臼だ。
 この発明は3万年前になされたようである。

 南西部欧州の、石器時代の人類の栄養について研究している人いわく。同地では8500年前の新石器時代に、原始的な農業が始まった。それ以前は基本的に狩猟&採集時代。

 しかし1万年前でも、人類が頼りにしたエネルギー源は澱粉だった。
 バルカン半島中部の石器時代人の人骨に付着していた歯石を分析したところ、野性のオーツ麦、莢豆、どんぐりを石臼で擂り潰していた証拠が得られている。

 欧州域で最も早い小麦粉加工は3万年前まで遡れる。ロシアとチェコ共和国とイタリアで、発掘証拠が得られている。

 河辺の植物である蒲[がま]が食べられていたことも、生ゴミの堆積跡から、分かっている。

 多くの場合、石器人は、植物の根=地下の部分を、食べようとした。植物の地下部分は澱粉に富んでいる。それを乾燥させれば、粉に轢けるのである。

 ※日本でも、葦のような水辺の植物の根が食べられていたはず。だがそれには、乾燥・粉砕工程が必要だったのか……。

 石器人も、小児期を生き残った者たちに限れば、寿命は50年以上もあった。おそらく寄生虫まみれの人生だが。

 さてそうすると新たに疑問が湧く。ネアンデルタール人が、さまざまな植物からエネルがーを得られていたのなら、どうして彼らは、新人(クロマニヨン人)によって駆逐されてしまったのだろう? 従来の説明だと、彼らは狩猟ばかりしていて偏食だったから、環境が大変動したときに生き残れなかったのだとされていたのだが……。



兵頭二十八の農業安保論