潜水艦は内部波によっていったん急に沈降させられ、そこからまた急に押し上げられた。

 Callum Shakespeare 記者による2021-5-10記事「What Are the “Internal Waves” That May Have Sunk the Sub Nanggala?」。
   「インターナル・ウェイヴ」って? 先週、初めてそんな用語のあることを知った人は多かろう。

 内部波は、大気現象、そして海洋現象等として、この地球のいたるところで発生している。ただ、目に見えないのである。
 あなたが乗っていた旅客機が乱気流に突入したときの、水平急降下&急上昇の体感。あれもじつは、大気中の「内部波」のしわざなのだ。

 海洋では、内部波の伝播を視覚化すると、太陽光線が海面で反射しているようなイメージだ。※出典元ページに衛星からのイメージを加工した動画あり。

 険峻な孤立峰を強風が通過するとき、「インターナル波」は発生する。空気が山腹に衝突して上昇するときは重力に逆らう。しかし峰を越えて反対斜面を下るときには、スピードは加速される。
 それで、山の風下側には、振動下降気流が生ずる。「内部波」の一種である。

 平らな床に、ボールを弾ませながら転がしてやる。するとボールは、半月弧をくりかえし描きながら、遠ざかって行く。半月弧の下降局面では、ボールは重力によって加速される。
 ボールを最初に投げたときの水平移動速力が大きいほど、「波長」も長くなる。

 海の波は長い距離を寄せてくるけれども、海岸の浅瀬に達すれば急変して消えてしまう。おなじように、大気の波は、成層圏の下端(ジェット気流がある高度)に達したところで急変する。
 急変した空気の波はタービュランス(乱気流)に化ける。それが、空中のジェット旅客機をとつじょ、ゆさぶるわけだ。

 海の潮流は、海底の山脈に当たると、内部波を生む。
 海底の丘が高いほど、発生する内部波も強烈化する。

 インドネシアの周辺では、深いところを動いてきた海流が、いきなり、浅い海峡をくぐりぬけねばならぬ地形が多いので、あちこちで、強力な内部波が次々に生成されている。

 特別に規模の大きな内部波は「インターナル・ソリタリー波」〔海中一発大浪〕と呼ばれる。その波の水平移動速度は5ノットにすぎないが、上昇&下降の巾は数百フィートであり、波長はセベラル浬である。

 こうした孤立波(ソリタリー・ウェイヴ)は、深度160m~650mぐらいの海中において、最大のものが観測される。

 それは、変温層のすぐ下という意味。海表面には暖かい水の層があるが、変温層を境界面として、その下には冷たい水の層がある。この変温層で音が反射してしまうので、潜水艦が敵の水上艦のソナーの探知をまぬがれたり、逆に遠くの敵の潜水艦が出す音に聴き耳を立てるのに、この深度がよく利用される。

 そこにとつぜん、海中一発大波が来たとする。たちまちその潜水艦は、毎分30フィート、下にひきずりこまれるか、上に持ち上げられる感じになる。それが10分間続くのである。

 もし急激な下降波にとらわれたなら、潜水艦の艦長は、ただちに対抗機動の操艦をさせる必要がある。さもないとじきに、圧壊深度までもっていかれてしまう。米海軍の潜水艦隊では、遅くも1966年には、この危険について周知されていた。