■国家情報会議(国家情報局)と《報道ウィルス》

 ※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。

 2026年5月27日、参院本会議にて、国家情報会議設置法が成立しました。この新法に基づいて、7月にも、内閣情報調査室を発展的に解消して「国家情報会議」が設置されるだろう—と報道されています。

 わたしはこの旧組織にも新組織(国家情報局? JCIA?)にも、ほぼ、関心が無いです。せっかくですので、ここでその理由を語ろうと思います。

 高市総理は、首相になる前から、わが国にセキュリティ・クリアランス制度を早く導入しないとダメだぜという覚醒した認識をお持ちで、自民党内の旗振り役でした。

 わたしが「セキュリティ・クリアランス」に関する海外の事案を「放送形式」で初めて紹介したのは、検索してみますと、2010-9-2です。いらい、つごう数十回は、関連の英文報道を抄訳してきたでしょうか(いまやグーグル翻訳を誰でも使えるのだと理解して後は、私は断然この無料サービスから撤退をしておりますこと、皆様ご案内の通りです)。この問題に関心のある方なら、既掲載分には、すべて目を通しておく価値があるでしょう。

 現実的には、わが国に米国式の透徹したセキュリティ・クリアランス制度を移植しようとしても、バックグラウンド・チェックに必要な人手すらもぜんぜん足らず、どうにもなるまい、と想像をしています。

 おそらくじっさいに、こうなってはもはや、のんびりやっている場合じゃないという政府内の焦慮から、とりあえず出席者全員に守秘義務を課す「国家情報会議」を設けて、米国政府の要路者に対して「この会議のメンバーならば、貴国のハイランクのセキュリティクリアランス保持者とほぼ同等ですよ」と――ちょっと苦しいけれども――言い得るようにするのが、新法の背景にある政治的要請でしょう。

 「擬似セキュリティクリアランス」が法環境的に担保されることで、ようやく、米政府内の要路者は、緊要な情報を、求められるスピードで、米国内法に抵触することなく、提供してくれる道筋が、見出されるでしょう。(クリアランスを何も持っていない日本人公務員に対して機密を教えたら、それだけで刑務所行きとなる可能性が、現状では、ある。)

 「国家情報局(もしくはJCIA、もしくは日本版ОDNI)」が開店したあとの日本の社会に、何か変化はあるでしょうか? 何もないだろうと思っています。

 いますでにある傾向が、強まる蓋然性はあるでしょう。具体的には、過去に海外に旅行して、いつ、どこで、誰と会って何を語ったか、「身上履歴書」に細かく書き出せない者は、「擬似セキュリティクリアランス」を得にくくなって、「国家情報会議」に顔を出せるポジションから、あからさまに厳然と遠ざけられるでしょう。すなわち、重要省庁の最高幹部には、出世できないことを、それは意味します。政府与党の最高幹部にも、なれません。

 そういう人たちは、古い野党や、オールド・メディアに就職して、「国家情報局(もしくはJCIA、もしくは日本版ОDNI)は、悪の陰謀組織だ!」と、さえずり続けるしかないでしょう。攻撃対象が「秘密」なので、何とでも、いかようにも、難癖はつけられます。かたや、秘密を守らねばならぬ組織や個人の側からは、秘密を開示しての反論は許されませんから、あたかもコンピュータ・ウイルスが日々、手口を進化させて絶滅の運命を拒むのと似て、この《報道ウィルス》は、半永久に蔓延することが確実です。

 健全且つ平穏な精神活動を《報道ウィルス》などに掻きまわされてしまう日常は御免こうむりたいな、と、あなたが思うのであるなら、メディアの世界で「秘密」がどう処理されるのかについての「リテラシー」を身につけることです。
 こればかりは、AIに即興で問い合わせたってダメで、過去の論筆者たちが、何かの真相に迫ってやろうと思っていろいろなことをさんざん調査してまとめた書籍を、大量に読むことでしか、身にはつきません。

 一例として、ウィリアム・マンチェスター著、宮川毅tr.『ある大統領の死』(上巻S42-4、下巻S42-6、原1967)を挙げましょう。わたしは中学生のとき『ダラスの熱い日』という当時(1973~74)最新の陰謀論の映画を、田舎の善光寺下の映画館で観て、そんなこともあったんだろうなと空想をしていました。が、この古本を通読すれば、すでに1967年の時点で、オズワルトの単独犯行だったことが、十分な説得力を伴って、1人の調査報道記者によって明らかにされていたんだと知ることができる。この本以降の陰謀論は、何なんだ? と問い詰めたくなるレベルです。大衆世間は何度でも陰謀論のエサに喰いつくから、好い商売なのでしょう。しかし、あなたは、そんな無限ループから解脱することができます。保証はしませんがね。

 もうひとつ。2023年に満100歳で大往生したヘンリー・キッシンジャー氏のことを、私はよく想像します。現役の閣僚だったとき、この人はさんざんに「密約」外交を推進した。
 現役閣僚を退いて以降の数十年間、この人には国家最高レベルのセキュリティ・クリアランスは、付与されていないはずです。
 けれども、現役時代に、「秘密」がどのようにハンドルされるのかを見覚えた人だったら、おそらく、その後も、公開情報を耳にしただけで、今、リアルには何が進行しているか、あるていど、推測することができたでしょう。

 こんな玄人のリテラシーの域に、近づくことはできるでしょうか? 意欲のある若い人は、秘密外交について書かれている過去の著述を、ぜんぶ読むことができますよね。一生のうちに読みこめる情報量として、それはキッシンジャー氏の見聞に劣るでしょうか?

 今日、「プロジェクト・グーテンベルグ」や「オープン・ライブラリ」にある外国語の書籍を片端からオンラインで閲覧して、AI翻訳させたら、原文が何語だろうと、日本語に直して速読することができるのですから、こんな恵まれた時代はないですよ。修行僧のように国会図書館や防研図書室に日参する必要も、今の学生さんには、ないんじゃないですか?

 最新の、セキュリティ・クリアランス関係の外国ニュースをフォローしたいがどうしたらよいかわからない、という人は、まず手始めに「realcleardefense.com」の記事タイトルを眺めることから一日をスタートすることを、おすすめします。トップ画面で記事タイトル一覧が出てきます。それを、グーグルに訳させれば、関心領域の記事があるかないか、絞り込める。そこで目についた記事の本文を開いたら、それも、たちどころに全訳されるんですよ。そういうことは皆さんの方が、御詳しいだろう。

 私がさいきん、注目したところでは、フレッド・フライツ記者による2026-5-29記事「ODNIの完全廃止と、CIAによる米国情報機関の主導権の回復が必要である」が有益でした。この記事も「リアルクリアディフェンス」の姉妹ウェブサイト(外交や経済など多岐)を案内口として、辿り着けたと記憶します。

  ――《令和八年六月四日・記》――