※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。
イギリス政府が、「日英伊」共同の次期戦闘機開発プログラムのために合意していたはずの出資金を、約束の期限までに用立てないかも――という報道が、聞こえてきました。
(ボリス・グルケヴィチ記者による2026-6-2記事「イタリアと日本が懸念したのは正しかった:英国はGCAP資金提供を延期する見込みで、プログラム全体に後退の恐れがある」。)
すぐ私が想像をしましたのは、英国内で密かに、何かとてつもない「量子センサー」関連技術の進捗が報告され、その趨勢を大観した英政府は、もはや有人戦闘機の時代は終わってしまうと判断をしたのではないか・・・という《穿ち》でした。
……しかし、どうも表向きの説明は、現・労働党政権がたんじゅんに国防費を増やすことに「政治的資源」を使う意欲が低い――といった話であるようです。
(英国の財政が惨憺たるありさまになっている実情とその由来の深刻さについては、イドリース・カフルーン記者による2026-6-10記事「イギリスはどのようにしてミシシッピ州と同じくらい貧しくなったのか 自己破壊に関する事例研究」が、解説してくれています。)
高市総理がちょうど訪英していますので、正式契約がどうなるか、おのずとハッキリしますでしょう。
ただ、世界のあらゆる新型戦闘機の開発が10年から20年がかりの長期計画となるのにはおかまいなしに、量子関連技術の展開は脱兎のスピードであることは、間違いのないことです。
これについては最近、2つの注目すべき記事が公開されています。
まず、アタルヴァ・ゴサヴィ記者による2026-6-6記事「米陸軍、戦場で無線信号の位置を特定する《画期的な》量子センサーを開発」というもの。
私の脳みそで要約いたしますと、米陸軍の戦闘能力開発コマンド(DEVCOM)直属の研究所が、わずか数センチメートルほどのサイズしかない、一種の量子センサー(ルビジウム蒸気を充填した微小カプセル内にレーザーを照射し、原子をリュードベリ励起状態にするもの)によって、長波からマイクロ波までのあらゆる帯域の電磁波が到来する方角を、誤差2度で三次元的に捉えることに成功した、というのです。
これが本当ならば、敵軍機編隊間の「リンク16」等のやりとりを手がかりに、各機の現座標とベクトルを遠くから三次元的に推計してしまう、パッシヴ・レーダーもどきが作られるのは、時間の問題かもしれません。
また現状、「リンク16」等はデジタル暗号化されていますが、やがてそうした信号スクランブルをマシーンが瞬時に戻してしまえるようになる未来をも、量子技術やAI技術は、いまから数年以内に、もたらすことでしょう(後述)。
とりあえず「方探」として実用レベルな量子センサーを、たとえば、超長射程の地対空ミサイルもしくは空対空ミサイルの弾頭に組み込むことも、いずれできるようになるはずで、そうなった暁に、有人の高額なステルス戦闘機に、チャンスはあるでしょうか? 20年先のことを考えますと、私は、チャンスは無いと思います。
もうひとつの記事は、さらにショッキングでした。
2026-6-4に、Burak Oktenli 記者(若手の院生らしいです)による「アメリカの自律型兵器開発における量子時計は既に時を刻み始めている」という興味深い記事が公開されました。
それによりますと、今、世界の先進国軍は、仮想敵の陣営内でやりとりされている暗号通信を、網羅的に傍受してその記録をひたすらに溜め込んでいる最中なのだそうです。
今は、それらの信号の解読はまだ無理なのですけれども、量子コンピュータが実用化される数年後には、それを解読してしまえるようになることが確実なので、そのコンピュータさえ他国に先がけて概成してしまえば、溜め込んだデータが一気に平明化されて、たなごころを指すが如くに敵陣営の「脆弱性」を衝いてやることが、思いのままとなる。
これは何を意味するかというと、2030年代まで使うつもりの「暗号規格」は、今すぐに抜本的に見直す必要が、出てきてしまったのです。
次期戦闘機の通信システムも、一から考え直さなければ、せっかく完成させたそのシステムが、一夜にしてサンク・コスト化してしまうだけでしょう。多士済々の英国指導者層の中には、そこまで読める者がいるでしょう。そして、そこまで読んでいることを他国に対して隠すために、国防大臣が憤然と辞表を叩きつける演技は、有効じゃないかと、私は思います。
続きましては、ウクライナ情勢です。
ハワード・アルトマン記者によるインタビュー取材記事「ウクライナのAI搭載ドローン作戦の内幕:ロシア軍の兵站拠点を標的に 敵陣深くへ」が、2026-6-9に公開されています。
長期戦争において侵略者の兵站活動を漸減してやろうと防禦国側が欲するのなら、反撃用の片道攻撃無人機の航続距離は長ければ長いほど好い。その理由が分かりやすく説明されています。
だいたい彼我対峙線から50kmくらいまでは、ウクライナ戦線では「短距離」の扱いです。
彼我対峙線近くでは、敵側の補給物資は、一人一人の兵士が担いでいます。それを漸減してやろうと思ったら、一人一人の兵士を爆撃する必要があります。
しかし、彼我対峙線から向こう側へ距離が遠ざかるほど、敵の兵站物資は、集積度が高くなる。それはトラックになり、中間貯蔵所になり、長蛇の貨物列車になり、さらにもっと奥まれば、そこには生産工場の大規模倉庫があるでしょう。集積されたものを爆砕してやった場合の効果は、甚大です。
短距離の攻撃ができる固定翼無人機(具体例として、1年前から受領している「ホーネット」)を、それ以遠の「中距離」(現状では250kmまで)に飛ばしてやるための、アゾフ部隊内での改造が、うまく行きつつあるそうです。
並行して、1機ごとの弾頭の炸薬量や「指向性」も強化されてきており、たとえば列車の機関車に1機が直撃すれば、それを破壊できるようにもなってきました(他のソース参照)。
都合のよいことに、こちらが狙える目標のオプションが敵領土の奥地へ及べば及ぶほど、敵側としては、どこを守ったらよいのか、見当がつけられなくなります。300平方キロメートルの範囲にある道路や鉄道線路のすべてを濃密に防空することなど、露軍にもできません。
記事によれば、優先されるべき破壊目標は、敵の燃料補給手段です。敵軍に燃料不足を強制してやることで、敵はドローンを最前線に車両で届けることもできなくなり、また、ドローン運用に不可欠な「発動発電機」を回すこともできなくなる。結果として、敵のUAV作戦は鈍化し、宇軍の無人機が、特定戦線に於いて数で露軍を圧倒できるようになる。
米軍への教訓。最前線の各師団もしくは各旅団内において、このアゾフ部隊がしてみせているような、無人機の独自改造ができるようになっていなくては、これからの戦争では、にっちもさっちも行かないであろう――とのこと。
ついでにロシア関係の余談です。2026-6-6頃に、プーチンは、ロシア国内では12歳から就労ができるようにしようとしているという速報がSNSに出ています。調子は全般に悪そうです。
続いて、ミサイル防衛に関する、注目の記事。
サイエダ・タリーム・ブハリ記者が2026-6-11に「飽和戦時代のミサイル防衛」を公開しています。
2026年にイランは、地対地弾道ミサイルの弾頭部をクラスターにしたものを使用した。これは今後、流行するだろう。
これをABMで迎撃しようと思ったら、飛来するミサイルが小型爆弾多数を分離する前に破壊をしなければならない。
それは非現実的である。高高度で迎撃しようとすればそのABMは箆棒な単価になる。低高度で子弾を迎撃しようとすれば、すぐシステムが過負荷に陥って機能しなくなる。
アイアンドームのようなシステムは、もはや時代遅れになったのだ。
この記事いわく。飽和攻撃型の戦争では、防衛網が突破される可能性は統計的に確実である。したがって、国家のレジリエンスは、攻撃の阻止だけでなく、迎撃が失敗した場合の社会混乱の最小化にもますます依存する。
続いて、「シャヘド」型の固定翼特攻無人機を空中で阻止する「インターセプター」(迎撃ドローン)のトピックスです。
アルテム P.記者による2026-6-12記事「迎撃ドローンがテープとアルミホイルで覆われているのはなぜですか?」。
補修のためでなく、レーダー反射を強化するためのテーピングを、宇軍の最前線の迎撃部隊が、インターセプターに施しているそうです。
これは、味方の地上レーダーに映りやすくしてやることで、空中で「シャヘド」と会敵するための地上からの誘導が、やりやすくなるからである、とのこと。
「シャヘド」迎撃は、自国領空でするのだから、こっちのインターセプターをステルスにする必要度は低いわけです。
これに関連して、アパッチ墜落の一件の真相。
『ディフェンス・エクスプレス』の2026-6-11記事「シャヘドのドローンがAH-64アパッチを撃墜した可能性:史上初の事例の一つ」。
ホルムズ海峡でイランのSAM/MANPADSが米陸軍のAH-64アパッチ攻撃ヘリを撃墜したのかと、世界は一瞬思ったが、乗員2名が無事だったということは、これはアパッチ・クルーが未熟だったのだ。
アパッチは高速なので、易々とシャヘドに追いつき、近距離からチェーンガンを当てたのだろう。シャヘドの90kgの炸薬が轟爆し、その爆圧をくらって、AH-64は海上に不時着するしかなくなってしまったのだろう。
この一報を承けてトランプ大統領が怒りのコメントを脊髄反射式に公表していました。私(兵頭)が惟いまするに、もしもヘグセス長官が、真相を伏せて大統領に報告し、あたかもIRGC(イラン革命防衛隊)がアパッチを狙い撃ちに撃墜したのだとボスに思わせたがったのだとしたのならば、憂うべき行動だと評されるでしょう。
――《令和八年六月十五日・記》――