※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。
2026-6-25にロイターなどから報じられたところでは、米国資本の Anduril(アンドゥリル)Industries 社が、工場の取得交渉に既に乗り出しているとのこと。ちなみにこの奇矯な社名はトールキンの『指輪物語』に出てくる剣からとられているそうです。
旧海軍航空隊の黎明期に詳しい人には地名の説明は無用でしょう。追浜は、小泉進次郎防衛大臣の地盤・横須賀の北隣。おそらく小泉氏でなくては地元周旋がかなわず、晴れて操業開始の暁には、将来の総理大臣職に花を添えることは確実だと思います。
が、これからの時代、あらゆる戦略的地上ファシリティはすべてドローン戦争の「人質」になり得ますので、今から注意すべきことがある。
それを述べる前に、当該メーカーについて瞥見しましょう。
2026-6-22には、アンドゥリル社がイスラエル国内に新兵器の研究開発拠点を設立するための交渉が進んでいるとの報道がありました。同社にとって巨額の資金調達はじつに容易らしいという印象を受けます。まさに隆盛中の新興メーカーです。
2026-6-10公開のアーロン・マシュー・ラリオサ記者による記事「台湾軍、海上目標に対しアメリカ製攻撃ドローンを配備」によれば、同社は台湾軍に「アルティウス600」ロイタリングミュニション(レンジ160km弱、弾頭重量4kg)を2000発ほども納品済みで、そのうち4発の実弾訓練が同日にデモンストレーションされた由。
2026-5-28公開のロス・ダウサット記者による『NYT』記事では、アンドゥリル社最高戦略責任者のクリスチャン・ブローゼ氏の見解が紹介されています。いわく。トマホーク巡航ミサイルのような先端兵器を増産させようとして予算を3倍付けても、納品数は3倍にはならない。1基こしらえるのに2年かかったりするので。これが今日の構造的な落とし穴。なおまたアンドゥリルのCEOは公然と民主党員であることを表明しているそうです。
2026-4-27の記事によると、米空軍は2025にアンドゥリル・インダストリーズ社の「ALTIUS 600」のために5000万ドルの契約を締結した。
2026-1-23のタイラー・ロゴウェイ記者による記事「アンドゥリルのボルトMカミカゼドローンプログラムの内幕」によると、彼らは米海兵隊から、AIを組み込んだロイタリングミュニションを受注しています。「ボルトМ」のオペレーターには、旧来のFPV操縦ドローン飛行レースの参加者には必要とされた高度なスキルが無用だそうです。1機、数万ドル。
兵頭いわく。
納品単価数万ドルの製品を、底なしに大量に買ってくれる「国家」だけを相手とした、効率的な商売です。ちょうど、あたかも、AnthropicのAIサービスを顧客の大企業が利用し始めると、それがあまりに儲かるために、顧客はさらにもっとそのAIサービスの利用を増やすしかない。そのビジネスモデルの亜流バージョンのように見えます。ウクライナもロシアも、1機数百万円以下の価格帯の自爆ドローンを、底なしの数量、需要しています。使えば使うほど、顕著な効果(それも国家の存亡を左右する戦略レベルでの)が確かに約束されていますから、もう止められるもんじゃない。
2025-12には、アンドゥリルは日本の〔電気モーターをこしらえている?〕アスター社と、製造およびサプライチェーンにおけるパートナーシップを模索する契約を締結したと発表しました。
2025-11-16の記事によれば、アンドゥリルは「HDヒュンダイ」と、無人自律水上艇を開発することになりました。船体はスチール製だそうです。
2025-10時点でアンドゥリルは既にラインメタルと提携しています。
2025-9には、同社は、オーストラリア政府から「ゴーストシャーク」の契約を獲得しています。これは無人潜航艇だ。
2025-9には台湾の国家中山科学技術院(NCSIST)がアンドゥリル設計の格安巡航ミサイル「バラクーダ-500」の量産を検討し始めました。
2025-2のインタビューで、アンドゥリルの創設者パーマー・ラッキー氏は、米国は「世界の警察」ではなく、「世界の武器屋」(おそらくこれはファンタジーゲームのイメージ)になるべきであり、その売り物は、即座に買い手へ引き渡すことができる大量生産アイテムでなくてはいかん、という考えを披瀝しています。
会社が創立された2017に遡りますと、いきなり、アンドゥリル社製のメキシコ国境監視システム「セントリー・タワー」が米政府から数億ドルで買われています。そこからドローンへ主軸を移した初期過程に興味があるのですが、私は当時このメーカーには注目をしておらず、メモした情報がありません。
ともあれ、この会社の経営陣の目の着けどころと手腕は、たいへんなものだと想像することができるでしょう。
●全般背景。長距離低速UAVは、すでに「戦略兵器」になった。
2026-5-17、ウクライナの固定翼の無人機群が防空網を突破し、モスクワに石油製品を供給しているプラントを自爆攻撃しました。
2026-6-20には、ウクライナ国境から約2000kmキロ離れたチュメニの石油精製所が、同様の攻撃にさらされました。
貯油タンクや蒸留塔に対する自爆攻撃は、標的みずからが破壊のための燃料をふんだんに供給してくれますので、比較的に軽量の弾頭によっても、著大な実害を敵国と敵軍に与えることができます。化石燃料のサプライチェーンにダメージがあれば、発電所にも兵器工場にも弾薬輸送トラックにも燃料は供給され難くなります。つまり、変電所のトランスを破壊したり、鉄道駅のレールを爆破するよりも、何千倍も効率的に、侵略軍の軍需兵站を一挙に低調化させてやることが可能なのです。そして一度、爆破炎上させられたプラントは、早くても半年後でないと、機能が元の水準まで戻りません。必要な燃料がとつぜんにわずかしか供給されなくなった工場では、工員をレイオフするか、倒産するかを迫られます。庶民は自動車用の燃料を購入できなくされ、これまた死活問題に直面します。
かたや、送圧がかかっているガス・パイプライン/ポンプ・ステーションは、爆破攻撃には脆弱ですけれども、警報と同時に送圧をゼロにしてしまうことが可能で、その対策を取られると、大爆発による大破壊は起きません。
弾頭重量が数十kgから250kgの低速長距離片道特攻UAVは、そのレンジを伸ばす「改善」のペースが早い。モスクワ市よりも東の奥地にある精油プラントや貯油施設が、これからますます執拗に自爆機攻撃を受ける流れは不可避でしょう。
イランとサウジアラビアの間では、暗黙裡に、互いの石油・ガス施設を空爆しないという不文のルールが合意されたように思います。施設がデカすぎて、どちらもそれを地下化(ハードニング)することができません。悪意ある敵勢力からの、安価なドローンによる空爆に対して、丸裸なのです。たった1発被弾すれば、設備の操業実績は2年くらいも回復できません。
従来ならば、核ミサイルでなくては、2つのライバル国間に創り出すことができなかった「戦略的相互抑止」が、安価な長距離自爆機によって、創り出される時代が到来したと思います。
米軍がイランを「石器時代」に戻せないのは、もし米軍がイランの石油施設を空爆したら、イランはサウジを同様にして「石器時代」にしてやれるからです。だからサウジがトランプ氏に、「絶対にそれはやるな」「イスラエルにもそれをさせるな」と強く釘を刺しているのだと想像できる。かくしてカーグ島の石油積出し施設も、ほぼ無傷に保たれています。
●戦略的な「人質」と看做される施設を、国ごとに洗い出す必要がある。日本の場合は・・・?
サウジアラビアやイランやロシアにとっては「ガス・石油施設」が、他国からのドローン空襲に脆弱な「戦略的人質」です。それらは炎上しやすく、防御は現実的に難しく、いちど破壊されると復旧は半年~数年後まで無理で、歳入をガスと石油の輸出に依存する政府として、累積ボディ・ブローはまず堪えがたい。
では、中国および日本にとっては、どうでしょうか。「石油の国家備蓄基地」「LNG/LPGタンカーの荷揚げ桟橋施設(ガス・タンク等付帯)」「最先端のGPUチップ製造工場」「大規模AIデータセンター」「天然ガス火力発電所」「重油火力発電所」等が、ドローン空襲に脆弱な「準・戦略的人質」施設となるでしょう。
ここで「準」と申しますのは、それが破壊されてもただちに両国家にとって致命傷にはなるとは限らない。石炭発電や原発がある程度カバーしてくれたり、非GPUチップが緊急の代替物になったりするからです。しかしもし自国だけそれらの施設を一方的に破壊されたとしますと、国際競争上、中期的にたいへんな不利に陥って、その不利に乗ぜられて国家の破局を強いられてしまう惧れがあります。したがってわが国は、即座に同質の報復ができなくてはいけません。無尽蔵の長距離自爆特攻機による、即座且つ同質の報復ができるようになっていれば、中国と日本の間には、《部分的相互確証破壊》の認識共有による「戦略攻撃抑止」が成立します。追浜工場は、その基盤づくりに、貢献してくれるでしょう。
なお、原発はその建物の構造上、安価な片道特攻UAVでは破壊されません。
●片道特攻無人機+「核のゴミ」は、核エスカレーションも抑止する。
中国や北朝鮮は近隣国を核攻撃することもできます。それに対して韓国や日本は「即座且つ同質」の報復ができる態勢にはなっていません。
しかし、軽水炉の運転にともなって生ずる「使用済み核燃料棒」もしくはこれから使う予定の新品の核燃料棒の一部を、その冷蔵プールから取り出して地面に放り出すと、ただちにそこから「放射性同位体・沃素131」等を含有する白煙が立ち上り、半径80km内には、まともな想像力を有する住民ならば一世代かそれ以上の期間、暮らせなくなってしまいます。
今日、どのような大国/強国であっても、首都と主要諸都市にこのような報復汚染を受けるリスクを、みずからすすんで招き寄せることはできないと考えることができます。
●じつは、空爆されると脆弱な一部特定施設を、わが国だけが、うまく「防御」できてしまう妙法が……あります。
北海道新幹線は、現在、函館~札幌間の工事が進められているところですが、この野心的なプロジェクトはもはや費用と公益が釣り合わないことは明らかじゃないかと財務省が示唆しており、私も、まさにその通りじゃないかと思っています。新区間のほとんどが、あらたに掘削の必要なトンネルなのですから、最初から計画が無謀すぎたのです。工事を始めちまえばもう国もストップできまい、と地元の利害関係者は甘く考えていたのではないですか?
しかし、天はわが国を見放してはいません。このトンネルの概成区間と半成区間は、どこの国も持っていない、最新鋭の戦略シェルターとして転用ができるでしょう。
貨物列車のコンテナ(それは米国流に二階建てにしても可い)の中に、AIデータセンターのユニットを収めて、それを引き込み線によってトンネル内に置く。ユニットは発熱しますが、トンネルの切羽から得られる冷たい湧き水を、熱交換システムに導入することが可能です。
米国では、データセンターは空冷騒音が酷いというので、その新設予定地の住民から、好かれていません。しかし、本格的な地下トンネルは、クーリング・システムの騒音をほぼ閉じ込めてしまって、地上に暮らす人々には、まるで気づかれないでしょう。
ユニットのメンテナンスのために、人がトンネル内に常駐をする必要もありません。コンテナを貨車ごと、複線レールや引き込み線を使って、「交換」すれば可いだけだからです。
このため、引き込み線の施設の需要も生ずる。トンネルではない、原野や山林の中の露天の線路部分も、JRは有料でAI企業に貸し出せるでしょう。過疎の地元自治体には税収が入ります。ただ通過するだけの新幹線よりも、地元自治体にとっては、おいしい話のはずです。
このトンネル内に、揮発性の低い灯油や軽油の国家備蓄基地を設定することもできます。タンク貨車が、そのまま、貯蔵施設になるでしょう。
将来、日本と中国が、長距離片道特攻ドローンで、互いのデータセンターを潰し合ったとしましょう。羊蹄山の下を通る長大なトンネル内には、中共のドローンも弾道ミサイルも、破壊力を及ぼせません。
欧州にも米国にも、トンネルで保護されたデータセンターはありません。第三次世界大戦が勃発したとき、日本のデータセンターだけが、戦争前と同じように、平然と稼働しているという未来すら、あり得るのです。
この「北海道新幹線モデル」は、JR各社が廃止したがっているあちこちの在来線にも準用可能でしょう。特に長いトンネルは、再利用価値が大きいでしょう。
もちろん、トンネルではない、露天線路区間も、近くに人家や放牧地がなければ、「貨車で移動するコンテナ型データ処理ユニット」用として、有料で貸し出せるのです。
●試されていない新型機雷
2023-1に米シンクタンクのCSISが、中共軍が台湾に侵攻した場合のシミュレーションについて公表し、それは話題になりました。
ただし民間企業ですから、政府が公開していない情報を盛り込むわけにいかず、そのため、米軍側に点が辛くなっていました。
米政府みずからの、秘密情報も使ったシミュレーションでは、結果はぜんぜん違うのだそうです。
平時の秘度の高いアイテムのひとつは、機雷です。
ベンチャー兵器メーカーには事欠かないように見えるウクライナ軍も、ロシア軍が支配中の港湾やロシア系貨物船に対しては、なぜか旧いタイプの繋維式機雷や、人手頼みのリムペット爆薬を使っている。
おそらく英国軍の顧問も、新式の機雷のノウハウだけは、外国人にみだりに教えないようにしているのでしょう。
現在進行中の紛争地で使われていないことを以て、日本人が油断することは許されません。それらは「本番」用にとっておかれているだけなのです。
わが国の機雷のバリエーションに、「商港ハラスメント専用の機雷」を追加する必要があると思います。これは現在進行中の紛争から得た私の結論です。
この機雷は繋維されません。緩徐なペースで、電池の寿命が続く限り、ゆっくりと、浮沈を繰り返す。が、水平方向の加速度センサーにより、「浮流」はしない。上昇または下降時に、「舵」を効かすことによって、浮かび上がる位置を少しずつ、意図的に変えるのです。港湾の出口よりも外縁に、半没艇などを使って放流してやると、あとは機雷が自力で、徐々に港内へ向かって移動していく。プリセットされた距離だけ水平移動し了えたら、その後は、その座標を中心に、プリセット円内での浮沈を繰り返す。終始一貫、GNSSや外部電波は受信しません。ECM脆弱性につながってしまうからです。自爆タイマーを組み込む場合には、必ず水底で自爆するようにすべきでしょう。コラテラルダメジを最小限にとどめ、しかも、何が起きているのか敵に明示せず、疑心暗鬼を生ぜしめるためです。
敵国の港湾を襲撃する無人のウェポン・システムとしては、水面上を高速で自転して疾走する「タイヤ」状の自走爆雷も、有効であるはずです。戦時の敵国港湾には、防雷網や水上フェンスが張られています。その結界線を乗り越えてしまうぞと敵国人に思わせるところに存在意義があります。半没艇を発射母艇とし、「最後1マイル」でこの「タイヤ爆雷」を放つ。敵艦を直撃しなくとも、意図的に途中で水没して、沈底機雷となるものでもよいでしょう。その掃海が済むまでは、桟橋は使えなくなります。半没/可潜艇は、きょくたんに悪い海象を水中でやりすごせるので、低速でも、十分に役に立つものです。
●AIが、無人航空機のスウォームによるASWを革新してしまう期待値は、高いだろう
CT画像を医師が目視で点検しても発見できない悪性腫瘍のなりかけを、AIが発見できるという話は、もうだいぶ前から聞かれます。
同じような進歩は、航空機や、海底固定聴音網による対潜探知作戦の分野にも、確実に起きるでしょう。
ある日を境に、原潜すら、深海でみずからの居所をくらますことが、もはやできなくなるかもしれない。
わが海自が有人の原潜を取得する日よりも、その「ある日」は、早く来るでしょう。
ASWをAIが革新し、潜水艦の所在が隠しおおせ得なくなったら、あるいはホーミング魚雷をラフな見当だけで腰だめ射出すると、あとは魚雷のシーカーが自律で効率的に敵潜をおいつめられるようになったら、世界の核バランスは変わります。私は、日本海軍に原潜は要らないという意見を維持します。尤も、アイソトープ電池は、最後の予備として、あっても可いでしょう。
●おまけ。登山者と警察はもっと犬を活用するべきだ
数日前、道南の千軒岳(以前、人食い熊が全国ニュースになり、登山道は荒れ果て、入口ゲートはずっと閉鎖されたまま)に入山した登山者が、下山路がわからなくなって、家族から捜索願いを出されるという、人さわがせな事件がありました。
ところで、犬は自分の脚裏が地面に着けた匂いをいとも容易に辿ることができます。犬連れで登山すれば、道筋不明瞭な往路から逸脱したり、下山路の分岐点をうっかりと行き過ぎてしまうといった凡ミスを、人は回避することができるでしょう。
また犬の存在が熊に対して心理的な先制圧を与えてくれる効果も、期待できるかもしれない。子連れの母熊は、相手が鈍重な人間だったら「なんとでもなる」と舐めてかかるかもしれませんが、相手がもし進退自在な犬だったなら、「仔熊を守れない」と判断して、早々に退き下がると思いませんかい?
果たしてどの犬種が、「登山者の友」として頼もしいのか、これは、各地の山で実験を重ねることで、知見が収斂するはずです。
わが国の警察も、もっと即応的・機動的に「警察犬」を駆使できるようになることが、人手不足が嘆かれる今後、ますます望まれるでしょう。ふだんは民間人が飼育管理していて、「御用」の生じたときだけ警察に協力する、そのような制度が拡充されるべきでしょう。
さらにおまけ。
全国の自衛隊の駐屯地には必ずといっていいほどに「和太鼓の演奏同好会」のようなものがありますよね。いつも思うのですが、なぜあれを、独自の「マーチングバンド」に仕立てないのだろうか? そういう発想のできる演出家は、隊内にはいないのだろうか? あの大小の和太鼓を、たとえば「縦列2輪荷車」に積載し、打ち鳴らしながら深山を跋渉できるようにするべきです。天狗の集会のような、驚愕の音響効果が生まれるでしょう。それを現代版の「熊狩りの勢子」として、地域の安全に貢献させることが考えられてよいはずです。
――《令和八年六月二十八日・記》――