沖大東島でいいじゃないか。

 わたくしは沖縄サミットの頃から「防衛庁オピニオンリーダー」などという偉そうで中身の無い肩書きを頂戴しているのですけれども、普天間基地からの海兵隊の追い出しがどうしてこんなに遅れているのか、長官官房広報からこれまでペーパーを見せてもらったこともありませんし、報道されていること以外、何のインサイド情報も持っていません。これにはいささか不満がありますが、防衛庁も忙しいのでしょう。
 メガフロート案が理想的だとする海洋工学の先生からもう何年も前に承った話では、「自民党は地元沖縄の無数の零細土建会社の仕事創出を優先せざるを得ないので、メガフロート案は必ず潰される」とのことでした。
 土建業というのは、省力化や工期の短縮をせぬようにしようと思えばいくらでも雇用維持に結び付けられる、まことに奇妙な弾力性を有する業種のようで、ほんらいなら機械技術の進歩とともに土建会社の数も年々減らなければおかしいのに、沖縄のような土地ですと、その逆の現象が起きているのです。
 つまり「技術ゼロ」であっても、公共事業さえあれば、零細土建会社は経営が成り立つのです。たとえばあのサミット会場になった豪奢なホテルは、本土のゼネコンが請け負っています。地元建設会社は基礎工事(ビルの土台部分の鉄筋を打つような仕事。出稼ぎイラン人でもできる)に参加できただけでした。ビルの最上階の壁が1ミリでも位置が狂っていたら、もうダメなのです。そんな技術は地元零細建設会社にはもちろんありません。
 しかし勘違いしないでほしいのは、中層ビルの壁が上に行っても1ミリもずれない、というレベルの技術は、先進国では「スタンダード」なのであって、けっして「ハイテク」──チャレンジングな先端技術──などではないことです。
 ちょっとここで余談に及びますと、米国は、チャレンジングな先端技術(すなわちミリテク)に連邦政府が天文学的な公的資金をつぎこみまくった結果、公共投資の乗数効果が大きく出て、日本経済を質的に引き離したのです。ハイテク関連投資とハイテク関連雇用が加速され、頭脳労働者の能力が日本の高級公務員たちの能力を突き放しました。
 いかにも合衆国のハイウェイは穴ぼこだらけかもしれません。が、公共工事の工期は万事最短で、省力化もされており、したがって行政府の金利負担は最小で、ますます安上がりで済むのです。その浮いた予算は、また別なところに使えます。結果、世の中が効率的になり、社会に対外的な競争力がついたのです。
 ところが日本ではこれまで中選挙区制が土建バラマキ予算を約束する、どうにも仕方のない構造でしたから、よりによって投資の乗数効果がいちばん出ない、経済の最末端であるローテク労働の人件費などに、税金と郵便貯金がことごとく垂れ流されてしまっていたわけです。その結果、国債暴落破綻の滝口にあと1mまで舟は迫っています。
 これではいかんというので財務省がネジを巻いて、この前の総選挙をプロ小泉の大勝に誘導しました。内閣改造後、当面喫緊の課題は、全国のバラマキ土建計画の全面白紙化でなくてはならないはずです。
 それでわたくしなどは、おそらく普天間代替基地もメガフロートで決まるのだろうと漠然と空想していたのですが、本日時点までの報道を信ずるならば、米海兵隊がそれに反対しているらしい。
 沖縄が台風銀座であること、シナのフロッグマンや水中兵器や偽装自爆船で狙われる可能性、そしてなにより塩害による稼働率の不利を考えますれば、チャチなメガフロート案に米海兵隊が賛成しないのは自然かもしれません。
 日本政府が厭うているのは、沖縄県知事はじめ、地元左翼が陸上滑走路の建設をあらゆる方法で妨害するに違いなく、それを説得するためにはまたとんでもない金額の「タレ流し」予算を確保しなければならないことです。この悪循環は確かに断ち切らなければなりません。沖縄本島には今後は「公共投資」すべきでない。むしろ先島群島と大東諸島の「防衛的開発」に注力することです。
 解決法はいくつかあります。「望み通り陸上基地をつくりましょう。ただしその財源は『在日米軍思い遣り予算』をそっくり転用する」──というのを第一案とし、「げんざい平坦な無人島である沖大東島に1500m滑走路と兵舎をつくる」──というのを第二案とし、「このどちらかの案を選んでくれ。どちらもいやなら海兵隊は日本から出て行ってくれ」と申し出るのが良いのではないでしょうか。その場合、もちろん海兵隊は沖大東島移転を選ぶでしょう。
 海兵隊が、シナの対地ミサイルから間合いがとりにくく、ロクな軍港もなく、狭い訓練スペースしかない沖縄にいつまでもとどまろうとする、軍事的に合理的な理由はありません。以前でしたら、「嘉手納基地を陸上からのゲリコマ攻撃から守ってやる」という役目が期待されていただろうと想像できますが、時代が変わりました。
 おそらく今や彼等のこだわりとは、「硫黄島から転進してしまって以降、第二次大戦で海兵隊が得た『トロフィー』といえるのは、もう沖縄しか残っていないのだ」とのノスタルジックな見栄にあるのでしょう。これに日本人が付き合う義理は全くありません。
 下地島にも自衛隊が駐留するべきです。米海兵隊は平時は無人島を場所借りする──というのが、新しい日米関係下では正常なあり方です。