海上自衛隊厚木航空基地でP-1を見学してきました。

 残念ながらP-1やその操縦訓練用の巨大6軸制御シミュレータの撮影はできませんでした。日米共同の基地でなければたぶんP-1の外観についてぐらいならばOKだったんでしょうけれども、米軍がうるさいようです。
 分解整備中のSH-60Kと、消防隊の最新消防車だけ、接写してきました。これは、機会あればまた別枠でご紹介したいと思います。
 まず印象的でしたのは、前に雪で潰れた「日飛」の格納庫の中にあった米海軍用のP-3Cの残骸が2~3機分、野積みされている場所があるんですよ。これを撮影できないのはほんとうに残念でした。角度的に、近傍のマンションの高層階からは見えているはずなんですけどね。
 日飛の格納庫屋根はなぜヘシャってしまったか。私見ですが、倉庫の屋根構造がアーチ型(D型)じゃなかったからでしょう。
 降雪や寒波を甘く見ているとえらいことになります。こんどの見学の前日にわたしが函館空港へ行くために朝っぱらに乗車したタクシー(コンフォート)も、なんとわたしが最初の客だったせいなのか寒さでドアのロックが閉まらず、「お客さん、それ押さえててもらえますか。こっちも(ドア開閉レバーを)押さえてますから」というノリで、止まらずにそのまま走り続けました。……ルパン三世かよ!
 聞けば、前夜に洗車したときの水が内部で氷結しているときがあって、時にはドライヤーでドアを温める必要もあるんだそうです。
 それはともかくもP-1の操縦席、左右ともに大きなヘッドアップディスプレイがあるのには感動しました。もちろん計器もぜんぶグラスコクピットです。日本周辺の海の深さ、海底の土質などがぜんぶカラーのマップ化されているのは超便利だと感嘆しました。敵潜がどのルートを選びそうか、このマップを見ているだけで見当がつくような気がいたします。敵艦長にとっては伊豆・小笠原・硫黄諸島とつらなる帯がずっと浅海面になっているのがほんとうに邪魔でしょうね。
 「この上を飛んではいけない」と決められている原発の位置などもちゃんとディスプレイに表示されているのです。
 ジブチの細かい砂がこの機内の電子機材を故障させたりはしないのか、という質問は……し忘れました。
 P-1の機内には最大で25人乗れるそうです。しかしお客さん用の椅子は後部に6人分しかない。それ以上に増えたときは床に適当に座るそうです。
 米海軍のP-8がMADを廃してしまった理由は、海自の人にはまるでわからないそうです。
 海面がひどく荒れているときはソノブイも役に立たぬことがあるそうです。その場合でもMADなら使えるというので、海自ではMADをずいぶん買っていました。
 水温を調べる特別な投下ブイはあるが、塩分濃度を調べられる投下ブイはないそうです。
 爆弾倉内は、TVカメラでモニターされています。機外に出て、腹の下からじっさいに見せて貰いました。この広さならばミサイルキャリアーの「空中巡洋艦」に改造するのは十分に可能であると頼もしく感じました。
 海自の人が十数人勤務している南鳥島までP-1なら厚木から3時間で到達するそうです。しかしなんと、着陸は不可能。あの滑走路はC-130だけが離発着できるらしい。
 ちなみに南鳥島の飲用水は造水機で得ていますが、硫黄島は海水が火山性の不純物で満ちていてフィルターが詰まってしまうため、雨水だけを頼っているそうです。それで200人分の用が足りるかというと、3月頃は雨が少なくてさすがに困るようですね。
 それと、硫黄島は隆起が続いていて、海岸がどんどん広まっているそうです。
 P-1の操縦シミュレーターは、四階建てくらいの吹き抜け空間があるピカピカの屋内にあって、ちょうど女性パイロットが訓練を受けていました。それをわれわれに見せたかったのかもしれないが……。米海軍はF-18にも女子を乗せているという話です。
 管制塔から見渡しましたところ、E-2Dが2機所在していました。話では、米海軍は岩国にE-2Dを集め、厚木にE-2Cを持ってくるつもりらしいともいうのですが……。
 また近い将来、厚木の米海軍機は回転翼機だけになるという話もあります。米海軍の回転翼機部隊のコールサインが「ウォーローズ」(軍閥頭目たち)だということもここで承知しました。格納庫にデカデカ書いてあります。
 厚木基地内には川が貫流していて、そこはちょっとした谷になっています。終戦直後にその谷に旧海軍機をボンボン投げ捨てたものだから、今でもあちこち掘るといろいろなものが出土するという。雷電の「火星」エンジンのパーツを入れた木箱とか、あれこれ、資料館に保存されていました。
 「零戦が埋まっている」というのも、この谷に投げ捨てた残骸から尾ひれがついた伝説のようです。
 米軍基地の面白い点は、バスがゲートに入るときには、ひとりひとりについて厳正にID点検をするのに、出て行くときには壁によりかかったままリラックスして傍観しているだけ。敬礼もしない。メリハリありすぎやろ!
 転勤の多い米兵たちは、使った家具などを基地内のガレージセールで次々に新任者に転売するシステムをつくっていました。そのための保管倉庫もあるのです。
 あとまったく余談なんですが、今回初めて北海道新幹線を始発から利用して帰宅し、そのあまりの「気楽さ」に、つくづく感心をさせられました。
 羽田その他の空港にて、われわれがいつも、いかに余計なストレスにさらされていたのかということを、肉体的にも精神的にも実感できたようなわけでございます。
 北斗駅と旧函館駅をむすぶ「ライナー」も、ピカピカの新車両だし、ぜんぜんオッケーじゃない!
 これならばもう2時間以上余計にかかろうとも、新幹線を使う方が断然いいわい――というのが、偽りなき所感でござる。
 次。
 ストラテジーペイジの2017-3-1記事。
  米海軍は、ものはためしの訓練として、1隻の駆逐艦に、GPSの利用を禁じ、六分儀と天測航法だけで日本からグァムまで航海させた。道程は2500km。
 結果、なんと目標点から7kmしか外れなかったという。
 ちなみにグァム島のさしわたしは59kmである。
 ロシアの「ミル8」ヘリが公道に降りて来て、トラックドライバーに「ここはどの町の近くだ?」と訊ねて地図と照合し、すぐ離陸して行くユーチューブ動画。これは露軍もGPS/グロナス抜きの地文航法を訓練させていることを米軍に対して宣伝しているのである。
 GPS時代の前、「戦場で最も危険な男は誰か?」という軍隊ジョークがあり、その答えは「地図を持った少尉」だった。新米小隊長が、地図と地形を読み間違えて、とんでもないところへ部下を率いて行ってしまうという意味だ。
 次。
 ALEX HORTON 記者による2017-3-1記事「Questions hover over Army drone’s 630-mile odyssey across western US」。
   米陸軍がアリゾナ南部で1月31日に発射した無人機「RQ-7Bv2 シャドウ」が10日間も行方知れずになり、630マイル先のデンバー市郊外の森林でハイカーによって発見された事故が、重大視されている。
 この150万ドルの無人偵察機は、公称の航続距離が77マイルしかない。その8倍の距離を飛んだのはなぜ? そして片翼は発見されていない。
 同機は油圧カタパルトで射出された直後から無線リンクが切れたという。
 同機は重さ450ポンド、翼長20フィートである。
 シャドウのソフトウェアは、地上との直接無線リンクが切れた際には、出発点に戻るようになっているはずなのだが……。
 詳しい人によると、内部燃料だけで9時間以上滞空し、この距離を飛翔することは可能なのだという。ただし遠ざかるにつれ地上との無線リンクは確立し難くなる。
 また当日は強い風が、南西からコロラドへ吹き込んでいた。これも逸走を助けたであろう。
 2014年に1機のシャドウがペンシルベニアで墜落して車に轢かれたことがあった。
 また2011年にはアフガニスタン上空でシャドウがC-130と空中衝突している。
 シャドウは海兵隊も前から使っているが、陸軍が2014から大々的に採用している理由は、有人の「OH-58 カイオワ」偵察ヘリの仕事をこのロボットで代行させるためであった。軍隊のリストラである。
 アパッチ攻撃ヘリを装備する陸軍の10個航空旅団(陸軍師団内に1個)は2019年までに、シャドウをアパッチに先行させるコンビネーションに切り換える。


「読書余論」 2017年3月25日配信号 の 内容予告

▼大山敷太郎『農兵論』S17-11
 幕末からの兵制改革をリサーチした学術論文集。農兵とは広義の一般徴兵のこと。
 維持費。『開陽』を1年維持するための「入用高」は、14万6000余両であった。
 慶応3年10月調の海軍経常費は、92万両余。
▼マイケル・アブラショフ著、古越浩一郎tr.『即戦力の人心術』 原2002“It’s Your Ship”
 部下から慕われる駆逐艦艦長になるのは簡単だが、それだと海軍内で出世はできんよと言外に教えてくれる奇書。
 軍のエリート将校は、自分を売り込むチャンスなので、できるだけ国防長官との面談時間を長引かせようとする。スケジュール管理を担任する副官は、それを打ち切らせねばならず、恨みを買う。
 苦しんでいる人は自分からは語らない(p.76)。
▼マーク・ゲイン著、井本威夫tr.『ニッポン日記』下 S26-11
 1945のガレキを都民はどうやって除去したか。銀座では、とりあえず運河に捨てた。山のようになった。それを川舟ですこしづつ運び去った(p.197)。
 ※『空手バカ一代』の中にGIがジープで主人公を轢殺しようとする「そんなのあるかよ」と思われるようなシーンが出てくるのだが、じつはそれは終戦直後の韓国におけるリアルな「米兵の憂さ晴らし」であったのだと本書を読んで初めて了解できた。もちろん轢かずに寸止めなのである。
▼安全保障調査会『日本の安全保障――1968年版』
 ベトナム戦争。1968-3-23時点で、米国は1ヵ月に20億ドル=7200億円を使っている。すなわち日本のS43年度国防費4221億円を18日間で使っている勘定。桁違い。
 大内兵衛は、日本人の一人一人が毛沢東語録を熟読すべきだと。「軍隊は国家権力の主要な構成要素である」「われわれは革命戦争万能論者である」「全世界はただ武器によってのみ改造することができる」「われわれは戦争消滅論者である。戦争を経てのみ戦争を消滅させられる。武器をなくすには武器をとらなければならない」とあるのだが……。
 コンゴでは国連PKFは失敗した。教訓として、内戦紛争には介入しないこと、武力行使の認められる自衛の範囲規定などが決められている。
 米ABM。まずスパルタンが、高度数百kmで核爆発。中性子やX線で敵RVを無力化する。スパルタンを突破してきたRVは、スプリントによって高度40kmで迎撃する。どちらも核爆発だが、地上には影響は無い。
 F-105Dは、九州の板付からちょうど北京を核爆撃してもどってこられる航続距離をもっていた。板付から1500km。往復ともに高々度で飛行した場合。
 マクナマラの1968年議会報告書。いわく。
 出力50キロトンの弾頭10個――つまり合計で500キロトン――が、人口200万人の都市に与える被害は、10メガトン(=1万キロトン)の単弾頭ICBMと同じである。
 人口10万人の小都市が対象の場合、そこに50キロトン弾頭が10発落下すれば、10メガトンの単弾頭が1発炸裂したときの3倍半もの破壊と死をもたらすことができる。
 飛行場の場合だと、この差は10倍にもひらく。
 迎撃のしにくさも、RVの数に比例する。
 したがって、大威力の単弾頭をミサイルに搭載するぐらい非効率なことはない。小威力の弾頭をできるだけ多数発射した方が、はるかに効率的なのである。
 ポラリスをギリシャ南岸から発射してもモスクワに届かない。ポラリスをノルウェー北岸から発射してもモスクワに届かない。しかし、スウェーデン南岸のバルト海から発射すれば、楽々と届いてしまう。黒海から発射した場合も同様である。
 ※このポラリスを「スタンダードミサイル改造核SSM」に脳内置換すると、なぜプーチンがウクライナ領有にこだわり、またバルト三国とポーランド支配にもこだわるかが了解される。
 1965統計で、極東ソ連の人口は951万で、全ソ連の4.1%しかない。
 また1965のソ連の石油生産は243000万トン。そのうち極東では240万トン。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
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インドについてのモヤモヤが晴れる本。明日、徳間書店から発売です。

 ストラテジーペイジの2017-2-23記事。
  2016年から台湾は、日本のスパイ衛星の撮像を利用できるようになった。
 台湾が運用中の「フォルモサット2」は古過ぎ、更新用の「フォルモサット5」は打ち上げを委托した米側から2015に技術的にダメ出しをされて2017に計画延期されているので、そのツナギ措置として。
 先だって英SSBNがトライデントの試射に失敗したが、その前、2016年にも、フロリダ沖から試射したトライデントが東方へ飛ばずに、逆に西方すなわち北米の東海岸へ向かって飛んでしまうというアクシデントをやらかしていた。
 英SSBNは西暦2000年からこの試射を始めているものの、2012年の試射のあと暫時ブランクがあり、2016年までトライデントの試射はしていなかった。2016年の試射は、英国保有のトライデントの6発目の試射であった。
 1発2200億円もするので、おいそれと試射はできるものではない。
 ※日本人はのんびりしているが、2016と2017にたてつづけに英国がトライデントを試射しているのは、当然ながら、プーチンへの直接のメッセージなのである。逆に言うと、ロンドン政府は近年、ロシアから、「英国を核攻撃/放射能攻撃するぞ」という、民間マスコミでは報道されない水面下の脅迫を繰り返し受けているとおぼしい。こんなときにロシアに経済協力とか、日本政府はもう阿呆かよとロンドンからは思われているのに違いない。
 なお米海軍のトライデント試射ではこのような失敗は起きていない。米英の差がいったいどこにあるのかは不明である。
 1960年代前半、米海軍のポラリスSLBMが、ちゃんと飛翔するのに模擬弾頭が起爆しないというトラブルに見舞われたことがあった。この解決に苦労した過去の上に、いまのトライデントの信頼性もある。
 ※詳細は公表されていないが、安全装置と関係があったと思われる。たとえばICBMのミニットマンの場合だと、17段階の安全装置が逐次に解除されないと決して起爆しない。その16番目は、RVが目標に向かって正常に降下しつつあるという自己診断回路によって解除される。17番目は、大気圏に再突入して、それまでの17倍の空気抵抗を感知したときに解除される。
 英国は『ヴァンガード』級の次のSSBNのためのミサイルコンパートメントを2009からGD社に設計してもらっているところである。
 59トンの「トライデント2」は、RVをめいっぱい詰め込めば最大射程7200kmだが、単弾頭にすると11300kmも飛ぶ。
 水爆は「W76」で、これを最大で8個、1基の上に載せられる。
 米国では、量産型の「トライデント2」は、これまで一度も試射が失敗したことがない。
 148発発射して、すべてうまくいっている。
 開発段階では、「トライデント1」の場合23回試射して、そのうち、うまく飛んだ率は87%だったという。
 「トライデント2」の開発段階の試射は49回で、うち98%が成功したという。
 米海軍は「トライデント2」を1基3100万ドルで調達している。
 これをロシアのSLBM開発と比較してみよう。最新の「ブラヴァ」SLBMは、18回試射して11回成功。そんなもので制式採用を決めている。連中の核兵器には、信頼性はない。
 ※米国本土のICBMをぜんぶ整理して、アラスカに集約し直したらどうなるだろうか? それも敢えてモビル式にしないで、山獄中の超硬化サイロ式にしておいたら……。ロシアは核戦争を決意したときに、それをまっさきにICBMで打撃しないで他の目標を打撃するという選択はしにくいであろう。したがって、まずアラスカで起きる核爆発が、米国指導部に、いままでよりも10分前後も長く「反撃について考える余裕」を与えてくれる。しかも、超硬化サイロを確実に破壊できたかどうかはロシア側にはなかなか判断がつかないので、かなり多数の水爆がアラスカに吸収されてくれる。どっちみち対ICBM打撃は地表爆発モードなので、中性子を浴びた大量の土砂が放射性塵となって偏西風に乗る。しかしそのフォールアウトは従来とは違い、米国東部の大都市を襲わないだろう。シベリア東部からアラスカのサイロを狙うロシアのカウンター・フォース用BMは中距離核(とうぜんINF条約を破棄)となるので、米側のABMとしてはGBI未満のTHAADでも迎撃が可能かもしれない。可能かもしれぬというだけでますますロシアの水爆弾頭はアラスカに引き寄せられざるをえない。これはマクナマラが限定ABMを決意したときに計算した「安定」の再現か、それ以上の良い話ではないのか? トランプ政権がなぜこのオプションを考えないのか、わたしには不思議でならない。(Why America re-deploy it’s whole new ICBMs in Alaska?)


日本がイージスアショアを導入することは世界への貢献になるが、THAADを買っても 中共に対するイヤガラセ程度にしかならない。

  Sam LaGrone 記者による2017-2-21記事「PACOM Commander Harris Wants the Army to Sink Ships, Expand Battle Networks」。
    太平洋コマンド司令官のハリス提督は、米陸軍が対艦能力をもつことを勧奨した。某カンファレンスのスピーチで。
 いわく。米海軍と連繋して、実戦的な情況を模した演習で、「敵艦撃沈」をやってもらいたい。私が転任する前に。
 太平洋艦隊司令官のスコット大将と、太平洋陸軍司令官のブラウン大将。二人ともハリスの部下。ハリスは、両者が協働して、陸軍のPAC-3とTHAADを海軍のNIFC-CA(E-2Dやイージス)に連接し、統合ABMを機能させることを求めた。
 陸軍と海軍には、「ここまでがウチの担当する仕事だ」といった蛸壺意識をすっかり捨ててもらわなくてはならない。これからは、伝統的な縄張りは消えるのだ。
 ハリスは会場で、「日本海軍・空軍や韓国海軍・空軍と、米海軍とが、NIFC-CAで直結することを望むか」という質問に、答えなかった。彼の話は、あくまで、米軍内の四軍間の連接に限定された。
 ※基礎整理。米軍は地対空ミサイルを陸軍がすべて管掌する。PAC-3もTHAADも、したがって、米陸軍利権である。ところが日本では、空自の「対爆撃機インターセプター」がそのまま「ナイキ」になり「ペトリオット」になったという経緯があるために、PAC-3が空自利権なのである。旧ホーク以下の短射程SAMだけ、陸自利権である。THAADの能力はPAC-3を上回るから、もし日本がTHAADを導入するとすればそれは空自の予算でとる流れになるだろう。しかるに空自の予算はF-35だけでパンクするはずである。だから人員を充てる余地がない。もうひとつ。E-2C/Dは米空母を守るための海軍の艦上機である。ところが日本では、広域レーダーサイトを担任する空自が、広域レーダーサイトの穴を埋めるための装備として導入した来歴から、日本ではE-2C/Dも、海自ではなくて空自に所属するアイテムとなっている。新型で高額のE-2Dをこれから導入していかなければならぬ空自にとり、新ABMのための予算枠の余裕など、いよいよあるわけがないのである。例外的な幸運は、米軍と違って、わが自衛隊では、陸自に最初から対艦能力がある。また、中距離SAMの性能が近年向上し、「中SAM」と「ペトリオット」のエンヴェロープは重なって行く趨勢にある。おかげで、陸自がイージスアショア(とうぜんSM-6も含む)を導入するなら、ハリス大将の理想は日本においてモデル的に実現してしまうのである。
 次。
 PETER ROPER 記者による2017-2-21記事「New national security adviser McMaster battle-tested in Iraq」。
    マクマスターは2005に、シリアに近いイラクのタル・アファー市内で対ゲリラ戦を指揮した。そのときは中佐で、第三装甲騎兵連隊長だった。
 そこでは、敵ゲリラは、対米協力者のイラク市民を見境いなく斬首しては見せしめとしていた。
 タルアファー市は人口25万人。警察は、住民の中に混じっているゲリラによって殺されないかとビクビクしていた。学校も商店も閉じていた。
 進駐直後からその年のおわりまでに、マクマスターとその連隊は、ゲリラ1500人を射殺もしくは捕虜にした。
 この作戦のために第三騎兵連隊は戦死者39人、戦傷者126人を出した。
 ゲリラはほとんどがイラク人ではなかった。サウジアラビア、リビア、シリアからやってきた外人兵だったのだ。
 住民はすぐゲリラを殺してくれる米軍をとても頼もしく思い、ゲリラの居場所について積極的に垂れ込んでくれるようになった。そしてついにタルアファー市からゲリラは一掃された。
 この稀な成功はマクマスターを米メディアのヒーローにした。CBSの『シックスティミニッツ』でも彼がフィーチャーされている。
 マクマスターは2006に米本土のフォートカーソンに凱旋。
 彼のトレードマークはツルツル頭。
 彼はその後、アフガニスタンでの米陸軍の対ゲリラ戦を組み立てる仕事をしている。2014-7には中将に栄進。現職は、陸軍の、「訓練およびドクトリン」コマンドの副司令官だ。
 次。
 そのマクマスターが『NYT』紙に少将時代の2013-7-20に寄稿している意見論文「The Pipe Dream of Easy War」。
 ※あるいはこの論文で中将昇進が確定したのかもしれない。彼の考え方を知るのに重要。
  2001-9-11テロ直後、遠く離れたところから精密打撃ができる能力を持った少数精鋭の米軍が、反米国家やイスラムテロ集団に対しても電撃的な戦勝を挙げることができる――という幻想が一時、風靡してしまった。
 ※2001年末の米特殊部隊+現地部族連合によるアフガン戡定作戦、および2003年のイラク占領作戦の「成功」を念頭している。「ラムズフェルド・ドクトリン」とも言ひ得る。マクマスターは、それは成功ではなかったと本稿で主張する。オバマ政権の政策を批判しているわけではなく、前政権への批判だ。
 アフガンとイラクでの二度の成功は、われわれ米人が中東地域のリアルな構造を観る眼を曇らせ、適切な戦略を考える作業が後手にまわった。
 アフガンとイラクにおいて今日米軍が直面させられている苦境を、軍事専門家は「異例事態」なのだと観たがっている。
 1991湾岸戦争の一方的な勝利が、RMA=「軍事における革命」などという妄譚・謬論・虚説を生み、将来戦を過度に楽観せしめた。
 ギリシャ悲劇で、傲慢さゆえに神から罰せられてしまう登場人物。それが今日の米国なのである。
 2001のアフガンでは、反タリバンの諸部族が助力してくれた。が、タリバンがパキスタンに逃亡するや、彼らは米国による国家再建努力への抵抗勢力と化した。それぞれの部族の権益だけが彼らの関心事だからである。
 2003~2007のイラクでは、われわれは、マイノリティに転落したスンニ派住民の苦情を放置した。
 アフガンでもイラクでも、反米ゲリラ勢力の手口は同じである。不満や恨みを抱いている住民から後援を得、抗米戦士がそこからリクルートされている。
 教訓。その地域の政治基盤からして論じていないような戦争理論はまず疑え。殊に、迅速安易に戦争に勝てますよと請合うような理論は。
 第二。戦争は人間的である。トゥーキュディデースが2500年前に分析したように、恐怖心、名誉心、欲心から人々は戦闘する。
 だから、アフガニスタンやイラクの住民の近過去の歴史を、進駐軍はよく学んでおかねばならなかったのに、米軍はそれをしなかった。
 アフガニスタンやイラクに宥和社会を実現しようと思ったら、彼らの恐怖と利益が何かを知り、彼らの名誉観も解しなくてはならない。さもないと彼らは、過激主義ゲリラを支援し始める。
 マイノリティの恐怖を鎮めてやれ。各集団の名誉心を尊重せよ。暴力によってではなく政治によって最も彼らはよく守られるのだということ、また各人の利益追求もできるのだと、各コミュニティを説得できなくてはならない。
 戦争は政治的であり、且つまた人々の欲望に基礎がある。であるがゆえに、戦争には確実な予見などあり得ない。
 RMAなるものが実現するためには、完璧に近い情報が我々に得られるということが前提となる。そんなの、あり得るか?
 ※ここでプラトンの「無知の知」を持ち出してくれぬことが、兵頭には不満である。クラウゼヴィッツやツキジデスよりももっと大事な教養だと思うのだが……。そこがわかってないと、ゲリラ戦とはダーウィン進化論そのものであることもわからない。そこがわからないから、なぜ孫子の「一撃離脱」(拙速離脱)だけが上手な戦争指導となるのかもわからない。そのゆえに米軍は一勝のあとに漫然と外地に「居座り」を続けてしまって、コンスタントにすこし悧巧に進化し続ける敵ゲリラからしてやられるというパターンを繰り返すのである。
 アフガニスタンとイラクでは、イニシアティアヴは敵にある。イラクとアフガンで、他のすべての戦争と同じく、人々の意思が自由に解放されぶつかり合って新情況を次々に生み出している。さるがゆえに、将来のイベントの予測はできない。完全情報というものはありえない。
 さいわい、アフガニスタンとイラクでは、米軍は、適応しつつある。
 たとえば2005年、ニネヴェーの西郊。そこではセクト化したゲリラ集団が互いに攻撃し合っていた。
 タル・アファー市では、わが騎兵連隊は、地元のイラク政府軍を育成しつつ、四面楚歌の住民を守らねばならなかった。
 われわれは、ただ敵ゲリラと戦うことだけを優先しなかった。住民の安全を確立すること。対立武装グループ間の紛争解決を助けてやることも熱心に推進した。
 われわれは、市の癌であるザルカウィ・グループだけを排除した。住民には側杖被害を及ぼさずに。
 これは、市長らの協力、そして特殊部隊の協力があったからできたのである。このような丁寧な作戦を、遠隔地から高性能兵器だけで遂行できるわけがあろうか。
 われわれに同盟してくれる味方をどんどん増やせるような米軍の活動。それこそが求められている。そのためにはわれわれは、敵の脅威にさらされている海外各地の住民を防護してやれなくてはならないのだ。
 近年の米国国防予算にはたしかに制限がある。しかし物事をクリアに考えるのに「予算」なんて必要ないはずだ。


月刊『BAN』の刑務所アイドルと累犯障害者の話にはひさびさ感動しました。

 Jill Aitoro 記者による2017-2-20記事「Russia’s Rostec to co-develop 5th-gen fighter with UAE」。
  ロシアの軍需企業ロステックの社長がアブダビにて、UAE国防省と共同で第五世代の軽戦闘機を開発したいとメディアに対して表明した。
 双発のミグ29をベースに、2018から開発開始し、8年以内に完成させたい。 製造工場はUAE内にも置くであろう。
 GCC諸国はそれを買えるだろう。
 このJVを、ロステックとUAE政府の協働とするのか、それとも、ロステックとUAE内の私企業の協働にするか、それは未決定。
 ロステックはすこし前、インドの第五世代中型戦闘機の開発にも協力したいと語っていた。
 ロステックはインドネシアにスホイ35を売る商談も進めているところである。
 エジプトにも、おそらくミグ29を売り込もうとしている。
 ※いや~、焦りました。25日発売の徳間の新刊の中で、インドから「PAK-FA/T-50」を見放されたスホイ社が、あらためてUAEやイランをスポンサーにしようとすることには無理がある――という見方を述べ、その政治的な理由を縷説しているからです。発売前からさっそく記事訂正せにゃならんかと思うたわいの。「ミグ29」ベースなら、無問題でしょう。その理由は、拙著を読んでくださればおわかりになる。
 ロシアは世界第二の武器輸出国の地位を頑張って保っている。年間145億ドルも輸出している。
 ロステックはロシアの軍需工業の7割を傘下にしているという。
 ただしロステックは武器だけ商っているわけではなく、3割の民需品も売っており、できれば民需品の扱い比率を半分まで高めていきたい。
 同社はイランには10億ドル分もの「S-300」地対空ミサイルシステムを既に売った。
 社長の認識では、攻撃的兵器でなければ、対イラン禁輸制裁の対象にはならない。
 ボーイング社やエアバス社がその航空機製造のために必要としているチタニウムは、ロステックが供給しているのである。
 次。
 Michaela Dodge & Marek Menkiszak 記者による2017-2-21記事「U.S.-Japan Anti-Missile Test a Good Sign for the European Missile Defense Sites」。
  イージスアショアはルーマニアでは昨年から部分稼動を始めている。ポーランドへは来年に持ち込まれる予定だ。
 ロシアからの反対圧力をはねのけてルーマニア国会が米軍基地受け入れを可決するためにはルーマニア政府はおそろしい政治資源を投入した。
 このハードルはポーランドではもっと高くなるはずだ。
 オバマ政権は一回、BMDのポーランド持込みをキャンセルしている。
 これはモスクワ発の政治工作に屈したもので、オバマはそうすることでロシアとの関係が改善されると考えた。だが結果は逆だった。ロシアの要求はますますエスカレートしている。
 来年のイージスアショア展開がまた頓挫させられると、もはや欧州は米国を信用しなくなり、ロシアはますますその侵略政策を調子づかせるであろう。
 ポーランド政府は、駐留米兵と米人軍属たちに対して、同国内での消費にかかる付加価値税を免税してやっている。土地や建物の提供、米軍用地の警備など、ポーランド政府が負担している金額は巨額である。
 ルーマニア政府も同様の負担をしている。
 ※「大綱」前倒し改定で、日本側として素早く論定を急がされそうなのが「THAAD」か「イージスアショア」かの選択です。わたしはどっちも中共の水爆ミサイルを防げない以上、東京防空の役にも立たず、困った案件だと見ていますが、政治的には意味が大きいので、このさい、この2システムの損得を較べてみましょう。まず、中共に対するイヤガラセ効果がヨリ高いのはTHAADの方です。THAADを北九州や対馬に配備すれば、釜山橋頭堡の米陸軍をカバーしてやることができるので、米陸軍から深く感謝されるでしょう。しかし日本の防衛には米陸軍は平生ほとんど関与してません。そこが問題になります。特に米海兵隊は、THAADではじぶんたちは安全にならないと感ずるでしょう。米陸軍と米海軍=海兵隊との間に、有事には十全な情報リンクがすぐ立ち上がるはずだ……などとは、プロならば誰も想定していません。その点、イージスアショアならば、海兵隊は心強い。この意味は大きいでしょう。イージスアショアには、三菱が開発した部品が使われているので、これが多数採用されることは、日本が世界の安全にリアルに貢献していますよという大宣伝になるので、政治的な(無形の)利益はとても大きいです。THAADではそのような宣伝メリットはゼロでしょう。またTHAADでは巡航ミサイルは阻止できない。キチガイ隣国の●●軍が日本各地の原発建屋に向けてドイツ製の長射程巡航ミサイルを乱射乱撃してくるときに、THAADがなんぼあっても役には立たないのです。イージスアショアならば、NIFC-CAの一部となり、SM-6やアムラームの広域運用とシームレスに連接できますから、日本全土の原発が気違い●国の攻撃から安全になるばかりか、離島に所在する味方部隊を中共軍の巡航ミサイルや航空機や艦艇からも守ってやる一助ともなる。どちらを選ぶのが日本国民のためになるのか、結論はもうあきらかですね。


Would we call it a ‘Duper Hornet’?

  ANNA FIFIELD 記者による2017-2-19記事「North Korean officials are preparing to come to US for talks with former officials」。
  米国と直接対話するため北鮮から要人が招かれるという。国務省はまだそのビザを発給していない。発給すればそれだけでトランプ政権によるメッセージとなる。要人は数週間以内にNYCにやってくるであろう。
 米鮮は過去、クアラルンプール、ジュネーヴ、ベルリン、ウランバートルで接触協議している。これらの場合には、米政府としてはビザ発給の必要などはないわけである。
 米本土に北鮮人がビザを得てやってきて協議したのは2011-7が最後だった。このときはまだ金正日が生きていた。
 米側でこうした接触をずっと仕切っているのは、カーター政権でアジア問題のコンサルタントだったドナルド・S・ザゴリア。今は外交政策のシンクタンクに在籍している。
 やってくるのはおそらく、北鮮外交部の中で対米を任されている女 Choe Son Hui だろう。六ヵ国協議でも顔は知られている。
 昨年韓国へ亡命した元北鮮の駐ロンドン大使いわく、この女は正恩と直結していると。
 次。
 ストラテジーペイジの2017-2-20記事。
  金正男、その妻、その二人の子供は、全員、マカオの国籍を保有している。
 正男には、前妻1人と、その子供1人もあり、そのどちらもシナ在住。
 正男も正恩も、若い頃は西側の外国で長らく暮らした。
 正男は西側からウケがよく、最近は韓国を訪問したいと漏らしていた。※この記者は匿名だが韓国人だと思われるので、8割引きぐらいして聞いておくのがいいだろう。
 正男は2002からシナに暮らしている。
 中共は正男にシナ国籍も与えている。
 正男が父から、後継者の器ではないと見限られたことは、2003に明らかになった。
 正恩が権力の座についたのは2011である。
 もし正恩が北鮮をうまく統治できなかった場合に中共は正男を送り込むつもりで匿っているのだという推測は、2012年に一日本人ジャーナリストが正男にインタビューして刊行した書籍『わが父金正日と私』によって、確からしくなった。
 中共は、この本が中共内で売られることも許している。
 2-14の暗殺を承けて、マレーシアは北鮮大使を召還したが、北鮮は駐マレーシア大使を召還していない。
 2-15、中共は、正男暗殺ニュースへの最初の反応として、シナ軍部隊1000人を北鮮国境に増派した。
 正男暗殺報道を中共中央は抑制させようとしているが、シナ国民はインターネットでそれを承知し、北鮮を憎む空気が人民の間に広がっている。
 2-16、中共は、シナ国内の正男の遺族はしっかり保護するとアナウンスした。
 中共は2016-12の1ヵ月間に北鮮から石炭を何トン輸入したか、2017-2-2までに統計値を公表しなければならなかったのに、それを見送った。中共は、北鮮からの石炭輸入量を半減すると公言していながら、それを実行していない。
 2-18に中共は、北鮮から石炭を買うのを止めさせた。北鮮の貿易の9割は中共相手である。北鮮から中共へ輸出する物資の半分以上は、石炭である。
 中共国内で工場労働者の人件費が高騰しているので、北鮮労働者をタダ同然で雇いたいという経営側の需要が発生している。雇う場合、外部と隔離された収容所的な社員寮を完備させ、北鮮公安ともコラボレートしなければならないが。
 「北極星2」を英訳すると「ポラリス2」になる。
 潜水艦からコールドランチした「ポラリス1」を、陸上のTELからコールドランチしたものが「ポラリス2」だろう。
 中共は、北鮮と米国が、核とミサイルの問題で直接交渉することを勧奨し続けている。北鮮は2009以降、6ヵ国協議ではなく、米国とだけサシで話をしたいと言っている。
 北鮮と中共の違い。北鮮は韓国を独立国としては認めていない。米国が違法に占領している領土だと言い続けている。
 ※F-35Cは外翼が折り畳み式なので、この外翼部分だけ改造する余地がまだある。そしてなんと、F-35のプログラム部長が、サイドワインダーの最新型をC型の翼端レールから発射できるようにしたいと言い出した。それじゃステルスの意味ぜんぜんねえし! ……このニュースへのコメント蘭(英文カキコ)を読むと、トランプ政権下でC型の目はゼロだなと直感します。スーパーホーネット改が、勝ち馬になりそうです。


経常黒字を減らせという批判には、日本製武器の対外無償援助(Ordnance Distribuiton Aid)=新ODAが、最善回答だ。

 ストラテジーペイジの2017-2-19記事。
   2011年に、アムラームのためのロケットモーターを納入していたATK社の製品が不良だと分った事件。新環境規制に合わせることに失敗し、高々度の低温環境では信頼性が低くなるというものであった。米軍航空隊の全AMRAAMを検品し直す騒ぎとなった。
 もちろんメーカーはすぐに修正しようとしたが、それには何年もかかった。
 そのため、新規にアムラームを発注していた台湾、UAE、フィンランド、韓国、モロッコ、チリ、ヨルダン、クウェート、シンガポール、トルコの空軍へのレイセオンからの納品は滞った。
 ATK社はスパローの推進薬も製造していた。これも製造ラインがストップした。
 そこでNammo(ノルウェー弾薬製造)社が2013年前半から、月に100本分のモーターを米軍に納入するようになった。
 1年後に、レイセオン社の受注残はだいぶ捌けた。
 ATK社が問題を解決できなかったので、けっきょく米国防省は、ノルウェーのNammo社に頼み、米国内に同社の推薬製造工場を建設してもらうことになった。
 そのあとからATK社も問題を解決したが、時すでに遅し。弱小メーカーだったNammoは、2年のうちにすっかり米軍航空隊ミサイルのモーター部品シェアを奪ってしまったのである。
 米国メーカーは、Nammoを米軍御用から締め出さんと、連邦議会議員に賂いして、「排除法」を通そうとした。これは失敗した。
 米軍は怒っている。米国内軍需メーカーは、米軍から欠陥を指摘されると、それを修正しようとせず、逆に議会議員たちを抱き込んで国防総省を黙らせようと計るのだ。これは他の兵器でも頻発しているパターンである。
 米軍航空隊はこれまでに幾度、欠陥品の買い上げをキャンセルして、その軍需メーカーを裁判所に訴えねばならなかったか、知れない。一向にトラブルは減っていない。
 次。
 Jeff Mason 記者による2017-2-18記事「Trump says he’ll decide on national security adviser in next few days」。
 国家安全保障問題担当補佐官を誰にするか? M・フリンの退場いらい、トランプは4人の候補と面談するつもりだ。
 キース・ケロッグ。
 ジョン・ボルトン。
 陸軍の訓練とドクトリンのコマンド幹部だったH・R・マクマスター中将。
 元ウェストポイント校長のロバート・カスレン中将。
 このうちの一人に決まるだろう。いまから2日以内に。
 前のNSC筆頭者キース・アレグザンダーや、前の陸軍参謀総長だったレイ・オディエルノも、選考されている節はある。
 ペトレイアス元CIA長官は、すでに候補リストには無い。
 最初に声をかけられた、ロバート・ハワード退役海軍少将は、家族や経済的な問題を表向きの理由として、就任を断った。
 実情は、ペトレイアスもハワードも、NSCメンバーの人選についての決定権を持たせてもらえないのなら、安全保障担当補佐官になどなってもしょうがないと考えたので、誘いを拒否したのだ。そしてトランプは、人事決定権を誰に対しても持たせたくはない。
 マクマスターは、「現代最後の大戦車戦」だと考えられている、1991におけるサダム親衛機甲部隊との交戦を、第二装甲騎兵連隊の一指揮官(大尉)として体験している。
 ※つまりパットン好きのトランプが「現代のパットン」として起用したがっているということ? そんな阿呆な理由だとすれば逆に信憑性が高い。こいつなら人事権をくれなどとも要求はしないだろう。
 ウェストポイント卒のカスレンは2011-9-11にペンタゴンの航空機特攻現場に所在し、崩れたビルの中から負傷者を探して救出する手伝いをしたことがある。「クリスチャン・エンバシー」(以前は「キャンパス・クルセード・フォー・クライスト」と称した)という宗教団体のプロモビデオに出演し、国防総省の倫理規定に違反している。
 ※米国有数の金持ちの「顔の広さ」がこの程度とは呆れた。ビジネスで成功しようと思ったら、世界の把握は諦めなければならないようだ。同じ金持ちでもビル・ゲイツは少しは高所から物を見ている。核兵器よりも遺伝子組み換え生物兵器の方が世界にとっては危ないと彼は各国政府に警告中である。日本はいちばんこの分野への投資が遅れているよね。


潜水艦にこそ静かな「ロータリー・エンジン」を積んだらどうなんだ?

 Tyler Rogoway 記者による2017-2-17記事「Japan Goes Back To The Future With Lithium-Ion Battery Powered Submarines」。
  AIPにも、スターリング機関から、仏式の「艦内閉塞型スチームタービン」から、燃料電池まで、各種ある。
 スウェーデン発明のスターリング機関には、潜水艦内で液体酸素を扱うという危なっかしさがある。
 また、メカニカルに動くパーツが多々あるので、それがどうしてもノイズ発生源となってしまう。
 パキスタンがフランスから買った『アゴスタ90B』潜にはMESMAというフランス製のAIPが搭載されている。
 これは仏型原潜の熱源を、液体酸素とエタノールの反応燃焼に置換したようなもの。原潜は基本的にスチームタービンだ。MESMAは、エタノールの燃える熱で水を蒸気化させてタービンを回す。そのタービンが発電機にもなっている。
 MESMAはタービンなので高速ダッシュが効くというメリットがある。しかし、やはり複雑な装置内を液体酸素がめぐるという危っかしさを内包し、メカニカル駆動パーツが騒音を立ててしまう。
 これらにくらべて、燃料電池式AIPは、メカニカル駆動部分がほとんどないので、スターリング機関やMESMAより静粛である。そのかわりに、ダッシュは効かない。水中に長期間潜りっぱなしで遠隔地の敵港の動静を探るという、ゆったりしたミッションに向いている。豪州がフランスから購入する『ショートフィン・バラクーダ』型AIP潜は、これを搭載する。
 長距離偵察や長時間待ち伏せなら、燃料電池式がいちばんだ。
 魚雷や対艦ミサイルにより敵高速艦隊に沖合いで攻撃を仕掛け、返り討ちを避けて高速で雲隠れしたいのなら、MESMAがいちばんだ。
 自国の沿岸だけで作戦するつもりなら、スターリング機関でもいいだろう。
 ※自国の沿岸だけで作戦させるなら、「電池のみ、内燃機関無し」、というシンプルタイプでいいんじゃね? サブマリンテンダーから有線で給電してもらってさ。
 日本の次の『蒼龍改』型潜(スーパー・ソーリュー)は、リチウムイオン電池とディーゼルだけを積む。つまりAIPは廃するという。
 既存の7隻の『そうりゅう』型はすべてスターリング機関搭載だ。
 『ゴットラント』型AIP潜を建造したコックムス社からライセンスを買っている。
 リチウム電池の長所は、放電を続けても最後まで電圧が下がらないこと、鉛酸化電池よりも軽量であること、すばやく充電ができること(ただしそれなりの強力発電機から給電せねばならないが)、重量や容積あたりの蓄積エネルギーが大であること。
 そしてもうひとつ。ここぞというときにダッシュを効かせることもできるのだ。
 リチウムイオン電池の短所は、なぜか制御が効かなくなったり、過熱膨張や自燃を起こすことである。
 リチウム電池の過熱自燃事故では、高熱とともに有毒ガスや伝導性粉塵が放散される。しかも簡単には消火できぬ。潜水艦用としてはえらく厄介だろう。
 しかし、飛行機等と違い、大型の潜水艦であれば、電池のセル一個一個を密封隔離するステンレス合金筐などの重さが多少は増えても問題は少ないから、日本のメーカーと防衛省は電池自燃事故を防遏可能だと考えている。
 短絡や塩水浸潤の予防にも万全を期す。落下衝撃テストはもう済んでいるという。
 電池室の隔壁内には特注の自動消火装置も据えつけるという。
 ※それよりもバッテリーパックとして船外に曳航するようにして、燃えたら切り離せるようにすりゃいいんじゃね? 魚雷避け用の囮にもなるだろう。
 『そうりゅう』型の量産最後の3隻にはリチウム電池が搭載される。
 げんざい進水している7艦目には、スターリング機関4つの他に、リチウム電池が搭載されている。
 この7艦目が、過渡期のスタイルとなるのであろう。次は、AIPを廃してリチウム電池だけにするのだ。
 将来展望だが、燃料電池とリチウムイオンバッテリーを組み合わせた潜水艦ができれば、すごいことになるだろう。持続力とダッシュ性能と静粛性のすべてを兼ね備えることになるからだ。
 噂では、中共は、AIPとリチウム電池のハイブリッド潜水艦を計画中だとのこと。しかし単価はとてつもないものとなるであろう。
 米海軍は過去27年間、ディーゼル電池式潜水艦とは無縁だ。
 米軍最後のディーゼル電池式潜水艦『ブルーバック』は、演習で敵潜役を務めるため、1990年まで運用されていた。それ以降は、米海軍にはもう原潜しかないのだ。
 米海軍が原潜一本となったことで、戦略的には不利となったことがある。原潜はセキュリティがうるさいため、どの外国の港にも気軽に置いておくわけにはいかない。この点では米海軍の海外作戦は、不自由になっているのである。
 米海軍は、『スーパー蒼龍』のライセンスを日本から買って、非核動力潜水艦を米国の造船所で大量生産するべきではないか。
 『ヴァジニア』級SSN×1隻のコストで、『そうりゅう』型なら4艦も建造できてしまう。
 量産するにともなって、単価もどんどん下がるだろう。
 もちろん、この提案は米海軍によって拒絶されるはずであるが。
 ※米国の東海岸からインド洋やら南太平洋やらまで往復をするのに、核動力以外ではどうしようもないのでね。米国の場合は、むしろ衛星に搭載される小型のアイソトープ原子炉を艦内の機関室に多数並べてエンジンそのものも撤去してしまって、「アイソトープ+リチウムイオン」のハイブリッドにした方が有望だろう。これ以上静かな軍用潜水艦はできないはずだ。寄港の問題は残るが、万一奪取されても困る秘密じゃないし。
 次。
 Kevin Robinson-Avila 記者による2017-2-15記事「Air Force lab at forefront of microwave, laser defense efforts」。
    装甲トラックに搭載したマイクロ波発生装置。1ギガワットの強力電磁波により、路上爆弾の回路をショートさせ、自爆させてしまう。「マックスパワーシステム」と名付けている。
 ニューメキシコ州アルバカーキ市にあるカートランド空軍基地内で、こんな研究をしている。
 すでに2012年にアフガニスタンへ持ち込んで9ヶ月間、テストしている。
 マックスパワーシステムは 2007年から2012年まで、5000万ドルかけて開発した。いまはその小型化を研究中。
 次。
 『Indiatimes』紙の2017-2-17記事「Fighter Plane F-16 To Be Made In India? US & India Are Discussing The Possibility」。
     米政府とインド政府の間で、F-16の製造工場をインド国内に建設することについて話し合いが持たれている。
 ロックマート社員がインド国内の航空ショーで語った。
 2016-8にロックマートは、テキサス工場の「F-16 ブロック70」の製造ラインをそっくりインドに移設してもいいですよと提案したのである。
 ※ロックマートはこれからF-35に製造資源を集中したいので、店じまいとなるF-16のラインはそっくりインドに転売しても可いという気になっている。これはダッソー社の苦い失敗から学んだものだろう。ダッソーが「ミラージュ2000」のラインをそっくり譲ると言っていれば、MMRCAはとっくのとんまに「ミラージュ2000」に決まっていたのだ。ただし、インド相手の「非核関係」の商談はトントン拍子には進まぬ。その詳しい実態を知りたい人は、今月末に徳間書店から発売される兵頭二十八の新刊を読もう!


消防隊が、「壁ぶちやぶり爆薬」を随意・随時に使用できる法制度を至急、整備せねばなるまい。

 STARS AND STRIPES の2017-2-17記事「Report: Russia suspected in ‘fake news’ attack on German troops」。
   独『シュピーゲル』誌の報道によれば、ロシアは常套の「フェイク・ニュース」でリトアニア駐留のドイツ軍の評判を悪化させようと工作しつつあり。ネタはいつもながらの「少女レイプ事件」。火の無いところに煙を立てる。
 リトアニアに駐留しているNATO軍は独軍だけではない。が、独軍が最多なので、でっちあげニュースのターゲットとなる。
 NATO軍は、ポーランド、ラトヴィアにも駐留している。ただしそっちは独軍主軸ではない。
 嘘ニュースのコピペ拡散工作はEメールによって一斉になされた。2-14に。
 リトアニア警察が確かめたところ、被害者もなければ、目撃者もなかった。
 次。
 ストラテジーペイジの2017-2-17記事。
  露軍こそチェチェンで三光作戦を絶賛展開中である。
 ローマの格言。敵地を無人の荒野と化してしまうこと。それを平和と呼ぶのだ。
 アサドも、それを応援するロシアも、焦土作戦主義。敵性市民への国連エイド物資搬入は許さない。
 さいしょ、チェチェンが分離独立を唱えたとき、露軍は遠慮がちに西側戦法で鎮圧しようとして失敗した。1994から96にかけて3万5000人は殺してやったがたが。そしていったん撤収。
 ところがイスラムチェチェンが策源となって南ロシアにいろいろ犯罪遠征するものだからモスクワは1999にスペツナズ主体で捲土重来。
 この時点ではロシア系住民は域外に逃れていたので、住民区別の問題には悩まずに済んだ。露軍はコーカサス方面ではイスラム系住民を容赦なく殺して一定の成果をおさめつつある。
 ※宣伝戦の渦中に有益情報を求めようとする者は、英文記事の書き手の「ステイタス」に注意することだ。かつて閣内に列していたのに、その後は鳴かず飛ばず、シンクタンクとか地方大学内でくすぶりつづけ、「リヴォルビング・ドア」をくぐれなくなったロートル研究員。こんなのがゴマンといるのがアメリカだ。そのなかには、中共工作員からのカネに転んで反日記事を英文ネット記事空間にUPするように落ちぶれる者もいるのだ。瞬時にその臭いを嗅ぎ分けられる嗅覚を養って欲しい。


NSAが電話を録音しているのが当然なのに、弁えもなく外国大使と話し込むような男が過去に軍情報の元締めを任されていたとは……。

 Gordon G. Chang 記者による2017-2-15記事「Pyongyang is experienced at begging, borrowing and stealing weapons materials」。
    「北極星2」は「KN-11」ではない、という異説が、複数の専門家から飛び出している。
 じつは中共の「巨浪1」じゃないのか、というわけ。
 ただし、もともと「KN-11」は「巨浪1」と寸法が類似しているのである。
 どちらも二段式だし。
 ひとつハッキリしていることは、北鮮は独自に固体燃料を開発できたはずがない。
 ロシア製かシナ製を参考にしているのだ。イランとパキスタンも疑われる。
 ※CSのサバイバル番組のホスト(ぜったいに寄生虫にやられていると疑われる元SASのイギリス人)とオバマ大統領がアラスカで競演した珍エピソードのとき、大統領は自己位置を特定されてしまわないように携帯電話を持つことを禁じられている、とオバマ自身が語っていた。まあNSAがフリンの阿呆ぶりに愛想を尽かし、大手新聞にリークして指導部から去らしめたのだろう。
 次。
 Malcolm Davis 記者による2017-2-16記事「The RS-28 Sarmat and the Future U.S. Nuclear Triad」。
   このごろのロシアの叫び。新重ICBMの「RS-28」は、テキサス州ぜんぶとかフランス1国ぜんぶの面積を破壊できるのだぞと。しかも南極廻りで発射して届かせられるぞ、と。
 だが米国の両岸にある早期警戒レーダーは、南からのRV飛来も探知できるので、とりあえず、隙は無い。
 米国はレーガン時代に構想したように、地上機動式のICBMを考えざるを得まい。さもないとラーンチオンウォーニングを強いられるから。
 トライアドをディアド(二本足)にまで削減してしまえば、ローンチオンウォーニングのプレッシャーはなくなる。すなわちもうSLBMと、B-21爆撃機×100機だけで行く。
 と同時に米国は、国内の「指導者」セットを敵の第一撃から確実に守れるような備えを構築しておかなくてはいけない。※そのためにB-21を改造してエアフォースワンにするのか。
 次。
 Przemysaw Juraszek記者によるストラテジーペイジの2017-2-16記事。
  2000年に活動休止させた沿岸砲兵大隊1個をスウェーデンは2016後半に復活させた。
 といっても大砲ではない。車載の地対艦ミサイルである。トラック1両に4基、積まれている。そのトラック3台で、1個大隊。
 ミサイルはドイツと共同開発した「RBS15」で、射ち放し式。80年代前半から装備している。いまは最新の「Mk3」型。
 この派生型は、フィンランド、ドイツ、ポーランドの艦艇にも搭載されている。地上目標も狙える。グリペンから空対艦ミサイルとして発射することも可。
 全長4.3m、自重630kg(空対艦)~800kg(地対艦・艦対艦)。
 径500ミリで、レンジは200km強。
 弾頭重量は200kg。
 ※島嶼の波打ち際の味方部隊まで弾薬を無人で送り届けてやる、現代版の「DUKW」のようなロボットは可能だろうか? ひとつハッキリしていることは、「乾舷」が岸から見えてしまっているような低速移動物体は、ATGMの餌食でしかあるまいということ。装軌にするにしろ装輪にするにしろ、無輪の大発型にするにしろ、「乾舷」があったらもうダメだ。どうしたって「半没艇」のコンセプトにする必要があるだろう。荷物が重いから、モーターボートのように「速力」で敵丸をかわすというわけにいかぬ。さりとて乾舷と天板の「装甲防護力」を強化しようとすれば「余裕浮力」の要請と矛盾してしまう。これはデザイン上・コスト上の「負のスパイラル」を約束している。だから結論として「ステルス」にするしかないはずだ。半没艇にすれば、完全なステルスになる。低速でも、みつからなければ安全だ。水際地雷に触れても、無人だから人は溺死しない。敵が厳重に警戒をしている海岸正面では、レーダー反射と赤外線輻射で「囮」になってくれる無人の「発砲スチロール・ボート」でも放てば、敵ATMはそっちに吸引される。最前線の島嶼まで弾薬を推進輸送する任務の安価な無人半没艇は、違法リグを爆破除去するための自爆ロボットにもなってくれるだろう。