「読書余論」 2014年7月25日配信号 の 内容予告

▼徳川夢声『夢声戦争日記(六)』中公文庫S52
 ※この巻は、昭和20年の6月末までの日記。
 1-10、放送は、ドイツの新兵器。冷凍爆弾だと。150m以内の生物は全部凍って了うというV3号だと。「結局この分では、原子爆弾まで行くであろう。」
 4-7、初めて見る形の大型四発機。西洋の甲冑みたい。硫黄島から着たに違いない。味方戦闘機と刺し違えるように墜落した。落ちるときの飛行機は模型のようである。
 敵機はキラキラ光るスピロヘータのような長い銀色のものを落としていった。妻は焼夷カードだといった。あとで、電探妨害の錫のフィルムとわかった。
▼安全保障調査会『日本の安全保障――1970年への展望』1967年版
 毛沢東語録。
 「人民の軍隊がなければ、人民のすべてはない。」
 「人民解放軍は永遠に戦闘部隊である」。国内に階級ある限り、そして世界に帝国主義制度が存在する限り。
 羅瑞卿による「積極的防禦」論。侵略者を国土から追い払うだけではなく、戦略的追撃、要するに人民戦争を輸出しなければならない。
 マクナマラによる議会に対する説明。全面核戦争では「確実な破壊」と「損害の局限」の両面の能力が結果を左右する。「確実な破壊」は抑止力になる。しかし「損害の局限」の能力は、抑止力としての「確実な破壊」の代用とはなり得ない。侵略者を、20世紀の国家としては生存し得ないように破壊する力だけが、戦争の抑止力となるのであって、アメリカの蒙る損害を部分的に局限する力は、抑止力とはならない(pp.82-3)。
▼防研史料 千代田史料『明治27~32 陸軍兵器工廠』
▼防研史料 『M31~35 東京陸軍兵器工廠』
▼防研史料 『大正4年三八小銃カ三十五年式海軍銃ニ異リタル要点』
▼防研史料 『海軍銃砲史研究資料』by 銃砲史学会
 『銃砲研究』のNo.4~No.12を合綴したものである。1号から40号(S47-6)までの目録付き。
▼『海軍雑誌』vol.60(M19-11)
▼牧慎道ed.『或る兵器発明家の一生』S28 天竜出版社
▼財)資料調査会海軍文庫『海軍 第二巻』S56
 ※第6章からおしまいまで。
 M30-5-27 軍艦外務令。
 軍艦は外国政府の干渉を受くることなし。若し外国政府強て之に干渉を加へむとせば兵力を以て拒むことを得。
 軍艦は外国の法権に服従せず。従て外国の警察権裁判権臨検捜索権等の艦内に行はるゝことを許さず。
 軍艦は外国に対し納税の義務なし。
 軍艦は主権に伴ふ所の尊敬と礼遇とを受くべきものとす。
 海軍軍令部長の中牟田をクビにしろと言ってきたのは陸軍の川上操六中将だった。
▼防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 ミッドウェー海戦』S46 朝雲新聞社
▼『文藝春秋』1973年3月号記事 海原治vs.佐橋滋「国防論争・機関銃か包丁か」
 「わたしが、以前、防衛庁のある部局で試算させたところによると、十メガトンの水爆一発が、ある日の午後五時に東京の上空で爆発したという想定で、その時刻、東京都内に九百五十万人いるとして、二百万人は無傷なんですね。」
 「この計算でいきますと、水爆十発でも日本人全部を滅ぼすことはできないということになるんです。」(p.298)。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
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sugiyama@budotusin.net
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またも「老眼ミス」

 『新潮45』2014-7月号の127頁 上段 5行目に、
合成開口レーダー
 とありますのは、
AESAレーダー
 の間違いです。
 まったくわたしのポカです。FAXされてきたゲラの細かい字をキッチリと読み通せず、見過ごしました。申し訳ありません。
 早く目医者へ行って正規の老眼鏡づくりのための検診を受けなくてはいけないのですが、近場のお医者さんがお歳でお亡くなりになってしまい、もはや遠い医院しかないんですよね。こちとら自転車で往復しますので朝の9時前に行くのが面倒でツイあとまわしにしておりました。一日晴天の日は、やはり病院なんかへ行く気にどうもならないしね。
 ところで政府の安保法制懇は、「正規の軍隊ではない武装集団などによる離島占拠」を「グレーゾーン事態」の一例として挙げるつもりのようですが、こいつらの頭はハッピーセットかよ!
 「漁具やバールのようなもの以外は手にしていない非武装の漁民」と、機関砲を搭載した「海監」のセットでやって来るに決まってるじゃないか。
 最新の4000トン級の海監の船内には、数百人の人間を収容するスペースがつくってある。まず最初は小さい漁船が1隻、偶然のように座礁する。そのあとから漁民を助けるというノリで他の漁船と海監がやってくる。ところがその漁船からも、また公船の船内からも、どんどん新たな「漁民」が上陸して、島内の人数が膨れ上がる。
 漁民は誰も「武装」はしてない。が、「漁船と漁民に手を出せば海監が正当防衛する」と言って海監の武装船が10隻くらいも蝟集してくる。海保の巡視船はアウトナンバーされた。さて、自衛隊には何ができる――という話になるでしょう。
 あと、EEZ中間線のこちら側でガス採掘リグを増やして行くという「挑発」、否、権益侵害ね。限りなく侵略に近いグレーゾーン事態なのに、法制懇はそれを例示しない。今迄なにもできなかった日本政府が、今後も何もしないと認めるわけか?
 ADIZを日本領空の中に設定するのだって「グレーゾーン」事態でしょ。それに口先だけで抗議するだけでいいのか? 相手が撤回するまで対抗制裁措置をエスカレートしていかなかったら何も解決しないばかりか、日本の権益がどんどんうしなわれて、次の権益侵害のベースが増えるだけじゃないか。


また『新潮45』に「集団的自衛権」の真相を抉る快記事を載せやしたぜ。

 わたしも辞書を引くときに老眼鏡が必要な年齢になりました。
 しかし百均の老眼鏡は、長時間つけっぱなしにしていられない。
 こうなると辛いのが「著者校正」です。早期に発見しなければならない訂正箇所を、つい看過してしまい、書店販売されたずいぶん後になってから(ゆっくりと読み返しているときに)見出だすというケースが、徐々に増えて参りました。ヤバイ ヤバイ……。
 先ごろ店頭発売されました、文庫版の『「日本国憲法」廃棄論』にも、「アチャ~」と言うしかない誤りが2箇所発見されましたので、この場でお詫びし、訂正します。
 ひとつは、22ページの10~11行目。
 だとすれば安倍氏には、「憲法」の意義も分かっていないかもしれません。
 とあります文は、まるごと削除してください。
 もうひとつが、289ページの9行目。
 必要最低限度の
  じゃなくて、
 必要最小限度の
  です。
 すんません。


『「日本国憲法」廃棄論』の文庫版が出ました。草思社から820円+税。

 文庫版での追記として、集団的自衛権の話を書いているので、興味のある人は巻末をお読みください。
 「裏吉田ドクトリン」というものが、内閣法制局本流と吉田の弟子筋には1954年から継承されているのではないか。それを、外務省条約局(イコール米国政府)と、朝鮮や台湾との人脈が太い非吉田系の総理大臣たちがタッグを組んで破却しようとし、暗闘をくりひろげてきたのが、2014年までの流れじゃないかなと、兵頭は疑っております。
 吉田茂が最終的に総理大臣を辞めたのは1954年(昭和29年)12月7日でした。
 この年はいろんなことがあった。自衛隊もできた。韓国は竹島問題を国連司法裁判所へ提訴させないとわめいていた。吉田は李承晩や朝鮮人が大嫌いでした。無理もなかったでしょう。
 吉田は朝鮮戦争のさいも総理大臣だった。そのとき米国はとんでもない要求を持ち出してきました。30万人規模の日本陸軍を再建しろというのです。米国は日本に「日本国憲法第9条2項」を押し付けたのに、それはもうどうでもよくなったからそっちで適当に始末しとけというわけです。で、その日本兵をどこに使おうというのか? 朝鮮半島で李承晩を救うために米軍の指揮下でシナ兵と戦えと言い出すにきまっていた。馬鹿な旧軍参謀たちも、蒋介石の「大陸反攻」のためにまた一肌脱いでやってもいいと、いろいろ妄動していました。
 吉田は、心の中でどれほど怒ったでしょうか。
 吉田は、自衛隊が米軍の足軽にされる事態だけは未来永劫、予防しろと、内閣法制局に言い含めておいたに違いない。敗戦翌年の押し付け憲法の受容過程で、吉田と内閣法制局とは、一心同体の同志関係になっていました。
 このリクエストに応えた法制局の名答が、「必要最小限度」という言い回しだったのでしょう。これは、国際法学説上の自衛権発動の3要件のひとつ:「プロポーショナリティ」を訳したものです。
 1954年に内閣法制局は、「必要止むを得ない限度の実力行使」は(個別的)自衛として許されるから自衛隊は合憲だと説明したのですが、2年後に、「必要最小限度の措置」は自衛の範囲であるというふうに言い直し、以後、「必要最小限度」がだんだんに定着します。
 こういう表現にしておけば、将来、日本の経済がどれだけ復興しても、陸自が30万人とか50万人に膨れ上がることはないでしょう。米軍と一緒に、あるいは米軍の命令で外地で戦闘させられることもないでしょう。そのイメージと「必要最小限度」という日本語の表現は、どうも整合しないからです。
 しかし1994年にクリントン政権が、北朝鮮の核施設を「自衛」を名目に先制空爆しようと思ったとき、日本政府が「裏吉田ドクトリン」を楯に、完全な傍観者になるつもりであることを伝えたときから、米国政府も問題の所在を把握しました。
 そこから外務省条約局の巻き返しが始まって、2014年にはついに日本版NSCが外務省主導で成立した。外務省条約局出身者を内閣法制局長官にした上で、「裏吉田ドクトリン」を破壊することにもアメリカは成功しました。
 歴史は皮肉なもので、いま、「裏吉田ドクトリン」を最も力強く応援してくれているのは、かつて吉田が嫌悪した韓国政府です。韓国海軍のイージス艦のソフト更新に予算をつけないことによって、また海上自衛隊の軍艦旗などにイチャモンをつけることによって、日米両海軍とのMD連携を拒絶。しょうがないから米軍も地上型のTHAADを持ち込むしか手がなくなっています。バカのバイデン(ゲイツ元国防長官が自伝でそのバカぶりを暴露している)を使って麻生氏や安倍氏に「靖国に行くな」と圧迫させ、逆行動を誘発したりしてくれる。こんな韓国政府あるかぎり、自衛隊員が「平壌治安維持部隊」として派兵されることもなさそうですから、万歳でしょう。自衛官は、韓国人やシナ人のために血を流す仕事は、ごめんをこうむります。
 「お断りだ!」――吉田茂が米国使節の面前で飲み込まねばならなかった言葉を、わたしたちならば口に出せるでしょう。


「読書余論」 2014年6月25日配信号 の 内容予告

▼『内外兵事新聞』第31号
▼『内外兵事新聞』No.45(M10-1-21)
▼『内外兵事新聞』No.47
▼『内外兵事新聞』M10-2-27 号外
▼『夢声戦争日記(五)』中公文庫 S52
 昭和19年の後半の日記。「回天」もドイツのアイディアだったのかと思わせる証言がある。
▼『経済倶楽部講演 第13輯』S16-5-16pub.
 この号の講演者は、高橋三吉海軍大将(予備役)、下村海南貴族院議員、堀内謙介・前駐米大使。内容はものすごく良い。
 「イギリスがやられてしまふと、もうアフリカからアメリカに来る距離が非常に近くなり、すぐ南米に来る。南米に来たらアメリカは半分やられたと同じ」なのでアメリカは大軍拡したのだ。
▼防研史料 陸軍造兵廠火工廠『支那事変経験録(第二号)』S12-12-31
▼防研史料 南満陸軍造兵廠『状況報告 S20.2.27』
 「国民銃」が出てくる。
▼財)史料調査会海軍文庫・監修『海軍 第二巻 帝国海軍と日清戦争』S56-9
 日清戦争について改めて知識を整理したいと思っている人には、本書は必読だ。内容濃いため最後まで摘録できず。北清事変については次回で。
▼『商学論集』第59巻4号(1991-3)所収・笠井雅直「高田商会とウエスチングハウス社――1920年代『泰平組合』体制、その破綻(試論)」
▼雑誌『全貌』バックナンバーより
 S40時点で北朝鮮には、親日分子の財産は没収するという法律があった。そんなところと国交正常化どころじゃないだろうと。
 金大使いわく。在日韓国人は、58万人登録されている。その他にモグリが20~30万いる。「モグリというのは終戦前日本に住んでいた人で、戦後本国においてある家族の様子を見てこようと帰国して、本国では生活の見通しが立たずまた日本に帰ってきた韓国人。軍政下でしたから自由にできたんです。密航者です。一九五二年の〔sic.〕日本の主権回復しアメリカの軍政が解かれたとき、軍政時代韓国へ行き来したのは帳消し、いまから申請しろということになった。日本の実力者とか偉い人を知っている者は特別に何とか方法を講じて申請したが、それ以外のものは外国人の登録もせずに潜っているわけです。」
 金大使いわく。なぜ日本政府は、民団ではなく朝鮮総連に、信用組合の設立許可をあんなに出すのか。自分たちの都合が悪いとさっさと引き揚げる。いつ北へ帰るかわからない連中に信用組合を扱わせていいのか。それに、北に籍をもっている人が悪いことしたから引き取ってほしいと言ったって北はひきとらない。
 元関東軍報道部長の長谷川宇一いわく。在満の軍人家族をいちはやく北鮮に後退させたのは瀬島参謀の判断で、関東軍が無傷で(満ソ国境で死闘せずにすぐに朝満国境まで後退して)がんばっていれば、ソ連軍との休戦交渉のときに強みになると考えた。日本の降伏予定をただひとり知っていた作戦参謀としてはそれでいい。それでよくないのが、山田乙三関東軍司令官だ。山田は民間人もすぐに南下しろと命ずべき責任があった。しかし日本政府が降伏するつもりだとは知らないから、土地を放棄させた入植民のその後の生計の面倒をどう見るかと考えて、決心を避けた。
 山田司令官夫人は平壌から飛行機で九州まで逃げ帰った。ラーゲリから帰還して、この恥ずべき噂が事実であったと知った長谷川は、穴あらば入りたい。
 高級参謀のうち、秦総参謀長夫人だけは、「皆様と一緒に踏み止まります」と言って輸送機便乗を断った。夫人は北鮮内で死亡している。
 ◆  ◆  ◆
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別宮暖朗先生の新著『第1次大戦陸戦史』

 並木書房さんから見本を頂戴しました。350ページ、2700円+税です。
 小生はいま、7月刊行に向けた『私版 国防白書(仮)』の執筆中であるために、急に全文を通読することができません。
 ですので概容のご紹介になります。
 本書は、巻末に、手間のかかった「索引」がついています。初学者が、第一次大戦の陸戦の経過を知りたいとき、年表よりも詳しい参考書として、役立てやすいでしょう。
 第一次世界大戦勃発100周年は、欧州ではちょっとしたイベントです。日本でもそれに合わせた書籍がどこかから一、二、刊行されようとは思ってましたが、ここに別宮暖朗先生のあたらしい書き下ろしの通史が間に合ったとは、慶賀の至りと存じます。
 「別宮節」の健在をこのような形で確認できることは、われわれにとって、なにか心強くなる福音じゃないでしょうか。
 ついでに自己宣伝もしときますね。第一次大戦中の英独「封鎖戦」通史は、小著『兵頭二十八の農業安保論』の中に詳述されています。総力戦というものを理解するためにも、これはぜひ、併せてお読みください。


32年前、全滅必至とされていた第2師団に望んで入営した「情弱」新兵が、いま、日露「対支」同盟に賛成するその理由とは?

 『新潮45』の6月号の拙稿は読んでくれましたか?
 五月病の人は目が醒めたのではないかな?
 日本人が使えるエネルギーが安くなるってことは、税金が安くなるのと、同じ効果があります。消費税が上がったことによるマイナス効果を、チャラにできるかもしれません。殊に、冬の灯油代がエンゲル係数と等しく節約など不可能だった北方寒冷地方では、消費拡大に直結するでしょう。
 万物流転の慨を 転た あらたにしてください。
 いまから三十二年前、わたしは「ソ連軍が北海道に攻めてくる」と思って陸上自衛隊に志願入隊し、任地・職種希望も「最前線の戦車部隊」と書いてその通りに中隊配属されたものでした。
 でも日本の防衛の最前線は天塩海岸なんかじゃなかったんですよね。日本の敵の手口は、常に「間接侵略」なのです。元KGB大佐のプーチン氏は、クリミアでその手本を示した。彼は歳をとって肉体が衰え、その焦りからあきらかに、若かった頃の時代や流儀をぜんぶ再構築しようとしてますよ。でも、それは失敗するでしょう。ドネツ地方では米国が送り込んだ「特殊部隊」(私服アドバイザー)が有効に反撃に転じています。おなつかしやの「ブラックウォーター」の名まで出てきた。これがケリーがつぶやいた「現代の道具」だ。プーチン氏は早く、「変化し続けるものだけが生き残る」と、思い出すべきです。「ユーラシア・ユニオン」を捨てて、互いに間合いの取れる日本と結託すべきなのです。
 どんどん余談になりますが、雁屋哲氏がもし中共の間接侵略工作員だったとしたら、死後に銅像が立つかもしれない。これを読んでいるあなたは、「太極拳」とか「ヌンチャク」という言葉を知っているでしょう。この二つの言葉を日本の中学生男子に初めて教えたのは、『週刊少年サンデー』に「男組」を連載していたときの原作者、雁屋氏に他ならないのです。わたしは「ヌンチャクなんぞ 使える腕じゃねえ」というあの劇画中の台詞を いまも覚えています。たしか 同時連載が「漂流教室」とかの時代でしたよ。ブルースリーが映画の中でふりまわしていた武器が「ヌンチャク」だと知っていた人は、沖縄の人を除いてはまず、いなかったと思います。
 それだけじゃありませんぜ。「双方貫耳!」だとか漢字だけの技の名前をいちいち叫びながら繰り出す、シナ系格闘技漫画の表現パターンを創始したのも、「男組」です。あの作品がひとつの「世界」「技法」を創始したおかげで、その「世界」「技法」を借りれば、たとえば『週刊少年ジャンプ』が「北斗の拳」「魁! 男塾」「ドラゴンボール」をスタートすることなど、易々たる事業となった。集英社のこれらの作品の担当編集者は、雁屋氏に足を向けては寝られないはずなんだ。それはどうでもいいが、その結果、日本人がすっかりシナ人を警戒しなくなったってことは、間接侵略工作としたらば勲一等でしょ? 天安門事件にもかかわらず、たくさんの中小企業があっちに進出して、いま、悲劇的なことになっていますよね。その空気を最初につくったのは、雁屋氏ではないですか? (でも、シナ大陸へのリスキーすぎる企業進出に資金を貸し付けた銀行の担当者は、業務上背任には問われないんでしょうかね。)
 今「男組」のストーリーを想い返すと、主人公は手錠だしラスボスはどうみても日本政府そのものだし、最後は刃物を握って機動隊に突っ込んで行くしで、反政府テロ賛美に近い、えらい内容だったんじゃないかと気になってきた。こんど古本屋に出かけたら、確認のため、探してみます。なんとならば、作家の初期作品には、その人の一生のテーマが隠されていることがありますからね。
 雁屋氏は、「男組」と類似した派生作品をじぶんでまた量産するのではなく、その次に、バブル時代の大衆にピタリと照準をあわせた「美味しんぼ」をヒットさせた手並みが、わたしにとっては真に驚異的でした。わたしのように「だったらあらゆる素材を畑で即齧れば? 水洗いも、火で加熱とかもしないで…」と反発する人はこのマンガにはついていかないでしょう。ついていく読者が厖大だったので、長期連載になった。(まだ続いていたんだとはこんどの騒ぎで知りましたが。)
 でも、今の大衆はバブル時代の大衆よりも、確実に利口になっているのではないですか? そしていつのまにか、老人原作者が大衆の到達しているレベルから後落していたのではないか、というのが、報道に接しての、わたしの感想です。


●「読書余論」 2014年5月25日配信号 の 内容予告

▼ジュール・ヴェルヌ著『動く人工島』(創元文庫の5版)
 ひょっこりひょうたん島の祖形のSFは1895年に書かれていた。その時点から、1900年の米国の技術や政治を占ってみたもの。米国はカナダとメキシコを完全に占領併合している、とヴェルヌは予測した。
 イギリスがアンチル諸島をフランスにゆずりわたさざるをえなくなったとき、いやがらせに数百匹の毒蛇を置き土産とした。それまでマルチニック島には蛇はいなかった。
▼徳川夢声『夢声戦争日記(四)』中公文庫
 この巻は、S19-1月から6月末まで。
 老眼鏡のレンズで煙草に火がつけられる。それも楽屋内の光で。
▼防研史料 『昭和12年度~14年度 陸軍造兵廠歴史』
 昭和14年度にコルトポケット拳銃を工廠でコピー量産していたことなどが分かる。
▼津野田是重『旅順に於ける乃木将軍 斜陽と鉄血』大15-1
 著者が乃木の拳銃を借りて海鳥を狙ったところ、一発も当たらず。
▼フランク&ハリントン『ミッドウェイ――空母「ヨークタウン」の最期』1976訳pub. 原1968
▼防研史料 毛塚五郎『東京湾要塞歴史 附属年表(稿)』S38
▼防研史料 藤沢一孝『明治維新以降 本邦要塞築城概史』
▼防研史料 毛塚五郎『東京湾要塞歴史(1)』
▼杉浦一機『《改訂版》空港ウォーズ』1999-9、初版1995
 C-54型輸送機で4万5000人の将兵を米本土から日本へ空輸しようとすれば、200機でも2週間が必要だった。今は、C-5×35機とC-141×35機により、半日でその輸送が終わる。
 新千歳は、成田よりも800km、欧米に近い。
 新明和工業は、離島間の旅客輸送に的を絞った水陸両用機SS-2(40人乗り)の構想をもっている。
▼原田勝正・監修『日露戦争の事典』
▼坂本勲『歴史を面白く語る人々』H3
 立川文庫の第40編が、猿飛佐助。これぞ第一回の忍術ブーム。清海入道は猪八戒であり、霧隠才蔵は沙悟浄であった。
 現・講談社の敷地は、もと、山田顕義邸である。
▼小寺融吉『芸術としての神楽の研究』S4
 神楽は、神に見せるもの、と解釈するのは近世の附会。本義は、神が現われたものだったのだ。右手に持つ鈴は楽器ではなく、神の声。太鼓も同じ。しかし笛はあきらかに、楽器にすぎない。
 神楽は、古事記や書紀よりももっと古かったのであり、したがって、もしもそこに記紀のキャラが出てくるようだったら、それは比較的新しい創作にすぎず、古態を伝えたものではない。
 歌舞伎で「手をひらいて出す」動作。これも神楽から在る古い様式なのだ。
▼今川徳三『八丈島流人帳』S53-1
 著者は甲府の出身で、近藤勇についての大衆文芸を書いたこともある。
 青ヶ島は、もともと鬼ガ島といった。それは外聞が悪いというので、青ガ島という字、「おうがしま」という発音にした。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
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 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
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 で、タイトルが確認できます。
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せんでんでござる。

 現在 書店で発売中の月刊誌『新潮45』に、『兵頭二十八の農業安保論』の「補論」が載っていますので、お見逃しなく!
 また本日発売の『別冊正論』21号には、かなり長い寄稿をしています。ウクライナ作戦(クリミア事変)の主力となった「GRUのスペツナズ」とは何者なのか、これで勉強してください。同じ組織はシナ軍も持っているはず。すでに沖縄の新聞社などは、特務工作員に浸透された状態なのでしょう。よく街頭デモに登場する半島系ヤクザの背後にいるのも、中共版の私服スペツナズでしょう。
 GRUのスペツナズは、私服工作隊員です(SASと似てますね)。彼らは隣国内にあらかじめ、親ソ&反政府の住民グループを組織しておく。そしてモスクワの指示を受けるや、街頭デモを煽動したり、「蜂起」を演出します。すべては前もってコバートに準備をされているのです。
 じつは今、史上初めてロシア軍が、「まともな戦力になる」兵数において、「米軍よりも少数」なのです。
 「装備と練度の劣位を数で補う」という伝統戦略が不可能なのです。普通の戦争は、もうロシア軍はできないんです。しかしさすがは元KGBのプーチンです。GRUのスペツナズを私服でクリミアに浸透させておき、一夜にしてシンパ・グループを武装させ(例のインシグニア無しの迷彩戦闘服も着せ)、「城内蜂起」でクリミアを占領しました。
 プーチンは、「間接侵略」とはどうやるものなのか、その手本を、わたしたちに見せてくれました。これは大いに解明して学習しなくてはいけないでしょう。シナ人は必ず真似をします。もともと「中共」も、モスクワが「間接侵略」でゼロから創り上げた存在ですからね。へその緒は、切れてません。まあ、ウクライナは、「腐敗堕落&経済破綻国家」で、隙だらけだったから、やられちまったんですが。
 いまの露軍で、モスクワが頼りにできる「精鋭」部隊は、空挺と各種スペツナズとわずかな海軍歩兵、あわせて10万人しかいません。一方面にそれを突っ込んだらもう予備はありません(普通の大作戦では一方面に50万人が必要)。特にシナ方面がガラ空きとなり、樺太やシベリアの油田帯を占られてしまいかねない。ですので、今次事変では、ロシア正規軍はあくまでロシア国境線内に控置しておくしかないんです。これはEU女帝のメルケルも分かっているしオバマも当然部下軍人からレクチャーされています。
 通信線遮断の手際の良さ等から、このたびの間接侵略の「プランB」はソチ五輪の前から完整されていたのだと、米軍内では分析されている。
 間接侵略の「プランA」はもちろんヤヌコビッチ傀儡首班でした(日本でいうなら、さしづめ、カンとかハトヤマとかコーノを北京から操るが如し。ヤヌコビッチはプーチンから命ぜられるままにEUとの絶縁路線を推進したので、国の貧窮化を予見した自国民から厭われて追放され、「プランA」は失敗。そこで「プランB」が発動された)。
 プーチンの根本動機は、EUに対抗できるロシアのアウタルキー「ユーラシア・ユニオン」のためにウクライナを「露連邦」に再びくっつけたいのだ、というのが「ロシア通」のマクフォール前大使による解説です。
 あ、早合点はしないでくださいね。わたしは今こそ、藤和彦さんに追い風が吹いてきたな、と思っているんです。「日露パイプライン構想」はいよいよ実現に近づいたと思う。日本はロシアのために空母(モントルー条約により黒海には入れないからウクライナ侵略への加担にはならない)を造ってやり、ロシア海軍にシナ海軍を監視させることだってできるでしょう。しかしその話はまた長くなる。2015のパナマ運河拡幅の意味を藤さんすら気づいていないようだから「補足」がたんと必要だ。もう日本は「シーレーン防衛」なんて必要ないんですよ。豪州からのLNGタンカーは、「第二列島線」の東を通って「八戸LPG基地」か「仙台LPG基地」に入港すれば、ぜんぜん遠回りじゃないんで。八戸はしかも、パナマからの最近港なんですよ。テキサス州の港から24日で八戸に着きます。そして、八戸と仙台を陸上パイプラインでつないだら、次期工事として八戸と稚内をつなぐのは、もう雑作もないでしょ。そこまでインフラができたなら、日本は生ガスの大市場になるから、ロシアは北樺太から稚内まで生ガス・パイプラインを敷設して来ますよ。そしたら日本の商社は、豪州LPGやカタールLPGだって値下げ交渉に持ち込めます。あくまで日本国内のガスパイプライン網整備を主事業と位置付け、宗谷海峡パイプラインはダメ押しのオプション程度だと認定して気長に待ち構えていれば、安全です。ますます日本の寒冷地住民(仙台と新潟はすでにパイプラインで結合されている)の懐は暖かくなる。ガス発電で電気代が下がれば、世帯の光熱費が他の消費へ回るんですよ。というわけで、また来月のどこかの雑誌等で、語ることになりましょうな。
 ところで誰か「ボルドーギク」の苗を売ってくださらんか? 寒冷地で最もしぶといという評判なんで……。できれば7月までに……。


今週、文庫新刊『北京が太平洋の覇権を握れない理由』発売です。

 ハードカバーの『北京は太平洋の覇権を握れるか』を増補改訂した草思社の文庫版が『北京が太平洋の覇権を握れない理由』です。
 今週中の書店発売となります。
 すでにハードカバーをご購読されている皆様は、末尾の「追記」から立ち読みしてみてください。
 なお本文も手は加えてあります。