別宮暖朗先生の新著『第1次大戦陸戦史』

 並木書房さんから見本を頂戴しました。350ページ、2700円+税です。
 小生はいま、7月刊行に向けた『私版 国防白書(仮)』の執筆中であるために、急に全文を通読することができません。
 ですので概容のご紹介になります。
 本書は、巻末に、手間のかかった「索引」がついています。初学者が、第一次大戦の陸戦の経過を知りたいとき、年表よりも詳しい参考書として、役立てやすいでしょう。
 第一次世界大戦勃発100周年は、欧州ではちょっとしたイベントです。日本でもそれに合わせた書籍がどこかから一、二、刊行されようとは思ってましたが、ここに別宮暖朗先生のあたらしい書き下ろしの通史が間に合ったとは、慶賀の至りと存じます。
 「別宮節」の健在をこのような形で確認できることは、われわれにとって、なにか心強くなる福音じゃないでしょうか。
 ついでに自己宣伝もしときますね。第一次大戦中の英独「封鎖戦」通史は、小著『兵頭二十八の農業安保論』の中に詳述されています。総力戦というものを理解するためにも、これはぜひ、併せてお読みください。


32年前、全滅必至とされていた第2師団に望んで入営した「情弱」新兵が、いま、日露「対支」同盟に賛成するその理由とは?

 『新潮45』の6月号の拙稿は読んでくれましたか?
 五月病の人は目が醒めたのではないかな?
 日本人が使えるエネルギーが安くなるってことは、税金が安くなるのと、同じ効果があります。消費税が上がったことによるマイナス効果を、チャラにできるかもしれません。殊に、冬の灯油代がエンゲル係数と等しく節約など不可能だった北方寒冷地方では、消費拡大に直結するでしょう。
 万物流転の慨を 転た あらたにしてください。
 いまから三十二年前、わたしは「ソ連軍が北海道に攻めてくる」と思って陸上自衛隊に志願入隊し、任地・職種希望も「最前線の戦車部隊」と書いてその通りに中隊配属されたものでした。
 でも日本の防衛の最前線は天塩海岸なんかじゃなかったんですよね。日本の敵の手口は、常に「間接侵略」なのです。元KGB大佐のプーチン氏は、クリミアでその手本を示した。彼は歳をとって肉体が衰え、その焦りからあきらかに、若かった頃の時代や流儀をぜんぶ再構築しようとしてますよ。でも、それは失敗するでしょう。ドネツ地方では米国が送り込んだ「特殊部隊」(私服アドバイザー)が有効に反撃に転じています。おなつかしやの「ブラックウォーター」の名まで出てきた。これがケリーがつぶやいた「現代の道具」だ。プーチン氏は早く、「変化し続けるものだけが生き残る」と、思い出すべきです。「ユーラシア・ユニオン」を捨てて、互いに間合いの取れる日本と結託すべきなのです。
 どんどん余談になりますが、雁屋哲氏がもし中共の間接侵略工作員だったとしたら、死後に銅像が立つかもしれない。これを読んでいるあなたは、「太極拳」とか「ヌンチャク」という言葉を知っているでしょう。この二つの言葉を日本の中学生男子に初めて教えたのは、『週刊少年サンデー』に「男組」を連載していたときの原作者、雁屋氏に他ならないのです。わたしは「ヌンチャクなんぞ 使える腕じゃねえ」というあの劇画中の台詞を いまも覚えています。たしか 同時連載が「漂流教室」とかの時代でしたよ。ブルースリーが映画の中でふりまわしていた武器が「ヌンチャク」だと知っていた人は、沖縄の人を除いてはまず、いなかったと思います。
 それだけじゃありませんぜ。「双方貫耳!」だとか漢字だけの技の名前をいちいち叫びながら繰り出す、シナ系格闘技漫画の表現パターンを創始したのも、「男組」です。あの作品がひとつの「世界」「技法」を創始したおかげで、その「世界」「技法」を借りれば、たとえば『週刊少年ジャンプ』が「北斗の拳」「魁! 男塾」「ドラゴンボール」をスタートすることなど、易々たる事業となった。集英社のこれらの作品の担当編集者は、雁屋氏に足を向けては寝られないはずなんだ。それはどうでもいいが、その結果、日本人がすっかりシナ人を警戒しなくなったってことは、間接侵略工作としたらば勲一等でしょ? 天安門事件にもかかわらず、たくさんの中小企業があっちに進出して、いま、悲劇的なことになっていますよね。その空気を最初につくったのは、雁屋氏ではないですか? (でも、シナ大陸へのリスキーすぎる企業進出に資金を貸し付けた銀行の担当者は、業務上背任には問われないんでしょうかね。)
 今「男組」のストーリーを想い返すと、主人公は手錠だしラスボスはどうみても日本政府そのものだし、最後は刃物を握って機動隊に突っ込んで行くしで、反政府テロ賛美に近い、えらい内容だったんじゃないかと気になってきた。こんど古本屋に出かけたら、確認のため、探してみます。なんとならば、作家の初期作品には、その人の一生のテーマが隠されていることがありますからね。
 雁屋氏は、「男組」と類似した派生作品をじぶんでまた量産するのではなく、その次に、バブル時代の大衆にピタリと照準をあわせた「美味しんぼ」をヒットさせた手並みが、わたしにとっては真に驚異的でした。わたしのように「だったらあらゆる素材を畑で即齧れば? 水洗いも、火で加熱とかもしないで…」と反発する人はこのマンガにはついていかないでしょう。ついていく読者が厖大だったので、長期連載になった。(まだ続いていたんだとはこんどの騒ぎで知りましたが。)
 でも、今の大衆はバブル時代の大衆よりも、確実に利口になっているのではないですか? そしていつのまにか、老人原作者が大衆の到達しているレベルから後落していたのではないか、というのが、報道に接しての、わたしの感想です。


●「読書余論」 2014年5月25日配信号 の 内容予告

▼ジュール・ヴェルヌ著『動く人工島』(創元文庫の5版)
 ひょっこりひょうたん島の祖形のSFは1895年に書かれていた。その時点から、1900年の米国の技術や政治を占ってみたもの。米国はカナダとメキシコを完全に占領併合している、とヴェルヌは予測した。
 イギリスがアンチル諸島をフランスにゆずりわたさざるをえなくなったとき、いやがらせに数百匹の毒蛇を置き土産とした。それまでマルチニック島には蛇はいなかった。
▼徳川夢声『夢声戦争日記(四)』中公文庫
 この巻は、S19-1月から6月末まで。
 老眼鏡のレンズで煙草に火がつけられる。それも楽屋内の光で。
▼防研史料 『昭和12年度~14年度 陸軍造兵廠歴史』
 昭和14年度にコルトポケット拳銃を工廠でコピー量産していたことなどが分かる。
▼津野田是重『旅順に於ける乃木将軍 斜陽と鉄血』大15-1
 著者が乃木の拳銃を借りて海鳥を狙ったところ、一発も当たらず。
▼フランク&ハリントン『ミッドウェイ――空母「ヨークタウン」の最期』1976訳pub. 原1968
▼防研史料 毛塚五郎『東京湾要塞歴史 附属年表(稿)』S38
▼防研史料 藤沢一孝『明治維新以降 本邦要塞築城概史』
▼防研史料 毛塚五郎『東京湾要塞歴史(1)』
▼杉浦一機『《改訂版》空港ウォーズ』1999-9、初版1995
 C-54型輸送機で4万5000人の将兵を米本土から日本へ空輸しようとすれば、200機でも2週間が必要だった。今は、C-5×35機とC-141×35機により、半日でその輸送が終わる。
 新千歳は、成田よりも800km、欧米に近い。
 新明和工業は、離島間の旅客輸送に的を絞った水陸両用機SS-2(40人乗り)の構想をもっている。
▼原田勝正・監修『日露戦争の事典』
▼坂本勲『歴史を面白く語る人々』H3
 立川文庫の第40編が、猿飛佐助。これぞ第一回の忍術ブーム。清海入道は猪八戒であり、霧隠才蔵は沙悟浄であった。
 現・講談社の敷地は、もと、山田顕義邸である。
▼小寺融吉『芸術としての神楽の研究』S4
 神楽は、神に見せるもの、と解釈するのは近世の附会。本義は、神が現われたものだったのだ。右手に持つ鈴は楽器ではなく、神の声。太鼓も同じ。しかし笛はあきらかに、楽器にすぎない。
 神楽は、古事記や書紀よりももっと古かったのであり、したがって、もしもそこに記紀のキャラが出てくるようだったら、それは比較的新しい創作にすぎず、古態を伝えたものではない。
 歌舞伎で「手をひらいて出す」動作。これも神楽から在る古い様式なのだ。
▼今川徳三『八丈島流人帳』S53-1
 著者は甲府の出身で、近藤勇についての大衆文芸を書いたこともある。
 青ヶ島は、もともと鬼ガ島といった。それは外聞が悪いというので、青ガ島という字、「おうがしま」という発音にした。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 PDF形式ではない、電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
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せんでんでござる。

 現在 書店で発売中の月刊誌『新潮45』に、『兵頭二十八の農業安保論』の「補論」が載っていますので、お見逃しなく!
 また本日発売の『別冊正論』21号には、かなり長い寄稿をしています。ウクライナ作戦(クリミア事変)の主力となった「GRUのスペツナズ」とは何者なのか、これで勉強してください。同じ組織はシナ軍も持っているはず。すでに沖縄の新聞社などは、特務工作員に浸透された状態なのでしょう。よく街頭デモに登場する半島系ヤクザの背後にいるのも、中共版の私服スペツナズでしょう。
 GRUのスペツナズは、私服工作隊員です(SASと似てますね)。彼らは隣国内にあらかじめ、親ソ&反政府の住民グループを組織しておく。そしてモスクワの指示を受けるや、街頭デモを煽動したり、「蜂起」を演出します。すべては前もってコバートに準備をされているのです。
 じつは今、史上初めてロシア軍が、「まともな戦力になる」兵数において、「米軍よりも少数」なのです。
 「装備と練度の劣位を数で補う」という伝統戦略が不可能なのです。普通の戦争は、もうロシア軍はできないんです。しかしさすがは元KGBのプーチンです。GRUのスペツナズを私服でクリミアに浸透させておき、一夜にしてシンパ・グループを武装させ(例のインシグニア無しの迷彩戦闘服も着せ)、「城内蜂起」でクリミアを占領しました。
 プーチンは、「間接侵略」とはどうやるものなのか、その手本を、わたしたちに見せてくれました。これは大いに解明して学習しなくてはいけないでしょう。シナ人は必ず真似をします。もともと「中共」も、モスクワが「間接侵略」でゼロから創り上げた存在ですからね。へその緒は、切れてません。まあ、ウクライナは、「腐敗堕落&経済破綻国家」で、隙だらけだったから、やられちまったんですが。
 いまの露軍で、モスクワが頼りにできる「精鋭」部隊は、空挺と各種スペツナズとわずかな海軍歩兵、あわせて10万人しかいません。一方面にそれを突っ込んだらもう予備はありません(普通の大作戦では一方面に50万人が必要)。特にシナ方面がガラ空きとなり、樺太やシベリアの油田帯を占られてしまいかねない。ですので、今次事変では、ロシア正規軍はあくまでロシア国境線内に控置しておくしかないんです。これはEU女帝のメルケルも分かっているしオバマも当然部下軍人からレクチャーされています。
 通信線遮断の手際の良さ等から、このたびの間接侵略の「プランB」はソチ五輪の前から完整されていたのだと、米軍内では分析されている。
 間接侵略の「プランA」はもちろんヤヌコビッチ傀儡首班でした(日本でいうなら、さしづめ、カンとかハトヤマとかコーノを北京から操るが如し。ヤヌコビッチはプーチンから命ぜられるままにEUとの絶縁路線を推進したので、国の貧窮化を予見した自国民から厭われて追放され、「プランA」は失敗。そこで「プランB」が発動された)。
 プーチンの根本動機は、EUに対抗できるロシアのアウタルキー「ユーラシア・ユニオン」のためにウクライナを「露連邦」に再びくっつけたいのだ、というのが「ロシア通」のマクフォール前大使による解説です。
 あ、早合点はしないでくださいね。わたしは今こそ、藤和彦さんに追い風が吹いてきたな、と思っているんです。「日露パイプライン構想」はいよいよ実現に近づいたと思う。日本はロシアのために空母(モントルー条約により黒海には入れないからウクライナ侵略への加担にはならない)を造ってやり、ロシア海軍にシナ海軍を監視させることだってできるでしょう。しかしその話はまた長くなる。2015のパナマ運河拡幅の意味を藤さんすら気づいていないようだから「補足」がたんと必要だ。もう日本は「シーレーン防衛」なんて必要ないんですよ。豪州からのLNGタンカーは、「第二列島線」の東を通って「八戸LPG基地」か「仙台LPG基地」に入港すれば、ぜんぜん遠回りじゃないんで。八戸はしかも、パナマからの最近港なんですよ。テキサス州の港から24日で八戸に着きます。そして、八戸と仙台を陸上パイプラインでつないだら、次期工事として八戸と稚内をつなぐのは、もう雑作もないでしょ。そこまでインフラができたなら、日本は生ガスの大市場になるから、ロシアは北樺太から稚内まで生ガス・パイプラインを敷設して来ますよ。そしたら日本の商社は、豪州LPGやカタールLPGだって値下げ交渉に持ち込めます。あくまで日本国内のガスパイプライン網整備を主事業と位置付け、宗谷海峡パイプラインはダメ押しのオプション程度だと認定して気長に待ち構えていれば、安全です。ますます日本の寒冷地住民(仙台と新潟はすでにパイプラインで結合されている)の懐は暖かくなる。ガス発電で電気代が下がれば、世帯の光熱費が他の消費へ回るんですよ。というわけで、また来月のどこかの雑誌等で、語ることになりましょうな。
 ところで誰か「ボルドーギク」の苗を売ってくださらんか? 寒冷地で最もしぶといという評判なんで……。できれば7月までに……。


今週、文庫新刊『北京が太平洋の覇権を握れない理由』発売です。

 ハードカバーの『北京は太平洋の覇権を握れるか』を増補改訂した草思社の文庫版が『北京が太平洋の覇権を握れない理由』です。
 今週中の書店発売となります。
 すでにハードカバーをご購読されている皆様は、末尾の「追記」から立ち読みしてみてください。
 なお本文も手は加えてあります。


●「読書余論」 2014年4月25日配信号 の 内容予告

▼徳川夢声『夢声戦争日記(三)』中公文庫S52
 S18の日記。この巻は、海軍がソロモン方面で決戦しようという国内向けの宣伝が、内地庶民にはどのように受け止められていたかを知る好資料。山本神話がつくられた過程まで分かる。
 「私どもの〔昭南から内地へ向かう輸送船の〕床下には、妙な男女がいるなと思っていたら、女たちは朝鮮P(前線の慰安婦)であって、男たちはその支配人や、ヤリ手婆ならぬ爺どもである。見ていると、兵隊たちが実に大切に扱う。まことに御尤もであり、……。……私たち慰問団よりも厚遇されているかのよう」
 9-5、夜、「宮本武蔵」放送。またしても吉川ムサシを連続放送することになった。戦前にやったときは、市川八百蔵氏と交代であったが……。
 10-30、新宿からの京王電車が、競馬(調布)の客で大混雑。
 12-7、全国どこでもヒマが生えている。霜に遭うまで青々と。
▼防研史料 『昭和12年度 陸軍造兵廠歴史』
▼防研史料 愛甲文雄『水中兵器について』S29-3
 愛甲の考える敗因。作戦部隊から集まるいろいろの好資料を「戦訓 即 金庫」とばかりに死蔵していた。
▼防研史料 『航空本部関係資料雑綴』S8~S13
 海軍はS9-12頃、飛行船輸送会社を設立させて東京~ホノルル間に就航させる気でいた。
▼渡辺 誠『禅と武士道』2004-10 ベスト新書
 男谷の門人が言行を記した『善行録』。なるだけ仕口を知らない他流と試合することが、剣術にとっては大益。
 山岡鉄太郎(鉄舟 1836~88)は、中年にさしかかったM15に『剣法邪正弁』を記した。剣士が体力をなくしたあとは、どうやって勝つのか? 極意。敵の好むところに随って勝ちを得るまでである。我は、からだの総てを、敵に任せて、敵の好んで打ち来るところに随って勝つのである。
 白井亨(1783~1843)も、すべての剣客が40歳を境に衰えてしまうことに気付き、そのような剣技は馬鹿馬鹿しいと大悟して、老境までも衰えぬ何かを求めた。
▼日本法医学界『日本法医学雑誌』S32-7月号
 S23~30の刃物自殺統計。
▼『日本法医学雑誌』S50-5月号
 S44~48の感電死統計。
▼『日本及日本人』大1-11-1号、11-15号、12-1号
 自決したばかりの乃木希典の逸話をあれこれ。
▼辰野隆[ゆたか]『忘れ得ぬ人々』S14
 pp.81~「漱石・乃木将軍・赤彦・茂吉」
▼アンリ・ロワレット(Henri Loyrette)著、飯田&丹生tr.『ギュスターヴ・エッフェル』1989
▼(社)日本建築学会ed.『塔状鋼構造 設計指針・同解説』S55
▼雑誌『全貌』第49号 渡辺銕蔵「全学連に警告する」
 西独ではアデナウアー首相が、1955-9にソ連との友好を回復したが、それにさきだって、共産党の非合法化を憲法裁判所に提訴し、裁判所は1956-8-17判決を下し、「共産党は違憲である。よってこれに解散を命じ、その財産を没収する。政府及び地方官憲はこの趣旨を実行し、警察権を行使すべし」との主文を発表した。西独政府は、即日、中央および地方における共産党の議員を逮捕し、財産書類を押収した。
▼アウグスティヌス著、服部英次郎tr.『神の国』全5巻 イワブン1982~1991
 初期のローマ帝国は、一神教とは無縁だが、厳格な規律と道徳とによって繁栄した。
 しかし、何も害をなさない隣国を次々に支配するという道徳的腐敗が、ローマを第二のバビロン=悪魔の国に堕落させた。旧ローマ世界がいま、ゲルマンにほろぼされようとしているのも、その政体の因果応報。キリスト教とは無関係である。
 神の国は、キリスト教会の中のごく一部の善き人びとと善き天使が地上に構成する。
 獣に喰わせる刑で殺されたキリスト教徒の死体も、欠損の無い、完全な形で蘇る。
 ギリシャ人は喜劇中で誰であろうと実名であてこすってよいと法律で認められた。役者は軽蔑されないように国家公務員とされた。しかしローマ人は、存命中の人物が舞台上で毀誉褒貶されることを嫌い、役者を市民とすら認めず。さらに、詩人に神を自由に攻撃させ、それによって人間の方が神よりも偉いと主張した。
 アポロとディアナは矢をもっている。太陽と月は地上までその光線を送るから。
 ソクラテス以前の哲学者は、自然の問題の究明に集中した。ソクラテスがはじめて、道徳を哲学者の課題とした。
 キリスト教者は野蛮な生贄など捧げない。しかし、わたしたちが、そのかたの真理のために血を流すほどたたかうとき、そのかたのために血で染まった生贄を屠ったことになるのである(2巻、p.304)。
 「わたしが欺かれるなら、わたしは存在する」「わたしが欺かれるなら、わたしが存在するということが確実である以上、どうしてわたしは、わたしが存在するということを信じて欺かれることがあろうか」(3巻、p.70)。
 聖書によく出てくる七という数字は、奇数3と偶数4のプラスなので、数のワイルドカードとして使われる。
 「太陽の下に新しいものは何もない」――これは、ソロモンの書とされる『伝導の書』に出る。
 この世の生涯は、死へむかって歩まれる行程以外の何ものでもない。
 ギリシャ語のアンゲロスは使者。そこから、天使。
 人間の頭の先から足裏までの長さは、脇と脇の間の幅の6倍。また、横腹における背から腹までの厚みの十倍。
 何かを分配しなければならないとき、年上の者が分け、年下の者が選ぶという、平和を維持するための慣習(4巻 p.183)。
 ヘルクレスは複数いた。あちこちに、いたのである。オイタ山で自分を火のなかにおいて自滅したヘルクレスもいた。
 スフィンクスは♀である(4巻 p.381)。
 ラテン語の、イエスス・クリストゥス・デイ・フィリウス・サルウァトールの頭文字をつなげると、イクトゥス。「魚」となる。
 アナクサゴラスは、太陽は燃える石であって神ではないといい、そのため告発された。
 「ローマは、自分自身の重みを担うだけの力をもたないもののごとくに、ある意味で、自分自身の大きさによって難破していたのであった」(4巻 p.484)。
 敵意や戦闘は悪である。それは確かである。「それにたいして、平和は不確かな善である。わたしたちは、平和を共に保持しようと欲している人びとの心を知らず、また、かりに今日それを知りえたとしても、明日はどうなるのか、まったく知らないからである」(5巻 p.40)。
 ラテン語のセルヴァーレ。救われること。そして、奴隷=セルヴスの語源でもある。由来は、殺されるはずの捕虜が、征服者に命を助けられた結果、奴隷になったので。
 スキピオは『国家論』の中で、レス・プブリカ=国家を簡潔に定義して、レス・ポプリ=人民の福利だと。
 マタイの福音書いわく、「わたしは地上に平和をもたらすために来たのではなく、つるぎを投げ込むために来たのである」と言ったのは主。聖書は、神の言葉はもろ刃のつるぎであると行っている。それは二つの契約という二重の刃をもつからだ(ヘブル人への手紙)。
 炭は、湿気によって崩壊しない。それで、地境の石の下には炭を埋める。それによって将来の訴訟に備える。
 「悪徳とたたかうことは、悪徳の支配のもとにあって闘争を免れているよりはよい」(5巻 p.312)。
 プラトン主義者は、世界は消滅すると考えた。キケロはそうは考えなかった。あきらかにキケロは、「安全のために国が武器をとることを欲した」「そうすれば、国はこの世界においていつまでも存続する」(5巻 p.385)。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 PDF形式ではない、電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
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サポナリア・オフィシナリスの種は確かに発芽しにくい

 「こぼれ種で増える」という事典の説明と、「初心者には発芽させられない」というショップのエクスキューズと、どっちが正しいのか?
 実験してみた。
 サカタのジフィーセブン×8基に市販のソープワートの種を2粒づつ播く。これなら発芽は楽勝だろうと思っていたら、10日経っても兆候が無い。透明のバックルコンテナ内に並べて湿度100%を維持したのが原因なのか? それとも室温が夜間は10度まで下がるのが原因なのか……。たぶん後者と見当をつける。
 次に(数日遅れて並行実験す)、百均の12cmプラ鉢に、ツルハドラッグの198円土を無造作に入れ十二分に潅水したものに7粒バラ播きして薄く覆土し、早朝5時から電照(電球色ネオボール)、昼は南面したガラス窓内側に置き、夕刻から夜は21時まで電照というパターンで試す。
 2個のタネが、5日目くらいで出芽した。昼の最高室温は22度くらいだったはずだ。
 もっかの仮説。
 夏に開花する多年草が、「こぼれ種で増える」と事典で解説されている場合、それは、昼夜の地温が夏の温度であるからだ。その夏場のリアルな地温を再現してやらない限り、屋内実験での発芽成績が悪いのは、ありそうなことだ。


残存する唯一の形式の旧軍の「火薬庫」(地上棟)か?

 谷地頭の「函館八幡宮」の敷地に接した土手際に、やたらに古そうな、そして小さくて奇妙な、窓に赤錆びの鉄格子の嵌まった薄いコンクリート壁+錆びまくったトタン拭き方形屋根の、独立棟が現存する。
 見た目は、質屋の土蔵とも違うし、一般人の普通の倉庫にしては設計が凝りすぎた印象。とにかく用途の見当がつかず、不思議なもの。(ブログの「なんだか函館」の銀ぎつねさんも、分からないと書いておられた。)
 現地には、戦前は、「津軽要塞司令部」があった。今は道営団地になっている。それを知っていれば、旧軍の施設であることは想像できた。
 答えは、函館産業遺産研究会編の『函館の産業遺産』No.7(2002-7-1発行)に書かれていた。
 三方を土手で囲んだ「火薬庫」であった。
 同資料によれば、津軽要塞司令部の構内には、地上式の大きな納屋のような「弾丸本庫」、同じく大きな「弾丸庫」、山裾の斜面に埋め込むようにコンクリートで造られた「地下倉庫」(これは貴重な産業遺産として市が保存措置をとっている)、そしてこの「火薬庫」があったという。
 函館山には24cmから75mmまでの各種要塞砲が据えられていた。弾丸庫はその砲弾を収めていただろう。
 「地下倉庫」は、特に威力の大きい高性能炸薬入りの重砲弾の倉庫だったかもしれない。(28糎榴弾は黒色火薬なので、むしろ湿気がよくなかった筈だ。)
 問題はこの小さな「火薬庫」だが、要塞砲兵といえども小火器を装備していろうたから、小銃弾などを収めたのではないかと、兵頭は想像する。
 明治30年代設計の火薬庫ゆえ、今のように四方を土手で囲まなくともよかったのだ。
 横須賀の猿島のように、わが国内には、旧陸海軍の弾薬庫/火薬庫は各所に現存している。が、地下部分の無い、建設当初から地上部分だけの独立棟というのは、現物がそのまま残されているのは、この谷地頭の「火薬庫」だけではないか。
 函館八幡宮の禰宜の土田紘司さんから兵頭が直接にうかがった話によると、かつて、この建物を夏期のストーブ置き場にしていたこともあったそうだが、今は、屋根からは植物が侵入し、床は土手の土砂が押し寄せて半分埋めているという状態で、中は完全な廃屋だそうである。
 ただ、木造でないために、こうして腐朽をまぬがれて建ち続けているのだ。
 教育委員会か誰かが、案内板を設置すべきじゃないだろうか。人に知られず埋もれさせておくのは、みんなが損である。


なぜ self-defense の proportionality が、自衛隊に関しては「必要最小限度」と意訳されたか?

 これはベースに昔の警察の考え方があった。
 たとえば犯人がピストルを擬して向かってきたとき、警察官が拳銃を発射してその犯人を制圧しても、「プロポーショネイト」であり、正当防衛が成り立つ。
 では多数の暴徒が警察署を取り囲んでダイナマイトを投げつけてきたときに、警察署内からも、致死性の爆弾を多数投げつけて、これに応戦してよいか?
 普通の軍隊ならば、それも十分に「プロポーショネイト」である。
 しかし日本の警察はそこまでは許されない。可能なのはせいぜい、低威力のけん銃、非致死性のガス銃、放水銃の使用までであろう。
 かかる警察流の伝統が「必要最小限度」という翻訳の観念の根底の発想だったのだろうと兵頭は見る。
 自衛隊は創設の当初は「警察予備隊」といって、19世紀のドイツ司法学(西洋法学のなかでプロポーショナリティを最初に論じた)に詳しかった元内務省官僚たちが、20世紀の安全保障のことはあまり考えないで、いやむしろ、敢えてミスマッチな運用理念として導入させた。それは世界の安全保障の常識とは、いたしかたのないズレがあった。
 相手がもし大量破壊兵器を先に使ってきたなら、こちらも同じような手段で反撃しても、それは「プロポーショネイト(比例的)」な自衛と認められるのが、戦時国際法の標準的な釈義だ。
 個別的自衛の遵守綱目たるプロポーショナリティを「必要最小限度」と警察風に意訳したのがそもそもボタンのかけ間違いであった。「集団的自衛権を行使しているわが日本軍」というイメージと、「必要最少限度の」という日本語のイメージは、常人の頭の中では合致し難いだろう。
 九条2項の中でなぜ「交戦権」がわざわざ念を入れて禁じられたかの理由は、拙著『「日本国憲法」廃棄論』で推測した。1941年12月8日の開戦を「戦闘状態に入った」とだけ伝えた、世界に対して無責任すぎるラジオ放送原稿の空虚さが、原因である。あれと同じ、説明責任ゼロの流儀での侵略は二度と日本にさせないと、アメリカが豪州を説得する必要があった。
 その2項の縛りと「集団的自衛権」はマッチさせようがないと法制局はずっと思ってきた。それは文法的には正しい。つまり日本国憲法は、国際法違反なのである。
 話を戻す。
 「均衡性」という日本法学界の半公定の訳語も、(特に昭和生まれ以降の世代に対して)ミスリーディングで、よくない。それは「プロポーショナル」の訳語としては似つかわしいだろうが、「プロポーショネイト(proportionate)」を訳すなら、どうして「比例的な」「比例した」を選ばないのか? 反軍的な文官たちに、何か底意があったのではないか。
 あらためて、「釣り合いを失して過剰にわたらざること」等と、誤印象の余地が無いように、丁寧に訳し直されるべきだろう。
 さすれば、その言葉のイメージと、日本軍が集団的自衛権を行使する姿とは、内閣法制局の人々の頭の中でも、違和感なく整合するだろう。
 わたしたちはもともと、proportionality のイデアを、とりそこなっていたのである。


「読書余論」 2014年3月25日配信号 の 内容予告

▼徳川夢声『夢声戦争日記(1)』中公文庫 S52
 S16-12-8から始まる日記。S35にハードカバーで初版を出す時、その時点で生きている知人に迷惑と思われる箇所は修正されている。
▼徳川夢声『夢声戦争日記(2)』
 潜水艦にやられたときの注意事項。
 体に縛り付ける救命具の紐は、コマ結びにして、着水の衝撃で外れないようにすること。
 帽子は被れ。その上から手ぬぐいで縛着せよ。海に浮いているときに、さらに上から物が落ちてくるから。
 細引き縄を用意しておけ。漂流物と身体を縛着できて、心強い。
▼法性 弘ed.『ザ・レスキュー 航空自衛隊災害派遣・救難活動の記録』1995-7
 チヌークに目一杯人を詰め込むと、いちどに53人運べる。通常は30人だが。
 ホバリング時の横風に対する安定性では、ツイン・ローターはシングル・ローターに勝る。
▼小山松吉『名判官物語』S16-5
 江戸時代の裁判の逸話・伝説。
▼伊藤桂一『秘めたる戦記』1994光人社NF文庫
▼防研史料 海軍pub.『火薬火工兵器取扱規則』S9-9
 砲弾用信管と投下爆弾用の信管の一覧あり。
 「特種弾」とは、曳煙弾。吊光弾。照明弾。榴霰弾。焼夷爆弾。投光弾。目標弾。星弾。片鋼弾。
▼J.Bathelor & L.S.Casy共著『Naval Aircraft』1975
 崖の横穴を攻撃する目的で、米軍は、VT信管付きの爆弾を太平洋戦域で投下した。
▼防研史料『独伊派遣軍事視察団報告資料 技術 其二』S16-7-20調製
▼三沢市企画部基地対策課『三沢市の在日米軍基地と自衛隊基地』H4-11
▼防研史料『水雷全体を通じ生産技術向上の為に努力した経過』
 海軍技師・北 新吾が、戦後に書いた。
▼防研史料『機上作業教範資料(固定銃射撃の部)』S17-11-4〔7/航空教範/93〕
▼防研史料『水中爆発に関する研究』S31-3-25
 寄贈著者は、大八木技術少将ら。
▼防研史料 『昭和10年度 陸軍造兵廠歴史』
▼福田恆存『言論の自由といふ事』S48
 「乃木将軍と旅順後略戦」…初出 S45『歴史と人物』11月(20号)を収めている。
 今読んでも感服する他に無し。当時よくここまで調べたものだ。
▼『福田恆存全集 第6巻』の、巻末覚書(p.695)。
 やはり旅順と乃木関係。
▼『水交社記事 No.149』M41-3-31
 「幕末 及 明治初年に於ける我 海軍艦船 及 沿革」――海軍省M21年報の抜粋。
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