春水こそ宣長の最優秀の「弟子」だった……といまさら気付かされる辰巳の園

 チャンネル桜の先々週の日本の防衛をめぐる討論会、じつはわたしにも声がかかっていたのであるが、2月冒頭の強度のギックリ腰の後遺症で、安い椅子に長時間腰掛けていると苦痛であったので、参加をお断りした。(ここ一ヶ月は炬燵に寝転んで昭和3年刊の伏字だらけの為永春水の『人情本集』と小林秀雄の『本居宣長』を交互に読む毎日だ。そろそろ復活はする予定で居るが……フリーの身分は有り難いね。)
 で、じつはわたしは、代わりとして、太田述正氏と「エンリケ航海王子」氏を参加させるべきですぜと、秘書の方を通じ、水島さんに熱烈に推挙申し上げたのである。近代国家の「政-軍関係」について、この2人以上にマトモな発言をしてきた人は、日本には居やしないんだから。わたしへの出演依頼の電子メールには予定メンバー表がついていた。その全員を集めても、この2人の面白さには敵うまいとわたしは即断した(一面識もない田久保さま、おゆるしください)。
 太田氏については、わたしからの意見具申以外にも、視聴者のリクエストがすでにあったらしく、サクッと列席が実現したようなので、慶賀の至りだ。ささやかなカンパの代わりにもなれかしと祈る。(たしか出演料は、ソロバン玉の上の1コ? でも無編集・無検閲で語り抜ける番組はここしかない筈。)
 案の定というか、プロボカティブな展開となったようで、これまた大慶と存ずる。何年も太田氏のメルマガのバックナンバーを読んできたわたしとしては、番組のビデオを見なくとも、太田氏がよいことを存分にブチカマシたと分かっている。
 太田氏は「山田洋行」プロットがムチャクチャになる前に防衛庁のインサイダーではなくなっている。しかし太田氏を非難する陣営の方々はどうなのかな? 知っていて黙っていた人がいるんじゃないですか? 真に勇気のある人はどっちで、偽愛国者やヘタレ言論人は誰なのか、追々、世間にも知られて行くだろう。
 さて本州大都市圏の皆様、本日、昼休みに書店にお出掛けになると、たぶん『【新訳】孫子――ポスト冷戦時代を勝ち抜く13篇の古典兵法』が、新刊の棚、もしくはPHP新書の近くの棚に、出ていますでしょう。火曜日には、地方書店にも並ぶと思います。
 先月の後藤よしのりさんの無料メルマガでも、『孫子』のサワリを語っておいたんだけど、みんな、読んでくれたかな? キモは「死地」にあるんやで……ってね。
 シナの原潜がグアム島を一周して沖縄の領海をくぐって抜けた事件。
 覚えてますよね?
 あれぞまさに『孫子』の応用。 ……し、知っているのか雷電?
 さよう、どんなシナ人たちでも潜水艦という「死地」にとじこめられて海自のASWにおいかけられたりしたら、もう全乗組員があたかも一人の男の手足のようになって共働して舟を漕ぐしかない。つまり、呉越同舟じゃい!
 チベット暴動も同じこと。騒ぎを大きくすればするほど、退却する者がいなくなる。先進西洋列国が反撥すればするほど、国内は団結する。これぞ「九地篇」の極意なり。
 ではいかにせば、その「死地」まで農奴兵をつれていくことができるのか?
 『孫子』は教えます。
 ――「騙して屋根に上げてハシゴとっちゃえば、よくね?」
 さよう、それが小学校からの「反日歴史教育」であります。
 さらに『孫子』は教えます。〈何も考えず、自動的に、敵の最弱点へ向かい、ラッシュすればよい〉――。
 いま、世界中の敵の中でいちばんヘタレなのが日本。だから、彼らは日本をいつまででも狙い撃ちにし続ける。理由はただそれだけなのです。
 教室のイジメの構造とおんなじかもネ。
 秋山真之はマハンから、〈良い海軍戦略の古典は残念ながら未だないから、内外の陸戦の古典を広く渉猟して、じぶんの頭で教訓を抽出しなさい〉と導かれました。それで「勝ってカブトの緒を締めよ」という日本海軍のスローガンが、『甲陽軍鑑』から抜き出されているんです。
 しかし秋山も秋山の後輩たちも、『孫子』は学び損ねた。スローガンとエッセンスは違うんだよね。
 米海軍という巨人に立ち向うのに、その最弱点を狙うという着眼はゼロだった。
 『大和』型をつくる資源は、潜水艦隊の拡充にまわすべきだったし、特攻の目標も、輸送船、商船、駆逐艦に、自動的に指向されるべきだったでしょう。
 これに比べると、シナの軍人は、陸軍も海軍も、よく『孫子』を咀嚼しているってことがつくづく分かります。政治家も同じですよ。
 だから、政治に興味のある人こそ、拙著『[新訳]孫子』(PHP研究所)をその手にとって欲しい。電車の中で立ち読みできるように、和訳だけを載せてあります。
 もちろん、銀雀山竹簡を十分に反映したものです。
 日本の政治家がシナからの政治攻撃に対処したくば、まず靖国に参拝してしまうことです。それによって、「死地」が作り出せる。小泉氏は、ここがわかっていたでしょう。
 まず敵と味方を分け、ぬきさしならない対決モードに誘導してしまう。それでいいんです。
 その演出で、はじめて味方は団結する。脱走者がいなくなる。それが「九地篇」の説いていることです。誰も愛国心なんかもっていない今だからこそ、春秋時代の農奴使役マニュアルが役に立つのです。安倍氏は、まるでわかっていなかった。


番組からのお知らせです

 PHP出版の 『[新訳]孫子』は、3月21日書店搬入と決まったようです。
 つまり、都内の早い書店では21日のうちに、また辺鄙な地方では来週の月・火頃に、棚に並ぶことになるでしょう。
 表紙はどんなものか? それは、「武道通信」にUPしてもらいましたので、ご覧ください。
 あわせて並木書房の『逆説 北朝鮮に学ぼう!』と、光人社の『日本の戦争 Q&A』もヨロシク!
 光人社さんとは、目下、驚くべき「共著企画」も進行中です。お楽しみに!
 P.S. 太田述正さんが出演されたという「チャンネル桜」の座談会、誰かご覧になった方はいますか?


御礼

 増元さま、お土産どうもありがとうございました。メールが届かないので、ここで連絡させていただきます。


リーダーは、部下たちと「知恵比べ」をしない。

 全能の個人はこの世にいません。夜中の3時にオーバル・オフィスに電話がかかってきたとき、その受話器を掴む「全米最高軍事指揮官(コマンダー・イン・チーフ)」にも、知らないことがいっぱいあるはずなんです。
 たとい大統領を2任期8年間も務めたとしても、なおまだ、分からぬことの方が、分かることの数よりもきっと多いでしょう。
 だからこそ、大統領には、自分を補佐させる部下閣僚を自由に任免する権限が与えられている。政策の足をひっぱるような役人はサクッと馘にできるわけです。
 〈自分ひとりで仕切れる政治の課題なんて、ごく限られているよ〉〈それを自覚できるのが賢者の徳の第一歩だよ〉と、民主主義者のソクラテスは2400年も前に最優秀生徒のプラトンを訓導しようとした。
 ……が、若きプラトンは、おのれの学才に自信を持ちすぎ、いかなる分野の専門家と知恵比べをしても負けない全能の個人はかならず国家に一人は居るのだと夢想し続け、けっきょく専制政治の大理論家になってしまう。
 嗚呼、人の理性は有限であります。
 日本も採用しているデモクラシー制度の下で、大衆はどんなリーダーを選べば良いのか? あるいは、政治家志望者は、どんなリーダーを目指すのが妥当なのか。
 ――歴史上、ありえないことがすでに証明されているような、全能に近き者でしょうか?
 これについて、デモクラシーと何の関係もなかった大昔の儒学者が、じつにあっさりと、もう答えを出しているんです。
 彼らは断定しました。「知(者)」とは、「誰にそれを任せたら良いかが分かる(者)」とイコールだろう、と。
 そのような知者こそが、天下を安んずる統治者になってもいい資格の持ち主なんだ、と。
 それ以上の知者なんて、いないんだ、と。
 ただしそんな知者は、単にidealに想定できるだけで、リアル世界にはあり得ないものなんだ……とも。
 アメリカ大統領や日本国首相や東京都知事や民主党代表は、自分自身では、一流大学法学部卒の試験エリート役人たちと論争できなくとも良いのです。
 ロクに学識や経験はなくったって良い。
 税制改革から中小企業金融から核戦略から海難審査から在日/部落特権から対外宣伝からスポーツ振興までのオールラウンドの専門家である必要などみじんもありません。
 〈大名が部下と智恵くらべをするなど、もってのほかです〉と、荻生徂徠が、わかりやすく切論しています。たとえば、複数の部下から上がってきた意見書を読み、これはダメだとかこれは間違っているとか論駁をするのは、もう、殿様が部下と知恵比べをして誇ろうという、まことに愚かしい自我である。
 そうではなく、最適の器量を有していそうな部下を探し、品定めし、一人を選んで、その問題をその男に何年か任せてみて、天下のウケをみて、どうにもダメなようだったら担任者を取り替える。それが、殿様にできる最良の仕事なのである――。
 松下幸之助などは、さすがにここの勘所は、わかっていたようです。
 この部下探し、かならずボスが直接インタビューして、心証で決めるしかありません。
 自薦・他薦の何人かに口頭試問してみて、その反応から「こいつが良さそうだ」と決める。「前からのお友達」や「義理筋からの指定者」などに任せてはいけません。
 もし、何年か経って、こうした配下の選定を誤ったなとリーダーが覚ったら、その部下を更迭するのもまたリーダーの責任であります。その更迭が遅れすぎた場合には、リーダーが天下から批判されるのは当然の話だ。
 古い儒教世界では、リーダーが部下の人事・人選を間違った結果、天下をうまく治められなかった場合、その「不知・非知」は、弑逆や革命によって修正されるしかありませんでした。
 しかし「行政官殺し/上司殺し」がちょくちょく起っては、やはり天下が安泰とは逆の方向に行ってしまいますよね。
 そこで、西洋と日本では、デモクラシーが、この無理・無駄を合理化しようとしてきたのです。
 すなわち、「行政リーダーの組織人事が不手際であるがゆえに天下が安泰になっていない」と有権者が感じたなら、次の選挙で、そのリーダーを落選させ、もっと有能な配下を知っている別なリーダー候補と取り替えてしまえる。そんな制度に、したのです。
 選挙で選ばれている代議士である大臣(たとえば防衛大臣)が、部下の役人機構や職員(たとえば艦長)の起した不祥事の責任をかぶって自分から辞任する必要などありません。
 ちなみに艦で起きたどんな事故の責任も、常に、例外なく、艦長ただ一人にのみあります。艦長がそのとき意識不明の危篤状態であったというのでもない限り、副長や航海長以下には、艦長の万分の一の責任もありはしません。艦とは〈独裁国家〉なのであり、艦長には、部下乗組員に対して、たとえば「おまえが浸水区画の内側へに行き、内側から扉をロックしろ」と命ずる「生殺与奪」の権限があるのです。ズバリ、「死」を命ずることができる。その代わり、どんなに不運な事故であったとしても、さいごの全責任は、あくまで艦長が取るというのが、海のシキタリです。
 なお、当該大臣を任命した内閣総理大臣が、その事故の原因がその閣僚個人にあると考える場合は話が別で、その場合は首相によって免職されるでしょう。
 一般には、もし有権者が、「某大臣は、頼るべき部下の人事を間違っている」「しかもそれによって天下が乱れている」と判断するならば、次の選挙でその大臣は落選するでしょう。それが代議士の責任のすべてでしょう。
 選挙で選ばれている代議士である大臣や、選挙で選ばれている知事が為すべきことは、おのれの所轄官衙内で不祥事が起きたならば、ただちに適当に部下や職員を罰し、クビにし、待命=予備役に編入し、告訴することです。
 ところが、日本の法律と政府の慣行は、代議士である大臣が、部下の役人・職員のクビを、簡単に切れないようになっている。(知事には、比較的に強い人事権がありますけれども……。)
 ここが、米国政体と日本政体の、決定的な違いです。日本の現行政体では、大臣に部下の人事を自由にする権限が与えられない。米国では、長官や局長や部長について、ほしいままに人事をおこなうことができる。だからこそ、米国では、リーダーが「知」を最大限に試せるのだといえます。
 現下の日本では、内閣総理大臣や国務大臣が、ある問題について「こいつにまかせるのが一番だ」と見込んだ部下を抜擢しようとするのがそもそも不自由ですし、なんとか抜擢をしてみても、こんどは、その部下に対し、他の同僚や上司の役人・職員がサボタージュ活動をするのを、機動的な人事権や懲罰権の強制によって止める方途が無いときています。
 つまりわが国では、国政のリーダーは「知」を発揮しようがありません。公務員の総意(=公務員試験の問題を出題する古手の大学教授よりも低い知恵)しか、動員することはできないようになっているのです。
 これでは民間企業よりも知恵が回らぬ国家になってしまうのはあたりまえではないでしょうか。
〔ミニ・ニュース・1〕
 並木書房から『失敗の中国近代史――阿片戦争から南京事件まで』(別宮暖朗著)の見本が届きました。またチカラが入ってますね! 清朝の科挙制度の末路が、リアルに分かります。
〔ミニ・ニュース・2〕
 今月末(たぶん25日過ぎです)に、PHP出版から拙著『[新訳]孫子』が出ます。本日、著者の手元に見本刷りが届きました。
 げんざい、書店には、中倉玄喜氏訳の『【新訳】ローマ帝国衰亡史』が売られていると思われますが、おそらくそのすぐ並びに、置かれることになるでしょう。
 なお、これは新書サイズですけれども、PHP新書ではありませんから、ご注意ください。売価は税別850円の予定であります。
 ――水が自動的にいちばん低いところへ殺到するように、自動的にいちばん弱い敵を衝き続けなさい――という教えが『孫子』の中にあります。
 北京政府は、すべての先進国・大国・富国・強国が憎い。しかし全世界を同時に敵にまわしたら、負けると分かっています。
 一番弱い外国を叩くのが利口なのです。だから、日本はいつでも、いつまでも、北京からイケニエに選ばれる。
 みなさん、学びましょう。


まだまだまとも

 『文藝春秋』08年4月号に竹中平蔵氏が日銀の総裁(候補)のたなおろしに関連して寄稿しています。G7の過去3年間の平均名目成長率の3.6%の成長を日本も目指すべきで、もしGDPが年に1%づつ成長すれば、10年後には税収が16兆円増え、消費税を7%上げたのと同じことになり、しかも景気も冷やさない――と。
 随分説得力があります。「2ちゃんねる」のような空間では残念なことに、戦中統制経済マンセーのヒマな赤公務員が書き込んでいるケケ中叩きのテキストの洪水の中に、まともなコメントは埋もれてしまいます。
 戦前、池田成彬[しげあき]は、大蔵省と商工省を合併して「経済省」にしろと提案していました。プロシア式に訓練された官僚が……ではなく、英米流に近代化された財界人こそが日本の経済政策を機動化して英米に対抗できるのだと考えていた。
 そこで近衛内閣の最初の組閣のときに、大蔵大臣兼商工大臣に起用されたのでしたけれども、池田の改革は、役人の猛反対で潰されました。
 「大蔵省の為替管理局」と「商工省の貿易局」の統合ですら、まったく不可能であった。つまり対外取引が必要な民間企業は、この2つの役所で2重の許可を得たあとでなければ契約は結べなかった。さらに外務省の通商局からも横槍が入った。ひどいときには全部済むのに半年も待たされる……。
 これでは外国との競争はおろか、有利な商談そのものがはじめから不可能ですね。けっきょく日本の体力が弱められて、大戦争には耐えられなくなってもうた。「大リーグボール養成ギプス」のスプリングで、哀れにも身長が圧縮されちゃった星飛雄馬みたいなモン。
 輪をかけて酷いのが満州政府で、内地で物価や貿易を統制しようとしても、諸外国から勝手な輸入のし放題。その伝票はすべて東京の国庫に回してきた。内地以上の無責任な役人天国だったのですから、その生き残りたちが戦後、満州の想い出を悪く語るはずがありません。
 池田は、こうなったらいっそ、満州と日本の通貨リンクを廃めてしまったらどうか、とまで考えたそうです(高木惣吉の日記にあり)。
 日本の「統制主義者」に統制などできず、有力役人のてんでバラバラな権益増殖を黙認するだけになるってことは、あの東条のやったことを見れば分かるはずなのに、赤公務員と2ちゃんバカ右翼にはそんな自明の事実が見えない。これをやはり高木惣吉はノーマン・エンジェルの評言を引用して「いくらでも頭脳を使いさえすれば、どんなに教養の低い者にも、自明」なことを、あえて誤謬してしまうのが公衆である――と嘆くわけです(『太平洋戦争と陸海軍の抗争』)。事情は今と少しも変わらない。


ある米国設計の誘導弾搭載型巡洋艦艦長の心の中の台詞(想像)

 昔の名物艦長にはすごいのがいたって話ですわネ。なにしろ少しでも危険がありそうな海域では、夜間の航海中にぜったいに私室へなんて引っ込まなかった。もうブリッヂ出ずっぱり。椅子を出して夜明けまで椅子にもたれて仮眠してたと。さすがにそうされちまうと、当直将校も見張りもサボりようがない。ブリッヂ内の空気がコウ、ビリビリッと、張り詰めた。
 豊田副武がある軍艦の艦長から転出するときに、艦に残った士官・下士官どもは塩を撒いたって話がありやす。では豊田はどうして出世できたのか。素人さんにゃお分かりんなんなさるめェが、これは美談なんスよ。部下の副長から新米少尉にまでも辟易された、そのぐらいのガミガミ親父じゃなきゃネ、国民の血税でこさえた最新鋭最高単価のフネの座礁や衝突事故をゼロになんかできねえ。「そのほう等、善きにはからえ。まかすぞ」式の、米内光政流じゃこりゃダメなんでがしてね。米内さんが指揮をした砲艦はじっさいに揚子江で座礁しちゃったでしょ。シナ人に対して帝国海軍の威光を低下させた。普通はそれで海軍将校のキャリアは終わりでがす。
 自分が艦長でいた間は、自分のフネには傷ひとつつけなかった、っていうのが、マァ、平時の海軍大佐以上の勲章。豊田副武が中将以上に順調に出世しているのは、この、他人まかせでは絶対にできないことを確実にやるキャラクターだったから。あのガミガミ親父ならば、貴重な組織の資産を無駄に壊させたりしないだろうっていう信頼が、上の方からあったわけですよ。「貰い事故」すら起こさせはしないぞという責任感。それにはトラフィックの多い、陸に近い海面を夜間に通過するときに、私室で寝てちゃだめなんだよね。それを艦長時代に立証できた海軍将校だけが、艦隊司令になってよく、軍令部の高級幕僚になってよく、海軍省の高官になってよく、大臣になってよかったわけ。
 ところで、米国海軍は「ドライ」だったが、ロイヤルネイヴィはドライじゃなかった。ドライっていうのは、「アルコール厳禁」っていう意味ンなりやす。そこはピューリタンですわ。
 何ヶ月も寄港なしで航海を続けるときに、腐りがちな真水の防腐剤としてラム酒を混ぜて水兵に飲ませていたりしたのが英国海軍流だ。士官は水兵以上に酒に強くなければならなかった。「ボンド中佐」のマティーニね。寺島健も、ある休暇中に麦酒数本をあけたあとすぐに海で数十分遠泳してケロリとしてさらに夜の和歌山の繁華街へ向かったという。
 戦後、日本陸軍(陸上自衛隊)の文化は米陸軍化されたとはいえども、冬の寒冷地の演習場で夜更けて「状況おわり」となったら一升瓶くらいは出てくるでしょ。いわんや堂々と英国流であったばかりか戦後もアメリカナイズを免れたと自負する海上自衛隊が……ウーイ、ヒック、てやんでえ。
 戦艦『陸奥』の爆沈事故の原因のひとつは、瀬戸内海から一向出撃する機会もなく、士気が停滞していた下士官が、火気厳禁の弾火薬庫内で密かに酒盛りを開いていたからだとも言われていますがね。しかし、将校だろうが水兵だろうが、人間酒なしじゃやってらんないときもあるじゃないですか。違いやすかい、ねェ旦那。
 昔の名物艦長はね。モチベーションがあったですよ。偉くなって、自分が連合艦隊を率いてアメリカ海軍に対抗しなくちゃならないっていうね。
 ロシア海軍やアメリカ海軍に勝つ方法を考えるやつが、偉いやつだった。
 今はどうかといいますとね。上司に逆らわず、内局に逆らわず、外務省の安保課の阿保ったれに逆らわず、アメリカ国防総省サマに逆らわず、マッカーサー憲法様にタテつかず、温顔でスピーチを卒無くこなし、山田洋行みたいなスキャンダルに関しては退職後も絶対に他言はしそうにはないと周囲から信用され、任期中に直属の部下が事故を起こさないという強運にも恵まれている……っていうのが出世頭でやす。憚りながらこのわたくし奴。模範でやす。鑑でやす。
 ですからね、いつしか口の利き様も、旗本くずれの野だいこか幇間ふうになっちゃうんですよ。ウヒョー、おそれ、おそれ……。
 このイージス艦ってやつね。もともと海自の方から「くれ」って要求したんじゃないんですよ。わが帝国海軍が欲しいのは昔っからね、空母か、しからずんば原潜。防空巡洋艦なんてね、欲しくもなかった。だいたいソ連のバックファイアーなんて、旧海軍の一式陸攻と同じコンセプトでしょ。
 まあ考えてみてくださいよ。本当にすごい兵器なら、アメリカは外国に「導入しろ」とは言いません。いま、F-22を空自が買えないでしょ。本当にすごい、北京がビビるような兵器なんだなってわかりますよ。空母や原潜もアメリカ議会は輸出させませんよ。同じ理由ですわね。
 イージス艦は、高いだけの商品。超絶兵器じゃない。しかも、売ったあとからアメリカが完全に遠隔コントロールできる。空自のAWACSと似てますわなぁ。
 まあ、これだけ高額の装備をですよ、海自から内局を通じて大蔵省に要求してみたところで、ウチのサラリーマン内局にどうしてその必要性の説得ができたもんですか。予算が通りはしなかったでしょう。イギリスですら買ってなかったしね。
 けどね。レーガン政権が唐突に「買いなさい」と日本外務省に命令してきた。これは、アメリカ様の命令ですから、「対大蔵」折衝の必要がなかった。天国ですわ。ヘヴンですわ、もう。
 バウにね、「スターズアンドストライプスの御紋章」ですよ。いまじゃこれにブッシュ政権の「MD買いなさい命令」も一枚加わってるんだから、海自のイージス関連だけは、もう無敵。
 こんご防衛省や自衛隊にどんな逆風が吹いたって、肩で風切って市ヶ谷を歩けるのはイージスがらみだけ。この野だいこ様だけでやんす。
 でも、このフネでもって守れるのは、米国の空母と、在日米軍の基地だけでやんす。
 あっしも艦長サマですけどね。艦内には米国製コンピュータ様という「司令部」が同居してるんですわ。だから真にこのフネを動かしているのは、ペンタゴンの将軍さまたち。
 MD実験に参加したって、データは全部アメリカの軍事メーカーの民間人が持ってっちまう。え、アメリカの民間人を乗せてるのかって? いやあ、これは厳秘なんですけどね。メーカーの人がつきっきりじゃないと、このコンピュータ、動かせないんですわ。日本人はoff リミットな空間がありましてね。艦長も立ち入れない。
 だから八つ手の早駕籠ならぬSH-60か、猪木舟ならぬランチでいちはやく見返り柳の向こう側、米軍地区までお連れ出し申し上げないと、はばかりがねェ……。
 海保や警察の中にもしシナのスパイが混じっていると、このコンピュータに細工を仕掛けられちゃうんで、わっちらがというよりはアメ様が困るんですけど、さすがに最前線で日々シナ人とやりあってる彼らは、そこまでスリーパーには浸透されてないでしょう。もちろん外務省経由で「オフリミット区画には踏み込むな」というホワイトハウス様からの御触れも、しっかと伝達されていることでしょう。錦の御旗に守られる我ら。重宝なもんですわ。
《以下、余談》
 ヤフーの英語版から「60ミニッツ」を見られるということを昨日発見した。この番組の米軍リポートは、昔からホントにあなどれない。
 いきなり、電子レンジの仕組みを応用した対暴徒遠隔撃退用電磁砲(車載式)のプロトタイプの紹介をしていた。有効距離、数百メートル! 当てられると、1秒もじっとしていられないようだ。ぶ厚いマットレスをシールドにしようとしても、防護にならない。
 とうとうここまで来ちまったか……。
 この兵器が、ユーラシア某地域、某々地域の専制体制のオモチャとして普及したら、すぐに拷問と処刑用のリーサル・ウェポンとして使われることは目に見えてるぜ。
 (発電装置までもが本当に車載でまかなえているのかどうか、オレは疑問に思ったのだが……。)
 そして次の段階は、宇宙から地表の人間どもを「チン」してしまう兵器だ。この流れはもう止められないぜ。


「春のめざめ」作戦、始動!

 確かな情報筋によれば、管理人さんはUSJでナンパして、つきあっているらしい。
 みんなも、ご自愛している場合じゃないぜ。
 久びさに明るいニュースではあるまいか。


拝啓 エンリケ航海王子(おきらく軍事研究会)さま

 このたびは貴メルマガ上におきまして望外の長文の過褒にあずかりまして、喫驚し且つおそれいりました。
 「軍事情報(本の紹介)」は、いつもですと、困った性能のわがメール・ソフトめが勝手にハネてしまって見損なうことも多いのでのですけれども、こんかい、偶然に発見して拝読することができました。
 小生はかねてから「自衛隊ニュース」は定期的に読ませていただいております。特に過去の《オマケのコメント》の数々にはしばしば膝を打ち、幾度も啓発されて参った一読者でございます。ちょくせつお目にかかって、もっとつっこんだ「講義」を聴けないのが、本当に残念です。
 「誤字の無い、こんなてまひまのかかるテキスト打ち込み作業を、代価もなしにずっと継続されているエンリケさんとは、どういう人なのだ? かなりの高学歴者で、しかも海上自衛隊のインサイダーだった人なのだろうか……」などと妄想することしきりであります。
 プロの先達者の方からの評価が不肖の身に沁みました。ありがとう存じます。
 以下のコメントにも「全然同意」です。
 ――【私エンリケは、本を文化文明の中核にあるとても大切なものと考えています。
ですので、本作り・流通に関わっている方々を心から尊敬しています。《中略》出版社さんもそうですが、われわれにとって最も身近な本屋さんにも元気になっていただきたい。そのためにできることがあれば何なりと協力したいと考えています。】――
 これに関して、兵頭にも何かできることがありましたら、無代でできる範囲で、うけたまわります。
 ところで、ひとつだけ誤解を解かせてください。
 防研の所蔵史料を全部読みきれる人間は、この世にはいないだろうと思います。物理的に、無理です。(制度的にも無理なのです。遺族の許可なくしては一般利用者が閲覧できない一次資料がゴマンとありますゆえ。)
 ただ、公開史料にのみかんしましても、防研図書室資料の分類整理の悪さについては、いつかぜひ建設的な批判と提案をしなければならぬと思って参りました。
 小生のような部外者は、東京都内に居住して、目黒に朝から日参し、(昼飯もくわず)カードを総めくりして、片端から引き出してもらって、斜め読みして内容の摘録を自分のノートに書き写す……。このような作業を1~2年もやらないと、おぼろげな全体像すら把握できないシステム。きっと、いまでも大して変わりはないのではありますまいか。
 わが国の軍事図書情報の総合環境を、すこしでも改善するために、広く皆様のお知恵をあつめたいものと念じております。
 末筆ながら、エンリケ様のますますのご健勝とご健筆を祈り上げます。


さいきんのニュースから

 CNNが伝えました。日本時間08-2-21-12:30ころ、ハワイ西方から米巡洋艦『レイクエリー』がSM-3を1発発射して、重さ2.3トンの偵察衛星の残骸に命中させてバラバラにした。大気圏内に細かい部品となって落下させて燃焼させるのが目的だ。
 迎撃高度は247kmだと発表された(隠そうとしても宇宙マニアには分かってしまうので)。
 いままで、SM-3の実用射程や有効射程が公表されたことはなかった。
 ただし目標物体は大型自動車サイズであったから、多少のコース誤差があっても命中は確実であった。
 この作戦で証明されたことが2つあります。
 ひとつ。247kmより低い高度の偵察衛星は、SM-3から無事ではない。つまりSM-3輸入国である日本はASAT用ハードウェアを手にしている。(ソフトウェアを含めた中枢システムは驚羅大四凶殺と同様、すべてアメリカ人の手の内にあって、日本独自には満足に運用はできない。)
 ひとつ。SM-3を1発発射すると、65億円が消えてしまう。湾岸戦争のスカッド迎撃のときのように、念を入れて同一目標へ向けて2発発射すれば、130億円。3発発射すれば195億円。(湾岸戦争のときは、3発発射しても半数以上は地上に落ちてきた。)
 この作戦で、依然として分からないことがあります。
 7分前もしくは10分前に発射された、高度150km前後、もしくは高度250km以上を飛んでくる直径80センチのRV(弾道弾の再突入体)を、SM-3がどのくらいの迎撃率で破壊してくれるのかは、誰も知らぬことです。
 米国の『タイム』誌の電子版が伝えています。米空軍はF-22を政府(ペンタゴンの文民組)が決めている183機ではなく、もとからの最低要求量である380機買うようにとの声をますます大きくしている。
 その理由として空軍の調達部門トップの制服軍人、ブルース・カールソン将軍は、21世紀には「インド」および「シナ」が、かつてのソ連空軍のような強敵になるので、それに対して必要なのだと明言。
 F-22の部品を製造する工場は全米の44の州にあって、その雇用は2万5000人にのぼっている。
 空軍は、F-35も要求しているし、C-130とC-17も、もっと必要だという。
 グローバルホークも増やしてもらいたいという。この無人機は1機が120億ドルするのだが。
 さらに空軍は、空軍兵33万人のために、人間工学的に進歩したデザインで高威力弾〔9mmより小口径でボディアーマーを貫通しちまうやつか〕を発射する拳銃10万600梃も買いたいと要求中。その単価は1157ドルだと。
 これとは別に21万梃のM-4カービン(M-16のみじかいやつ)を単価1747ドルで調達すると。
 『タイム』はこの記事を皮肉なコメントで結ぶ。――前々から米空軍は、米陸軍が独自の航空機部隊を整備しているのはいかがなものか、と言い続けてきた。けれども、ついに今や、空軍が独自の陸戦隊をもつようになるんじゃないか――。
 以下、兵頭のコメントです。
 アメリカ空軍が懸念しているのは、米国経済の崩壊が間近に迫っており、その余波で、F-22のような主要装備を必要なクオリティで製造してくれる工場が、軒並み全滅してしまうんじゃないかということでしょう。
 だから空軍が発注主になってこれらの最低限の製造ラインだけは近未来の大恐慌の中でも維持し続けよう、と訴えているんじゃないでしょうか。(各州選出の連邦上下両院議員に異存はないはずです。)
 そうでもしないと、10年後(?)に大恐慌を抜けたあとに、米国内の軍需産業が空洞化している……というまずい事態もあり得る。
 しかしまあ、米国経済の崩壊は止められないでしょう。
 その替りにシナやインドがスーパー・パワーになるというシナリオも夢物語でしょう。この両国は産油国じゃないですからね。
 どちらかというと、ロシアを除く世界経済の大混乱がそれに続く、というのが、あり得そうな話でしょう。
 これは日本の政治改革を願う者にとっては、好ましい外部環境の激変です。アメリカには日本の心配などをする余裕がなくなる。もともと存在しない核の傘が、虚構の演出としても信じられなくなるでしょう。廃憲と核武装以外に、極東で自由主義政体が生き残る道がないという現実が、いま以上に多数の代議士および政党人の口から語られるようになるでしょう。あと一歩です。
 ところで拙著『逆説 北朝鮮に学ぼう!』は、げんざいパイロット版(取次店に収める前に、何千部刷るかを決める参考として試しに書店で反応をみる目的の印刷製本で、だいたい全部で100冊)が池袋のジュンク堂や東京駅近くのナントカいうマニアックな書店にごく少数残っているだけで、神保町の書泉グランデでは数日前にとっくに売り切れた模様です。
 おそらく25日以降に本格的な印刷配本があるものと思われます。
 書店に行かれる方は、光人社の『日本の戦争 Q&A』(1月刊)もお忘れなく。
 余談。
 メールソフトで、削除したメールを、通信を終える都度、控えのメモリーからきれいさっぱり取り除いてくれる機能を使ってない人。あとでまとめて削除しようとするとフリーズすることがあるそうですぜ。スパムの量はすごいですからね。
 「ツール」の「メンテナンス」の「オプション」を開くと、チェックボックスでかんたんに指定できますぜ。
 これをやっておかなかったためにPCを買い換える羽目になったという人が最近いたので、老婆心乍ら……。
 もひとつ余談。AVGを使っている人で、最新データの更新を、手動ではなくて自動ダウンロードに設定している人。わたしの体験では、これは手動を選び、毎日一回、適宜のタイミングに自分でクリックするようにした方がいいです。自動にしておくと、いつのまにか通信が不調に陥ることがあるように思います。
 皆様への私的ご連絡。
 兵頭に対する大急ぎのご連絡は、FAXでお寄せください。FAXの方が早く、確実に受信され、かつ本人の目にとまります。


The Case of Mr. K

 日本国内では、銃砲刀剣類所持取締法第22条によって、正当な理由なく刃体の長さが6センチメートル(折りたたみ式の場合8センチメートル)を超える刃物を携帯してはならぬことになっている。
 北関東の某市に住むK氏は元自衛官で、現在は軍事/銃砲/狩猟に関する研究や著述をしている。
 過日、K氏は、2親等の身内家族が交通事故で中部日本の某県の病院の集中治療室に担ぎ込まれたとの電話連絡を受けた。
 自衛隊暮らしが長かったK氏はいつも、リュックザックに救急品袋を付けておく習慣であった。
 その救急品袋の入り組み品として、十徳ナイフのようなものも用意をしていた。
 そして、出かけるときには、リュックザックとも救急品袋とも別なバッグに、ビクトリノックスのツールナイフ(赤い柄で、はさみ、缶切り、ねじ回しなどがついている折りたたみ式ナイフで、刃体は約6センチメートル)を入れて携行するようにしていた。
 これを救急品袋とは別なバッグに収納することにしている理由は、航空機に乗る用事があるときには、刃物類は邪魔になるためである。
 さて、K氏は某県まで急いで列車で移動しようと、自宅を出るにあたり、例によってこのバッグに十徳ナイフを入れた。
 ところが、慌てていたK氏は、外見の酷似した、いつもと異なったナイフを、そのバッグに入れてしまった。そのツール・ナイフは、同じメーカーの製品なのであるが、刃体がひとまわり大きい(8.6センチメートル)のである。
 「つくばエキスプレス」で秋葉原駅に到着したK氏は、JRに乗り換えようと発券機前に立ったところで、警察官から、「ナイフを持っていますか」との質問を受けた。
 K氏は、自分が適法な寸法のナイフを持っているという認識でいたので「持っています、これです」と取り出したところ、そこで、ひと回り大きなナイフを持ってきてしまったことに気が付いた。
 これにより、K氏は、銃刀法違反ということになった。
 行政は、銃砲刀剣類所持等取締法に違反した者が、猟銃の保有者である場合には、その猟銃の「所持許可の取り消し」をすることができる。
 K氏は猟用ライフル銃の所持許可を有するベテランでかつ現役のハンターである。もちろん散弾銃も所持している。(散弾銃暦が10年以上ないと、ライフル銃の所持許可を得られない。)
 K氏は、聴聞において、「ナイフ携帯は錯誤によるものであり、全く犯意のないものである」ことを釈明したものの、許可の取り消しは有罪無罪とは無関係の行政処分である、とされて、「所持許可の取り消し」を申し渡された。
 行政は、所持許可の取り消しを行った場合、あるいは取り消し以前であっても違反行為のあった場合、必要に応じて当該銃砲を仮領置することが、同法第11条の5および6に規定されている。
 が、K氏の所持銃は、仮領置はされなかった。自ら銃砲店等に譲渡する等の処分を行うように、との指示であった。
 K氏は、「災害等の非常の事態において人を救助する目的で適法な寸法のナイフを携帯携行していたつもりが、肉親が死ぬかもしれないという状況において出発準備をしたために誤って数ミリ長いナイフを携行した」ことが、必ずしも「所持許可を取り消さなければ銃砲による危害を発生させる危険性がある」との判断には結びつかないのではないかと思料している。
 すなわち、今回の場合、行政はK氏の猟銃の所持許可の取り消しを行う必要は全くなく、これは法の濫用であるとK氏は思料する。
 この行政処分を不服とする訴えをする道は、ある。
 とはいうものの、K氏も、このような問題に、まともにとりあってくれる弁護士さんがいるとは思ってはいないようだ。
 さて、みなさんはK氏の事件をどう考えますか。
 昨年の佐世保事件をうけて、「取締りを強化して不適切な所持者を摘発し、これだけの処分を行った」という数字を出したいがための行政だ――と推察しますか? これはリアルタイムで進行中のケースである。
 兵頭は、こう考える。いくら気が動転したとはいえ、違法サイズのナイフを自宅外に持ち出した時点で、K氏は、〈銃砲刀剣に関する啓蒙家〉の看板は、日本国内において降ろさなければならなくなった、と。
 プロだからこそ「数ミリ」の違いにも、気が動転したときにこそ、敏感であって欲しかったと思います。
 かのよしのり先生。このたびのご心労、お察し申し上げます。わたくしは先生の御著作やお話により、これまで大いに啓蒙されております。またこれからも愚生の先生に対する尊敬の念にはいささかも変更はありません。
 今回のケースにもしご興味をもたれた法曹家の方がいらっしゃいましたなら、ご連絡ください。