『宗教問題』vol.25 発売中。

 Ryan Hilger 記者による2019-2-28記事「Red Sky in Morning: Naval Combat at the Dawn of Hypersonics」。
       イランとイラクが戦争中で、民間タンカーがやたら攻撃されていた、1987年5月17日のバーレーン沿岸。
 米軍艦『スターク』はイラク軍機からミサイルで誤射されて37人が死亡する。
 そのタイムライン。
 20時00分。米艦『クーンツ』がイラクの「F-1ミラージュ」×1機を探知。その諸元を米艦『スターク』に渡した。
 20時05分、ミラージュが200海里に近づいたところで、『スターク』艦長は、それについて知らされた。
 20時55分、艦長は尋ねた。なぜレーダースクリーンにそれが映ってないのかと。レーダーのオペレーターは、レンジ・スケールを変えた。やっとスクリーンに映った。彼我の距離は70海里だった。
 20時12分。ミラージュが『スターク』をFCレーダーで照射しロックオン。レーダー・オペレーターは、タクティカル・アクション士官(艦の自衛に責任を有する)に対し、この敵味方不明機に対して警告を発する許可を求めた。タクティカルアクション士官は「いや、待て」と返答。
 21時05分。彼我の距離32.5海里。ミラージュは針路を変え、『スターク』に向かってきた。ところが『スターク』内のコンバット・インフォメーション・センターでは、この変針を見逃した。
 21時07分。彼我の距離22.5海里。イラク人パイロットは1発目のエグゾセを発射。命中まで2分である。艦の前方見張りは、発射を視認できていた。しかしそれを、遠くの海面にミサイルが着弾したものと錯覚。
 21時08分。『スターク』からミラージュに、無線で呼びかけ開始。パイロットから返答なし。なぜなら第2発目の発射動作に入っていたから。『スターク』のシステムが、新たなるレーダーのロックオンを探知。タクティカル・アクション士官は、カウンター・ミージャーのアーミングを許可。また、ファランクスをスタンバイさせた。この時点で、命中までの残り時間は1分。
 21時09分。『スターク』がミラージュをレーダーでロックオン。しかし弾頭は不発。見張りが、こちらに向かってくるミサイルを報告。だがその報告は、タクティカル・アクション士官までは逓伝されず。数秒後、エグゾセの1発目突入。弾頭は不発。
 ダメコン担当補佐だったコンクリン中尉の回想。
 命中音を聞いたとき、艦が他船と衝突したと思った。士官居室からダメコンセンターへ走り出すやすぐ、ミサイル推進薬の燃える臭いを知覚。同時に艦内第一放送回線が「ミサイル向かってくる、左舷! 総員、ショックに備え!」と。
 21時09分30秒、2発目のエグゾセが突入し、こんどは爆発した。艦内の五分の一近い乗員が即死。1発目のエグゾセはまだロケット噴進中。
 エグゾセは2分で20海里=37kmを進んでいたが、同じ距離をロシア製のカリブルなら45秒で進む。※つまり水平線のこちらがわはマッハ3になるのか。
 ズィルコン巡航ミサイルなら終速はマッハ8だという。これは2017年から露軍に配備されている。
 ウェイン・ヒューズ大佐(退役)は、対艦ミサイルが軍艦や商船に命中した現代戦の事例を全部、調べ上げて統計をとった。
 攻撃されたときに何の防衛手段も講じられなかった軍艦は、68%の確率で命中弾を喰らっている。
 万全の防禦手段を発令していた軍艦は、被弾確率を26%まで低下させることができた。
 実戦では、まずこっちから有効に攻撃せよ。これが大鉄則のようだ。
 防禦はとても難しい。
 米軍内では有名な研究。陸軍史家のS.L.A.マーシャルは1947に統計をまとめた。最良の歩兵中隊であっても、そのメンバーのうちの25%の者しか、WWII中に、実際に敵に向けてテッポウを発射したことがなかった、と。
 この統計はわれわれの直感には反するが、ガチのデータで裏づけられている。ノルマンディや太平洋の島嶼上陸戦でも、たったの15%の歩兵しか、敵に向かって銃撃は加えていなかったのだ。
 なぜ兵士は発砲をためらったか。マーシャルによれば、まず、敵がどこにいるのかわからないので、撃たなかった。次に、そこにいるのが敵なのか味方なのかハッキリしなかったので射撃を控えた。次に、自己位置が暴露するのを恐れた。
 ※比島でオレは米兵を射たなかったとかいって自慢してた小説家がいたが、自己位置が暴露するのを恐れただけなのでは?
 『スターク』の例は、同じことが軍艦でも起こることの実証である。防空ミサイルの発射をついためらってしまって、手遅れになった。
 1982-5にエグゾセにやられて沈没した英艦『シェフィールド』も同様だった。
 小心な見張り士官は、艦長に伝えるのをためらう。規則では伝えるべきだと知っていても。迎撃ミサイルはもとより、チャフの発射すらも、ためらってしまう。
 観測し、方向付けし、決心し、行動する――。そんなノンビリした手順をミサイル時代に踏んでいては間に合わない。
 さればとて、《かまわねえから発射しちまえ》とやったならどうなるか。
 それを考えさせるサンプルが、1988-7-3に起きた、米駆逐艦『ヴィンセンス』によるイラン航空655便の誤撃墜事件である。
 ※この艦長もその女房も、イランのアサシン団から狙われるというので、死ぬまで住所を隠して暮らすしかなくなっている。本件をひきおこしたのは、一下士官なのだが。その下士官の責任も、やはり艦長が取るしかない。これが海軍。
 そのタイムライン。
 未明3時30分、米艦『エルマー・モンゴメリ』が13隻のイラン砲艇を付近に探知。砲艇は3隊に分かれ、1隊は『モンゴメリ』の左舷斜め前に占位。
 4時11分、『モンゴメリ』は報告。北方の商船航路の近くで5回~7回の爆発ありと。『ヴィンセンス』はアシストせよと命ぜられた。『ヴィンセンス』はその艦載ヘリ「オーシャンロード25」に、前路を先行せよと命ず。
 6時15分。「オーシヤンロード25」が砲艇よりロケットと小火器にて攻撃を受く。『ヴィンセンス』は総員戦闘配置。
 6時20分、『ヴィンセンス』が『モンゴメリ』のタクティカル・コントロールを取る。
 6時39分、『ヴィンセンス』は〔上級の?〕オペレーショナル・コマンダーを呼び、交戦許可を求め、受理される。
 6時43分、『ヴィンセンス』は5インチ砲を発砲開始。砲艇複数から小火器による反撃あり。彼我の距離8000ヤード。
 6時47分。レーダー士官が、バンダルアッバスを離陸した航空機を探知。距離47海里。航空機は本艦に向かってくる。航空機の正体はアンノウン。
 6時48分、米艦『サイズ』もその航空機を探知。「トラック4131」と仮に名付けられる。『サイズ』は前方ランチャーのミサイルで「トラック4131」をロックオンす。
 6時49分、『ヴィンセンス』はその航空機に向かい、国際救難周波数と軍用救難周波数により問いかけ続ける。
 6時50分、何者かが「トラック4131」はイラン空軍の「F-14」であると報告する。その航空機が民航機用トランスポンダーのコードを発信し続けているにもかかわらず。『ヴィンセンス』の前部5インチ砲は、兵員1名死傷〔イラン艇の火器によるらしい〕のため発砲できなくなっていた。タクティカル・アクション士官は、「トラック4131」に無線で問いかけ続けるように命令。
 6時51分、『ヴィンセンス』は〔上級司令部の?〕オペレーショナル・コマンダーに対し、20海里に近づいたF-14を撃墜するという意図を告げる。『ヴィンセンス』は『サイズ』のタクティカル・コントロールを取った。『ヴィンセンス』は後部砲塔にて前方のイラン砲艇を射撃せしめるべく、舵一杯の転舵&全速前進を開始。このため艦内いたるところの棚から、多くの備品、帳面等が落下して散乱した。
 6時52分。セベラル人の見張りが、「トラック4131」が高度を下げているという、不正確な報告を為す。
 6時53分、「トラック4131」は12海里に近づいた。ひきつづき『ヴィンセンス』に接近中。『ヴィンセンス』は交戦許可を求め、許可される。
 6時54分、『ヴィンセンス』はミサイル×2を発射。
 1分後、ミサイルは2発ともに「イラン航空655便」に命中。『サイズ』艦長は、その爆発および破片の落下を目視した。
 655便が予定時間を過ぎても到着しないと報告されてからさらにセベラル時間後、誤射が認識された。
 この海戦中、イランのP-3哨戒機が、米艦の位置探知のための飛行を続けていた。
 後日の調査でわかったこと。『ヴィンセンス』艦内のコンバット・インフォメーション・センターで、事実上の指揮をとっていたのは、タクティカル・インフォメーション・コーディネイターである、見張りの一下士官だった。この下士官は、その場の上官は軟弱であると思っており、みずからは、イランのF-14を追尾中なのだと信じていた。この下士官の上申を将校も含めて誰も拒絶できない空気だった。
 次。
 Popular Mechanics Shop Team 記者による2019-3-1記事「Play Vinyl Records Anywhere with the World’s Smallest Wireless Record Player」。
    LPレコードを再生してくれる、ポケットサイズのミニロボットが売り出された。
 レコード盤をまわすのではない。そのミニロボットが、ミニカーのバスのように、レコード盤の上をぐるぐると走り回り、溝の情報を再生してくれるのだ。
 ブルートゥースで本格スピーカーに信号を伝送もしてくれる。
 もちろんヘッドフォンにも飛ばせる。
 この機械、EPやシングル盤(45回転)にも対応している。
 定価だと99ドルだそうだ。
 ※時計の針のように盤上を1回転するうちに、レーザーで全部の溝を読んでしまい、その情報をいったんストアしてから、時間を戻してMP5化して再生・出力してくれるデバイスを発明すれば、ユーザーはその信号だけUSBに保存すればよくなるので、LPを持ち歩く必要もなくなる。こういう商品が出てくれれば、ネットでダウンロード買いができない古い楽曲を、誰でも中古レコードからデジタル化できるようになるじゃないか?
 次。
 Kyle Mizokami 記者による2019-2-28記事「Rectangular, Computerized Grenade Puts a New Spin on the Flashbang」。
       テロリストを制圧するために、SWAT隊員が突入する前に屋内に投げ込む、フラッシュ手榴弾。これはしかし破片が飛び散るので人質にも少々危ないところがある。
 そこで新製品が開発された。空気燃料爆弾の原理を応用。投げられると、まずアルミ粉を放出して、それから点火する。
 やたらデカい爆音と派手な閃光を発するが、破片は飛び散らない。
 本体はひらべったい長方体なので、転がらない。
  ※もっと薄さを追求すれば、ドアの隙間から押し込めるようになるな。縁部をアールのついた楔状とすれば、無理やりに押し入れ易くなるし、敵も咄嗟に拾うことができない。
 万一不発だったときは、60秒で自己不活性化し、安全になる。
 信管は電子式なのでタイミングの選択が増える。