■俺氏、またしても大がかりな国際トリックに気が付いてしまう Why China reduces her strategic oil stockpile by half and let America be all out of it’s missiles without worry

 ※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。

●なぜ中国は敢えて原油輸入を半減させ、石油の戦略備蓄を大放出しているのか

 『アトランティック・マガジン』のロジェ・カルマ記者による2026-7-29記事「中国石油の謎」が、鋭い疑問を投げかけていました。
 いわく。
 ――ホルムズ海峡封鎖の結果、西側諸国は、原油価格がもうじき1バレル200ドルになっちまうぞと大いに焦ったのに、現実には、かれこれ5ヵ月近くも、そうなってない(100ドルちょい止まり)。

 じつは、封鎖前にはアメリカの輸入量の2倍もの原油をホルムズ経由で調達していた中国が、2-28の戦争勃発の数週間後からその原油輸入量を著しく絞り始め、ついには戦前の半分に。

 削減量としては1日500万バレルで、これはインド1国の購入量にも匹敵する。そのおかげで、国際油価の暴騰が抑制されているのだ。

 データを、エムザリ・ゲラシュヴィリ記者による2026-4-16記事「ホルムズ海峡封鎖はイランの問題ではなく、中国の問題だ」によって補足します。エピック・フューリー作戦以前、中国はホルムズ海峡経由で1日あたり535万バレルの原油を受け取っていた。それが今や約122万バレルに激減。

 カルマ記者によると、石油市場アナリストのプロも、誰も中国のこんな対応を予想はしていなかったという。

 中国国内では、エネルギー消費は今も自粛されていない。それは、交通渋滞を宇宙からモニターしていれば把握できる。
 またエネルギー構造を急にグリーン化したわけでもない。そうしようとするつもりもないことは、石炭火発工事増に注目していれば自明だ。
 またロシアからこっそり石油を輸入して隠匿しているということもありえない。それは単純に、隠せない。だいたい、そんなことをする手間に、中味入りのタンカーを世界市場から堂々と買い集めることができるし、そのタンカーを備蓄アセットとして沿岸に係留すればいいだけなのだ。原油はLNGと違い、長期備蓄は安く簡単に可能なんだから。

 専門家はまた、中共が、本土内に分散的に戦略備蓄していた、有事用の軽油やガソリンを、もっか、放出させている可能性が考えられるという。
 だがそうだとすると、こんどは、なぜ彼らがそんなことをするのかが、まったくの謎であるという。

 この謎の答えのヒントは、次の記事ではないでしょうか。

 ロイターの2026-8-4記事によれば、米陸軍は、中東戦争用に前から備蓄していたATACMSとPrSMミサイルをほぼ全数、イラン向けに発射して枯渇させてしまったそうです。
 その穴は、他戦域用のストックを輸送することで埋めるというのですが、どうでしょうか。

 セントコム麾下の米海軍や米空軍は、SM-3/6、トマホーク、JASSMもとめどなく射耗し続けています。加えて陸軍は、ペトリオットやTHAADなどのSAM類も、後顧の憂い無しという調子で使い果たす勢いだ。
 これらのミサイルは、1発納品するのに、工場での作業が2年も必要なのです。なんらかの米中間の密約がなければ、これはとても正気じゃないでしょう。

 何かおかしいぞと勘付いた記者さんもいました。
 ダニエル・W・ドレズナー記者による2026-6-1記事「トランプ政権の東アジアからの不可解な戦略的撤退」。
 いわく。
 イランとの戦争を開始して以来、トランプ大統領は中国を批判することに消極的だ。
 外交問題評議会会長のマイク・フロマンも、こう話す。政権は今後、中国に経済戦略の変更を促す試みはもはや重視しない方針だと。
 トランプ政権は、就任1年目の大部分を占めた対中全面貿易戦争から撤退しつつあるようなのだ。

 エルブリッジ・コルビーは、米軍は欧州と中東から撤退して、戦争資源を対支用に温存し、とにかく対支に集中すべきだと唱え、それを政権も受け入れていたはずだ。
 しかし今、政権は中国よりもイランに多くの戦争資源を費やしている。「そのような優先順位付けが理にかなうような米国の壮大な戦略は存在しない」。

●中国は、台湾侵攻の意図が無いことをトランプに証し立てるために、軽油とガソリンの戦略備蓄を半減させたと考えられる

 さて、では私(兵頭)の見立てを説明しましょう。

 石油のアウタルキー(自足)を得られていない上に、マラッカ海峡をいつでも米軍の機雷によって閉塞されてしまう、きわめて弱い立場である中共は、たとえ短期であっても米軍と交戦することは、政体の即時崩壊につながると、正しく認識しています。

 ダラダラと低烈度の長期戦をするのもダメ。エネルギーのアウタルキーが無い国には、それもまた自殺に他ならないのです。(イランは、それができる立場です。)

 中共は、陸上や海上に、油脂燃料を厖大に備蓄しても、戦争には勝てません。そのリアリズムを、ウクライナがロシア相手に実証しつつあるところです。トマホークの数十分の一のコストで大量生産され得る無人特攻機が、確実に、陸上や海上の油脂貯蔵タンクを燃やしてしまえるからです。

 トマホークは1発製造するのに2年かかりますが、無人特攻機は2ヵ月しないで納品される。イランとは違って、中共は、無人機攻撃の損害をもちこたえられません。GDPがやたら大きいのに、エネルギーのアウタルキーがない中共は、平時の宣伝でいくら虚勢を張っていても、実戦では弱いのです。長期戦でも短期戦でも、勝ち目がない。それがいよいよハッキリするばかりなのです。

 ほんとうならば中共軍は、1941年12月のハワイの米海軍がそうであったように、大深度地下に秘密裡に巨大な燃料タンクを構築しておくべきでした。彼らはようやくその問題を認識したろうと思いますが、今からいくら工事を急がせたところで、最低でも2年間は間に合う話じゃありません。中共は、あと2年間は、ぜったいに米軍と戦火を交えるわけにはいかないのです。

 そこで、米中の新密約が成立したのだと、私は思う。

 中共は、暫くは、原油の戦略備蓄を積み増さない。同時にまた、石油製品(ガソリン、軽油)の戦略備蓄は放出してしまう。そうすることで、米政権に対して、台湾をめぐって対米交戦する意思が中共には当面ないことを、確証しているのです。

 燃料備蓄が無いとなれば、人民解放軍の少壮幕僚がいくら「2027年の台湾解放」を呼号したって、それは暴虎馮河の愚行だとして、中共中央は「開戦」を禁ずることが正当化される。おそらく戦略備蓄石油製品の何割かは、軍人がいつのまに闇市場に転売していたことも、棚卸ついでに判明するでしょう。中共軍は、もう、黙るしかないでしょう。

 習近平による対軍粛清の激しさについては、ロブ・ピアース記者による2026-3-19記事がまとめています。今年の1月には最高司令官を解任。3月にはさらに粛軍が加速しています。米国のホルムズ戦争を好機として台湾方面で中共軍が妄動しないために有益でしょうね。

 米政権は、こうした中国のムーヴを見て、安んじて、対イランに全ミサイルを消費することができるのです。しかしイランには燃料のアウタルキーがありますから、おそらく長期戦が続くでしょう。中共中央は、米軍がイランの泥沼にはまって無制限に消耗することを期待しつつ、じぶんたちのための時を稼ぐ。大深度地下の備蓄タンク群だけでなく、チベットの巨大水力発電ダム工事や、モジュール式小型原発の実用化も、同時併行的に急ピッチで進めるはずです。

 米中のどちらにとっても、当面、メリットのある話なのです。

 中国が原油購入量を半減したおかげで、米国内のGSのガソリン小売価格はかろうじて抑制されています。これは習近平がトランプに対して売りつけている大きな「恩」でしょう。しかしもし米中首脳会談前後にトランプがふざけた真似をしたならば、中共は、11月のアメリカ中間選挙前に、世界中の「中味入りタンカー」を市場で公開買い付けして、米国内のガソリン価格を暴騰させてやり、米共和党を大敗させてやることができるでしょう。

  ――《令和八年八月五日・記》――


■ここ数週間分(26年7月中まで遡る)のトピックスと偶懐。

 ※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。

●赤字鉄道の線路に接続する「コンテナ・ハウス村」を臨機に造成することを、機動的な災害救済に大いに役立てるべき事

 多数の罹災者が、一時的もしくは中~長期的に避難所生活を送らねばならない事態が、また発生しました。
 熊本県の今回の震度7地震は、過去のすべての震災と同様に、一回で終わる話ではない。明日以降、またどこかで、大災害が立て続くかもしれないという覚悟はしておく必要があります。

 それが日本列島のどこで起こるのかは、予測不可能です。しかし、ユニバーサルな「避難民対策」は、可能です。

 わが国土には「赤字ながらも機能している」鉄道インフラが適度に散在しています。神経網のようにネットワークもできている。そのうちの不採算路線が、過疎地や僻地に敷設されていることは、まさに好都合なのだ。
 自治体にとって重荷であったインフラが、こんなときに救いの神になるのです。

 先に私は、《わが国では、新規のデータセンターの心臓部は、鉄道コンテナに収めてその多数結合や個別交換メンテナンスを自在化するユニット形式とし、それを既存の不採算私鉄路線や、将来的に黒字化の見込みが消えた新設新幹線(工事半成区)の隣接スペース(可能な場合はトンネル内)の随所に、引き込み線によってスポット集結もしくは分散させるようにすれば、場所はいずこも選りすぐりの過疎地ゆえに騒音の迷惑などは生ぜず、線路に沿わせた専用の電力供給グリッドは地域の電力グリッドとは独立した系ゆえに地元住民に不都合なことも何も起き得ず、税収だけは数倍になるではないか》と提言しました。

 この方式は、「罹災者の一時避難生活村」にも、ほぼそのまま適用ができる話だと思います。

 「コンテナ・ハウス」を平時から大量にストックしておく防災基地は、全国のどこにあってもかまわない。JRの鉄道線路の脇ならば。

 日本のどこかで大地震が発災したなら、ただちに各地にあるその基地から、臨時の小編成の貨物列車が、コンテナ・ハウスを積載して、現地近くへ走り出す。時間帯は深夜。スピードは徐行で構わない。

 この臨時貨物列車のうち1~2両には、コンテナ・ハウスを搭載・運搬・卸下できる作業用フォークリフトが、無蓋貨車上に縛着されて同行。

 現地からあまり遠くない場所に適宜な線路脇スペースが確保できたなら、そこに貨物列車を臨時停車させ、フォークリストでコンテナハウスを卸下して並べる。コンテナハウスには4脚~6脚の、手動ハンドルだけで上下調節ができるアウトリガーをあてがい、それが一般住宅の「基礎」の代わりとなる。

 数週間したところでこのスペースには専用引き込み線も敷設。それは、数年後に避難生活村を解消して撤収するときの作業を省力化する。また、とりあえず一旦そこに避難してきたコンテナ住人が、別な過疎沿線スペースへ「引っ越し」しようとする際にも、とても便利である。コンテナ内部はそのままで、すなわち家具調度私物付きで、引っ越しできる。

 時とともに、特定の避難生活コンテナ村が拡大して、定住拠点のようになる場合もあるだろう。多数の定住者が、既存鉄道を通勤や買い物に頻繁に利用するのであれば、そこに「新駅」を創ってしまうことも検討される。
 すなわち、災害が機縁となって、赤字鉄道の収支が上向くこともあるかもしれないのである。

●データセンター用の貨車上コンテナには、防炎機能が必要だ

 ついでに補足します。
 列車用コンテナを筐体とするAI向けデータ処理ユニットは、自己火災を自動消火する必要はないが、外部からの炎を延焼させない、できるかぎりの自己防御装置は法定されるべきだ。
 というのは、将来想定される重大な脅威は、これらの貨車に爆弾をこっそり仕掛けてトンネル内基地に送り込もうとするテロだから。
 それを仕掛けるほどの者は、コンテナ内部の消火装置を簡単に無力化できるだろう。
 だから、火災を自動消火する機能を法定しても、テロに対して現実的に有効でない。むしろ、延焼に耐え得ることを法定しておいたならば、被害は拡大しなくなるので、テロに対して有効だ。

●トヨタは軍用車部門を太くするのが今後の路線として真っ当なのではないか

 7月下旬のN特のトヨタ会議、視ましたかい? わたしだったら普通車のユニバーサル金型なんかには見切りをつけますぜ。

 理屈はこうです。まもなく日本のメーカーは、プレス成形の金属モノコックの庶民向け乗用車で中共メーカーの開発サイクル(2年で新型に更新)と競合し続けられなくなることが、会社資源の量の差から、予測可能。
 だったらもう次のような路線を検討するしかないはずだ。

 針路その一。無敵ブランドの地位をこれまで確立できていない車格については、プレスのモノコックなどきっぱりやめてしまう。
 たとえばラダー・フレームに戻す。それで市販車としての競争力が消滅するようなら、逐次に普通乗用車市場から撤退。「普通でない」車両や無人輸送機械だけを世界へ提供するメーカーへと脱皮する。
 とうぜん、海外の軍用車市場を取りに行く。トヨタなしでは西側軍隊は立ち行かないように見えるまで、攻めることができるはずだ。
 ラダー・フレームは重くなって燃費が不利だが、武人の蛮用にはこの上なく適している。それは人々に安全をもたらし、同時にユーザーに与えるカスタムの自由度も大だから、歓迎される。
 フォードの「モデル・T」は、ラダー・フレームで全米を席捲した。もし「モデル・T」のコストダウン努力や新技術導入や特殊用途のバリエーション展開を倦まず無限に継続していたなら、その商品寿命は今日までも保たれて、誰も想像もしなかったモビリティ革命(貧民を含めた交通弱者の救済)が全世界で達成されていたかもしれないと、私は思う。

 針路その二。3Dプリンターで金属/新素材のモノコックボディを成形できる技術を開発しつつあるベンチャー複数に出資し、見込みのある会社をすぐ買収。

 針路その三。金属/新素材モノコックを「削り出し」で仕上げるようにする。これならば後出しで「CAD修正」がいろいろ効くだろう。

●AESAを空対空兵装にするインターセプターが流行り

 7月の報道によると、レイセオン社の対ドローン・インターセプター「コヨーテ」はすでに対イランの実戦に使用されている。体当たり方式。メーカーは、これを使い捨てにしなくてよい方法として、マイクロ波を空中で標的に指向集中して、電子チップを狂わせて墜落させる方式をテスト中。
 ロッキードマーティン社も同様に、使い捨てにしないインターセプターの「モーフィウス Xローター」を開発して試験中。やはり高出力マイクロ波(HPM)を兵装とする由。

 要するに小型軽量のフェイズドアレイ・レーダーでしょう。
 私は2026-4にDJI社の最新の、4腕8発(二重反転)形式の強力なマルチコプター「フライカート100」(ポテンシャルとして大の男1人を楽々吊るして運べるパワーがあり、それにもかかわらず、存外に騒々しくもない)のデモ飛行を見学しました。この機体には小さなミリ波のフェイズドアレイが取り付けられていて、地上の人をローターに巻き込んだりしない用心のセンサーになっていたので、これにも感心しました。

 これほどコンパクトな民生用のAESAは、空中で、少し離れたところを三次元機動するターゲットを追随照射することは現状、難しいでしょうが、インターセプターの機体そのものをターゲットにぶつかるぐらいにまで近づけてやり、照射方位固定で最大出力で電磁波を一点集中させるならば、ターゲット機の搭載チップを誤作動させてやれるのだろうと想像されます。信号の「1」と「0」がひとつ反転しただけでも致命的になり得るのが、フライトコントローラ基盤内のデジタル処理の弱みでしょう。

●ワイルドベリーズの物流センターが次々炎上

 宇軍がまたひとつ、露軍のウィークポイントを発見した。ロシア版アマゾンである「ワイルドベリーズ」の巨大物流倉庫は、ロシア西部に数十ヵ所ある。それをひとつ、またひとつと、特攻機によって炎上させている。
 パケットの梱包材はすべて可燃物だろうから、中味がなんだろうと関係なく、盛大に燃えてくれる。
 ロシア国内の軍需工場は、中国を筆頭とする海外メーカーから、細々した部品を取り寄せている。それが配達途中で灰になってしまうので、弾道ミサイルも小型ドローンも完成ができなくなる。
 軍需物流に大混乱を惹き起こしてやれる。

 ところでこれは西側諸国も「明日の我が身」と思わなくてはいけない。今までは、紙袋やボール紙函のパッケージは、ふつうの可燃ゴミとして環境負荷の低い処分ができるから、まず理想に近いものだと自画自賛されてきた。
 これからはすべて「不燃パッケージ」に切り替えないとまずい。郵便物も「不燃紙」でないとまずい。

 理想は、極薄のセラミックスだろう。しかし、それが割れたときに刃物のような破片になってしまうだろう。撓らせようとして繊維状にすれば、畢竟、ロックウールと同じで、塵肺リスクが無視できまい。
 私の提案はこうだ。分子量の大きなガスは通さない、蛋白質のバブルに二酸化炭素を封入し、それを段ボール(セルロース)の中に織り込むのだ。梱包材に炎が当たって延焼しはじめるや、そのバブルが破裂して、溢れた二酸化炭素が燃焼にブレーキをかける。そういう仕組みを追究するがよい。

 「不燃性のビニールシート/ビニール袋」も必要でしょう。待ったなし、だと思います。

●国防大臣フェドロフの解任騒ぎと東欧圏の病理

 サラ・ウィットモア&ベッティーナ・レンツ記者による2026-7-25記事「政治家対将軍:ウクライナの長きにわたる隠された内戦」が、権力構造の理解のために分かりやすいです。
 ウクライナの国家基本法には「文民統制」が担保されていないようで、軍の制服トップはいつでも単独で大統領に対して《帷幄上奏》ができる。国防相を通す必要がないのです。

 帷幄上奏権を持っていた最高司令官だったシルスキー将軍は、フェドロフの何に反発したのでしょうか?
 これは外野からの想像にすぎませんけど、兵隊の動員権限への容喙を、許忍できなかったのでしょう。
 本朝の戦前の東條は陸軍大臣の兵隊動員権限をフル活用して、みずからが号令する戦時統制体制を盤石にしました。政敵を速攻で好きなようにイヤガラセできる権限です。シルスキーもその権力を楽しんでいたはずだ。

 これに対するフェドロフさんのニュー・アイディアには脱帽です。
 芸の無い前進攻撃や死守を命ずることしかできない無能な師団長や連隊長の部隊には所属していたくはないと考えるウクライナ兵が、皆、脱走してしまうでしょう。その逃亡兵に、逆にじぶんが所属したい部隊を選ぶ自由を与え、軍隊に戻れば処罰しないよと約束したのです。
 ほとんど改革不可能だったソ連=東欧式軍隊の面目を一新して文字通り生まれ変わらせる、考え得る最速の方法ではありませんか? この人は天才だと思う。

 しかしシルスキーやその取り巻きの立場からすれば、こんなシステムを大々的に導入されてはみずからの権力基盤が干上がりますから、フェドロフに対する組織的なサボタージュを画策し実行したんでしょう。

 フェドロフ流のもうひとつの目覚ましいイニシアチブが、「ePoints」システムです。ドローン運用部隊が、戦果ビデオを提出すると、その戦果に応じて、欲しいドローンを優先的に購入できるポイントがボーナスで付与されるようにした。露兵を今最も効率よく無力化している有能な部隊に、ドローン資源をありったけ持たせてやる仕組みだ。
 これは、実はソ連軍式です。ソ連軍のドクトリンでは、攻撃前進が現に成功している部隊に、すべての予備戦力資源を集中して送り届けてやり、それによって長躯穿貫機動の勢いを保たせる。攻撃が阻止されて苦戦している味方部隊には、一切の増援をしません。

 ことし1月の時点で宇軍の脱走兵は20万人、加えて徴兵逃れが200万人以上もいる、とフェドロフは語っています。もしこれらの人的埋蔵資源を何か巧妙なスキームによって表世界に動員できたならば、国家社会の公平性に対する人民の信頼が堅実になり、理想国の空気に近づくでしょう。もちろんしかし特権一派は大いに僻んで妨害することでしょう。

●人は拘束を嫌う、というあたりまえの真実

 テッド・ジオイア記者による2026-7-18記事「Netflixの崩壊は、視聴者獲得の終焉を告げる」は、現代の人事の参考になるでしょう。
 サブスクリプションなどで長期に束縛されることを、視聴者・消費者は、いずれ拒否するようになるというのです。
 安値で釣って囲い込んだあとから課金率を上げてやればいい、と経営陣がたくらんでも、そうは問屋が卸さずに、ソッポを向かれてしまいます。

 私も今、さまざまなアルバイトにエントリーしていますが、「週に一、二回のシフトでも可で、しかも徒歩圏」のパートタイムジョブというのには、滅多にありつけません。
 できれば週に5日出てもらいたいと雇い主側が考えるのは無理もないと思える業種もあります。たとえば某コンビニのサンドウィッチは20種類あり、そのうち10種類は毎週、更新されて行くのです。それらを作る工場はベルトコンベア式になっていて、バイトの1人は1箇所に立ち、ただ1つの具材だけをひたすらトッピングし続ければいいのですが、新商品の正しいトッピング具合は、その都度、遅滞なく習熟しなくてはいかん。「週2回」の出勤ですと、それを覚えることは現実的に不可能なわけです。

 しかしこのような職場と、「週1~2回でもいいよ」「全日でなくても半日でもいいよ」という職場が選択できる場合、現代の労働者がどっちを好むかは考えるまでもない。
 ウクライナ軍からの逃亡者に戻ってきてもらう方法も、おそらくヒントはここにあるでしょう。
 現代の先進国では、パートタイム・ローテーションのうまい方法を、雇用者側が設計し提示する義務があるのです。軍隊だけでなく、これからの「人を使う正社員」に、必要とされるスキルじゃないですか。

●欧州戦局の行方

 アンドリュー・チャコヤン記者による記事「ロシアの戦争とプーチンの選択」が勉強になりました。
 ロシア民族にはレッキとした故郷は無いので、虚構の歴史地理観の上に虚構の達成目標を重ねて「束ねる」しかないのだという指摘です。

 キエフが5世紀から歴史記録に登場する一方、モスクワは12世紀にならないと登場しない。1547年にイヴァン雷帝はツァーリになったと宣言したが、域内の被支配諸民族にとってはロシア皇帝は古い文明の代表者ではないというのです。

 祖国ロシアという概念がそもそも地理と関係が無く、社会制度空間のことでしかないので――これは「中国」と似ている――どこまで行っても地理的なゴールなどありえない。物理的なゴールは幻なのだ。

 彼らには永久の過程だけがある。西側もそこを利用してつきあうしかない。永久戦争で恒常損害を出し続けてもらって、彼ら自身には「自分たちは強者である」「自己保存できている」と自己催眠させておく。その状態を一世代(だいたい30年くらいだろう)続けてもらえば、経済の下部条件(それは長く続くことにより「風土」と化す)が不可逆的に変わるので、ようやく「人」の質もいくらか変化し、そうなって初めて、「近代的な停戦媾和のための交渉」をスタートできる条件が整うだろう。

●悪天候時には何を観光させるか

 ニセコには夏になるとサマー・ゴンドラが運行されるのですが、ガスったり雨模様だったりすると、これを利用したアクティヴィティなどは壊滅状態になります。
 日本国はよく雨の降る気候帯に属しているのに、雨の日のことを最初から考えていない観光施設が多すぎませんかい?

 強風時にはさすがに無理ですが、多少の降雨のときには、「悪天候下の生還」という体験型アクティビティをオプションで用意できるんじゃないですか?

 ゴンドラで中腹まで行き、専門のガイドが集団を統率しつつ、麓のホテルまで、下山ルートを徒歩帰還させるのです。もちろんコースは事前にしっかりと設定されている。「擬似遭難」の気分が味わえるような演出を、その途中に点々と配置しておく。

 こういう「遭難山」体験コース、晴天時の夜間に実施しても面白いはずだ。「お化け屋敷」の野外バージョンと思えばいい。

●完全栄養の「ローソク形クッキー」をとっとと創りなよ

 ついでですので地元向けにもうひとつ書きましょう。
 函館市内では7月7日の七夕に子供たちが、戸口に竹短冊を突き出している家々を目当てに、お菓子を貰い歩くという、愉快な風習があります。そのさい「蝋燭一本頂戴ナ」と声を張り上げるのがきまりごと。全国的にもここだけだろう。この由来・淵源は分からない。分からぬところが土俗らしくて味じゃないか。

 しかし「ろうそくをくれ」と言って来るのが分かっているちいさいお客さまに、どうしてひとびとは、ガリガリ君だとか、なんともありきたりな市販菓子類を手渡すことで、宜しとしてしまっているのか? アカギさんに1mmも不満は無けれども、私はこの洒落の利かないセンスが大嫌いだ。
 貴重な、せっかくの土俗が、軽薄で安っぽい子供騙しに堕落しちまってるんだよ!

 当地に引っ越してきてから20年以上も経つ。そして何年期待しても、このイベント用に、6月から「蝋燭型のお菓子」を予め製造して売ってやろうという商売人が一人も現れぬという現実。私は情けない。作ればぜったいに売れるでしょう。多少高くても売れますよ。

 市内の福祉作業所で、クッキーを焼いているところがあるだろう。このシーズンだけ、製造したらいいんですよ。
 それならば市民もますます、それなりの単価に対して文句なんか言いませんよ。

 もちろん、値段相応の品質にしなくちゃいけない。まず、それ1本でも「完全栄養」となるようにしよう。質感も、子供の歯の隙間に詰まり難いように。それを滅菌のうえ真空包装して、常温で長期保存することも問題がないようにする。デザインもユニークに。製品には、作業所ごとに個性があったほうがよい。

 さらに余談。中空土偶という国宝があるでしょう。あれをそっくり形どったお菓子を、なんで南茅部町は土産用に製造・販売しないんだ? あれは「栗」の擬人化造形ですよ。そのまま栗菓子にできるはずです。

  ――《令和八年八月1日・記》――


■JR北海道の「黄色線区」は、輸送動脈としてではなく、「産業神経」として再生するのが、最も地域と国家の利益に資するだろう。

 ※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。

●JRの不採算路線は、ことごとく「貸し工業団地(軌条AIユニット用)」にするべきである

 JR北海道の「赤字8区間」(=いわゆる黄色線区)も、内外AI企業の《列車式データ工場》向けに、軌条と架線・通信インフラを賃貸するビジネスに転換するのが最善だろう――と、私は思っているのです。ビジネスモデルのひとつが「Bitzero」社。ただし、わが「JR北海道」のポテンシャルは、「Bitzero」社などの比ではないと信じられる。私たちの想像もし難い《レベち》な額の収益を、2年以内に稼ぎ出せるでしょう。

 チャールズ・ケネディ記者による2026-6-15記事「AI戦争:マイクロソフト、グーグル、アマゾンが権力を巡って争う理由」が、こんなことを報じていました。
 いわく。――米国のAI大手7社が雁首揃えて3月にホワイトハウスで大統領と覚書に署名。各社は、AIプロジェクトに必要な新規電力1メガワットごとによろこんで経費を支払うし、それらに不可欠な送電インフラ代も全額負担しますよ、という内容。そしてそんな中、「Bitzero」という企業が急に注目された。この会社、ノルウェー、フィンランド、ノースダコタ州の安価な電力を、自社所有の送電線インフラを通じてAI企業向けに切り売りできる立場を孜々として構築に努めて来た結果として、今、総給電余裕は1ギガワット以上もあるんだという。殊に北欧では水力発電のコストが低いゆえ、米国企業がそこへ進出してデータセンターを建てれば、1kwhあたり米国内の三分の一の電気代で済むかもしれぬという――。

 この「Bitzero」社がいかに先見の明を有していたかは、マイケル・スコット記者による2026-6-25記事「7兆ドル規模のAIブームは勢いを失いつつある」によって承知できます。(そこには、ウィスコンシン州に同社が確保したインフラとやらが、どうも既存の核シェルターを利用するものらしく、300MWの発電も賄えるようになっていると解説されています。ちょっとばかり言い訳させて貰いましょう。『産経新聞』の2026-6-30掲載コラムは、6月上旬に早々と送稿し、6-25に載ると聞かされていたので、この記事情報を反映していないのです。)

 状況を単純化しますなら、いくらAI大手が札束を積んでも、新しい発電所は10年しないと運開しないし、新しいデータセンターの立地探しもますます容易ではありません(住民が大反対する)。さらにまた北米の場合は、地元が「後出し」で禁止訴訟や禁止新法・行政命令をかけてくるリスクも限りなく高いと来ています(アラスカ/カナダの各種パイプラインも同様なので、日本企業はそんな建設投資誘致に絶対に乗ってはいけないでしょう)。

 たとえば最近シアトル市は、ニューヨーク市に続き、新規のデータセンター建設を1年間、認めないこととしました。どうも、騒音だけでなく、電力や水道を住民から奪うことになると懸念されているようです(ジョン ・マリガン&ニック・マイナー記者による2026-7-6記事「次のAIリスクは技術ではなく、政治だ」)。

 北米が、既に、こんな調子なのです。
 有限の、発電ポテンシャルを、AIと《その他のすべての分野》とが、奪い合う時代がもう到来しているのです。
 どうしても電力の「買い手」側が、足元を見られる。

 殊に米国内には、すぐに欲しいだけ発電してくれて、ただちに送電してくれて、しかも住民が反対はしないなどという好条件の適地は、もうなくなりました。おかげで、立ち上げれば儲かるとわかっているデータセンターの新設に、ブレーキがかかっているのです。

 電力と水は有限。
 かたや、AI産業は当分、そこにカネを突っ込めば突っ込むほど、企業の儲けが無限に弾撥的に増えて行きそうな気配。

 つまり、今、AI企業が安心できるような、電力インフラ貸出しビジネスをどこかで始めることができる者は、真の売り手スキームを手にできるはずです。場所がノルウェーだろうと北海道だろうと、AI企業側は、インフラの貸し手の「言い値」で電力を買うしかなく、それでも、儲かるのです。
 JR北海道は、今、有料でのレンタルが可能な、電力網・冷却水・データセンターキャンパス等のインフラを、豊富に抱えているじゃありませんか。それが「赤字8区間」です。これを世界の名だたるAI産業相手に貸し出したら、青天井の稼ぎを目論むことは、夢じゃないですぜ。

●給電インフラをいかにして強化するか

 この大きなチャンスを活かすには、今の発送電インフラも改善が必要でしょう。JRの場合、線路に沿って容量の太い送電ケーブルを追加敷設することに、大きな障害はないでしょう。スタートラインから、有利なのです。
 自前の送電網が四通八達しているのなら、たとえば北海道の特定の地域の電力を喰ってしまうということもないので、地元との利害対立は生じません。

 なおまた、北海道を筆頭に、全国の地方の山の中にはまだ、小規模な水力発電(溜池揚水式を含む)をさせる余地があります。これは、風力や太陽光発電とも結合させやすい。国土がほどほどにコンパクトであるおかげです。

 従来、太陽光&風力発電の特質として、電力のピーク需要に対応させにくかったり、発電が連続的でない不利がありましたが、揚水ポンプ付きの溜池式水力発電と接合することで、電力網の安定度は格段に向上するはずです。

 北海道内でやたら風力発電しても、その消費地が北海道内には無いじゃないか――といったこれまでのジレンマも、本稿が提案する「軌条AIユニット」ビジネス時代には、解消されるでしょう。

●僻地と中央をつなげる「戦略補給路の多重化」は、北海道の場合、沿岸航路と「100kg級マルチコプター」で担保できる

 じつは私(兵頭)は昨年までは、オホーツクの沿海部と苫小牧港や函館港を結ぶ鉄道がなくなってしまうのは、将来の対露戦争を考えたときに面白くない――と考えていました。北辺で戦乱や大災害が起きたとき、「道路」の他に、「鉄道」「空路」「沿岸航路」などのオプションの輸送路が1つ以上あるのと無いのとでは、安心感がまるで違います。

 しかし、セルゲイ・ウィッテ(日露戦争前の鉄道エキスパート)が書き残している話を読んだり、JR北海道の貨物線の保守のコストは資材的にも予算的にも人手の上でも甘いものではないことを見聞するうちに、私の考えは変わりました。赤字鉄道を今の調子で維持させようとしても、決してわが国の安全は強化されません。

 他方、現実問題として、万一「AI産業」で敗北すれば、わが国の国際競争力は、それこそ、取るに足らぬものに落ちぶれ、外患を招く。円はますます安くなり、石油・ナフサはますます高くなり、その先にある社会は、国内の少子化と相俟って、甚だ暗いものになることでしょう。

 「軌条AIユニット」集結地を有料で企業(なかんずく外資)に貸し出すビジネスは、副次的効果として、北海道の人口減趨勢も逆転させ、海外からの投資のおかげで円は高くなって、僻地のJR沿線には新しい村が無数に簇生し、しかも、赤字であったはずの線路は、臨時の低速コンテナ列車専用線として、一夜にして盤石の黒字化し、いつまでもそこに残ってくれる。それが、経営的にも十分合理的に可能になるのです。

 どのくらいの収入が考えられるでしょうか? グーグル級のAI企業なら、1箇所の新しいデータセンターの建設のために110億ドルくらいポンと出します。
 また、Bitzero 社がシンガポールの OneQode 社に対して、ノルウェーのデータセンターに15年間、110MWを供給するとしたその見返り額は、26億ドルだと報道されています。

 比較しまして、JR北海道の2026年3月期の営業損(赤字)は、408億円=2億5000万ドルでした。もう、そろばんはいらないですよね?

●安心してください。線路はそっくり残りますよ。ほぼ永遠に・・・

 「黄色線区」のあちこちを、「軌条AIユニット」集結地用として大手AI企業に貸し出すようになっても、それは「廃線」を意味しません。線路は、いささかも撤去されず、そのまま残るのです。それどころか、むしろ、集結地付近の「引き込み線」などの線路が、増設されることになるでしょう。新しい「駅」や「駅前」が誕生し、拡大する蓋然性すら見込まれます。

 そもそも、コンテナ仕込みの「軌条AIユニット」を現地まで搬入し、あるいは故障ユニットを効率よく交換して整備するためには、既存の線路の上を、コンテナ貨車に低速で行き来してもらわなくては困るわけです。
 その走行スピードはずいぶん低速です。ゆえに、線路はちっとも傷みません。保守点検の負担も著しく軽いでしょう。タイトなダイヤを守る、これまでの心労とも無縁です。

 旅客用や、高速貨物用としては、その鉄道は「店じまい」。
 ですが、「軌条AIユニット」ビジネスが堅調であるかぎりは、線路網が現場までつながっている必要は半永久にあるのです。また、AIデータセンターのための不可欠なインフラである、電力融通ケーブルと、大容量信号ケーブルは、線路網と一体で保守されなくてはならない。
 線路は、営業し続けます。

●電力需要は「浮体式発電所」をJRの給電幹線に接続させることによっても満たされる

 ジョセフ・トレヴィシック記者による2026-5-24記事「超大型空母USSジェラルド・R・フォードが陸上施設向けの浮体式原子力発電所として機能へ」は、あらためて精読する価値があるでしょう。

 陸上の発電所の新設がAI需要の間に合いそうにないならば、用地の問題をパスできる浮体発電所を建造し、沖合からケーブルで給電すればよかろう――という構想の実用性を、米海軍が、核動力空母(加圧水型原子炉により恒常的に発電が可能)を使って実験しようとしているのです。

 この記事によりますれば、過去には『レキシントン(CV-2)』が1929年12月から1930年1月にかけて、ワシントン州のタコマへ電力を供給した実績があるそうです。
 同艦は「ターボ・イレクトリック」方式と申しまして、まず重油焚きの蒸気タービンによって発電し、それで電気モーターを駆動して、スクリュー軸を回転させていました(メカニカルな減速ギヤを工作したりメンテナンスする大手間が省略できるのが、大メリットだと考えられていました)。いわば、浮かぶ発電所そのものだった。

 また1968年から1975年にかけ、WWII中の「リバティ」級の戦時標準型貨物船に10メガワットの原子炉を載せた『Sturgis』が、米国陸軍工兵隊によって運用管理されて、パナマ運河に必要な電力を供給していた、という逸話も、記事は教えてくれています。

 1982年には、ハリケーン被害を受けたハワイに、ロサンゼルス級の攻撃型原潜『USSインディアナポリス』を、浮体電源として派遣することが検討されたそうです(実行はされず)。

 わが国の場合、たとえばアンモニア火力発電プラントを、浮体の上に建造することが考えられるでしょう。
 そうした浮体式のミニ・火力発電所を、北海道のどこかの海岸近くの鉄道線路に併設された電力融通ケーブルに接続すれば、道内の任意の場所に散在する「軌条AIユニット集結地」に、必要な電力を安定供給できるでしょう。

●ならば釧路からの水産物移送は、その先、どうなる?

 「黄色線区」が、ふつうの旅客・貨物鉄道としては廃業だとなりますと、たとえば釧路漁港に水揚げされた水産物を、札幌や本州へ運ぶためには、爾後は全く、鉄道以外の手段を講ずるしかなくなります。

 ここでわたしたちは、大きな見方をする必要があるでしょう。

 「軌条AIユニット集結地」は、必ず、付近に人家や牧場の無い、騒音苦情と縁の遠い場所が選ばれます。太い電力線と通信線が、軌条に併設されますので、その立地は、どんな山間僻地に分散させても可いのです。
 そのかわり、軌条AIユニットの保守作業員たちが寝起きする場所が、その近くには必要になる。新しい「村」が、あちこちにできるでしょう。
 トンネル内をAIコンテナの集結地としたところでは、トンネルの出口を中心に、「トンネル城下町」ができるでしょう。
 それらはとりもなおさず、あたらしい消費地です。

 鉄道コンテナを使ったAIデータセンター向けにJR線路を貸し出す新しいビジネスが拡大すれば、北海道の人口は再び増え始め、これまで過疎地でしかなかったあちこちに、物資や商品の新しい買い手が現れる。その明るい未来に、漁港も「地産地消」を旨として対応すべきです。

●潮流や潮汐を利用する発電システムの開発は、諦めてはいけない

 ここ数ヵ月間のホルムズ海峡事変を契機としまして、他の国だったらいざしらず、わが国は、なんとしてもエネルギーのアウタルキー(=一国家が必要なエネルギーを完全に自給自足できる、安心な状態)を追求しなくてはならず、それが如何に難題であろうとも、それを目指す努力を日本人が放棄することは、とてつもなく危ういんだ、というコンセンサスが、できあがったのではないでしょうか?

 日本は群島国家です。その電力源として、間欠性・断続性が無い「潮流発電」は、ポテンシャルとして、理想的でしょう。
 それが至難のチャレンジであることは、今まで潮汐発電や潮流発電を実用化した企業が世界に一つもないことから、素人にも想像はつきます。しかし、日本人はそれをあきらめてはいかん。

 「潮流発電」をベース電源とし、溜池揚水を活用する新水力発電を予備マージンに充てることができれば、大概のAI電力需要にも、有利に応ずることができるでしょう。

 北米ではまちがいなく石炭火発がリバイバルするでしょうが、日本国は、欧州の偽善屋どもからバッシングされないように、その動きは慎重にしなくてはなりません。
 とりあえず、廃トンネルなどを利用した、地下の大きなスペース内に、豪州産の優秀炭を平時から戦略備蓄するようにして、それを、非常時の暖房用や煮炊き用に、寒冷地方の末端消費者たちに対して配給ができるような計画と準備が、あるとよいでしょう。
 そのさい、密閉貯蔵庫内の防火の措置として、敢えて二酸化炭素ガスを石炭の隙間に充填するようにするのも、一法ではないかと愚考します。

  ――《令和八年七月七日・記》――


■ここ数週間分のトピックスと偶懐。

 ※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。

●有人機、危うし!

 2026-7-2のニュースによりますと、ウクライナ軍が、クリミア半島にある露軍の「サキ空軍基地」の戦闘機バンカーを固定翼UAVで空襲し、Su-30やSu-30SM戦闘機が格納されている5箇所のバンカーの防爆扉に自爆機が命中したそうです。「FP-2」型無人機の弾頭重量は200kgあるという情報もありますので、爆発の衝撃波や、扉裏面のスポーリング剥離片によって、バンカー内の高額な戦闘機は損壊させられた可能性があります。

 どうやら、既存の空軍の資産にとって、ますます難儀な時代がやってきました。レンジが伸びる一方の敵の片道特攻無人機から間合いを取ろうとして、味方の有人機が作戦する航空基地を奥地へ移せば、それら戦闘機が最前線で在空できる時間が、覿面に短くなってしまいます。また、大型の輸送機やAWACS、空中給油機や重爆撃機は、そもそも機体を堅固に囲って守ってくれる、防爆仕様の整備格納庫を、おいそれと建造することができません。

 かたや、2026-6-22の報道によれば、宇軍はストームシャドウ巡航ミサイルを複数、空中から発射して、ヴォロネジにある半導体工場を空襲しました。工場から煙が上がっている写真が出回っています。虎の児のストームシャドウを固め射ちしているということは、よほど、そこは重要な製造ラインが稼働中であったのでしょう。おそらく火災対策も十分だろうと考えられたため、破壊力の小さな無人機ではいかんという高等判断がなされたのでしょう。石油関連施設との、そこは大きな違いです。

●ガソリン・エンジン搭載の片道特攻機を調子にのってバカスカ発射していたら、ガソリン補給が追っつかなくなったでござる。

 『ディフェンス・エクスプレス』の2026-6-27記事が有益です。
 ウクライナ空軍の発表によれば、露軍は5月に、あらゆる種類の長距離UAVを8150機飛ばして来ました。そのうち6割(4900機)は、シャヘド型の「ゲラン2」で、残りの多くは「ガルベラ」だった、とのこと。

 ここから試算ができます。「ゲラン2」の燃料タンク容量は、50kg爆弾搭載型で135リッター。90kg弾頭型で75リッター。その中間をとって、シャヘド型×1機につき105リッターのガソリンが積まれていたと仮定すれば、51万3000リッターのガソリンを、彼らはシャヘドのために使ったわけです。

 これに「ガルベラ」が加わります。「ガルベラ」は、「シャヘド/ゲラン」に先行して飛ばし、宇軍のインターセプターを自らに引き付けることによって、自爆機の突入を成功させようとする、囮機。その燃料タンク容量は10リッターです。したがいまして、彼らは5月の1ヵ月間に、ガルベラのために32000リッターのガソリンを使ったと考えられる。

 なお、6-1~6-26の期間、露軍は各種の長距離無人機を5216機、飛ばして来ました。やはり、その6割が「ゲラン2」。のこりをガルベラだとして5月と同様に試算すれば、彼らは6月には35万リッター以上のガソリンを使いました。

 大量に飛ばす「ディープ・ストライク・ドローン」が、ガソリン内燃機関搭載タイプであった場合、それを発射する基地まで、どうやって大量のガソリンを補給し続けるのかが、軍隊の一大課題となります。
 ここを考えましても、現今、宇軍が、集中してロシア側の石油精製施設、油脂貯蔵施設、油脂輸送手段を狙い撃ちにしている作戦は、幾重にも合理的と申せましょう。

 戦線の露側の後方では、興味深い現象が生じています。ガソリンの配送を、空から目立つタンクローリーで実施しようとすれば、宇軍の特攻UAVにすぐに襲われておしまいです。これを学習した露軍は、民間の乗用車を徴発し、上空からは市民の自動車にしか見えないようにして、その中に、ポリタンクに小分けしたガソリンを満載して、必要な部隊に配送するようになってきたというのです(ドミトロ・シュムリアンスキー記者による2026-6-30記事)。

 しかしこのような偽装は、「闇商売」を容易にもしてしまうでしょう。ロシア国内ではガソリンを、軍需と民需が奪い合っているところです。「闇価格で可いから少しこっちに分けてくれ」と現金を積まれて頼まれたら、配送屋の兵隊は、それを拒めるでしょうか? 誰も見ていないところで、真夜中に、数十リッターだったら?
 同じ現象は、台湾有事の際に、中共本土でも起きるはずです。油脂燃料くらい、軍関係者が闇で横流しして闇金を稼ぎやすい物資は、ありません。油脂タンクの半分を「水」で薄めて、何だかんだと言い逃れてしまう道があると発想する輩が、必ず湧いて出ます。労せずして大金を得られるという誘惑に、中国人は抵抗できるでしょうか。

●わが国の変電所にも「傘」をさしかける必要がありはせぬか?

 2026-6-29夜に宇軍は、クリミア北部の四ヵ所の変電所(マリアニフカ、オレクサンドリフカ、ヴィパスネ、ジャンコイ)を、ファイアポイント社製の片道攻撃UAVを用いて空襲しました。機種は「FP-1」の可能性が大です。
 「FP-1」は、ウイングスパン=6m、MTOW=215kg。ポテンシャルとして2600km先の標的を狙うこともできるそうで、このごろでは、こういう長距離自爆機を「ディープストライクドローン」などとも呼ぶようです。
 滞空7時間可能、巡航速度は140~180km/時、ペイロードは60~120kgだと報じられています。

 ロシアは、兵装として黒鉛フィラメントをバラ撒く仕様の「FP-1/2」を宇軍が使い始めた、と2026-4-7から主張していました。グラファイトの細長い繊維を無数に変電所の上からふりかけてやれば、短絡が起きる。NATOが1999にコソヴォ介入をしたとき、米軍がF-117ステルス機から良導体のグラファイト繊維を詰めたクラスター弾をセルビアの変電所に対して投弾し、国土の7割を停電させたのが、初期成功例です。
 2026-6-29にこの類の特殊兵装が使われのたかどうかは、未だ確認はされていません。

 今日、ロシアの鉄道網は105000kmあり、うち51%が電化区間。変電所攻撃は、貨物列車を完全に止めてやるための作戦だと考えられます。

 ところで2025-4、東海道新幹線の架線を蛇が短絡させたことから、6万人が足止めされています。その前の2022-6には、1匹の蛇が郡山市の変電所に侵入して9800戸の停電をひきおこしました。

 もしどこかの国が、「グラファイトの編み紐」を外皮とする《AIロボット青大将》を開発したなら、潜入工作員たちがいとも簡単に広域テロを実行できてしまう時代になっています。
 グラファイトの長い紐を、最も安価なクォッドコプターで空中曳航して、変電施設のすぐ上から落下させただけでも、同じ停電が起きるでしょう。

 そろそろ、変電所に物理的な「傘」をさしかける対策も、検討すべきかもしれません。爆弾やミサイルを防げなくとも、低速ドローンや、極めて軽量な「紐」くらいは、阻止ができる強度のメッシュ、もしくはグリルが、考えられてよいでしょう。
 ついでにその「傘」の表面に、ペロブスカイト製の太陽光発電膜を貼り付けたっていい筈だ。大規模な変電所は、結構な面積がありますからね。土地の有効活用ですよ。

●ロシア差配の「タンカー/貨物船」が、既に「無人機母艦」として大暗躍中。

 『スターズ・アンド・ストライプス』紙2026-7-2記事が、IISSのリポートの梗概を報じています。
 2024-8以降、累計数百機の各種小型無人機が、NATO加盟国およびアイルランドの空域を我が物顔に違法飛行しているというのです。多くは、ロシアが操るシャドウ・フリートの商船から、夜間に密かに発進している。
 それらの機体は、随時・随意に、民航旅客機の離発着を妨げることができます。
 さらに深刻なのは、オランダにあるフォルケル空軍基地のような、核兵器が展開されている戦略拠点の上空まで、ロシア製ドローンで「制圧」されてしまっているという実態です。米軍はこの基地に、投下型水爆「B-21」を蓄積しており、NATOがロシアに核報復する際には、同基地から飛び立つオランダ人パイロットが、米国製の戦闘攻撃機から「B-21」を投弾する手筈になっているのです。
 フォルケル基地の警備員はそれらドローンに向けて小火器を発射したそうですが、撃墜できなかったという。えらいことになっていたわけです。

 こうした悪質な「偽装商船」を抑圧する方法は、あるでしょうか?
 2026-6-30のブルース・ランドルフ・タイズ記者による記事によりますと、IRGC(イラン革命防衛隊)は、何もホルムズ海峡を通航する商船を撃沈する必要などない。小型高速ボートや無人自爆艇を使って、タンカーや貨物船の、舵やスクリューを小破させるだけで可いのです。
 それで、世界の保険機関、傭船者、金融機関、船主、運航会社、荷主らは、「戦争リスク」を計算できなくなり、計画的な商売の見通しをまったく失ってしまう。そうなれば、事実上、海峡が封鎖されたのと同じことなのです。

 西側諸国の沿岸で悪質な活動に関与する、工作活動が疑わしい商船に対しても、沿岸諸国のコーストガード機関が、舵やスクリューを「尋問」の前に即断で破壊できるように、これからはなって行くのではないかと思います。

●対無人機の、SAMほど高額ではない邀撃手段の開発が、遅れている

 敵があの手この手で送り込んで来る安価な小型ドローンを、その機体価格よりも低廉な手段によって、撃墜することができませんと、国家安全保障の基盤が崩されかねない。そんな時代になっていることに、日本政府は気付くべきです。

 民間の智慧を総動員して、この対策の開発を加速させなくては、もう間に合わないでしょう。

 かつて、ドイツのラインメタル社だけが、「対空戦車」(装軌車体+無人砲塔+エリコン製の中口径自動砲)から発射する「35ミリ径の近接信管付き砲弾」によって低速UAVを撃墜しようとする試みを成功させているように見えました。この35ミリ弾は、特殊タイプですと、1発の値段が、DJIのホビー用クォッドコプターよりも高くなる可能性があります。しかし「シャヘド/ゲラン」より安ければ、それはたとえば発電所の防備用に、頼りにできると考えられる。
 問題は、敵もさる物で、自爆機の飛行エンベロープが終始低空では迎撃され易いから、特攻機の中間コースをH=9000mくらいまでも高くして、突入直前にダイブするプリプログラムに、進化させつつあることです。このシーソー・ゲームは、延々と続くでしょう。

●「ラスト50m」の勝負になってきた

 クォッドコプター型の自爆機に対して、歩兵たちが「自衛」できるようにする手段の開発も、遅れています。世界中で新案が模索されていますが、うまくいっていません。

 ヴラディスラフ・ホメンコ記者による2026-6-23記事によれば、爆薬数kgを抱えている、比較的に強力なマルチコプター型UAVが襲来した場合、歩兵はそれを50m以遠で撃墜しないと、爆発毀害が及んで重傷を負う惧れがあるといいます。
 50m以遠ともなったら、散弾では駄目で、もう、軍用ライフル弾を使うしか、現実的な選択はありません。要するに自動小銃でスキート射撃を試みねばならず、それで空中の小さな目標(それも動的)にダイレクトヒットさせるには、照準システムにAIを組み込むか、「銃弾」をよほど特別なものにするしかないでしょう。
 こうしたアイテムの開発を加速するための、安全な、専用の研究開発施設が、わが国のどこかに、必要です。有志の民間人が、そこを使って自由に実弾試験ができるようにしないといけないでしょう。

 戦場には、もっと小型の自爆型クォッドコプターもやってきます。それらから歩兵が「自衛」するためには「ラスト10m」での阻止でも、有意義だと考えられる。

 この目的に特化した「マイクロ・サブマシンガン」を、開発してはどうでしょうか? 弾丸は、50m飛んだら空中分解して飛散するようにすれば、「流れ弾」による味方の危険も生じないでしょう。

 また、以前にも提案しましたが、小銃のフォーワードグリップに取り付けられる「ゴム式ネット発射装置」を開発するべきです。火薬は使わないアイテムです。民間企業が「有害鳥獣用」として試製すれば可いでしょう。

 さらに、AIをシステム設計にフル活用したならば、空中で自律的にコース修正ができる「ブーメラン」が、実現可能なのではないでしょうか? 手投げによって放り投げると、あとはブーメランが、近傍を飛行中のマルチコプターに衝突するように、じぶんでコースを微修正するのです。

 うつぶせ姿勢をとっている歩兵が、身動きせずに上空一円をくまなく見張れる、後頭部用のCCDカメラとモニター・ゴーグルも必要です。
 やはり、有害鳥獣を駆除するハンターたちの警戒デバイスとして市販が可能ですので、「デュアル・ユース」商品としてその開発投資は素早く確実に回収できることでしょう。

 今日、スマホのカメラに「動体追尾」機能をもたせるソフトウェアをAIに作らせるのは簡単らしい。だったら、その機能と「アイ・セイフ」なレーザー・パルス発生チップとを組み合わせれば、有害鳥獣を全自動で追い払ってくれる「セントリー・ロボット」や、プレデターが肩に取り付けると勝手に脅威に対して《発砲》してくれる例の武器の無害バージョンが、できるはずです。モノづくりが得意な筈の日本の民間工場から、そうした製品が出てこないのは、やはり国の規制がよくないからでしょう。

●EEZ内での調査行為に対して米国では……

 2026-6-15のマルテ・ハンパート記者による記事は、注目しておく価値があります。
 米共和党のマイク・リー上院議員と民主党のジーン・シャヒーン上院議員は、共同で「北極圏安全保障・外交法案」を提出しました。
 中共やロシアの船舶が、米国の排他的経済水域+米国大陸棚で調査活動を行うことを禁止する内容です。
 「科学調査だから無害航行だ」といった強弁を許していると、グレーゾーンの権利侵蝕を意図する中露のような連中に対しては、埒が開きませんのでね。
 実際にこのような法律が成立するのかどうかは、わからないとしか言いようがないですが、超党派で提出されたことで、米国内外に一定のインパクトを与えるでしょう。
 わが国のメジャーな報道機関は、このような米連邦議会の動きを大きく報道することにより、中共に対する抑止効果を生じさせることができるのに、それをしないのですから、情けない話です。

●「もがみ型」が大人気に

 おしまいに、とうとう来たか、というニュースです。
 2026-7-1のブルース・アレン・ラベリング記者による記事は、三菱重工の「もがみ」型の船殻に、米国西海岸の造船所で米国製のVLSや火器管制システムを取り付ければ、ベルトコンベヤー式に米海軍のフリゲート艦陣容を急速増強することができるじゃないか――という提案をしています。

 これまでは、米軍用の軍艦を外国の造船所に発注することは、米国の国内法によって御法度にされて来たのですが、もはやそんなことを言っていられない現実に、米国内の要路者は気付いています。この記事は、おそらくは観測気球で、米国内の利害関係者に電気ショックを与える意味があるのだと私は邪推しています。

 まあ、いくら世界最高度にMHIの建造ラインが合理化されているとはいえ、現状年産2杯の建造ペースを数倍に拡大するためには、「工員の確保」という分厚い壁が、立ちはだかるのではないでしょうか。それに米国内の造船界の「腐敗度」は、なかなか甘いもんじゃないだろうと想像をします。

  ――《令和八年七月四日・記》――


■日産追浜工場の跡地で片道無人自爆機の大量生産が早期に始まるなら、それは朗報だ

 ※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。

 2026-6-25にロイターなどから報じられたところでは、米国資本の Anduril(アンドゥリル)Industries 社が、工場の取得交渉に既に乗り出しているとのこと。ちなみにこの奇矯な社名はトールキンの『指輪物語』に出てくる剣からとられているそうです。

 旧海軍航空隊の黎明期に詳しい人には地名の説明は無用でしょう。追浜は、小泉進次郎防衛大臣の地盤・横須賀の北隣。おそらく小泉氏でなくては地元周旋がかなわず、晴れて操業開始の暁には、将来の総理大臣職に花を添えることは確実だと思います。

 が、これからの時代、あらゆる戦略的地上ファシリティはすべてドローン戦争の「人質」になり得ますので、今から注意すべきことがある。
 それを述べる前に、当該メーカーについて瞥見しましょう。

 2026-6-22には、アンドゥリル社がイスラエル国内に新兵器の研究開発拠点を設立するための交渉が進んでいるとの報道がありました。同社にとって巨額の資金調達はじつに容易らしいという印象を受けます。まさに隆盛中の新興メーカーです。

 2026-6-10公開のアーロン・マシュー・ラリオサ記者による記事「台湾軍、海上目標に対しアメリカ製攻撃ドローンを配備」によれば、同社は台湾軍に「アルティウス600」ロイタリングミュニション(レンジ160km弱、弾頭重量4kg)を2000発ほども納品済みで、そのうち4発の実弾訓練が同日にデモンストレーションされた由。

 2026-5-28公開のロス・ダウサット記者による『NYT』記事では、アンドゥリル社最高戦略責任者のクリスチャン・ブローゼ氏の見解が紹介されています。いわく。トマホーク巡航ミサイルのような先端兵器を増産させようとして予算を3倍付けても、納品数は3倍にはならない。1基こしらえるのに2年かかったりするので。これが今日の構造的な落とし穴。なおまたアンドゥリルのCEOは公然と民主党員であることを表明しているそうです。

 2026-4-27の記事によると、米空軍は2025にアンドゥリル・インダストリーズ社の「ALTIUS 600」のために5000万ドルの契約を締結した。

 2026-1-23のタイラー・ロゴウェイ記者による記事「アンドゥリルのボルトMカミカゼドローンプログラムの内幕」によると、彼らは米海兵隊から、AIを組み込んだロイタリングミュニションを受注しています。「ボルトМ」のオペレーターには、旧来のFPV操縦ドローン飛行レースの参加者には必要とされた高度なスキルが無用だそうです。1機、数万ドル。

 兵頭いわく。
 納品単価数万ドルの製品を、底なしに大量に買ってくれる「国家」だけを相手とした、効率的な商売です。ちょうど、あたかも、AnthropicのAIサービスを顧客の大企業が利用し始めると、それがあまりに儲かるために、顧客はさらにもっとそのAIサービスの利用を増やすしかない。そのビジネスモデルの亜流バージョンのように見えます。ウクライナもロシアも、1機数百万円以下の価格帯の自爆ドローンを、底なしの数量、需要しています。使えば使うほど、顕著な効果(それも国家の存亡を左右する戦略レベルでの)が確かに約束されていますから、もう止められるもんじゃない。

 2025-12には、アンドゥリルは日本の〔電気モーターをこしらえている?〕アスター社と、製造およびサプライチェーンにおけるパートナーシップを模索する契約を締結したと発表しました。

 2025-11-16の記事によれば、アンドゥリルは「HDヒュンダイ」と、無人自律水上艇を開発することになりました。船体はスチール製だそうです。
 2025-10時点でアンドゥリルは既にラインメタルと提携しています。
 2025-9には、同社は、オーストラリア政府から「ゴーストシャーク」の契約を獲得しています。これは無人潜航艇だ。
 2025-9には台湾の国家中山科学技術院(NCSIST)がアンドゥリル設計の格安巡航ミサイル「バラクーダ-500」の量産を検討し始めました。

 2025-2のインタビューで、アンドゥリルの創設者パーマー・ラッキー氏は、米国は「世界の警察」ではなく、「世界の武器屋」(おそらくこれはファンタジーゲームのイメージ)になるべきであり、その売り物は、即座に買い手へ引き渡すことができる大量生産アイテムでなくてはいかん、という考えを披瀝しています。

 会社が創立された2017に遡りますと、いきなり、アンドゥリル社製のメキシコ国境監視システム「セントリー・タワー」が米政府から数億ドルで買われています。そこからドローンへ主軸を移した初期過程に興味があるのですが、私は当時このメーカーには注目をしておらず、メモした情報がありません。

 ともあれ、この会社の経営陣の目の着けどころと手腕は、たいへんなものだと想像することができるでしょう。

●全般背景。長距離低速UAVは、すでに「戦略兵器」になった。

 2026-5-17、ウクライナの固定翼の無人機群が防空網を突破し、モスクワに石油製品を供給しているプラントを自爆攻撃しました。
 2026-6-20には、ウクライナ国境から約2000kmキロ離れたチュメニの石油精製所が、同様の攻撃にさらされました。

 貯油タンクや蒸留塔に対する自爆攻撃は、標的みずからが破壊のための燃料をふんだんに供給してくれますので、比較的に軽量の弾頭によっても、著大な実害を敵国と敵軍に与えることができます。化石燃料のサプライチェーンにダメージがあれば、発電所にも兵器工場にも弾薬輸送トラックにも燃料は供給され難くなります。つまり、変電所のトランスを破壊したり、鉄道駅のレールを爆破するよりも、何千倍も効率的に、侵略軍の軍需兵站を一挙に低調化させてやることが可能なのです。そして一度、爆破炎上させられたプラントは、早くても半年後でないと、機能が元の水準まで戻りません。必要な燃料がとつぜんにわずかしか供給されなくなった工場では、工員をレイオフするか、倒産するかを迫られます。庶民は自動車用の燃料を購入できなくされ、これまた死活問題に直面します。

 かたや、送圧がかかっているガス・パイプライン/ポンプ・ステーションは、爆破攻撃には脆弱ですけれども、警報と同時に送圧をゼロにしてしまうことが可能で、その対策を取られると、大爆発による大破壊は起きません。

 弾頭重量が数十kgから250kgの低速長距離片道特攻UAVは、そのレンジを伸ばす「改善」のペースが早い。モスクワ市よりも東の奥地にある精油プラントや貯油施設が、これからますます執拗に自爆機攻撃を受ける流れは不可避でしょう。

 イランとサウジアラビアの間では、暗黙裡に、互いの石油・ガス施設を空爆しないという不文のルールが合意されたように思います。施設がデカすぎて、どちらもそれを地下化(ハードニング)することができません。悪意ある敵勢力からの、安価なドローンによる空爆に対して、丸裸なのです。たった1発被弾すれば、設備の操業実績は2年くらいも回復できません。
 従来ならば、核ミサイルでなくては、2つのライバル国間に創り出すことができなかった「戦略的相互抑止」が、安価な長距離自爆機によって、創り出される時代が到来したと思います。

 米軍がイランを「石器時代」に戻せないのは、もし米軍がイランの石油施設を空爆したら、イランはサウジを同様にして「石器時代」にしてやれるからです。だからサウジがトランプ氏に、「絶対にそれはやるな」「イスラエルにもそれをさせるな」と強く釘を刺しているのだと想像できる。かくしてカーグ島の石油積出し施設も、ほぼ無傷に保たれています。

●戦略的な「人質」と看做される施設を、国ごとに洗い出す必要がある。日本の場合は・・・?

 サウジアラビアやイランやロシアにとっては「ガス・石油施設」が、他国からのドローン空襲に脆弱な「戦略的人質」です。それらは炎上しやすく、防御は現実的に難しく、いちど破壊されると復旧は半年~数年後まで無理で、歳入をガスと石油の輸出に依存する政府として、累積ボディ・ブローはまず堪えがたい。

 では、中国および日本にとっては、どうでしょうか。「石油の国家備蓄基地」「LNG/LPGタンカーの荷揚げ桟橋施設(ガス・タンク等付帯)」「最先端のGPUチップ製造工場」「大規模AIデータセンター」「天然ガス火力発電所」「重油火力発電所」等が、ドローン空襲に脆弱な「準・戦略的人質」施設となるでしょう。
 ここで「準」と申しますのは、それが破壊されてもただちに両国家にとって致命傷にはなるとは限らない。石炭発電や原発がある程度カバーしてくれたり、非GPUチップが緊急の代替物になったりするからです。しかしもし自国だけそれらの施設を一方的に破壊されたとしますと、国際競争上、中期的にたいへんな不利に陥って、その不利に乗ぜられて国家の破局を強いられてしまう惧れがあります。したがってわが国は、即座に同質の報復ができなくてはいけません。無尽蔵の長距離自爆特攻機による、即座且つ同質の報復ができるようになっていれば、中国と日本の間には、《部分的相互確証破壊》の認識共有による「戦略攻撃抑止」が成立します。追浜工場は、その基盤づくりに、貢献してくれるでしょう。

 なお、原発はその建物の構造上、安価な片道特攻UAVでは破壊されません。

●片道特攻無人機+「核のゴミ」は、核エスカレーションも抑止する。

 中国や北朝鮮は近隣国を核攻撃することもできます。それに対して韓国や日本は「即座且つ同質」の報復ができる態勢にはなっていません。
 しかし、軽水炉の運転にともなって生ずる「使用済み核燃料棒」もしくはこれから使う予定の新品の核燃料棒の一部を、その冷蔵プールから取り出して地面に放り出すと、ただちにそこから「放射性同位体・沃素131」等を含有する白煙が立ち上り、半径80km内には、まともな想像力を有する住民ならば一世代かそれ以上の期間、暮らせなくなってしまいます。
 今日、どのような大国/強国であっても、首都と主要諸都市にこのような報復汚染を受けるリスクを、みずからすすんで招き寄せることはできないと考えることができます。

●じつは、空爆されると脆弱な一部特定施設を、わが国だけが、うまく「防御」できてしまう妙法が……あります。

 北海道新幹線は、現在、函館~札幌間の工事が進められているところですが、この野心的なプロジェクトはもはや費用と公益が釣り合わないことは明らかじゃないかと財務省が示唆しており、私も、まさにその通りじゃないかと思っています。新区間のほとんどが、あらたに掘削の必要なトンネルなのですから、最初から計画が無謀すぎたのです。工事を始めちまえばもう国もストップできまい、と地元の利害関係者は甘く考えていたのではないですか?

 しかし、天はわが国を見放してはいません。このトンネルの概成区間と半成区間は、どこの国も持っていない、最新鋭の戦略シェルターとして転用ができるでしょう。

 貨物列車のコンテナ(それは米国流に二階建てにしても可い)の中に、AIデータセンターのユニットを収めて、それを引き込み線によってトンネル内に置く。ユニットは発熱しますが、トンネルの切羽から得られる冷たい湧き水を、熱交換システムに導入することが可能です。

 米国では、データセンターは空冷騒音が酷いというので、その新設予定地の住民から、好かれていません。しかし、本格的な地下トンネルは、クーリング・システムの騒音をほぼ閉じ込めてしまって、地上に暮らす人々には、まるで気づかれないでしょう。

 ユニットのメンテナンスのために、人がトンネル内に常駐をする必要もありません。コンテナを貨車ごと、複線レールや引き込み線を使って、「交換」すれば可いだけだからです。

 このため、引き込み線の施設の需要も生ずる。トンネルではない、原野や山林の中の露天の線路部分も、JRは有料でAI企業に貸し出せるでしょう。過疎の地元自治体には税収が入ります。ただ通過するだけの新幹線よりも、地元自治体にとっては、おいしい話のはずです。

 このトンネル内に、揮発性の低い灯油や軽油の国家備蓄基地を設定することもできます。タンク貨車が、そのまま、貯蔵施設になるでしょう。

 将来、日本と中国が、長距離片道特攻ドローンで、互いのデータセンターを潰し合ったとしましょう。羊蹄山の下を通る長大なトンネル内には、中共のドローンも弾道ミサイルも、破壊力を及ぼせません。

 欧州にも米国にも、トンネルで保護されたデータセンターはありません。第三次世界大戦が勃発したとき、日本のデータセンターだけが、戦争前と同じように、平然と稼働しているという未来すら、あり得るのです。

 この「北海道新幹線モデル」は、JR各社が廃止したがっているあちこちの在来線にも準用可能でしょう。特に長いトンネルは、再利用価値が大きいでしょう。
 もちろん、トンネルではない、露天線路区間も、近くに人家や放牧地がなければ、「貨車で移動するコンテナ型データ処理ユニット」用として、有料で貸し出せるのです。

●試されていない新型機雷

 2023-1に米シンクタンクのCSISが、中共軍が台湾に侵攻した場合のシミュレーションについて公表し、それは話題になりました。
 ただし民間企業ですから、政府が公開していない情報を盛り込むわけにいかず、そのため、米軍側に点が辛くなっていました。

 米政府みずからの、秘密情報も使ったシミュレーションでは、結果はぜんぜん違うのだそうです。

 平時の秘度の高いアイテムのひとつは、機雷です。
 ベンチャー兵器メーカーには事欠かないように見えるウクライナ軍も、ロシア軍が支配中の港湾やロシア系貨物船に対しては、なぜか旧いタイプの繋維式機雷や、人手頼みのリムペット爆薬を使っている。
 おそらく英国軍の顧問も、新式の機雷のノウハウだけは、外国人にみだりに教えないようにしているのでしょう。

 現在進行中の紛争地で使われていないことを以て、日本人が油断することは許されません。それらは「本番」用にとっておかれているだけなのです。

 わが国の機雷のバリエーションに、「商港ハラスメント専用の機雷」を追加する必要があると思います。これは現在進行中の紛争から得た私の結論です。

 この機雷は繋維されません。緩徐なペースで、電池の寿命が続く限り、ゆっくりと、浮沈を繰り返す。が、水平方向の加速度センサーにより、「浮流」はしない。上昇または下降時に、「舵」を効かすことによって、浮かび上がる位置を少しずつ、意図的に変えるのです。港湾の出口よりも外縁に、半没艇などを使って放流してやると、あとは機雷が自力で、徐々に港内へ向かって移動していく。プリセットされた距離だけ水平移動し了えたら、その後は、その座標を中心に、プリセット円内での浮沈を繰り返す。終始一貫、GNSSや外部電波は受信しません。ECM脆弱性につながってしまうからです。自爆タイマーを組み込む場合には、必ず水底で自爆するようにすべきでしょう。コラテラルダメジを最小限にとどめ、しかも、何が起きているのか敵に明示せず、疑心暗鬼を生ぜしめるためです。

 敵国の港湾を襲撃する無人のウェポン・システムとしては、水面上を高速で自転して疾走する「タイヤ」状の自走爆雷も、有効であるはずです。戦時の敵国港湾には、防雷網や水上フェンスが張られています。その結界線を乗り越えてしまうぞと敵国人に思わせるところに存在意義があります。半没艇を発射母艇とし、「最後1マイル」でこの「タイヤ爆雷」を放つ。敵艦を直撃しなくとも、意図的に途中で水没して、沈底機雷となるものでもよいでしょう。その掃海が済むまでは、桟橋は使えなくなります。半没/可潜艇は、きょくたんに悪い海象を水中でやりすごせるので、低速でも、十分に役に立つものです。

●AIが、無人航空機のスウォームによるASWを革新してしまう期待値は、高いだろう

 CT画像を医師が目視で点検しても発見できない悪性腫瘍のなりかけを、AIが発見できるという話は、もうだいぶ前から聞かれます。
 同じような進歩は、航空機や、海底固定聴音網による対潜探知作戦の分野にも、確実に起きるでしょう。
 ある日を境に、原潜すら、深海でみずからの居所をくらますことが、もはやできなくなるかもしれない。
 わが海自が有人の原潜を取得する日よりも、その「ある日」は、早く来るでしょう。

 ASWをAIが革新し、潜水艦の所在が隠しおおせ得なくなったら、あるいはホーミング魚雷をラフな見当だけで腰だめ射出すると、あとは魚雷のシーカーが自律で効率的に敵潜をおいつめられるようになったら、世界の核バランスは変わります。私は、日本海軍に原潜は要らないという意見を維持します。尤も、アイソトープ電池は、最後の予備として、あっても可いでしょう。

●おまけ。登山者と警察はもっと犬を活用するべきだ

 数日前、道南の千軒岳(以前、人食い熊が全国ニュースになり、登山道は荒れ果て、入口ゲートはずっと閉鎖されたまま)に入山した登山者が、下山路がわからなくなって、家族から捜索願いを出されるという、人さわがせな事件がありました。
 ところで、犬は自分の脚裏が地面に着けた匂いをいとも容易に辿ることができます。犬連れで登山すれば、道筋不明瞭な往路から逸脱したり、下山路の分岐点をうっかりと行き過ぎてしまうといった凡ミスを、人は回避することができるでしょう。
 また犬の存在が熊に対して心理的な先制圧を与えてくれる効果も、期待できるかもしれない。子連れの母熊は、相手が鈍重な人間だったら「なんとでもなる」と舐めてかかるかもしれませんが、相手がもし進退自在な犬だったなら、「仔熊を守れない」と判断して、早々に退き下がると思いませんかい?
 果たしてどの犬種が、「登山者の友」として頼もしいのか、これは、各地の山で実験を重ねることで、知見が収斂するはずです。

 わが国の警察も、もっと即応的・機動的に「警察犬」を駆使できるようになることが、人手不足が嘆かれる今後、ますます望まれるでしょう。ふだんは民間人が飼育管理していて、「御用」の生じたときだけ警察に協力する、そのような制度が拡充されるべきでしょう。

 さらにおまけ。
 全国の自衛隊の駐屯地には必ずといっていいほどに「和太鼓の演奏同好会」のようなものがありますよね。いつも思うのですが、なぜあれを、独自の「マーチングバンド」に仕立てないのだろうか? そういう発想のできる演出家は、隊内にはいないのだろうか? あの大小の和太鼓を、たとえば「縦列2輪荷車」に積載し、打ち鳴らしながら深山を跋渉できるようにするべきです。天狗の集会のような、驚愕の音響効果が生まれるでしょう。それを現代版の「熊狩りの勢子」として、地域の安全に貢献させることが考えられてよいはずです。

  ――《令和八年六月二十八日・記》――


■次期戦闘機の長期開発事業を、「量子センサー」技術が攪乱し始めたかもしれない

 ※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。

 イギリス政府が、「日英伊」共同の次期戦闘機開発プログラムのために合意していたはずの出資金を、約束の期限までに用立てないかも――という報道が、聞こえてきました。
 (ボリス・グルケヴィチ記者による2026-6-2記事「イタリアと日本が懸念したのは正しかった:英国はGCAP資金提供を延期する見込みで、プログラム全体に後退の恐れがある」。)

 すぐ私が想像をしましたのは、英国内で密かに、何かとてつもない「量子センサー」関連技術の進捗が報告され、その趨勢を大観した英政府は、もはや有人戦闘機の時代は終わってしまうと判断をしたのではないか・・・という《穿ち》でした。
 ……しかし、どうも表向きの説明は、現・労働党政権がたんじゅんに国防費を増やすことに「政治的資源」を使う意欲が低い――といった話であるようです。
 (英国の財政が惨憺たるありさまになっている実情とその由来の深刻さについては、イドリース・カフルーン記者による2026-6-10記事「イギリスはどのようにしてミシシッピ州と同じくらい貧しくなったのか 自己破壊に関する事例研究」が、解説してくれています。)

 高市総理がちょうど訪英していますので、正式契約がどうなるか、おのずとハッキリしますでしょう。
 ただ、世界のあらゆる新型戦闘機の開発が10年から20年がかりの長期計画となるのにはおかまいなしに、量子関連技術の展開は脱兎のスピードであることは、間違いのないことです。

 これについては最近、2つの注目すべき記事が公開されています。

 まず、アタルヴァ・ゴサヴィ記者による2026-6-6記事「米陸軍、戦場で無線信号の位置を特定する《画期的な》量子センサーを開発」というもの。
 私の脳みそで要約いたしますと、米陸軍の戦闘能力開発コマンド(DEVCOM)直属の研究所が、わずか数センチメートルほどのサイズしかない、一種の量子センサー(ルビジウム蒸気を充填した微小カプセル内にレーザーを照射し、原子をリュードベリ励起状態にするもの)によって、長波からマイクロ波までのあらゆる帯域の電磁波が到来する方角を、誤差2度で三次元的に捉えることに成功した、というのです。

 これが本当ならば、敵軍機編隊間の「リンク16」等のやりとりを手がかりに、各機の現座標とベクトルを遠くから三次元的に推計してしまう、パッシヴ・レーダーもどきが作られるのは、時間の問題かもしれません。
 また現状、「リンク16」等はデジタル暗号化されていますが、やがてそうした信号スクランブルをマシーンが瞬時に戻してしまえるようになる未来をも、量子技術やAI技術は、いまから数年以内に、もたらすことでしょう(後述)。

 とりあえず「方探」として実用レベルな量子センサーを、たとえば、超長射程の地対空ミサイルもしくは空対空ミサイルの弾頭に組み込むことも、いずれできるようになるはずで、そうなった暁に、有人の高額なステルス戦闘機に、チャンスはあるでしょうか? 20年先のことを考えますと、私は、チャンスは無いと思います。

 もうひとつの記事は、さらにショッキングでした。
 2026-6-4に、Burak Oktenli 記者(若手の院生らしいです)による「アメリカの自律型兵器開発における量子時計は既に時を刻み始めている」という興味深い記事が公開されました。
 それによりますと、今、世界の先進国軍は、仮想敵の陣営内でやりとりされている暗号通信を、網羅的に傍受してその記録をひたすらに溜め込んでいる最中なのだそうです。
 今は、それらの信号の解読はまだ無理なのですけれども、量子コンピュータが実用化される数年後には、それを解読してしまえるようになることが確実なので、そのコンピュータさえ他国に先がけて概成してしまえば、溜め込んだデータが一気に平明化されて、たなごころを指すが如くに敵陣営の「脆弱性」を衝いてやることが、思いのままとなる。

 これは何を意味するかというと、2030年代まで使うつもりの「暗号規格」は、今すぐに抜本的に見直す必要が、出てきてしまったのです。
 次期戦闘機の通信システムも、一から考え直さなければ、せっかく完成させたそのシステムが、一夜にしてサンク・コスト化してしまうだけでしょう。多士済々の英国指導者層の中には、そこまで読める者がいるでしょう。そして、そこまで読んでいることを他国に対して隠すために、国防大臣が憤然と辞表を叩きつける演技は、有効じゃないかと、私は思います。

 続きましては、ウクライナ情勢です。

 ハワード・アルトマン記者によるインタビュー取材記事「ウクライナのAI搭載ドローン作戦の内幕:ロシア軍の兵站拠点を標的に 敵陣深くへ」が、2026-6-9に公開されています。

 長期戦争において侵略者の兵站活動を漸減してやろうと防禦国側が欲するのなら、反撃用の片道攻撃無人機の航続距離は長ければ長いほど好い。その理由が分かりやすく説明されています。
 だいたい彼我対峙線から50kmくらいまでは、ウクライナ戦線では「短距離」の扱いです。

 彼我対峙線近くでは、敵側の補給物資は、一人一人の兵士が担いでいます。それを漸減してやろうと思ったら、一人一人の兵士を爆撃する必要があります。

 しかし、彼我対峙線から向こう側へ距離が遠ざかるほど、敵の兵站物資は、集積度が高くなる。それはトラックになり、中間貯蔵所になり、長蛇の貨物列車になり、さらにもっと奥まれば、そこには生産工場の大規模倉庫があるでしょう。集積されたものを爆砕してやった場合の効果は、甚大です。

 短距離の攻撃ができる固定翼無人機(具体例として、1年前から受領している「ホーネット」)を、それ以遠の「中距離」(現状では250kmまで)に飛ばしてやるための、アゾフ部隊内での改造が、うまく行きつつあるそうです。
 並行して、1機ごとの弾頭の炸薬量や「指向性」も強化されてきており、たとえば列車の機関車に1機が直撃すれば、それを破壊できるようにもなってきました(他のソース参照)。

 都合のよいことに、こちらが狙える目標のオプションが敵領土の奥地へ及べば及ぶほど、敵側としては、どこを守ったらよいのか、見当がつけられなくなります。300平方キロメートルの範囲にある道路や鉄道線路のすべてを濃密に防空することなど、露軍にもできません。

 記事によれば、優先されるべき破壊目標は、敵の燃料補給手段です。敵軍に燃料不足を強制してやることで、敵はドローンを最前線に車両で届けることもできなくなり、また、ドローン運用に不可欠な「発動発電機」を回すこともできなくなる。結果として、敵のUAV作戦は鈍化し、宇軍の無人機が、特定戦線に於いて数で露軍を圧倒できるようになる。

 米軍への教訓。最前線の各師団もしくは各旅団内において、このアゾフ部隊がしてみせているような、無人機の独自改造ができるようになっていなくては、これからの戦争では、にっちもさっちも行かないであろう――とのこと。

 ついでにロシア関係の余談です。2026-6-6頃に、プーチンは、ロシア国内では12歳から就労ができるようにしようとしているという速報がSNSに出ています。調子は全般に悪そうです。

 続いて、ミサイル防衛に関する、注目の記事。
 サイエダ・タリーム・ブハリ記者が2026-6-11に「飽和戦時代のミサイル防衛」を公開しています。

 2026年にイランは、地対地弾道ミサイルの弾頭部をクラスターにしたものを使用した。これは今後、流行するだろう。
 これをABMで迎撃しようと思ったら、飛来するミサイルが小型爆弾多数を分離する前に破壊をしなければならない。

 それは非現実的である。高高度で迎撃しようとすればそのABMは箆棒な単価になる。低高度で子弾を迎撃しようとすれば、すぐシステムが過負荷に陥って機能しなくなる。

 アイアンドームのようなシステムは、もはや時代遅れになったのだ。

 この記事いわく。飽和攻撃型の戦争では、防衛網が突破される可能性は統計的に確実である。したがって、国家のレジリエンスは、攻撃の阻止だけでなく、迎撃が失敗した場合の社会混乱の最小化にもますます依存する。

 続いて、「シャヘド」型の固定翼特攻無人機を空中で阻止する「インターセプター」(迎撃ドローン)のトピックスです。
 アルテム P.記者による2026-6-12記事「迎撃ドローンがテープとアルミホイルで覆われているのはなぜですか?」。

 補修のためでなく、レーダー反射を強化するためのテーピングを、宇軍の最前線の迎撃部隊が、インターセプターに施しているそうです。
 これは、味方の地上レーダーに映りやすくしてやることで、空中で「シャヘド」と会敵するための地上からの誘導が、やりやすくなるからである、とのこと。

 「シャヘド」迎撃は、自国領空でするのだから、こっちのインターセプターをステルスにする必要度は低いわけです。

 これに関連して、アパッチ墜落の一件の真相。
 『ディフェンス・エクスプレス』の2026-6-11記事「シャヘドのドローンがAH-64アパッチを撃墜した可能性:史上初の事例の一つ」。

 ホルムズ海峡でイランのSAM/MANPADSが米陸軍のAH-64アパッチ攻撃ヘリを撃墜したのかと、世界は一瞬思ったが、乗員2名が無事だったということは、これはアパッチ・クルーが未熟だったのだ。
 アパッチは高速なので、易々とシャヘドに追いつき、近距離からチェーンガンを当てたのだろう。シャヘドの90kgの炸薬が轟爆し、その爆圧をくらって、AH-64は海上に不時着するしかなくなってしまったのだろう。

 この一報を承けてトランプ大統領が怒りのコメントを脊髄反射式に公表していました。私(兵頭)が惟いまするに、もしもヘグセス長官が、真相を伏せて大統領に報告し、あたかもIRGC(イラン革命防衛隊)がアパッチを狙い撃ちに撃墜したのだとボスに思わせたがったのだとしたのならば、憂うべき行動だと評されるでしょう。

  ――《令和八年六月十五日・記》――


■国家情報会議(国家情報局)と《報道ウィルス》

 ※このエッセイは、「water_dog」さまからの有償仕事依頼に応じて、兵頭二十八が書いています。

 2026年5月27日、参院本会議にて、国家情報会議設置法が成立しました。この新法に基づいて、7月にも、内閣情報調査室を発展的に解消して「国家情報会議」が設置されるだろう—と報道されています。

 わたしはこの旧組織にも新組織(国家情報局? JCIA?)にも、ほぼ、関心が無いです。せっかくですので、ここでその理由を語ろうと思います。

 高市総理は、首相になる前から、わが国にセキュリティ・クリアランス制度を早く導入しないとダメだぜという覚醒した認識をお持ちで、自民党内の旗振り役でした。

 わたしが「セキュリティ・クリアランス」に関する海外の事案を「放送形式」で初めて紹介したのは、検索してみますと、2010-9-2です。いらい、つごう数十回は、関連の英文報道を抄訳してきたでしょうか(いまやグーグル翻訳を誰でも使えるのだと理解して後は、私は断然この無料サービスから撤退をしておりますこと、皆様ご案内の通りです)。この問題に関心のある方なら、既掲載分には、すべて目を通しておく価値があるでしょう。

 現実的には、わが国に米国式の透徹したセキュリティ・クリアランス制度を移植しようとしても、バックグラウンド・チェックに必要な人手すらもぜんぜん足らず、どうにもなるまい、と想像をしています。

 おそらくじっさいに、こうなってはもはや、のんびりやっている場合じゃないという政府内の焦慮から、とりあえず出席者全員に守秘義務を課す「国家情報会議」を設けて、米国政府の要路者に対して「この会議のメンバーならば、貴国のハイランクのセキュリティクリアランス保持者とほぼ同等ですよ」と――ちょっと苦しいけれども――言い得るようにするのが、新法の背景にある政治的要請でしょう。

 「擬似セキュリティクリアランス」が法環境的に担保されることで、ようやく、米政府内の要路者は、緊要な情報を、求められるスピードで、米国内法に抵触することなく、提供してくれる道筋が、見出されるでしょう。(クリアランスを何も持っていない日本人公務員に対して機密を教えたら、それだけで刑務所行きとなる可能性が、現状では、ある。)

 「国家情報局(もしくはJCIA、もしくは日本版ОDNI)」が開店したあとの日本の社会に、何か変化はあるでしょうか? 何もないだろうと思っています。

 いますでにある傾向が、強まる蓋然性はあるでしょう。具体的には、過去に海外に旅行して、いつ、どこで、誰と会って何を語ったか、「身上履歴書」に細かく書き出せない者は、「擬似セキュリティクリアランス」を得にくくなって、「国家情報会議」に顔を出せるポジションから、あからさまに厳然と遠ざけられるでしょう。すなわち、重要省庁の最高幹部には、出世できないことを、それは意味します。政府与党の最高幹部にも、なれません。

 そういう人たちは、古い野党や、オールド・メディアに就職して、「国家情報局(もしくはJCIA、もしくは日本版ОDNI)は、悪の陰謀組織だ!」と、さえずり続けるしかないでしょう。攻撃対象が「秘密」なので、何とでも、いかようにも、難癖はつけられます。かたや、秘密を守らねばならぬ組織や個人の側からは、秘密を開示しての反論は許されませんから、あたかもコンピュータ・ウイルスが日々、手口を進化させて絶滅の運命を拒むのと似て、この《報道ウィルス》は、半永久に蔓延することが確実です。

 健全且つ平穏な精神活動を《報道ウィルス》などに掻きまわされてしまう日常は御免こうむりたいな、と、あなたが思うのであるなら、メディアの世界で「秘密」がどう処理されるのかについての「リテラシー」を身につけることです。
 こればかりは、AIに即興で問い合わせたってダメで、過去の論筆者たちが、何かの真相に迫ってやろうと思っていろいろなことをさんざん調査してまとめた書籍を、大量に読むことでしか、身にはつきません。

 一例として、ウィリアム・マンチェスター著、宮川毅tr.『ある大統領の死』(上巻S42-4、下巻S42-6、原1967)を挙げましょう。わたしは中学生のとき『ダラスの熱い日』という当時(1973~74)最新の陰謀論の映画を、田舎の善光寺下の映画館で観て、そんなこともあったんだろうなと空想をしていました。が、この古本を通読すれば、すでに1967年の時点で、オズワルトの単独犯行だったことが、十分な説得力を伴って、1人の調査報道記者によって明らかにされていたんだと知ることができる。この本以降の陰謀論は、何なんだ? と問い詰めたくなるレベルです。大衆世間は何度でも陰謀論のエサに喰いつくから、好い商売なのでしょう。しかし、あなたは、そんな無限ループから解脱することができます。保証はしませんがね。

 もうひとつ。2023年に満100歳で大往生したヘンリー・キッシンジャー氏のことを、私はよく想像します。現役の閣僚だったとき、この人はさんざんに「密約」外交を推進した。
 現役閣僚を退いて以降の数十年間、この人には国家最高レベルのセキュリティ・クリアランスは、付与されていないはずです。
 けれども、現役時代に、「秘密」がどのようにハンドルされるのかを見覚えた人だったら、おそらく、その後も、公開情報を耳にしただけで、今、リアルには何が進行しているか、あるていど、推測することができたでしょう。

 こんな玄人のリテラシーの域に、近づくことはできるでしょうか? 意欲のある若い人は、秘密外交について書かれている過去の著述を、ぜんぶ読むことができますよね。一生のうちに読みこめる情報量として、それはキッシンジャー氏の見聞に劣るでしょうか?

 今日、「プロジェクト・グーテンベルグ」や「オープン・ライブラリ」にある外国語の書籍を片端からオンラインで閲覧して、AI翻訳させたら、原文が何語だろうと、日本語に直して速読することができるのですから、こんな恵まれた時代はないですよ。修行僧のように国会図書館や防研図書室に日参する必要も、今の学生さんには、ないんじゃないですか?

 最新の、セキュリティ・クリアランス関係の外国ニュースをフォローしたいがどうしたらよいかわからない、という人は、まず手始めに「realcleardefense.com」の記事タイトルを眺めることから一日をスタートすることを、おすすめします。トップ画面で記事タイトル一覧が出てきます。それを、グーグルに訳させれば、関心領域の記事があるかないか、絞り込める。そこで目についた記事の本文を開いたら、それも、たちどころに全訳されるんですよ。そういうことは皆さんの方が、御詳しいだろう。

 私がさいきん、注目したところでは、フレッド・フライツ記者による2026-5-29記事「ODNIの完全廃止と、CIAによる米国情報機関の主導権の回復が必要である」が有益でした。この記事も「リアルクリアディフェンス」の姉妹ウェブサイト(外交や経済など多岐)を案内口として、辿り着けたと記憶します。

  ――《令和八年六月四日・記》――


進化論と戦術

兵頭二十八の放送形式 Plus

 わたしたちの現実世界では、すぐ先の未来に何が起きるか――すらも、完全な予測はできないものです。
 あなたが最善だと信じて選択したコースの結果が、よくなかった――ということは、しばしばあるでしょう。
 第二次大戦の後半、旧ソ連軍は、東部戦線のドイツ軍を西へ向かって押し返すときに、北から南まで連続して延びている長大な対峙線の、どの一点を次に突破するのかは、あらかじめ決めないようにしておくことが、有効であると学びました。

 全線をほぼ同時一斉に圧迫し、すべての箇所で、浸透や突破を試みる。
 するとそのうちどこかで、ドイツ軍が防備をもちこたえられない場所が偶然に見つかり、そこで小規模な前進が成功します。
 ソ連軍司令官は、その「現にうまくいっているように見える場所」に、手元に控置していた予備のありったけの兵力を注入して、戦果を拡大しました。

 この流儀は、進化論の智恵そのもので、豊田章男氏(トヨタの会長)がさいきん言っていることにも近いものなのです。

 すなわち「脱炭素」を実現するために何か特定のアプローチ(たとえば乗用車に関しては完全な電動自動車化、発電方式に関しては再生エネ)を、政府の智恵の足りない少数者が「これがベストだ」「これしかない」と信じ込んで闇雲に選別してしまい、全国民にそれのみに限った努力をおしつけ強制せんとする流儀は、進化論的に非合理的で、みすみす国家的な不利益を背負い込み、とりかえしのつきにくい損失を国民の行く末に課してしまうおそれがあるのです。

 進化論的に政策を推進するようにしたら、このような「騙されやすい政府が善意のつもりでハマってしまう禍害の陥穽」は、避けられるでしょう。

 すなわち、脱炭素のためのあらゆる方法を、各法人・各私人がめいめい自主的に多様に考えて追究することを奨励する。そのなかから、おのずから「他の方法よりうまくいく」方法が現れてきます。だんだんとそれを見定めて、政府は、じっさいに他よりもうまくいっている方法を、手厚く応援するようにして行く。
 この流儀こそが、かつてないチャレンジとなる目的を集団的に達成するためには、いちばん合理的なのです。

 なおソ連軍式に関してもうひとつ覚えておくとよいことがあります。
 攻勢作戦において、攻撃が頓挫してまさに全滅の危機に瀕しつつある味方部隊が幾つかあっても、上級司令部ではその地点をサクッと見捨ててしまい、決して増援部隊などは送らない方針を貫いたことです。

 突破と前進に成功している箇所に全予備をまとめて投ずるのが、攻勢作戦での全線勝利の鍵なのです。
 すでに攻撃が頓挫し停滞していると判明した箇所に、貴重な有限資源をあとから分割投入してはいけないのです。

 ソ連崩壊後のロシア経済――とくに2010年よりも前――は、このソ連軍式の適用をしなかったせいでうまくいかなかったのか、それとも、まさにこのソ連軍式を経済行政に採用してしまったがために破滅的な結果を招いたものなのか、そこを知りたいとは思っているのですが、わかりません。

 さて、進化論については、ほぼすべての人が、一知半解です。
 にもかかわらず、おおぜいが、じぶんは進化論を十分に知っている と思い違いをしているところから、癌患者が伸ばせるはずの寿命を、むざむざ縮めてしまっているよ—と啓蒙する本が訳刊されています。

 キャット・アーニー氏著、矢野真千子氏tr.『ヒトはなぜ「がん」になるのか――進化が生んだ怪物』(Kat Arny“Cancer, Evolution and the Science of Life”, 2020. 邦訳/河出書房新社 2021)が、それです。

 ある経済的な恩人からわたしはこの本を頂戴したのでしたが、一読して、すべての軍司令官はこの本を読む価値がある—と、膝を叩きました。対ゲリラ作戦を組み立てるときのヒントに満ちているからです。

 人体にとって、癌細胞は「敵」です。しかし通常、36歳以下の若い人のカラダは、その「敵」が爆発的に増殖することをゆるしません。
 じつは健康な若い人も、癌細胞を体内に抱えているのです。いるけれども、国家の治安力のようなものが働いていて、その身中の敵の爆増を許していない。癌細胞があっても、それが増殖しなければ、ヒトは、健康でいられるわけです。国家のどこかに犯罪者予備軍が存在するが、その跳梁は、力のバランスによって抑止されているようなもの。見かたを変えますと、社会と敵とのしずかな共存状態になっているのです。

 成人が、もはや子どもをつくれない年齢にさしかかると、体内の癌細胞の増殖を抑える力は、弱まります。というのは、生き物のDNAにとっては、子孫を残すことが優先順位の最上位ですので、子孫を増やせなくなった年寄りの個体は、もう死んでくれてもいいからだそうです。

 それで、老人の体内を仔細に調べれば、ほぼ全員、どこかに癌細胞を持っているのが見つかるそうです。

 しかし、その癌を悪化させることなく長生きして老衰死する老人もいる。本人は、病院で医者から指摘されないかぎり、じぶんの体内に癌細胞があるとは知らないで、一生を送るのです。

 体内に癌細胞はいくつもあるけれども、それが爆発的に増殖しない。それがじつは、「健康」の真相であったのです。

 ということは、人体内の「癌細胞を根絶してやろう」という医療の目標設定は、根本的な誤りです。

 若い人のカラダがしぜんに実現できていたように、敵との共存状態を、老人になっても、できるだけ長く維持させる。癌細胞は存在しているけれども、それを爆増させないように保つ。それこそが、成人医療の目標設定であるべきだったのです。

 そこで大事なことは、敵は一枚岩ではない、というリアリティの把握です。
 敵集団の中に、必ず、マイノリティが混じっている。
 じつは、敵も「多様」であったのです。

 敵集団の中に、複数のマイノリティが混在し、敵集団の中でも「三すくみ」のような「力の均衡」状態が生じていた。それがあるおかげで、癌細胞集団ぜんたいとして正常細胞にうちかつことはできず、どの癌細胞も爆増できないでいるのです。

 もし、正常細胞に炎症(たとえば煙草を猛烈に吸えば肺は炎症状態になります)などの攪乱が加えられると、正常細胞と癌細胞の「力の均衡」が崩れ、癌細胞にとっては爆増のチャンスが到来します。

 そしてそれだけでなく、特定の癌治療薬が投与されたときにも、癌細胞集団の中の「力の均衡」が崩れて、いままで逼塞していたマイノリティの癌細胞が、驥足をのばして、あらたに爆増することになってしまうのです。

 既視感におそわれないでしょうか? 中東情勢は、これと似たところがありませんか?

 米国がイラクのフセイン体制を打倒したら、それまでイラク国内の統治者集団だったスンニ派が失業して、やむなくアルカイダを結成し、かたやイラン(シーア派本尊)を憎んでやまない米国がサウジアラビア(スンニ派本尊)を甘やかした結果、アルカイダが世界じゅうに転移し、タリバンが強化され、さらにISという変異株まで生んだ。

 米軍がISを叩けば、イランから後援されているフーシやヒズボラやハマスが元気になって、サウジアラビアやイスラエルをテロ攻撃します。

 アルカイダのテロ攻撃を受けた米国が、サウジアラビア人のビンラディンをかくまったタリバン(アフガニスタン民族主義運動にしてスンニ派)を弱めようとしたら、表向きタリバンではないという地方ボスが芥子畑経営を米軍からなかば公認され、その巨額の麻薬収益が賄賂やタリバンの軍資金となって、アフガン政府・軍・警察を骨の髄から腐敗させ、けっきょくは元の木阿弥。

 近年までの癌治療は、海外の前近代的部族社会と似たこのような「力の均衡」のリアリズムを敢えて無視してきました。そのために、癌治療の延命成績も、みすみす、悪くされていたのです。

 本書は、くりかえし、強調しています。
 ある人の体内の癌細胞は、その出現の最初から、すでに多様である、と。

 多様であるために、一種類の抗癌剤で、絶滅させることは、ぜったいにできないのです。

 本書の白眉は、この真相に気づいた医師たちが案出している、薬に耐性をつけてしまった癌細胞を爆増させないための、さまざまな新戦法です。

 たとえば、「囮薬」。
 古くからある高血圧の薬、ベラパミルには毒性はほとんどない(したがって患者にもやさしい)。それを、癌治療薬に耐性をもっている癌細胞にふりかけると、その細胞は、分子ポンプを総動員してフルスピードでベラパミル成分を外へ押し出そうとする。それにかかりきりとなるために、もはや増殖のエネルギーが残りません。

 その結果、抗癌剤に耐性のない癌細胞が数的に優越している、つごうのよい状態が維持されてくれる。
 これが、患者の寿命をいちばん延ばす—といいます。

 その耐性のない癌細胞を、敢えて全滅させない。増殖させずに存在だけさせておくのです。
 非耐性の癌細胞が腫瘍内でマジョリティとして存在し続けるから、ライバル関係の耐性癌細胞の方はいつまでも驥足を伸ばせず、爆増できない。耐性細胞は、その耐性を発揮するために余計なエネルギー消費をしていますので、そのままなら、けっして爆増はできないものなのです。
 非耐性の癌細胞を除去してしまったら、そのときは、耐性癌細胞が爆増します。なぜなら、それまで非耐性細胞の存在が、耐性細胞の増殖を抑制していたからです。耐性癌細胞にとっての「制がん剤」は、非耐性癌細胞なのです。

 この考え方を、「ゲイトンビーの適応療法」というのだそうです。

 イスラエルがガザ地区で展開している作戦は、この方針に近いようにも思えます。定期的に、ハマスの幹部だけ殺し続ける。イスラエル軍にとって、パレスチナ人を絶滅させることはたやすいでしょうが、敢えてそんなことは考えないのです。ハマスという、過激だが一面でくみしやすい分子をほどほどに除去し続けることによって、ハマスよりも有能な脅威かもしれない新手のテロ集団はガザ地区内ではいつまでも成長しないのかもしれません。

 本書は教えてくれます。植物も同じだよと。
 つまり、農薬に耐性をもつ雑草は、ふだんは、農薬に屈しやすい雑草よりも優勢になることはありません。耐性を発揮するために使わざるをえないエネルギーの消費負担が大きいからです。そのため増殖のために使えるエネルギーの余裕はなくなっていて、ずっと小さな集団のままで推移するのです。
 しかしもしも、農薬に屈しやすい雑草が根絶されてしまったなら、その瞬間から、耐性種にはライバルがいなくなるので、じぶんたちの天下となって、爆増できることになるのです。

 「カクテル療法」も、ヒントに満ちています。
 1950年代からあり、複数の抗癌剤を組み合わせる、多剤併用法だそうです。

 たとえばウイルスが三つの異なる薬に同時に耐性をつけるよう進化する確率は、1000万分の1しかないそうです。
 だから、三剤か四剤まで薬を増やせば、一個の癌細胞がすべてのメカニズムに耐性をつけることはまずありえないという考え方。

 たとえば野鼠にとって、鷹に食われないように適応する方法はあるでしょう。そしてまた、蛇に食われないように適応する方法もあるはず。しかし、鷹にも蛇にも食われないようになる、そのような都合のよい適応や進化は、なかなかできないものでしょう。
 わが国の領土である島嶼を侵略してきた敵兵を全滅させるためには、やはり空からも陸からも同時に逆襲するのが、確実になるのでしょう。

 《効いている攻撃方法を、そのままダラダラと続けてはいけない》という戒めが、最近の癌治療の化学療法の分野にはあるようで、これも知っておく価値がありそうです。

 まず「第一の薬」を与えて、その「第一の打撃」で大量に癌細胞を殺す。ただし、全滅させようと望んではいけません。全滅するまで同じ薬の投与をしつこく続けようとするのが、癌との戦いでは、最悪手になるといいます。癌は、かならず進化するからです。

 まず第一の打撃により、敵集団の個体数と遺伝子多様性を減殺するのです。
 が、少数の癌細胞は生き残っている。でも、いいのです。そいつらは、一番目の薬剤を細胞外へ追い出すのに多大なエネルギーを使ってしまっているので、疲労困憊の状態です。肩で息をついている。
 そこで、早いタイミングで、サッと別の作用機序の薬に切り替える。これが「第二の打撃」。
 第一の打撃に耐えて生き残った癌細胞は、この別種の新打撃に対応する体力の余裕を、残していません。
 念のため、さらに、第三、第四の別種の薬に、テンポよく切り替えて行き、四回連続で、たてつづけに別種の打撃を与えるようにすれば、四種のまるで成分の異なった薬に耐性を発揮して生き残るような癌細胞は、ほとんどない—という次第です。

 このとき、一番目の薬が効いているからと、それをダラダラと使い続けると、癌細胞が耐性をつけてしまうのは、時間の問題。ですから、同じ攻撃法を長く続けることは、有害なのです。

 『孫子』は、《敵が進化する》ことを、ちゃんと警告してくれていました。

 『孫子』は「拙速」を強調しました。この「拙速」は、攻める拙速ではなく、撤退の拙速のことです(詳しくはPHP刊の兵頭著『新訳 孫子』を参照)。

 遠征軍は、決して、敵国内に長くとどまったらいけないと言っているのです。
 どうしてでしょう?

 どんなに弱っちい現地軍であっても、侵攻してきた占領軍が長居をすれば、占領軍の弱点を理解するようになり、ゲリラがそこを衝けるようになるからです。敵が早く進化し、「耐性」をつけてしまうのです。

 イラクやアフガンに長居をした米軍は、どうなったでしょうか?

 「一撃離脱」の外征戦争を繰り返すようにすれば、敵が「耐性」をつけてしまうリスクはありません。
 これが『孫子』の教えなのですが、わたし以外に、誰もそこを正しく読めていませんね。残念なことです。

 アメリカ人は、中東での敗因を依然として言語化できていません。そのままですと、また同じことをやりそうですね。



ヒトはなぜ「がん」になるのか; 進化が生んだ怪物


[新訳]孫子 ポスト冷戦時代を勝ち抜く13篇の古典兵法

(管理人Uより)

 兵頭二十八の放送形式 Plusは当サイトが兵頭先生へお金をお支払いして記事を発注する企画です(微々たる額しかお支払いできていませんが)。

 因みに兵頭二十八先生の傑作『[新訳]孫子 ポスト冷戦時代を勝ち抜く13篇の古典兵法』は、Kindle Unlimited会員なら0円で読めます。


新刊『尖閣諸島を自衛隊はどう防衛するか――他国軍の教訓に学ぶ兵器と戦法』について自己宣伝します。

兵頭二十八の放送形式 Plus

 また1冊書かせていただきました。奥付は3月31日発行となっています。アマゾンで注文した方がたは、25日頃にもう届いてますよね?

 現下、原稿をかなり先行して書き上げないと書籍そのもの発行日が決まりません。それで、じつは、去年のうちに書いたことが、やっと4月に世間に問えるという感じなんです。
 しかしまあ、このぐらい専門的なネタでこうして商業出版ができるだけでも、恵まれているのでしょうね。
 なにしろ骨子の提言のひとつが「砲兵改革」なんですから。

 ナゴルノカラバフ紛争が11月に停戦になってくれたのは、ありがたくも絶妙なタイミングでした。単行本であの紛争の最新の戦訓を論ずることができるポジションの著者はそもそも少ないはずで、その先頭打者になったと思えば、運の良さを痛感するのであります。

 アゼルバイジャン軍の勝因はトルコ製のUAVだけじゃない。イスラエル製UAVのSEADが露払いをしているのと、イスラエル製の地対地ミサイル(航法衛星参照式の地対地ロケット弾)が良い仕事をしているのです。
 まずそこを掘り下げてみました。

 日本国民の中心的な関心事は、中共が尖閣に来るのか来ないのか、でしょうね。
 しかし、これについて、来ると断言する人、来ないと断言する人、どっちもシナ人を理解しているとは思えない。

 水はいちばん低いところだけを通って流れる。戦闘の指揮もそれと同じだ――と『孫子』が説いていたその流儀は今日でも変わりはしないんですよ。すべてはこっち次第なのです。

 敵、すなわち中共の周辺諸国のうち、いちばん抵抗が弱そうなところが自動的に狙われるんですよ。自動的にシームレスに侵略が始まる。それがシナ式の政治です。

 スイッチを持っているのはこっちだという自覚が必要です。儒教圏人とわたりあう組織にはね。

 日本の有権者が覚醒して、対支で弱腰の政治家を落選させ、対支で譲歩しない政治家を当選させれば、連中は尖閣をあきらめ、他の方面での侵略活動に精を出すことになります。
 日本国民が覚醒せず、対支で弱腰の政治家を当選させ続ければ、中共は尖閣が「いちばん低い」=「いちばん抵抗が弱い」と見切り、尖閣に自動的にシームレスに出て来ます。
 すべては、こっち次第。

 中共中央に「大計画」がある、などと思っちゃいけません。行程表などないのです。あるのは好機を捕らえるセンスと、軽いフットワークと、あとから行為を正当化できる屁理屈の本能だけ。
 いいかえると、「水」があるだけ。こっちが低くなれば、水はこっちに決壊してきます。こっちが高くなれば、水はこっちではないどこかへ流れ去る。「プランB」「プランC」……は自動生成されます。
 まったくのオートマチックシステムです。

 日本の政治家に低くない見識があれば、わたしが月刊誌記事を連載していた頃に早々と警鐘を鳴らした中共の「コーストガード軍拡」に遅滞なく反応して、海自のイージス予算を1隻分削減してでも海保陣容を倍増できたはずです。

 こういう省庁間予算や省庁間人員の融通がきかないのは、国家の動脈硬化症。若年人口が足りないという前に、日本の古い組織・団体の指導層が精神的に高齢化し、干からびている。戸籍年齢が四十台でも、はや即身仏ではないかと思います。

 中共は好いポジションにいます。
 日本外務省はおそらく憲法と法律に違反する過去の《密約》の弱みを北京政府に握られているし、戦争のセンスがないくせにNSCを支配してみずからの瑕疵を国民に対して隠蔽することにのみ関心が強い。海保は上層(公明党系列)が弱腰のうえアウトナンバーもされていて、士気崩壊の兆しすらある精神状態にある。陸自は最も急いでも数週間しないと尖閣方面へは出動などできまい、といった読みがあるものと思われる。

 海上民兵とホンモノの漁民と海警・武警を使い、日本の海空軍の出番がないようにしてやれば、数週間で尖閣支配の既成事実化は可能です。

 東京夏季五輪が流会にならず、22年の北京冬季五輪を日本がボイコットするかどうか読めないという只今の「不確定」さが、連中の尖閣侵略の自動発動を食い止めています。この天佑を活かさなかったらバチが当たりますぜ。

 わが政府のレベルがいかに低くとも、陸上自衛隊のドクトリン改革だけで、鞏固な対支抑止は成立する――という話を、そこで、こんかいの新刊のなかで訴えてみました。

 これを説明するのに「プロスペクト抑止」理論を独自に展開してみたかったが、ちょっと準備時間が足りなかったのでそれは次著でやることにします。

 海保と陸自を融合させる案は、「安全保障のライフハック」ともいえるもの。彼我の形勢は一気に逆転します。海保の人員不足、重火器不足を陸自が補完できます。海保は海警から有力火器で攻撃されればシームレスに戦闘を陸自にバトンタッチできるようになります。敵がつけこむ「隙」がなくなります。海保船艇がもし海上民兵のスチール船体トロール漁船による「体当たり」をうけて浸水をしはじめたら、巡視船内の陸自隊員は救命ボートで脱出し、最寄りの尖閣諸島に上陸します。敵がどう出ようと、それは、中共にとって、前よりも悪いシチュエーションの始まりに帰結するのです。

 イスラエルの話にも力を入れました。大事だからです。
 イランの核武装はもはや不可避であるという共通認識が、サウジアラビアとイスラエルの間にはあるものと想像できます。
 イスラエルは兵器産業と技師たちの疎開先を探しているはずです。いまこそ、それを日本が取り込むチャンスです。

 ビンサルマンの肝いりで、アカバ湾の東岸からヨルダン国境にかけて建設するサウジアラビアの新都市計画「THE LINE」。これの狙いはわたしが昔から唱えてきた「耐核リニア・シティ」そのものだと気づくのが遅れました。この都市計画については次回作で論評するかもしれません。この都市は、イランがかかわる核戦争が起きたときの、サウド家の疎開先です。
 「ザ・ライン」の西風の風上には、イランから見ての核攻撃目標がありません。シナイ半島と海しかない。したがってイスラエルやエジプトを狙った核ミサイルの降下灰は「ザ・ライン」までは飛んでこないでしょう。

 わが国はいまのところ「少子高齢化」のまっただなかですが、じつは中共ももうじき、そうなります。国内がじじいばかりになるんです。それは待ったなしでやってくる暗い未来。日本よりも暗い。だから熊プーは大焦りです。
 世界中でシームレス侵略を続けて、常に成果を国民に示し続けないと、権力の座を逐われてしまう。尖閣に隙があったら、尖閣に出よ。そういう心境なんですよ。

 わたしは昔、親切心から、熊プーのための善い政策を提言しているんですよ。西部の砂漠にトンネルを掘ってそこを緑地化しろ、とね。そこにしか、ダブついた資金や余剰生産品を吸収できるフロンティアはなくなるはずだよと。砂漠のトンネルにスチールプロダクツをブチ込み続けろ、と。わたしのこの助言に従っていれば、すくなくとも食料品に関しては中共はいまごろ「アウタルキー」を実現できていたかもしれないのです。

 しかし中共中央は無明の闇に迷い、砂漠開発を顧みませんでしたので、まもなくして中共が高齢社会に突入したとき、若年労働力、エネルギー、食料のすべてが、中共には足らなくなってしまいます。国民1人あたりGDPでも日本に追いつけません。暗い未来です。
 その頃、日本はどうなっているでしょうか。
 次の本では、そんな話もするかもしれません。



尖閣諸島を自衛隊はどう防衛するか 他国軍の教訓に学ぶ兵器と戦法

(管理人Uより)

 兵頭二十八の放送形式 Plusは当サイトが兵頭先生へお金をお支払いして記事を発注する企画です。

 右や左の旦那様、どうか兵頭先生へお仕事ご喜捨を……。
 私は『兵頭二十八のマッカーサー伝』を読んでみたいですよ。


ひょうどう偶懐――「新コロ時代」は「X島」よりもハード?

兵頭二十八の放送形式 Plus

 2001年末に四谷ラウンドさんから初版を刊行した『地獄のX島で米軍と戦い、あくまで持久する方法』は、2010年に光人社さんがNF文庫に入れてくださっていた。それがこのたび新装版になりました。
 関係各位に篤く御礼を申し上げたいです。

 大きな直しは不可能でしたが、行の変更がない小さな直しは可能でしたので、たとえば《26年式拳銃は敗戦の直前まで製造が続いていた》――といった勘違いを是正することができまして、ホッとしております。
 これに関しては杉浦久也大兄から賜ったご示教に大きく負うております。杉浦さま、ありがとうございました。

 いや26年式に関してはもっと根本から記述を変更するべきなのでしょう。いつまでも2001年以前の知識で語っていてはいけないはずなのです。しかし行数をいじらないで直すのがちょっと難しかったもので、残りは後日の課題とさせていただきました。

 本書とは直接関係ないのですが、前に杉浦先生からは、重擲弾筒の開発担任者三名の名前も教えてもらいました。1966年刊の『砲兵沿革史 第5巻 上(回顧録 其の1)』に載っている、と。
 これは盲点でした。この出版物は「レア度」としては微妙だったために、精読してなかったんです。じぶんとしては読んだ気でいました。

 つまり戦後に刊行されているので国会図書館に行けばいつでも読むことができる――と考え、精読を後回しにし、斜め読みで済ませていたわけです。そのうちに、すっかり忘れてしまった。
 資料漁り業の「あるある」ですよ。

 防研図書館にしかないレア史料とか、国会図書館に戦友会が寄贈している個人出版物から先に調べるべきだという焦燥感で、当時は頭がいっぱいだったんですなあ……。

 国会図書館は戦前資料(特に軍事系定期刊行物)のデジタル化をすっかり了えたのだろうか? 新コロ時代にはオンライン閲読をもっと便利にしてくれませんと、こういうマニアックな研究も深まりませんでしょう。

 戦後の刊行物でも、私家版の戦記のようなものは、早めにデジタル化してくれたら有り難いですよね。
 たとえば、『X島』の中で書いたかどうかは覚えてないのですが、わたしは「消音の単発拳銃」にこだわりがあります。これは現代でも、たとえば尖閣奪回に派遣される特殊部隊には全員に持たせるべきだと思っているほどです。

 そう思うようになったのも、先の大戦に関する私家版の回想戦記類の影響なのです。
 南方のジャングルで、敵の歩哨線を越えないと身動きができない、という局面が、多いんですよ。そこで何よりも必要だったのは、「消音銃」でした。

 この装備さえあったら、敵の歩哨線を随意に越えやすくなっただろう。それによって、日本軍の戦果や、日本兵の生存率が、どのくらい違っていたか知れないのです。単発だったら、わずかな投資だったんですよ!

 単発の消音銃なんて、今であれば、米国に行けばガレージ内で自作ができる。
 だれか試作品をこしらえて、防衛省に真正面から売り込めよ、と真剣に思います。
 あ、向こうの法令で、消音銃がその地域で合法かどうか、まず確かめてくださいね。念の為。

 ところで『X島』を書いたとき、日本はバブル崩壊不況で、若い人たちの人生計画は狂うだろうなと予測ができました。だから《X島ほどの最悪状況でもまだ活路はあった。現代人は頭を使え》――というのが、本書のメッセージでした。
 そしてNF文庫に入った2010年の2年前には、「リーマンショック」でしたよ。
 こんどの新装版は「新コロ」動乱のさなかに書店に並ぶことになります。

 おそらく若い皆さんの不安は、「このパンデミックは収まるのか?」に集約されるのでしょう。
 そこで、調べてみました。1918年の人類史上最凶のパンデミックは、どのように収束したのか――を。

 こんかいベーシックな参考にしましたのは、以下の三本のネット公開記事です。
 Marta Rodriguez Martinez 記者による2020-3-6記事「How did the Spanish flu pandemic end and what lessons can we learn from a century ago?」
 Teddy Amenabar 記者による2020-9-4記事「‘The 1918 flu is still with us’: The deadliest pandemic ever is still causing problems today」。
 Dave Roos 記者による2020-12-11記事「Why the 1918 Flu Pandemic Never Really Ended」。

 1918年型インフルエンザ・ウィルス「H1N1」、俗名「スペイン風邪」の猛威は、14世紀の「黒死病」を凌ぐ数の病死者を世界にもたらしたという点で、世界史的に特筆されます。
 H1N1ウイルスは、全世界ですくなくも5000万人を斃しました。

 この1918年型インフルエンザは、三連続パンチとして、世界を襲いました。

 まず1918年春、北米と、欧州西部戦線の塹壕に広まりました。

 続いて1918年の秋に第二波。9月から11月までのあいだに、全世界で数千万人を斃しました。

 そして最後の第三波は、1918年末から1919年春にかけてです。豪州、合衆国、欧州がやられています。しかしこのときは、ウィルスはマイルド化していました。

 冬に沈静化して夏にもり返す、という現象が観測されています。

 そしてスペイン風邪の場合、第一波より第二波、第二波よりも第三波の方が、致死率は低くなっていました。
 さらに抗原遷移したバージョン(変異型)が、1919年末から1920年初、および、1920年末から1921年初にかけて再々流行しているのですけれども、いずれも致死率が低く、ほとんど普通の季節性インフルエンザと差のない危険度でした。

 世界のコミュニティがノーマルに復帰したのは1920年の前半でした。
 このパンデミックは、収まるときははあっという間のように思われたかもしれません。それまでの2年間に5000万人が死に、それで集団免疫ができたのです。

 疫学史の上では、1918年型インフルエンザのパンデミック終焉は「1920年の前半であった」とされています。これに異論を唱える人はいません。

 スペイン風邪のときに世界が学習したことがふたつあります。
 まず、当初には「大袈裟だ」「過剰だ」と言われていた対策は、すべて、後から振り返ると、まったく不十分でした。
 そしてもうひとつ。人々は1920年に、パンデミックのことなど、すぐに忘れてしまいました。ただし、今次の「新コロ」もそうなるのかどうかには疑問があります(後述します)。

 いつをもって「パンデミックの終焉」と言うのかは、次のように定義されます。そのコミュニティに、制御不能な伝染が起きなくなったとき。そして、発症率が非常に低くなったとき。
 その状態が数週間続いたなら、パンデミックは終焉したのです。

 パンデミックの終焉とは、社会が集団的免疫を得たことを意味しました。しかしそれは、原因ウイルスが消えてしまったことを意味しません。
 「1918年型ウィルスは、1920年の前半にその猛威をうしなった」と表現するのがいっそう正確なわけです。ウィルスじたいは、存在し続けているのです。

 「スペイン風邪」と名づけられた経緯について。
 記録されたアウトブレークの始まりは、米本土でした。それは1918年の1月でした。まだ第一次大戦中ですので、それがすぐにフランスへ伝わり、そこから全欧州に拡散。スペインでアウトブレークしたのは1918年5月です。
 ちなみに第二次大戦と第一次大戦では違いがありまして、第二次では米兵はいったん英本土に上陸し、そこから渡仏するわけです。しかし第一次大戦では英本土をスルーして直接にフランスに上陸しました(このへんについては2019年の既著『兵頭二十八の農業安保論』をお読みください)。だから英国への伝染はフランスよりも遅くなった次第です。

 ところが当時、参戦諸国はこのインフルエンザのおそるべき死者数については、情報を統制して公表をしませんでした。
 それに対してスペインは中立国でしたので、何も気にせずに病死者数を公表。
 スペイン王アルフォンゾ8世も罹患したと報じられました。
 それが世界に伝えられた結果、この疫病は不当にも、「スペイン風邪」と呼ばれるようになってしまったのです。

 「1918 H1N1」の真の発祥の地と時が、どこでいつであったのかについては、いまだに学術論争の決着がつきません。
 カンザスの兵舎で患者第一号が記録される前に、スペイン風邪ウイルスは1917年のシナ大陸もしくはフランスで誕生していたのではないかという疑いが、根強いです。どうせアヒルや家畜からヒトに移ったに違いないというので……。

 異論なく一致していることもあります。もともとはヒトのインフルエンザではなくて、トリのインフルエンザであったという科学的な分析です。

 1918年型インフルエンザウイルスのゲノムは、1990年代に解析されています。
 当時病死した米兵の肺サンプルが某所に残っていたので、それをもとに国立保健研究所NIHが解明したそうです。
 1918インフルは、おそらく1917年に、アヒルとかニワトリといった家禽の鳥インフルエンザから、ヒトインフルエンザに変化したのだと推定できました。
 研究所で、そのオリジナルを復元したウィルスで鼠を感染させたら、今日の季節性インフルの100倍の致死力を示したということです。

 1918~1920年のスペイン風邪のときは、不思議にも、30歳以上の人が、重症化しにくく、快癒率が高かった。
 おそらくその理由は、1889年と1890年に流行した「ロシア風邪」のウィルスによる免疫が、それらの人々の体内に残っていたからだろうと考えられています。つまりスペイン風邪のウィルスの遺伝子情報の中には、その前のロシア風邪のウィルスの遺伝子情報が含まれていたのです。

 インフルエンザ・ウィルスは消えることなく、変異しつづけます。
 その遺伝子情報の一部が後々まで、最新世代ウィルスの中に受け継がれて行くのです。

 平時の、季節性のインフルエンザでは、それに罹って死ぬのは主に年寄りと子どもたちです。
 ところが1918年のスペイン風邪は、20歳代と30歳代を狙い撃ちし、世界全体の病死者のうち半数が、その年齢層の男女でした。

 「1918年型インフルエンザ」は2年間で5億人に感染したと見られています。5億人というのは、当時の世界人口の三分の一です。

 そして、全世界の20歳以上40歳未満の男女のうち1割弱がこのスペイン風邪によって殺されたのではないかといいます。つまり1割弱が死ぬくらいに流行した時点で、やっと集団免疫ができたわけです。

 偶然にも、30歳以上の男女には、その前のロシア風邪の免疫が残っていたおかげで、重篤化はまぬがれることができました。

 スペイン風邪のウィルス「1918 H1N1型」は、1920年以降は、どこに伝存したのでしょうか。
 人間、ブタ、アヒル、ニワトリその他の生きた動物の体内です。そこで生き続け、複製され続け、変異し続けている。

 そして時間ととも、ふつうの脅威度のインフルエンザと同格のウィルスになりました。すなわち、毎年ある季節になると流行するが、パンデミックにはならないインフルエンザと、大差がないものに。

 いわば、さいしょは体重91kg以上のヘヴィー級のボクサーがメリケンサックをつけて通り魔をやっていて、一撃で通行人が殴り殺されていたのに、しだいに、47kg以下のミニマム級のチンピラに降格したという感じでしょうか。

 いっぱんに、あるコミュニティ内に疫病ウィルスが長く存在し続けるほどに、そのウィルスの毒性は弱くなって行くとされます。
 これは、ウィルスが宿主aから宿主bに伝染しおえる前に宿主aに死なれては、自己複製ができなくなってしまいますので、自己複製の見込み率を最大限に上げるために、しぜんにそうなるのだと考えられています。

 たとえば現代では、ポリオにかかってもほとんど症状を自覚できないケースがあるそうです。新コロも、このポリオのように、少しおとなしくなりながら、残り続ける可能性があります。

 もちろん、今後もすべての疫病ウィルスが例外なくそのような低威力化の変異を遂げるのかどうかは誰にも確約ができません。

 変異は、家畜や鳥の体内で簡単に起きます。
 たとえば甲というインフルエンザと乙というインフルエンザが1羽のトリの体内に同時に侵入したとしましょう。するとその鳥の体内で、二種類のインフルエンザの遺伝子が融合して新型「丙」ができあがってしまうのです。

 まさにこれが1957年のインフルエンザウィルスの正体でした。トリの体内で「H2N2」という新型ウィルスができてしまったのです。それが全世界で100万人を斃しました。ベースは「H1N1」です。

 1968年の「香港風邪」=H3N2 も同様で、鳥の体内でこの新インフルエンザがつくられました。この香港風邪も世界で100万人を殺しました。その遺伝子の一部は、やはり「H1N1」からひきつがれているものなのです。

 「1918 H1N1」の直系後継ウィルスによるインフルエンザ流行は、1957年、1968年、2009年に起きています。
 2009年のインフルエンザは、スペイン風邪ウィルスの「ひ孫」=四代目 が起こしたのです。

 すなわち過去百年以上、「A型インフルエンザ」と呼ばれるものは、要するに「1918年型インフルエンザ」の子孫なのです。その遺伝子の一部は、スペイン風邪ウィルスそのものなのです。

 2009年の豚インフルエンザは、1918年型ウィルスが米国の豚にのりうつって温存されていたものが、ヒトインフルエンザおよび鳥インフルエンザを取り込んで変異したものでした。それが世界中のヒトに伝染した。
 この2009年型インフルは世界で30万人を斃しました。

 死者が少ないのは、2009年のインフルエンザでは、老齢世代の多くが免疫をもっていたからでした。若い世代は、過去の類似ウィルスの免疫ができていなかったため、このウィルスにやられやすかったんです。

 今次の新コロが1918インフルエンザと明らかに違う点がいくつかあります。
 ひとつは後遺症。たとえば新コロに罹患して治った患者は、恢復後も、心臓血管疾患のリスクを長く抱え続けることになるおそれがあります。

 ここから先は兵頭の個人的な感想です。

 死ぬことはないし、自覚症状すらないが、それに感染すれば、体内の血管細胞が健常者よりも脆くなってしまうなどの時限爆弾を知らぬ間に埋め込まれてしまう、そういうステルスタイプの厄介な疫病として今の新コロが変異した場合は、このパンデミックが終わったあとも、人々の恐怖は永続するでしょう。

 誰もが、じぶん自身をも含めて《ステルス・スプレッダー》たり得るからです。

 新世代罹患者は、自覚症状が無いので、じぶんでも知らないうちに、それを他者に移して広めてしまう。
 そのため健常者は、すべての他者を疑って暮らすしかなくなる。

 これはスポーツ時代の終わりを意味するかもしれません。それが東京五輪の年に、始まったことになるかもしれません。

 英国からの報告によると、英国変異型ウィルスは、オリジナルのチャイナ・ウィルスよりも強毒である可能性があるそうです。これはもっと調査が必要です。もしそれが本当であったならば、新コロは1918インフルエンザのパターンをなぞらないことになります。

 さらにブログでも紹介しています最新のいくつかの研究によれば、新コロ・ワクチンを接種した人が、ひきつづき、サイレント・スプレッダーとなり得る。
 健康な人が、罹患歴がなくて、ワクチンも接種してもらっているのに、あらたに自覚症状のない新コロに罹患してしまうという確率すら、どうやらゼロではなさそうだというのです。
 そしてその人たちは、知らないうちに、別な人に新コロを移してしまうのです。

 いったん罹患して、快癒したと思っている人も、じつはサイレント・スプレッダーであるかもしれないし、逆に、再度罹患することだって、あり得る。
 「オレは妖怪だった!」と、平凡な人間が突然気づくというホラー。
 ウィルスの立場になって、望ましい進化型を考えたら、そういうのは、納得ができる変異でしょう。

 過去のインフルエンザだったならば、後遺症として肺にちょっとダメージが残るくらいで済むかもしれませんが、新コロは、血管の細胞を攻撃するらしいので、当人が自覚しないうちに、全身のあちこちに深刻なダメージを、当人が自覚しないうちに、蒙ってしまうかもしれない。

 頭がハゲるくらいなら、帽子をかぶってごまかせばいいでしょう。しかし、心臓血管が脆くなったり、肺の機能が不可逆的に低下したら、「スポーツは不特定多数の人々の健康にとってとてもリスキーな活動だ」ということになっちまいますよね。激動が、頓死をもたらすかもしれないわけですから。

 さらに想像してみましょう。
 ワクチンを接種済みであることや、既往罹患歴がないことや、PCR検査の陰性結果が、ある人の「ウイルスフリー」性をいささかも立証してくれないのだとしたら……? これから、いつまでたっても、ずっと……。

 そういう人でも、たった今、ステルス感染しているかもしれないし、サイレント・スプレッダーなのかもしれないし、これからまもなくして罹患するかもしれないとしたら?

 困りましたね……。

 もう、かつての世界は戻って来ないことになるでしょう。
 ではその世界はどんな世界なのか?

 わたしには想像できます。しかし、とても長くなりそうなので、また稿をあらためて、お話ししてみたいと思います。
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