日本がトライトンを導入する目は消えた。米軍すら泣き寝入りするしかないんだと実例が示されたので。

 DEB RIECHMANN AND LOLITA C. BALDOR 記者による2019-6-20記事「Trump called off strike on Iran minutes before launch, citing potential loss of life」。
     トランプは攻撃実行10分前に命令を撤回した。150人死ぬ可能性があると告げられたので。
 イラン革命防衛隊の司令官いわく。
 米海軍[sic.]のRQ-4A[sic.]グローバルホークのすぐ近くを、有人の米軍ISR機が随伴飛行していた。この機には35人くらい乗っていた。
 しかしイラン高射砲兵は意図的にこの有人機を狙わず、無人機を狙ったのであると。そして過去にセベラル回、この無人機の撃墜に関して米国に警告を与えていたと。
 米国の民航会社および、ブリティッシュエアウェイ、カンタス、ルフトハンザ、KLMは、ホルムズ海峡周辺海域上空を避けて飛ぶことを20日に決めている。
 トランプツイッター(21日)によるとトランプは3箇所の空爆を承認した。そのさいトランプの質問に対して、150人は死にます、と一人の将軍が答えていた。わたしは10分前に攻撃を止めたのである、と。
 止めた理由はそれが proportionate とはならないからだ。
  ※戦時国際法の「比例の原則」にもとるということ。こっちが殺されてないうちに相手を殺すのは、近代先進国としてはまずいのである。ところがこれをまったく尊重しない狂犬国家もある。民航機を何度も撃墜したり、漁船を銃撃したり体当たりで沈めてくるあの国やあの国だ。どちらも日本のすぐ近くにあるよね。トランプ氏はプロポーショナリティに詳しいとは思えないので、今回は下僚の誰かが諫言したのであると疑える。しかしそれが国務省内の誰かだとすれば、ポンペオ親分の覚えがめでたくなくなるだろう。
 トランプはNSCメンバーとだけでなく、直前まで議会領袖たちとも懇談を進めていた。
 ※トランプの中では、戦争準備は万端だった。米軍の無人機を撃墜された場合に即座に復仇破壊して金額的にプロポーショネイトな仕返しのできる「ほぼ無人のイラン施設」を前もってセレクトしおかなかった統合参謀本部員は、全員降格でいい。プロの仕事をしておらず、ボス=大統領に恥をかかせたわけだから。
 イランと米政府は、撃墜空域がイラン領海上であったか公海上であったかで発表が対立している。これは、今回どちらが「アグレッサー」なのかにかかわる重大焦点。
 ※はっきりしないことがまだ二、三ある。まずイランのレーダーとSAM陣地は「住民の楯」の中にあるのかどうか。次に、グロホは本当に公海上だけを飛んでいたのかどうか。撃墜される前にグローバルホークが一瞬でも領空侵犯をやらかしていた――ロシアの爆撃機が日本の領空を侵犯するときの常套手口のように――のだとすると、イラン側に一分の理があると世界は思うだろう。その上、コラテラルダメジで住民が死ぬと、それは宣伝され、イラン国民は宗教独裁政権の下で団結してしまう。他方で米軍の兵器庫の中には、そこに「住民の楯」があろうとなかろうと、コラテラルほぼゼロでSAMやレーダーを破壊する手段が複数ある。なぜそのオプションをトランプは選ばず、はたまた米軍は「死亡150人」のオプションしかトランプ部に呈示しなかったのか? 軍上層はサボタージュしているのではあるまいか?
 次。
 Patrick Tucker 記者による2019-6-20記事「How the Pentagon Nickel-and-Dimed Its Way Into Losing a Drone」。
    セントコムの公式発表。撃墜されたのは「BAMS-D RQ-4A Global Hawk」である。
 損害額は1億3000万ドルから2億2000万ドル。最近のF-35が9000万ドルで納品されつつあるので、戦闘機よりも高額だ。
 革命防衛隊発表によると、防空システムは「ホルダド3」だった。
 グローバルホークの常用高度まで届いたということは、SAMは「タラシュ 2B」であっただろう。
 S-300ではなかった。それは確か。
 今回、グローバルホークを撃墜するのにS-300級〔つまりはペトリ級〕のレーダーやミサイルなど必要ないことが、イランによって証明されてしまった。
 ここで当然、次の批判が起きる。
 2015年にノースロップグラマン社がX-47BというステルスジェットUAVを完成した。ところが米海軍上層が艦上攻撃機の無人化を嫌い、それを艦上給油機にすると言い出し、事実上、計画を斥けた。
 X-47Bをとっとと採用してさえいれば、防空システムを有するイラン相手に非ステルスの偵察機を飛ばす必要もないではないかと。
 ※RQ-170センチネルですら撃墜されているので、あまり期待もかけられない。だいいち洋上哨戒任務には低速&長時間滞空が要求されるので、アスペクト比がアルバトロス体型に近くないと目的合理的でない。その体型とステルス性とは相性が悪い。
 次。
 Brad Lendon 記者による2019-6-21記事「South China Sea: Satellite image shows Chinese fighter jets deployed to contested island」。
       中共はすくなくも4機の「J-10」戦闘機をパラセル諸島のウッディ島に置いている事実を西側の衛星に見せ付けている。配備は10日くらい前ではないかと。
 格納庫に入れないで、わざわざ滑走路脇に並べているのは、G-20の前に近隣諸国に示威する意図があるものと推定される。
 中期の狙いとしては、南シナ海にADIZを宣言する前の段階整備。
 ※リアルなアホウドリと同じくらいの寸法で長時間洋上哨戒のできる、消耗品的な運用が可能なUAVを開発する必要がある。スウォーム哨戒だ。トライトンを既に導入してしまった豪州は、頭を抱えているはずだから、いまこそ豪州企業と共同で新兵器を開発するチャンスではないのか?