米支間の戦略核戦力制限合意は、かぎりなくありえない。そのもうひとつの理由。

 米側としては、旧ソ連が相手のときとは違って、中共軍に「パリティ」を保証してやることはできないからである。
 となると、「不均等な制限条約」となる。戦前の「ワシントン会議海軍軍縮条約(1922)」「ロンドン会議海軍軍縮条約(1930)」と同じだ。そこで日本が呑まされた立場を、中共が呑まされるだろうか?

 そのような条約は、より強く制限された側に「擬似敗戦感」を与えてしまう。対等に扱われなかったことへの強い不満を植えつける。結果、シナ人の上下に、「対等証明欲求」=「対米開戦」への強い意欲をかきたててしまう。
 リアルには敗戦しているわけではないから、動員できる資源は、一回の戦争に十分であるようにも錯覚される。
 かくして、いとも簡単に、「真珠湾への道」が舗装されてしまうのだ。

 日本人は真珠湾攻撃でひとつだけ「大きな目的」を達成している。それは1922条約と1930条約の「屈辱」を晴らしたことである。いちどスカッとして鬱憤を晴らした。大きな政治的目的が、そこで達成された。あとは、リアルに負けても悔いはなかったのだ。

 つまり米国主導の1922条約と1930条約は、不均等な軍備制限条約であったがゆえに、平和にはまったく貢献せず、むしろ日米戦争を不可避にしてしまったのだ。

 1922~1930に、主力艦と補助艦の双方にわたる制限などは考えないで、主力艦、それも戦艦(BB)だけの「三者対等条約」にとどめておいたなら、歴史はどうなっていたかを考えてみよう。戦前の日本の財政では、日本海軍は条約の上限数の戦艦陣容を維持するので精一杯で、他の艦種では、米英に対する圧倒的な数的劣勢を、甘受するしかなかっただろう。そうなっても、日本人の心理には、米英を恨む感情などは生じなかった。最初に「対等」の権利が認められているからである。貧乏だから補助艦の数は揃えられないが、日本人は、日本が貧乏なのは他の誰のせいでもないとみんな、分かっていた。「鬱憤」がないのだから、鬱憤を晴らす(=真珠湾)必要もなかった。

 戦後の米ソ条約は、余裕のある米国が、余裕のないソ連に、戦略核パリティを認める「対等制限条約」であったから、平和に貢献した。ロシア人も、米国人に対して鬱憤は感じなかった。彼らが貧乏なのは彼らが選んだ道であると分かっていた。米国を核奇襲してでも晴らさねばならないような屈辱を、ロシア人は感じさせられなかったのだ。

 げんざいの中共の核戦力は、対米パリティにはほど遠い。このような中共を相手に、1922条約や1930条約のような「不均等な制限条約」をワシントンが構想しているのだとしたら、歴史から何も学んでいないと評するしかないだろう。

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 WYATT OLSON 記者による2020-4-30記事「Air Force bombers fly over South China Sea in latest foray into contested space」。
       4-30に2機のB-1Bが南シナ海を示威飛行。所属基地があるサウスダコタ州から32時間かけて飛んで来た。

 米空軍が考える「動的軍事力行使モデル」(dynamic force employment model)の実験だ。

 併行して米海軍も、パラセル諸島など南シナ海にて、中共軍に対抗して複数の示威航海。

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 Gina Harkins 記者による2020-5-1記事「Why the Navy Has Stopped Releasing Ships’ COVID-19 Case Counts」。
     米海軍艦艇内での新コロ陽性者数の日日公表を、ペンタゴンは、止めた。
 もはやそのような情報発信流儀が、公衆の議論に役立つ段階は、過ぎているからである。

 ちなみに空母『セオドアローズヴェルト』乗員中の新コロ罹患者数は4-30時点で1102人を数えた。
 この艦長は『サンフランシスコクロニクル』紙に艦内アウトブレークをリークしたために艦長を解任された。
 『キッド』はサンディエゴ港に4-28に入港した。同艦内では78人が陽性。うち2人(+)は、港に着く前に空輸で米本土内の病院へ搬送されている。

 マーク・エスパー長官はすでに3月の時点で、米四軍のすべての部隊長および基地司令に対し、新コロ患者について世間に向けてのアナウンスをすべからず、と申し渡している。敵が、米軍の弱みに乗じようとするのを防ぐためだ。

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  Loren Grush 記者による2020-4-30記事「How a team of NASA engineers developed a ventilator for COVID-19 patients in just a month」。
     JPL(NASAのジェット推進研究所)は37日間の特急仕事で、医療用のベンチレーター「VITAL」のプロトタイプをゼロから作り上げた。

 3月16日からミニ・プロジェクトがスタート。ベンチレーターに数十年かかわってきた呼吸器専門医を呼び、ベンチレーターに必要なこととは何かをレクチャーしてもらい、JPL職員たちは要点を大きな白板に書き込んだ。

 これまで、火星探査機用などに、NASAは高信頼性のアクチュエーターをいろいろ設計してきた。それら、オフザシェルフの財産が使えた。

 新コロ患者の肺は硬直している。ベンチレーターは、それを十分に押し広げるだけの気圧を生み出してやる必要があるのだが、気圧をかけすぎると、こんどは患者の肺胞を傷めてしまう。その加減が難しい。

 ベンチレーターは、患者の肺の「吸気」をアシストするだけでなく、「呼気」もまた強制的に促進してやれなくてはいけない。
 しかしこれも容易ではない。というのは、新コロ患者の肺は、側壁が炎症を起こして粘着的になっている。もし肺胞内の空気を全部抜いてしまえば、その壁同士がくっついてしまって、ふたたび空間を空けることが苦しくなるのだ。

 肺の中の空気を吐き出させたときでも、肺胞がわずかに膨らみを保っていてくれなくては困る。電動ベンチレーターは、その加減をうまく調節できなくてはならない。

 試製品の機能テストには、たとえばこの機械の近くで誰かが強力な電波の携帯無線を送信した場合でも、機器の作動には何らのトラブルも生じないかどうか、等までがチェックされる。そういう試験は、NASAは得意である。

 4月30日、FDAは、JPLチームの試作品「VITAL」について、緊急措置的な許認可を与えた。
 これからチームは、メーカーと掛け合い、工場で製品を量産してもらわねばならない。

 およそNASAの製品は、1個か2個しか作られないような特注品が多い。大量生産についての知識は、NASAの者には、欠けている。そこは、メーカーに頼るしかない。

 ※この開発チームは当然、「3密」の状態でずっと作業を続けていたわけだよね?