ブレント・スコークロフトが死去していた。8月6日に。

  Matt Williams 記者による2020-8-7記事「Beyond the Fermi Paradox V: What is the Aestivation Hypothesis?」。
  エンリコ・フェルミはマンハッタン計画のメンバーで、終戦後もロスアラモス研究所に残っていた。
 1950年のこと。仲間の科学者数人との昼食時に、話題がUFOのことに及んだ。そのときフェルミが問いを発した。「〔その宇宙人とやらは〕みんな、どこにいるんだ?」

 いらい70年、この宇宙のどこかにはいてもおかしくはない宇宙人の存在の証拠が地球人類のセンサーによってはまったく見出せずにいる「フェルミのパラドックス」は、解かれていない。
 近年の一新説。宇宙人文明は「夏眠」しているのだ、という。

 地球生物も、環境が暑くなり過ぎたり、乾季が来ると、活動を停止し休眠してしまうものがある。それと同じだというのだ。

 宇宙は930億光年の直径があると考えられている。そのうち地球から観察できているのは138億光年の距離までである。

 この広さの中に多数の「文明」が存在しないと考える方が、賭けの歩は悪いだろう。

 そのような地球外文明と地球人類が交信できる確率を求める方程式を、フランク・ドレークが1961年に発表した。この式によれば、すくなくも今の時点で、数個の地球外文明(ただし銀河系内)と地球とが交信できていないのは、おかしいという結論が導き出される。

 フェルミのパラドクスに対するひとつの回答(未証明命題)が、「ハート-ティプラーの予想」とよばれるものである。この二人は、単純に、地球外文明は存在しないのだとした。

 オクスフォードの経済学者のロビン・ハンソンは「大フィルター仮説」をとなえる。彼は、宇宙には、単純生命を高等文明まで進化させないように機能しているフィルターのようなものがあるのだと考える。

 ソ連の宇宙学者ニコライ・カルダシェフは、地球外文明には、エネルギーの利用能力の点で、異なった三段階があるだろうと考える。
 すなわち、1惑星上で集められるエネルギーしか利用できない段階。
 その上の第二段階が、1太陽系のエネルギーを、かなり自由自在にできる段階。
 その上の第三段階が、1銀河系のエネルギーを、かなり自由自在にできる段階。

 第一段階の惑星は、その周りに人工衛星の雲が観測できるはずだ。
 第二段階の文明は、惑星外に巨大な人工構造物を有しているはずだ。

 そして、フリードマン・ダイソンが1960年に唱えた「ダイソン圏」を構築しているだろう。中心恒星のエネルギーを随意に利用して、居住圏を指数関数的に増やしているはずだ。

 第三段階の文明は、超巨大サイズの人工物を構築しているので、それが望遠鏡で見えるほどだろうという。

 「夏眠理論」は2017年にオクスフォード大「人類の未来研究所」の三人組、サンドバーグ、アームストロング、キルコヴィックによって提唱された。

 このうちサンドバーグとアームストロングは2013年に、高度文明は1銀河を殖民地化してしまい、他銀河への旅行の比較的容易である、と論じた。

 全宇宙に2兆個の銀河があるとすれば、第三段階文明も多数存在しているはず。

 ここにランドーの法則とよばれるものがある。
 大量の情報を処理するには、エントロピーの増進(=熱の減少)が必然付随しなければならないという。
 「ダイソン圏」を構築するほどともなれば、エントロピー増進もおびただしい量になる。

 宇宙の高度文明は、宇宙背景熱がもっと低温化するのを、待こつとにしたのだという。低温宇宙である方が、彼らの文明の建設活動を効率化できるからだ。
 エントロピーを宇宙背景熱に転換することによって、現今よりも、指数関数的に巨大な電算機運用が可能になるので、その時を待っているのだという。
 つまりコンピュータの排熱問題なのだ。

 しかし批判者は言う。コンピュータ上で、1ビットのネゲントロピーを、1ビットのエラーの消去のために、断熱的に使うことができるので、宇宙人は、宇宙が冷えるのを待つ必要などないだろう、と。

 ※この問題に真剣に回答を求めている人には、拙著『AI戦争論』の一読を薦める。西洋人の「殖民地」という発想パターンが旧人文化的にすぎる。個人の不老不死にまで到達した「高度文明」はそもそも「増殖」「圏拡大」を欲することがなく、圏外世界への関心もなくしてしまうことに、どうして過去の科学者の誰も気づけなかったのだろうか?