並木書房さんから、伊藤学氏著『陸曹が見たイラク派遣最前線』が10月20日に刊行される。その見本を読ませてもらいました。
著者は2004年8月から11月までイラクのサマーワ基地に駐屯。原隊は岩手の第9戦車大隊だった。
人間、めぐりあわせで、いろんな経験をします。
2003年に米英軍がイラク全土を完全占領することになり、その作戦の直後から、日本もイラクの「復興」を手伝えという話になった。
それでまず空自がクウェートに輸送拠点をつくり、ついで陸自の小部隊が、北の師団から持ち回りで、イラクへ送り出されることになった。
次は第9師団から派遣部隊を出すぞ――というタイミングに、著者が偶然めぐりあわせた。それで、そのチャンスに乗ることができた。
羨ましいと思います。
つまり2004年に第9師団の現役自衛官で、若くて身体が絶好調で、家庭の事情にも拘束されないという身軽さにも恵まれていたおかげで、テッポウ持ってイラクへ飛ぶという激レアな体験ができたわけである。
(本書では当然のこととして解説はされてないのだが、陸自はイラクへ戦車を搬入しなかった。4輪の軽装甲車はサマーワにはあったが、数は、陸曹・陸士を全員乗せるほどはなかった、と本書でわかる。)
派遣隊員の選抜。隊と隊員の諸準備。青森空港を747型機で離陸してタイの中継空港を経てイラクへ降りるという道すがら。……ことごとく好いテンポで同書は擬似体験をさせてくれる。
砕石路面では普通の自転車のタイヤはすぐにパンクしてしまって使いものにならない、などの情報が貴重だ。
約3ヵ月の勤務を終えて青森空港に戻ったら、迎えの3トン半トラックのバンパーに原隊の部隊名が読めて、非常に懐かしくなるという描写はイイ。「9戦車本管」とでもテンプレスプレーされていたのかな。
これが兵隊だったら、さらに続けて、営内居室の鉄枠二段ベッドとOD毛布の寝心地が、極上に感じられたりするところであるが、この人は陸曹だからふだん営外の家で寝泊りしているのかもしれず、その感想は聞けない。
ともあれこの本は一晩で目を通せるテキスト量ながら、じっさいにイラクに行って帰ってきた気分になれるのである。
私は、読んで満足しました。いちども出征の機会は無かった元自衛官として、ずっと心にかかっていた空白を、いささか満たされた思いがします。
次。
Joseph Trevithick 記者による2021-10-14記事「The Army Just Tested Its New Ballistic Missiles That Takes Aim At Previously Prohibited Ranges (Updated)」。
10月13日にロックマート発表。開発中の「プレシジョン・ストライク・ミサイル(PrSM)」の試射が成功したと。場所はヴァンデンバーグ空軍基地。ラーンチャーはHIMARSのものを転用した。
じっさいにどのくらいの距離を飛ばしたかは非公開であるが、事前の落下海域に関する危険警報から推定して、500km近く飛ぶポテンシャルはあるミサイルだと知られる。
※公式には脱退しているINF条約の規定では、レンジが500km未満であれば、開発にも保有にも配備にも何の制限もなかったのである。
過去の試射において、すでに400km以上飛ぶことは、判明している。
※那覇から魚釣島まで、射程420kmあれば届くので、このニュースは大朗報。つまり沖縄本島にC-130でHIMARSが空輸されてくれば、そのラーンチャーの中身は「PrSM」だろうと中共軍では想像をせざるを得なくなる。このミサイルは動いている舟艇にも命中する。よって、この装備が米陸軍に部隊配備されるようになった時点で、中共軍による尖閣侵略は不可能になってしまうのである。
次。
Bill Gertz 記者による2021-10-13記事「Chinese military seeks to dominate from space, deploys war-fighting tools into orbit」。
北鮮が宣伝で公開した写真の中に、中共の「東風21C」と「東風21D」に似せたモノが含まれているという。
後者は、レンジ1100海里の「対艦弾道弾」だ。
それは、「東風17」HGVもどきとは、別に撮っているのである。
もちろん、ハリボテの可能性大。ステージセットだ。
次。
James Kell 記者による2021-10-14記事「Australia’s Nuclear-Powered Submarines Should Be Built in America」。
米国の造船業界は、いま、毎年、2.6隻の『ヴァジニア』級原潜を建造している。
1930年代に発見された「セオドア・ライトのコスト逓減法則」によれば、ある製品の量産数が2倍になるごとに、それがいかほどに複雑な工業製品であったとしても、一定のパーセンテージで必ずコストは下がるという。
つまり、いま、世界でいちばん原潜を安く建造できる国は、米国である。
だから豪州は米国からSSNを買うべきである。
『ヴァジニア』級を1隻造るのに、年にのべ1万7500人の工員が働いている。納入費用は48億ドルである。
※この案件はコストが問題なのではなく、地政学が問題なのだということが、この若い大学院生には分かっていない。
次。
The Maritime Executive の2021-10-13記事「Scandlines to Proceed with Second Ferry Rotor Sail Installation」。
デンマークにある船会社の「スカンドラインズ」社は、「円筒状ローター帆」を2隻目の古いフェリーに後付けした。
その前に2万3000トンのフェリーで実験してみて、データをとったところ、調子が良かったので。
この金属帆のメーカーは「ノースパワー」社。
帆だけでなく、1.6メガワットアワー容量の蓄電池も増設する。それとディーゼル機関とで、ハイブリッド運航する。
このハイブリッド化によって、フェリーが排出する二酸化炭素が4%以上、減る。
この会社のバルト海航路は、ドイツと往復するもので、南北に走る。それに対してバルト海の風は、西風または東風である。常に船は横から風を受ける。塔状の「ローター帆」は理想的なのである。
筒径は16.5フィート。高さは98フィート。据付け工事は、一晩でできてしまう。
次。
Christian Shepherd 記者による2021-10-14記事「Americans vanquished, China triumphant: 2021′s hit war epic doesn’t fit Hollywood script」。
長津湖ではシナ兵2万人が死んでいる。うち4000人は凍死であった。
しかし、米軍を撃退したのである。中共軍は来る対米戦争でも苦戦するであろうが、最後は勝つので、人民は、中共党の指導を信ぜよ! そういう国内向けの宣伝映画。
映画は9月30日から上映開始。
2週間で興行成績6億6700万ドルを売り上げた。
製作予算は2億ドル。エキストラ7万人を動員した。
この製作会社は2017年に、《アフリカで中共軍の特殊作戦部隊が欧米傭兵を駆逐する》という筋書きの『狼の戦士2』を大当てして、やたら爆発するアクション映画がシナ市場でもウケるという手ごたえを掴んでいた。アカデミー賞にノミネートされることはなかったが。
今回の『長津湖の戦い』は中共党中央の宣伝部門がお墨付きを与え、公式にバックアップしている。それで、中共軍が全面協力。
※よって、エキストラ代はタダってこと。
ロケでは、3つの省の政府も協力した。
朝鮮戦争モノのシナ映画は、過去10年間、流行らないジャンルとなっていた。その前は、《中共が北鮮を助けたんだ》という現代史の教育と対外宣伝が主眼だったのである。
このごろまた、朝鮮戦争映画が作られるようになったのだが、昔との違いは、宣伝の主眼が、《中国が米国に勝ったんだ》という、国内向けの士気振作に置かれていること。朝鮮はどうでもいい。
昨年、武漢肺炎の影響を受けて、米国の映画市場はシュリンクした。その結果、中共の映画市場が稼ぐチケット代の方が、北米のそれを凌駕するようになった。いまや中共が、世界最大の映画市場なのである。
北京政府の事前検閲にハリウッドのプロデューサーが屈従せざるを得ない情況が、続いているわけである。
次。
Travis Pike 記者による2021-10-13記事「The APC9K: We get hands-on with the Army’s new SMG」。
米陸軍は、SMG=サブマシンガン にひきつづき価値を見出している。極限までコンパクトにすることにより、狭い装甲車内で使いやすい自動火器ができるからだ。
公式採用されそうな「APC9K」は、銃身長が4.3インチ、全長14インチ(ストックを畳んだとき)、重さは6.7ポンド。
特にボルトハンドルが、何かにひっかかったりしないような、絶妙なデザインになっている。
ボルト操作、マガジン交換は、左利きの者でも問題なくできるよう設計されている。
単純ブローバックながら、距離100ヤードでも小さなマトに正確に当たってくれる。
陸曹が見たイラク派遣最前線