ロシアは即応可能な常備戦力であったBTG(大隊戦術グループ)のうち75%をウクライナに投入してしまった。

 2022-4-1記事「DARPA Completes Underminer Program」。
   DARPAが研究をすすめている「急速築造戦術トンネル網」という概念。
 たとえばまもなく戦争がはじまりそうな地域に素早く物資貯蔵用トンネルを掘ってしまう。開戦後は、味方地上軍の移動にあわせて、再補給用の地下通路を次々に延伸。さらには、レスキュー・ミッション用に急速に掘り進むトンネル技術などなど。

 「アンダーマイナー(坑道掘り)」計画、と称している。

 このプロジェクトのために、コロラド鉱山大学院大学は、液体噴射とハイブリッドしたドリルビットの試作品を設計している。

 GE研究センターからは、人工筋肉を用いた坑夫ロボット。

 他には、ドリルビットの先端位置が地中のどこにあるか、「ビーコン」を使わないで把握する方法、などなど。

 ※ノモンハン事件で日本軍が苦戦した理由のひとつに、現地が砂地で、坑道陣地を掘れなかったことがあると思う。ところが文献を読み返してみると、飲料水補給のために大量のドラム缶がトラックで運ばれていたこともわかるのである。だったら、単純に、工夫が足らなかった。空のドラム缶をトーチで切断すれば、トンネル資材にできたはずである。輪切りカットしたドラム缶由来の急造資材だけを組み合わせて、金属製の「クォンセットハウス」のようなカマボコ状地下スペースを造成する方途も、かならずあったはずである。現代であれば、さいしょから、地下トンネル資材に現地転用することを念頭した、特殊規格の最前線補給用のスチール缶が、用意されていたっていいはずだろう。

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 Hannah Roberts 記者による2022-46記事「Italy and Russia: A love affair that hasn’t quite ended」。
   西欧にあって、対露制裁に反対する政治家が多いのが、イタリアである。

 例えば3月にイタリア議会にてゼレンスキーがリモート演説したのだが、3人に1人の国会議員は、その場を欠席した。

 全員、クレムリンの友達、と思ってよい。

 イタリアではWWII後に共産党が有力で、かたや、右派のポピュリスト政治家もプーチンが好きである。
 つまり中道以外はぜんぶ、ロシアの味方なのだ。

 こやつらはウクライナへの武器支援にも大反対している。イタリアの国防費増額にも大反対している。

 腐っているのは国会議員だけではない。市井人にアンケートをとると、12%がロシアの侵略は正義だと思っていることが分かるのである。これが右派の有権者になると、36%がロシアの侵略支持なのだ。

 大学教授で、安全保障の専門家であるアレッサンドロ・オルシーニは、核攻撃されたくなければ西側はプーチンに今の戦争を勝たせるべきだと国営TVにて発言し、大学を馘になった。これはイタリア国内を二分する騒ぎとなった。

 イタリアとロシアの関係は浅くない。作家のゴーゴリやゴーリキーはイタリアに住んでいた。サンクトペテルスブルグの宮殿設計者はイタリア人であった。

 1人のイタリア共産党員が、ウクライナ戦線でプロ・ロシア陣営に参加していたが、先週、戦死しているそうだ。

 ソ連時代、自動車メーカーのフィアット社は、ソ連国内における最大の乗用車工場を、トリアッティ市に建設してやっていた。このトリアッティという名前、ソ連市民権も与えられていた、イタリア共産党党首の名前に、ちなんでいるのである。

 近年、トスカニ地方には、ロシア人の観光客があまりにも押し寄せるので、「ルスカニー」地方だとあだ名されたほどであった。※1992春にロシア取材したときも、ホテルに中~高校生くらいのイタリア人修学旅行団体がご到着していたのを思い出したわ。

 2002年頃のベルルスコーニ首相はプーチンとベタベタの関係であった。ベルルスコーニは右派の党首だったのだが。※日本にもいたろう。そういう、どうかしている首相が。そしてそれを非難できない愚劣なバカ右翼どもが。

 2014のクリミア侵略を支持した、反EU&反移民主義の政党メンバーが、ロシアから政治資金を受け取っていたというスキャンダルも2019に持ち上がっている。

 ウクライナ国境近くのポーランドの市長から「来るんじゃねえ」と拒絶されたサルヴィニ氏は、2014年からプーチンTシャツを着てパフォーミングしている筋金入りである。

 ようやく今のドラギ内閣が、イタリアの針路をまともに直している。ドラギは米国で経済学を学んだ男だ。彼はイタリア国内にある、ロシアの腐れ富豪の隠し資産も、差し押さえさせている。

 ドラギは、現状GDPの1.4%であるイタリアの国防予算を2028年までに2%にするべく、国内で根回し中だ。

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 並木書房さんから超シブい本が出た。
 『中国の航空エンジン開発史』。需要のあるテーマのはずなのに、いままで誰も書いてくれていなかったのだ。

 著者はIHI在職中の1994年からこのテーマで資料収集を開始して、去年退職されてこの本をまとめた。すなわちその道の専門家による多年のご労作である。その結論が《欧米との20年のギャップはこれからも埋まらない》なので、とても心強い。(ただしターボエンジン限定の話である。)

 こういう著述に、ライター専業者が今、挑戦できるかと自問すれば、おそらく無理ではないかと思う。

 この本の単価は1800円+税だが、近年の出版環境(想像される刷り部数)だと、執筆のために投入した時間をコスト換算し、それを印税から引いたら、著者にとっては赤字となるのは必定だ。家族を養うどころか、単身家計の生活費にも足りないかと思われる。

 すなわち、こういう出版企画は、他に別な安定収入もしくは十分の資産がある、特別な恵まれた書き手がみつからないことには、成立しない。それがこうして立派に成立したことは、日本の読者のため、慶賀の至りである。



中国の航空エンジン開発史