チェコ共和国からウクライナに、ロシア製武装ヘリが供与されるという。

 Kamil Galeev 記者による 2022-6-22 記事「How can Putin make stuff?」。
   典型的な誤解。ロシアは中共を味方にしているので米国以上に多量のミサイルと砲弾を量産しているのだと。これはただの空想だ。中共も否定しているし誰も証拠を出せない。
 真実は、ロシアは今までずっと西欧の技術を自由に使えていたから米国以上に多量のミサイルと砲弾をこれまでは量産できたのである。

 90年代のロシアで何が起こったか。経済凋落→政府の軍事支出減→軍需工場の経営危機→設備投資はできなくなる→国内の工作機械産業が壊滅。

 ソ連時代には工作機械を輸出していたほどだったのに、それが死んだのだ。

 これには日本が関係がある。1970年代に日本がCNC、つまり数値制御式の工作機械を製造業界に導入した。ソフトウェアのプログラムで工作機械を精密に動かそうというのだ。ソ連はこれに追随しようとしたが、できないでいるうちに、ソ連そのものが崩壊してしまった。

 ※東芝機械の多軸制御式スクリュー削り出し機の対ソ密輸事件の背景だね。

 そのため、ロシア財政がガス輸出で復活しても、工作機械産業の復活はなかなか難しい話になってしまった。いまさらNC旋盤以前の工作機械を復活させても、しょうがないのだ。NC旋盤以降の現代の工作機械を国産しなければいけないのだが、技術断絶があるために、基盤がゼロ。自力ではどうにも西側とのギャップを越えようがなくなってしまった。

 ここで西側の人は「労働者」について想像して欲しい。
 NC旋盤以前、ソ連の工場では、ブルーカラーの熟練技能工たちが、リスペクトされ、しっかりと高給を貰っていたのだ。
 ところがソ連崩壊後、非数値制御式の古い工作機械の熟練技能工には、大工場は、給与そのものを支払おうとしなくなった。強制リストラである。彼ら熟練技能工は、一斉に、乞食の身分にまでおちぶれた。

 数年間無給でも失業よりマシだからと、少数の技能工はそれでも工場に残ろうとした。しかし、新人工員は入って来ないし、ラインは死んだ状態で何年も放置されたのである。

 NC旋盤なら新人の素人でもプロ並に操作ができる。ところが、NC以前の世代の工作機械は、熟練技能工がいなくなったら、もはや誰にも扱えやしないのだ。ブルーカラー人材の継承が何年もできなくなるということは、業界にとって、全球凍結大絶滅を意味するわけである。

 80年代までは、ソ連には、13歳から入れる少年技能工の育成学校があり、そこを卒業すれば、世間並み以上の就業待遇と老後の安居が確約されていた。成功者コースであり、インセンティヴがあった。
 しかし90年代以降、そのようなキャリアコースは、まったく無意味になった。

 ロシア経済のどん底は、1998年である。そこからV字回復が始まる。
 2000年に入り、石油・ガス収入が巨大化。ようやくクレムリンは、軍事産業を復興しようという気になる。
 だが……。

 予算が増えたロシア軍が国内の工場にあれこれ発注しても、工場ではそのリクエストに答えられなかった。NC旋盤がなく、さりとて、古い旋盤を扱える技能工もいなくなっていたから。

 戦前のスターリンには、分かっていたことがある。スタは「生産のための手段をまず生産しろ」と言った。製造業ならば、これは工作機械のことを意味する。しかしプーチンにはここが分かってなかった。

 旧ソ連時代に熟練工であったブルーカラーは、2005年にはもう老衰していて、2010年にはほぼ消えたと考えられる。
 その技能を継承する若者の人材プールはゼロだった。
 ではどうするか。

 その頃までには、戦車砲の製造すら、国内では難しくなっていたようである。

 こうなっては、もはや、やれることはひとつしかなかった。
 ドイツから最新世代の工作機械をまるごと輸入するのだ!
 かくして、大量の工作機械が輸入され、その85%が、軍需工場に据えつけられた。

 ドイツ製以外では、スイス、イタリア、日本、米国製の工作機械も、据えつけられた。

 豪州製やトルコ製の工作機械だってある。カリニン市にある「S-300」対空ミサイルのラインでは、トルコの「エログル」社の工作機械が大活躍している。

 ここで興味深い事実を話そう。記者は、ロシアが中共製の工作機械を買っている証拠がないものか、ロシア国内で公開されている工場内の画像資料を継続的に調べてきた。結論。ひとつも無し。

 なぜそうなのか?
 証明できない仮説をいくつか語ろう。

 まず、中共の技術にはロシアと同じ弱点(チョークポイント)があるのかもしれない。たとえば超高性能ベアリングだ。中共もそれは西側製品を頼っている。無い技術は、他国へ供給しようがないわけである。

 中共に『科技日報』とかいう国営新聞があるのだが、2018年に、中共はまだ35の分野で外国技術に頼っているという連載記事が載った。それはネットで確かめられる。

 だがそれでも疑問は残る。最先端ではない工作機械なら、ロシアに輸出できるのではないか?

 答えは、これまた仮説となるが、ロシア工場内でその「決裁」を取るのが、難しいのではないか? つまり中共製の工作機械類には「ブランド」としての信用が無いのではないか。
 何人かの工場幹部がその購入案に反対したときに、その反対を押し切るだけの「説得力」がイマイチ出てこないのではなかろうか? 「安い」というだけでは、もちろん、投資として合理化されないのである。製造機械への投資は、軽い胸算用で踏み切ることが、ゆるされない。

 三番目の仮説。ロシアでは、こと、軍需産業に関しては、政府の上の方から、中共製の機械を買って据えつけることが、禁止されているのかもしれない。製造機械を輸入するときには、かならず、中共以外の国から輸入しなくてはならない、という指導でもあるのだろう。

 ところでロシア人の頭の中には人種序列がある。最上がドイツ人とスイス人。日本人は名誉白人の扱い。しかるに中国人は「サブヒューマン」と考えられている。しかしそんな人種観が理由で、中国製の工作機械をロシアの工場に据え付けさせないのではないだろう。

 ロシア人の頭の中ではタタールも「サブヒューマン」なのに、トルコ製の機械は据えつけられているではないか。
 おそらくロシア人から見てトルコ人は怖くないのだろう。
 中共はどこが怖いか。全体主義体制である。一枚岩として行動する。そこをロシア人は警戒する。ロシア人は支那人を御しやすいと考えていないのだ。西洋人の方がくみしやすいと考えてきた。これまでは。

 ヨーロッパはロシアとの戦争になっても一枚岩になれないだろうとロシアは見ている。だから西欧からの輸入は、ロシアの弱みにはならない。西洋と対決することになっても、ロシアは西欧圏内の分裂に乗じることができると思っていたのだ。

 しかし、ロシアが中共と対決しなくてはならなくなったとき、そうはならない。中共は統制的に行動ができる。ロシアとしてくみしやすくない。だからそのときに弱みを握られないようにしておかなくてはならぬ。それで中共製の機械は買わないという方針があるのだろう。

 ロシアは今、焦っている。まさか西側が一枚岩的に対露の経済制裁を打ち出せるとは思っていなかったからだ。

 こんどばかりは、ロシア指導部が西側から「奇襲」的な反撃を喰らってしまった。一枚岩の経済制裁を、モスクワは予測していなかった。

 ロシアは恐支病を治すときにきたように思われる。

 次。
 Thomas Newdick 記者による2022-6-22記事「‘Kamikaze’ Drones Strike Russian Oil Refinery, Looks Like Model Sold On Alibaba」。
   ロストフのウクライナ国境近くの石油精製施設〔ドネツク方面への補給線の後方に当たる〕にダイブ突入した自爆無人機は、アリババで通販されている中共製をウクライナで改造したもののようだ。

 突入動画はまず「テレグラム」にUpされ、そこから他のSNSへ拡散した。

 ツイン・ブームの後端に、左右連絡水平尾翼。中央胴にプッシャー・プロペラ。垂直尾翼には後退角あり。

 精油工場の声明。2機がノヴォシャティンスクの工業施設に突っ込んだと。
 1機目が現地の朝の8時40分。2機目は9時23分。
 怪我人はいない。

 ウクライナが国産している「PD-1」もしくは「PD-2」ではないかという憶測は否定された。それらはTB2と似た「倒立V形」の水平尾翼であるのに対し、突入機の水平尾翼は山型になってないので。

 ロシア製の「Forpost」の墜落機を再生したという説も否定される。垂直尾翼が後退角形状ではないので。

 いちばんそっくりなのが「アリババ」通販サイトで売られている「Skyeye 5000mm」という商品だ。
 5000ドルから1万ドルで売られていることが分かる。

 宣伝スペックによると、「5000mm」というのは、ウイングスパンが5mだから、らしい。
 全長は3.67m。
 中央胴長は2m。中央胴巾は37.5センチ。
 翼面積は251.6平米。
 ファイバーグラス製。
 飛行最大重量90kg。
 エンジンは「ツイン」〔おそらく2サイクルのこと〕のガソリンで、170cc.~200cc. 型番は「DLE170」。
 空荷重量30kg。
 巡航時速55km。
 最大速度150km。

 水平尾翼はオプションで∧形にもできると謳っている。

 プロペラは32×10、木製。
 サーボは「PY-20AL×11」。「FUTABA3001」をアクセレレーターに使っている。

 ケヴラー製の燃料タンクには27リッター入る。計算するとそれで7時間飛べる。

 最大離陸重量は85kgなので、燃料以外のペイロードは15kgから20kgというところだろう。

 攻撃された精油所と、ウクライナ軍の支配地との間の距離は、最短でも100マイルある。それ以上は飛んだことになる。
 露軍のSAMシステムは、この低速機が2機、飛来するのを最後まで止められなかったわけだ。

 次。
 Sebastien Roblin 記者による2022-6-23記事「Russia Finally Has Its Artillery War in Ukraine. But Can It Win?」。
    ロシアのBTG(大隊戦術グループ)がどんな戦法を目指しつつあるのか、わかってきた。
 「砲兵主体の進撃」を実行させようというのである。
 グループの中軸は、野砲である。
 戦車と歩兵は、その主役である野砲を敵から守るための「スクリーン」(防護壁役)に徹する。
 野砲の目になるのは、ドローンだ。

 野砲が前面の敵を撃砕したら、そのあとから、おもむろに戦車と歩兵が前進する。そしてドローンが次の制圧目標を探す。これを繰り返すのだ。

 「大隊」には意味はない。最前線でアドホックに臨時編成されるので。総勢が2個大隊以上の陣容に膨らむこともあれば、1個中隊に縮むこともあるだろう。だが、「大砲中心」というコンセプトだけは不動である。

 野砲は、直接照準射撃ができるほどには、決して敵に近付かない。最大射程ギリギリで常に敵と交戦するように努める。UAVに観測させて、間接照準射撃。これに徹する。

 げんざい、ロシア軍には、教練を経た「使える歩兵」が足りない。そして将来も精鋭歩兵が足りるようにはならない。この所与環境が、BTG戦法を正当化する。歩兵が足りない軍隊は、砲兵に投資せよ。昔から、このやり方しかないのだ。

 2月24日の侵攻初盤には、ロシアはこの「正しいBTG戦法」を採っていなかった。ウクライナ軍を舐めてかかっていたので。

 露軍のドクトリンでは、戦車に随伴する下車歩兵の数が規定されているが、今次戦争の初盤では、その規定数の三分の一の歩兵しか、随伴させていなかった。

 キエフやハリコフに地上軍が到達する前に、燃料・弾薬・糧食が尽きてしまったのは、露軍の後方兵站が鉄道に依拠しすぎていたから。複数の軸で、しかもあれだけの距離の侵攻をサポートするのに必要なトラックがまるで足りていなかったのに、無理に挙行したから。

 ウクライナの都市は、BTGの前進を止めた。都市に近づくにつれて、歩兵や戦車の直接照準戦闘がどうしても増える。ところがそれに勝つのに必要な練度が、露軍にはなかった。練度ゼロの田舎徴集兵をやみくもに敵方へ向わせて自滅させるばかりだった。

 敵に長距離砲が無い場合、BTG戦術は、一進一退局面で強い。敵の前衛歩兵と車両が、こっちの野砲の間合いに入ってきてくれるので。しかもUAVからよく見えるところに出てきてくれる。おまけに、ウクライナ砲兵はここへ来てタマが切れた。それでこんどはウクライナ軍の損耗が増えているのだ。

 エコノミカルに戦わないと、消耗戦は持続困難である。ウクライナ軍はまだエコノミカルな戦い方を会得できていない。

 これから徐々に、NATOからの野砲寄贈が実り、夏にはウクライナ砲兵のレンジが増し、露軍の後方兵站を脅かすようになるだろう。