「新々・読書余論」、始めます。

 オンラインで読めるようになっている本邦未訳の珍古書を、要約と摘録によって1冊ずつご紹介して参ろうと思います。要約は小生がしておりますが、その前段階の欧文和訳作業には、各種のAIを駆使できる有り難い方々のお力添えを、忝うしました。卒爾ながら一括して御礼を申し述べます。

 「こうした資料があるよ」という情報さえ、簡略に案内がされたならば、あとは、ご関心おありのめいめいが、各自にアクセスしてAI翻訳を試みたら可いわけでございましょう。

 まず初回は、Dillon Wallace氏著の『Packing and Portaging』(1912刊)です。
 この原著者さんは、ほとんど命知らずと評し得るほどのレベチなアウトドア野郎で、NYCを拠点にし、南米ラブラドール荒野や、ロッキー山脈などまで広く跋渉した人。しかし本業は弁護士でしたので、言っていることに説得力があるのです。

 登山用語の「パック」は、馬の荷物のことも言う。
 「ポーテージ」とは、カヌーでの探検中、内水航路が行き詰まって、短い区間、カヌーと荷物を担いで陸送しなければならない区間のことを言い、また、そうする行為の動詞でもある。

 全長16フィート×幅33インチ×深さ12インチ以上のカヌーは、2人の人間と、10週間分の食料を積載できる。
 3人乗りのカヌーも可能だ。数値は省略。

 長期の巡航旅行では、予備のパドルも1本用意せよ。
 急流遡航には「ポール」を使う。その材は、現地で切り出せばいいのだが、先端にスパイクを固定する必要がある。

 ロープは直径1/2インチのものを100フィートほど用意せよ。

 全長24インチまたは28インチの、3/4サイズの斧が、キャンプ用斧として使い勝手が良い。
 斧は「2本用意すべきであり、そのうち1本は短いハンドル、もう1本は少なくとも24インチ、できれば28インチのハンドルを装着したものが望ましい」。
 このサイズ未満の玩具級の斧しかなくば、夜のキャンプファイヤーは諦めるしかない。

 水に浮くタイプの石鹸があり、これを推奨する。沈んでしまう石鹸に比べて紛失する可能性が低いので。

 ブヨや蚊から頭部を防護するには、肩にかぶるタイプの黒いボビンネットに腕の下を縛る紐をつけたものが最適。

 ハエ避けの薬を事前に用意できなかったときはどうするか。あるインディアンから教わったこと。脂肪の多い塩漬け豚肉の皮をポケットに入れ、時折その脂ぎった面を顔や手に擦りつける。

 革製の銃ケースは濡れると重くなるのでダメ。キャンバス製ケースにすべし。

 ライチョウを撃ちたいのなら、「.22口径」のシングル・アクションの長銃身ピストルが、携行していて負担にならない。

 重量物を一人で運搬するスタイルとして、「タンプライン」に是非、習熟すべし。
 背負子の一種だが、革製の幅広の帯を、前額部の高い位置で前に押し、首の強力な筋肉によって負荷を分担する。肩紐やその他の補助具は一切必要ない。

 カナダのハドソン湾会社の荷運び人や、インディアンたちは、すべての肩掛け式運搬具を排して、タンプラインのみを使用している。
 タンプラインを使い慣れた熟練の荷運び人は、180kg以上もの荷物を平気で運んでいる。著者は、1名の熟練者が260kgを背負う光景を見たこともある。

 タンプラインの頭帯は、長さ約45~60センチメートルで、幅広の革帯。その両端に、通常2m強の革紐がある。したがって全長は4.8m。
 よくできたタンプラインは、荷担ぎ後に、バックルで長さ調節ができるようになっている。

 初心者は、まず30kgの荷物でタンプラインに慣れよ。それを2週間続ければ、45kgの運搬が苦にならなくなる。
 肩だけだと、23kgまでが、人が快適に負担できる限界の重さである。

 「経験豊富なポーターでハーネスを使用する者はいない」。
 タンプラインは、緊急時に簡単に安全に荷物を脱することができる。ハーネス系背負子では、そうはいかない。

 カヌーのヒビ割れを修繕する方法。トウヒの樹液が入手できる地域では、フライパンで樹液を加熱し、冷ましながら、硬くならぬ程度の油を加える。樹液が熱いうちに傷口に注ぎ、開口部にしっかりと流し込んで外側にも均一に塗り広げる。

 カヌー旅の鉄則。必ずロープで全ての荷物を固定せよ。
 原著者は、最寄りの補給基地から数百マイルも離れた急流で転覆し、ほぼ全ての食料、銃器、斧、調理器具を失い、雪原を3週間かけて基地まで戻らねばならなかったという、苦い経験を有する。

 探検のための乗馬や駄馬の選び方。
 野営のあいだ、馬には野草を喰っていてもらわねばならない。ロープで繋いだ範囲の植生では、体力は維持できない。したがって、つながなくとも奔馬しない性質の馬である必要がある。

 険しい山岳地の狭い山道では、ラバの方が足取りが確か。
 ただし、優れた乗馬用ミュールは稀なのだ。メキシコ以北では、みたことなし。
 騾馬の主な欠点は、湿地帯の道で臆病になること。理由は、蹄が馬よりもずっと小さくて、簡単にぬかるみにはまってしまうことを、彼らは自覚しているので。

 驢馬は、もう一日の仕事は終えたと自己判断し、そこで立ち止まって、ぜったいにそれ以上は動かなくなる。
 だから、セージブラシの残骸しかないような砂漠を旅する場合以外は、ロバは使うな。
 ミュールと同様、沼地を歩かせたり、渡河が必要な川を無理に渡らせたりするのは困難である。

 すべての馬にはホーブルズ(放牧するとき脚を縛る紐)と、荷物の積載卸下のときにおちつかせるブラインド頭巾が必要だ。
 それらは、西部のほぼすべての村の雑貨店で購入可能だ。
 首ベルも、馬を放牧させるときには、あると便利だ。

 トボガン〔インディアン式のアキヲ〕は、曳き手の体重に等しい荷物を、搭載可能。もし体重150ポンドの人が2人で曳くなら、300ポンドを載せてよい。

 8頭に曳かせる犬橇は、通常は800ポンドが満載上限。条件が悪いところでは、600ポンドでも重すぎる。
 原著者は、犬ぞりで1日に60マイル進んだこともある。が、条件が悪いときには、1日に10マイル未満となる。

 極地でズボンの毛皮を裏返しにして着用すると、エスキモーに嗤われる。
 「動物は毛皮を内側にしない」とエスキモーは言う。
 汗の湿気が凍結して、とんでもないことになるのだ。

 犬には、1頭あたり1日1ポンドのペミカンを、夜にのみ、与える。ペミカンがなければ、脂肪0.75ポンドと、肉または魚0.75ポンドを与える。純粋な脂肪食は病気を引き起こすから、避けるべし。

 白人が犬チームを効率的に扱えるようになるには少なくとも1年の経験が必要である。それでもエスキモーの技量には及ばない。要するに、北極を探検したいのならエスキモーの犬ドライバーを雇え。それを厭うから、多くの北極探検は失敗したのだ。