「新々・読書余論」――『アセチレン・ガスの初歩』(1909年改訂版)

 オンラインで読めるようになっている本邦未訳の珍古書を、摘録をまじえて恣意的に短くご紹介する「ちんこハンター」最新弾です。
 AIを使った下準備の全文訳を、上方の篤志機械翻訳助手さまにお願いしました。
 なお、図版類は省略しています。
 テキストを公開してくださっている「プロジェクト・グーテンベルグ」さまはじめ、各位に御礼を申し上げます。

 原題は、『Acetylene, the Principles of Its Generation and Use』です。

 著者は、F. H. Leeds と W. J. Atkinson Butterfield のふたり。ただしリーズさんは1908年に急逝しました。
 リーズさんは、『アセチレン』という専門雑誌の編集部にいた人。
 バターフィールズさんには『ガス製造の化学』という著書があります。

 1903年の初版では、カルシウムカーバイドと水からどのようにアセチレンが生成されるかの説明から始め、白熱照明その他に利用する人を教育しました。
 異なる有効圧力でアセチレンを供給するための主管および供給パイプの適切なサイズの表を載せたのが、親切ポイントでした。アセチレン照明システムの設置に関わる業者を、大いに助けたはずです。

 英国では、照明システム用に、石炭ガスやオイルなども使われているが、最小の燃料容積で最も明るく照らしてくれるのは、アセチレンである。蝋燭よりも、体積あたり、明るい。

 ということは、ビルの建設のさいに設備が必要なガスタンク(ガスホルダー)のサイズも、最小にできるということ。

 アセチレン・ガスの売り物としてのコストは石炭ガスよりも高いが、その生成はじつに簡単であって、カルシウムカーバイドを輸送するコストも低い。だから、石炭を原料とした石炭ガスよりも、総合的には経済的である。

 アセチレンの燃焼は安定的であって、自己持続し、ちらつかない。燃焼時の騒音も、石炭ガスのバーナーよりは抑制されている。しかも、光が白くて柔らかい。
 また、石炭ガスやオイル・ランプよりも、空気を汚さない。

 アセチレンの1体積が完全に燃焼するためには、2.5体積の酸素を必要とする。大気の中には、21体積の酸素と、79体積の不活性ガス――主に窒素――がある。アセチレンの1体積の燃焼過程で、約11.90体積の空気が、人の呼吸には適さなくなるわけだ。

 石炭ガスは、燃焼時にその体積の約6.5倍の空気しか必要としないのであるが、体積あたりの光量がアセチレン・ランプの三分の一から十五分の一と暗いために、けっきょく、アセチレン照明以上に空気を損なってしまう。

 アセチレンの1体積は、燃焼時に2体積の二酸化炭素を発生する。石炭ガスの1体積は、約0.6体積の二酸化炭素を発生する。

 かつて、実践的に達成が可能な最高のレベルまで精製されていたロンドン市の石炭ガスは、平均して100立方フィートあたり10から12グレインの硫黄しか含まず、実質的に他の不純物を含まなかった。
 しかし、現在ロンドンおよびほとんどの地方都市では、石炭ガスは100立方フィートあたり40から50グレインの硫黄を含む。

 一部の都市では、石炭ガスに100立方フィートあたり少なくとも5グレインのアンモニアも存在する。

 粗アセチレンも、硫黄およびアンモニアを含み、現在良質のカルシウムカーバイドから来るものは100立方フィートあたり硫黄を約31グレインおよびアンモニアを25グレイン含む。

 粗アセチレンは第三の不純物、すなわち石炭ガスには混じらないホスフィンまたはリン化水素を伴う。それはアンモニアまたは硫黄よりも、好ましくない。
 これら不純物の除去方法は、第V章を見よ。

 本書は主張する。等しい照明効果を得るのに、アセチレン照明の方が、石炭ガス灯よりも、室内の空気を悪くしないようにできる。

 石油ランプは、ほやの日常的な清掃を要求する。また、住居内全体を石油臭くしてしまう。
 アセチレン照明システムは、パイプ継手作業が適切に行われていれば、臭いをまるで伴わない光を提供できる。清掃の手間はゼロである。

 大邸宅のランプ室は、可燃性オイルの貯蔵と、油まみれのぼろ布のコレクションにより、火災のリスクを常在化させる。

 アセチレンのガス発生器小屋は、本邸からある距離の別棟に設備されるので、安全であり、また、ガス発生時の臭気は、屋内にはこもらずに、すぐ屋外へ消散する。

 アセチレンは燃焼時に石炭ガスの約3.5倍の熱を発生するが、光の量と質が優れているので、石炭ガス照明バーナーよりも、同じ照明仕事をさせたとき、排熱量は減る。ただし、電気ランプよりは、3倍の廃熱があるであろう。

 生火の照明は、屋内の天井を黒く汚すか? じつは、今日の商業的な生火照明は、黒煙・煤・炭素を、ほとんど発生させてはいない。しかし、室内の空気中の塵を、長期間、天井の一点に吹き上げ、吹き付ける対流を起こすことにより、必然的に、天井がすすけてくるのである。

 アセチレンの焔を通過した空気は殺菌される。

 げんざい、照明用の石油、ケロシン、またはパラフィンオイルの産地は、米国ペンシルベニア、ロシアのコーカサス、およびスコットランドぐらいに限られている。

 20キャンドル光量相当の大オイルランプは、燃料1ガロンあたり約55時間燃焼する。
 大ランプは、大邸宅の玄関ホール、リビングルーム、キッチンで使用される。下層階の通路や小部屋には、ずっと小さいランプが使われる。

 ろうそくは、下層階が石油ランプで照明されている邸宅の寝室で使用されるものである。
 もし、そのような家にアセチレン・システムが設備される場合、それは主要な寝室およびドレッシングルームだけでなくリビングルームにも採用される。
 ディナーの前に着替えようとする女性は、ランプの光量ではまったく不満に感ずる。

 実感では、30本の良いろうそくが、大オイルランプや、アセチレン室内照明に匹敵する。

 アセチレンを水と反応させて得る原料は、カルシウムカーバイドと呼ばれる固体である。
 現在、この物質は電気炉でのみ商業規模で製造されており、将来的にも電力以外で大規模生産される可能性はほぼない。
 その電気炉は、安価な石炭または水力が豊富な大規模工場でのみ経済的に稼働可能であり、一般消費者が自らカーバイドを製造することは不可能である。

 カルシウムカーバイドは現在、水や含水液体、吸湿性固体、結晶水を含む塩と反応させてアセチレンを発生させる以外にほとんど用途がない。
 将来、価格が下がれば、さらなる利用可能性も増えるだろうが、そうならないうちは、アセチレン生成以外の用途はない。

 カルシウムカーバイドは、水と接触すると可燃性、場合によっては爆発性のガスを発生するため、建物内に存在すると火災リスクが増すと誤解されている。
 実際には、水がなければカーバイドは完全に不活性である。火災現場から複数回、カーバイドのドラム缶が無傷で回収された例がある。

 1ポンドの小缶(自転車照明用など)を除き、カーバイドは頑丈な鉄製ドラム(リベットまたは折り目接合)に詰められる。その蓋が外れていなければ、気密・防水であり、消防ホースで注水しても問題ない。

 いちどドラムを開封して内容物の一部を使用した場合は、火災リスクだけでなく大気中の水分による劣化を防ぐため、蓋を再度、気密に封印(ただし半田付けはダメ。加熱で開いてしまうから)するか、残りを完全に密閉可能な別容器に移すことが推奨される。
 ある種の特製ドラム缶は、開封後も気密に再封可能である。

 さらに、安全弁付きの容器を使用すれば、急激な加熱による空気・アセチレンの膨張による破裂リスクを排除できる。

 英国の多くの地方自治体は、カーバイドの保管に規制を設けている。たとえば5ポンド超の保管には、許可証が必要だ。

 1分子のカーバイドは、1分子の水と反応し、1分子のアセチレンと1分子の石灰を生成する。
 水が過剰なら、余剰水は未反応のまま。カーバイドが過剰なら、余剰のカーバイドは未反応のままだ。

 カーバイドと水の反応は、大量の発熱を伴う。
 水を過剰に存在させておくことが、安全につながるだろう。

 カルシウムカーバイド1分子量が分解され、アセチレン1分子量が生成されると、水の2分子のうち、1分子のみが分解され、もう1分子は水酸化カルシウムに移行する。

 カーバイド64gを水で分解、または水18gをカーバイドで分解(いずれの場合も副生成物は水酸化カルシウムまたは消石灰であり、後者の場合はさらに18gの水が必要)する際、29.1大カロリーが放出される。

 水酸化カルシウムを完全に溶液状態にするのに十分な水が存在する場合、放出される総熱量は3カロリー増加し、合計32.1大カロリーとなる。

 28大カロリーの熱量は、水1000gを28℃上昇させられる。

 カーバイドの装置は、大きいほど、水を余計に存在させる必要がある。

 ※兵頭いわく。本書の後半部のほとんどを省略します。今日、世界的に工業火薬が不足しつつあるため、重量2トン前後もある片道特攻無人機を1基のカタパルトからたてつづけに何十機も発進させようと思ったら、「火薬を用いるRATO」ではない、なにか別な離昇アシスト手段が必要です。カーバイド反応は昔からよく知られているもので、レアな物質は一切必要としないで、安価に、即席に「高圧水蒸気」を得られる手段にできるのではないかと直感します。「火薬を用いない蒸気ピストン」、それも、「燃料」のカプセルを1回ごとに使い捨ててしまうようなやり方が、可能なのではないでしょうか?