沖縄の核シェルター

 米国防総省が「テポドンの標的はグァムと沖縄の米軍基地だ」とコメントしたのは、もう古い話で平成6年5月9日です。
 これを聞いて北鮮は『そうかDoDはグァムを狙われるのは厭なんだな』と悟りまして、「我々は射程3000km以上のSSMを開発するニダ」と発破をかけたのはまず間違いないでしょうが、一度も実射試験もなされていないのに、ちょうど10年後の今年になって「それは完成した」というインフォメーションが流れたのはどういうわけでしょうか。
 これは金正日とDoDと日本国内の無責任マスコミが合作しているようなものです。この三者が合作すれば、核爆弾でもIRBMでも、無いものが有る、それも量産体制に入っているという話になる。一度もテストしてない高額精密兵器を量産するバカがどこにいるのでしょうか。わたくしでしたら、実戦で不発になってから後悔したくはありません。
 沖縄には、ノドンやテポドン以前から、地下壕があります。航空自衛隊の防空用の指揮所などは、大型通常爆弾の直撃や、離れた所での核爆発のEMPを凌ぐことのできる半地下壕構造となっております。自衛隊ですらこれですから、詳細は不明乍らも、米軍も必要な重要施設は防爆化しているだろうと信じられる。それは何を念頭しているのかといえば、むろんのことに北朝鮮じゃありません。60〜70年代はシナの原水爆であり、80年代は主としてソ連の水爆であり、90年代以降は再びシナの核兵器ですよ。
 シナの核の脅威は、北鮮のありもしない核ミサイルとは違い、リアルです。
 ところが、この最前線の沖縄に、民間用の核シェルターが自治体によって全く整備されていない。これは兵頭は大問題だと思っているのですが、なぜか誰も指摘する人がいません。
 昭和20年の広島のグラウンド・ゼロから水平距離で150mの3階建てビルの 地下1階にいた男性は、昭和57年まで健康に生きました。
 ヒトラーの地下壕は天井のコンクリートが5mあり、スターリンの地下壕はさらにその倍以上の厚みがあったそうですが、そんな立派なものでなくちゃ核爆発からは生き残れないってわけじゃないんです。広島ではコンクリートの薄壁一枚に遮蔽されたおかげで死なずに済んだ被爆者もいる。要は、人間が無防備で地上に立っていないことが、生と死の確率を劇的に変えるんです。簡易な地下シェルターも、爆心の近傍に於いてすら無駄ではないわけです。
 しかるに、さらに強力な水爆がさらに身近に落ちたなら地下に居ようとなんだろうと無駄ではないかと言う日本人が居るんです。それは夫婦喧嘩で文化包丁が飛んできた場合にただ突っ立っていたら死ぬかもしれないのと同じでしょう。
 なにも北朝鮮のように地下数千mの炭坑をシェルターに変えようってんじゃありませんよ。市町村の公共機関がビルを建築または増改築するときには、必ず十分な容積の地下駐車場も附属させるようにしてはどうですかと、わたくしは前から申し上げているのみであります。そこにSUVで乗り付けるだけで、住民の当分の避難所にはなるでしょ? 公共施設の地下だから土地の取得費もかからないし、技能低劣な地場の土建業者も潤って、選挙の票になりますよ。
 戦中はこういうことを内務省が指導してたんですが、戦後は内務省が解体されたので、「民間防衛」に責任をもつ政府機関が無い。国交省から海保を分離独立させる代わりに、このセクションを設けちゃどうですかね。
 核兵器すら破壊力は有限です。まして非核の弾頭にできる仕事についてはよほど、見積もりを厳しくしなきゃいけませんでしょう。
 非核弾頭の長距離弾道ミサイルで敵の地下軍事施設を破壊できるという米国メーカー筋の思いつきをその著書で紹介なさり、無知な日本人読者に『ならば北鮮のミサイル・トンネルも破壊できるな。日本は核武装しなくても良いんだ』と思い込ませてしまった江畑謙介氏の意図はわたくしには分かりません。
 台湾が通常ミサイルで山峡ダムを破壊できるようになればシナは台湾侵攻を思いとどまる、と雑誌に書いている方もいらっしゃいましたけど、たぶん巡航ミサイルでダムを破壊するのは至難でしょうし、また山峡ダムと台湾のどちらがシナにとって価値があるのかと言えばそれは台湾に決まっているのではないでしょうか。
 故・高坂正尭氏が書いていたと記憶しますが、南砂にシナが出ていったやりかたは、軍隊が駐留していない無人のところを占有したので、すでにそこにいる駐留軍隊を排除して強行した例はないと。これは竹島もおんなじですし、北朝鮮の人さらいだって、日本の警察と銃撃戦しながら日本人を拉致したわけではなかったですよね。
 台湾に関しては、シナは軍隊でプレッシャーをかけておいて、内側から民心を屈服させようと狙っています。これは、沖縄にも適用される戦略です。これでも、民間用の核シェルターは不要でしょうか?
 シナ・北鮮の政治リーダーの方が、西側の「軍事通」よりも、兵器の性能の生かし方、殺し方、他人の土地の占領の仕方などが良く分かっているなあ……というのが、兵頭の受けている印象であります。