案外簡単にいくらしいアメ基地の北転

米軍人は、韓国への駐留を厭がるのと同様に、沖縄勤務も好んでいないということです。
 つまり、人々に嫌われているところに、わざわざ居たくはない。
 まして、砲撃訓練すら満足にできぬ沖縄県には、そもそも地上部隊(海兵隊)の基地となるべき基礎条件が不備なのです。
 日本で最大レンジの砲撃訓練が行なえるのは、北海道の矢臼別演習場です。この近くにもし移転できるものならしたいものだと、米海兵隊は思っているのだと、防衛庁の人から聞きました。(米海兵隊の上層部やOBには別な執着があるのだろうとわたくしは見ていますが。)
 では当の北海道の事情はどうでしょう。
 たとえば道南の第11師団は、もうじき旅団化されます。人数で数割減、装備品は物によっては半減となる。近年、とっくになくなるはずであった倶知安駐屯地の消滅を回避して欲しいとの地元の懇望に応えるため、函館駐屯地の第28普連からわざわざ1コ中隊を分派して倶知安へ常駐させているのですが、いよいよ師団が旅団化されてしまうなら、この中隊もぜひ手元に置きたいと、連隊長ならば思っているに違いない。まあそうなれば、倶知安駐屯地などは、たぶん維持はできないでしょう。
 北部方面隊の他の師団でも、西方に人員器材が抽出されるにつれ、倶知安のように統廃合される駐屯地を複数、生ずることでしょう。いずれの地元も、これには大弱りです。
 なぜ、自衛隊がいなくなれば地元が困るか? 数百〜千数百人の隊員が、所在の市町村に、地方税や保険料を納めてくれているからです。
 もちろん数百人の元気のよい隊員の消費活動が、地元の商売人たちに寄与する面も小さくはないでしょうが、それは目立つようでいて、じつはメインの問題ではない。
 地方税や保険料や国からの特別な補助(自衛隊めいわく代金)は、人々の目にこそ見えませんけれども、一市町村の運勢を変えてしまうくらいに、巨額で多大なのです。
 さて他方で、米軍が地元におよぼす「迷惑度」は、同じ日本国民からなる自衛隊の比じゃありませんよね?
 そして、米軍人は、駐留している日本の自治体に、税金も保険料も支払いません。
 日本政府は「米軍めいわく料」として、やはり特別な補助金を当該自治体に交付しています。が、それは、駐留米軍人が地方税や保険料を納めない分を埋め合わせてお釣りが余る……というレベルではない。
 つまり、米軍基地を日本の自治体が抱えることは、純粋に会計上の「損」になる懼れが、払拭できないんです。
 地元にとっては、もうひとつ、とても大事なことがあります。選挙です。
 20歳以上の自衛官には選挙権があります。地元自衛隊に好意的な、地方/国会議員や、地方首長は、その数百〜千数百の票をあてにできるんです。市町村レベルでは、これは決定的な数になります。
 (大きな声では言えないが、「キミたちはこの候補/政党に投票するのが至当だろう(反自衛隊のアカマル候補などに投票するのは自分の首を絞めるロープを敵に売り渡すようなものだぞ)」との示唆が中隊本部以上のレベルからあり、その後に営内居住者も全員、引率外出にて投票場に向かう、というのが慣例。もちろん強制は無いのだが、これほど効率的で確実な「票のとりまとめ」もないだろう。)
 しかるに米軍人は、その選挙権も持ってないわけです。
 米軍を誘致してやったはいい。しかしその米軍人どもときたら、次の市町村長選挙において、誘致決定に尽力した前首長を、投票で助けてはくれないのです。逆に首長は、地元選挙民の反発を買って、浮動票が対立陣営に流れて、次期選挙で敗れることになるかもしれない。
 こう見て参りますと、地元議員や首長にとり、「自衛隊誘致」と「米軍誘致」では、いかにも雲泥の差があることが分かりますよね。ところが、どうもそこのところが、日本政府(財務省)には、ろくに認識されていないようなのです。
 ようするに話は簡単です。
 「米軍の移転を受け入れてくれる自治体には、自衛隊めいわく代金の最低でも1.5倍を毎年度、継続的に投下しますよ」と、政府が地元住民に約束しさえすれば、沖縄から北海道への米軍移転話はトントン拍子で進むでしょう。
 逆に、この「公平な措置」を講じない限りは、米軍基地の国内移転は、およそ夢物語です。受け入れる自治体などゼロに決まっています。
 米軍基地は日本全体の国益のために日本国内にあるのですから、国庫補助というかたちで国民全体の負担とするのは当然でしょう。
 そして、その場合の「公平」とは、「自衛隊めいわく代金」よりも「米軍めいわく料」の方を1.5倍以上、手厚く地元に盛ることが、まずは第一歩の基本なのです。
 防衛予算は既に削られすぎています。財源としては、ODAをリストラクションして浮かせた予算を廻すのが良いでしょう。