「坂の上の雲」では分からない日本海海戦

 わたくしたちは、偶然のめぐりあわせにより、歴史認識が日々深まって、昨日までの日本史把握や外国人把握は間違っていたと刻々に悟る体験をライブで味わえる、珍奇かつ幸運な時代に暮らしております。
 まあ、元からの日本国内の歴史学や教育者や知識人が酷かったために、これほど「修正」がドラマチックになってしまうのです。
 海戦史に関する、快著が誕生しました。
 並木書房の最新ラインナップ、別宮暖朗先生のコダワリの一冊です。
 やかましいことを言えば、「この図版はなんとかして!」「間違ったルビを振ったりしないように校正は必ず社外のプロに発注すべきだと何度言えばわかってくれるのか…」と嘆きたくなる趣きもなきにしもあらず。
 しかし断言しましょう。10年後には、この本に書かれてある「主情報要素」が、海事ファンの間では「常識」になっています。
 そして、「その説のソースはどこなんだよ」と改めて自問自答されたときに、「2005年に読んだこの本だった」と思い出せる貴男は、そこからオリジナルの研究を推進するのに何のフラストレーションも感じないでしょう。
 わたくしが若い頃はGW中も毎日どこかの図書館に通っていました。そうやっていると何週間に一度かは「隠れた名著」にぶつかり瞠目します。『なぜ書評家や大先生は「この本をこそ真っ先に読め」と教えてくれなかったのか』──と悔しく感じたことは、数かぎりもない。
 そこで、この場を借り、わたくしの当座の責任を果たすこととしましょう。
 今月以降、「日本海海戦」または「東郷平八郎」または「艦隊派」または「砲術」に精通したい志のある方は、まず最初に『「坂の上の雲」では分からない日本海海戦』をお読みになることを推奨します。
 メジャー雑誌の書評コーナーで大きく取り上げられないことは、その本が名著でないことや、内容の正しくないことを必ずしも意味しません。むしろ逆に内容が、既製の第一線著述家や編集部の古い常識をすっかり超絶してしまっている場合が、稀にあります。
 その確認ができる特権が今、貴男に与えられました。