春水こそ宣長の最優秀の「弟子」だった……といまさら気付かされる辰巳の園

 チャンネル桜の先々週の日本の防衛をめぐる討論会、じつはわたしにも声がかかっていたのであるが、2月冒頭の強度のギックリ腰の後遺症で、安い椅子に長時間腰掛けていると苦痛であったので、参加をお断りした。(ここ一ヶ月は炬燵に寝転んで昭和3年刊の伏字だらけの為永春水の『人情本集』と小林秀雄の『本居宣長』を交互に読む毎日だ。そろそろ復活はする予定で居るが……フリーの身分は有り難いね。)
 で、じつはわたしは、代わりとして、太田述正氏と「エンリケ航海王子」氏を参加させるべきですぜと、秘書の方を通じ、水島さんに熱烈に推挙申し上げたのである。近代国家の「政-軍関係」について、この2人以上にマトモな発言をしてきた人は、日本には居やしないんだから。わたしへの出演依頼の電子メールには予定メンバー表がついていた。その全員を集めても、この2人の面白さには敵うまいとわたしは即断した(一面識もない田久保さま、おゆるしください)。
 太田氏については、わたしからの意見具申以外にも、視聴者のリクエストがすでにあったらしく、サクッと列席が実現したようなので、慶賀の至りだ。ささやかなカンパの代わりにもなれかしと祈る。(たしか出演料は、ソロバン玉の上の1コ? でも無編集・無検閲で語り抜ける番組はここしかない筈。)
 案の定というか、プロボカティブな展開となったようで、これまた大慶と存ずる。何年も太田氏のメルマガのバックナンバーを読んできたわたしとしては、番組のビデオを見なくとも、太田氏がよいことを存分にブチカマシたと分かっている。
 太田氏は「山田洋行」プロットがムチャクチャになる前に防衛庁のインサイダーではなくなっている。しかし太田氏を非難する陣営の方々はどうなのかな? 知っていて黙っていた人がいるんじゃないですか? 真に勇気のある人はどっちで、偽愛国者やヘタレ言論人は誰なのか、追々、世間にも知られて行くだろう。
 さて本州大都市圏の皆様、本日、昼休みに書店にお出掛けになると、たぶん『【新訳】孫子――ポスト冷戦時代を勝ち抜く13篇の古典兵法』が、新刊の棚、もしくはPHP新書の近くの棚に、出ていますでしょう。火曜日には、地方書店にも並ぶと思います。
 先月の後藤よしのりさんの無料メルマガでも、『孫子』のサワリを語っておいたんだけど、みんな、読んでくれたかな? キモは「死地」にあるんやで……ってね。
 シナの原潜がグアム島を一周して沖縄の領海をくぐって抜けた事件。
 覚えてますよね?
 あれぞまさに『孫子』の応用。 ……し、知っているのか雷電?
 さよう、どんなシナ人たちでも潜水艦という「死地」にとじこめられて海自のASWにおいかけられたりしたら、もう全乗組員があたかも一人の男の手足のようになって共働して舟を漕ぐしかない。つまり、呉越同舟じゃい!
 チベット暴動も同じこと。騒ぎを大きくすればするほど、退却する者がいなくなる。先進西洋列国が反撥すればするほど、国内は団結する。これぞ「九地篇」の極意なり。
 ではいかにせば、その「死地」まで農奴兵をつれていくことができるのか?
 『孫子』は教えます。
 ――「騙して屋根に上げてハシゴとっちゃえば、よくね?」
 さよう、それが小学校からの「反日歴史教育」であります。
 さらに『孫子』は教えます。〈何も考えず、自動的に、敵の最弱点へ向かい、ラッシュすればよい〉――。
 いま、世界中の敵の中でいちばんヘタレなのが日本。だから、彼らは日本をいつまででも狙い撃ちにし続ける。理由はただそれだけなのです。
 教室のイジメの構造とおんなじかもネ。
 秋山真之はマハンから、〈良い海軍戦略の古典は残念ながら未だないから、内外の陸戦の古典を広く渉猟して、じぶんの頭で教訓を抽出しなさい〉と導かれました。それで「勝ってカブトの緒を締めよ」という日本海軍のスローガンが、『甲陽軍鑑』から抜き出されているんです。
 しかし秋山も秋山の後輩たちも、『孫子』は学び損ねた。スローガンとエッセンスは違うんだよね。
 米海軍という巨人に立ち向うのに、その最弱点を狙うという着眼はゼロだった。
 『大和』型をつくる資源は、潜水艦隊の拡充にまわすべきだったし、特攻の目標も、輸送船、商船、駆逐艦に、自動的に指向されるべきだったでしょう。
 これに比べると、シナの軍人は、陸軍も海軍も、よく『孫子』を咀嚼しているってことがつくづく分かります。政治家も同じですよ。
 だから、政治に興味のある人こそ、拙著『[新訳]孫子』(PHP研究所)をその手にとって欲しい。電車の中で立ち読みできるように、和訳だけを載せてあります。
 もちろん、銀雀山竹簡を十分に反映したものです。
 日本の政治家がシナからの政治攻撃に対処したくば、まず靖国に参拝してしまうことです。それによって、「死地」が作り出せる。小泉氏は、ここがわかっていたでしょう。
 まず敵と味方を分け、ぬきさしならない対決モードに誘導してしまう。それでいいんです。
 その演出で、はじめて味方は団結する。脱走者がいなくなる。それが「九地篇」の説いていることです。誰も愛国心なんかもっていない今だからこそ、春秋時代の農奴使役マニュアルが役に立つのです。安倍氏は、まるでわかっていなかった。