嫌支郎くん……とか言ったね?

 現行の自衛隊法第3条の1項には「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする」とある。これはウィキペディアからのコピーだから、字句の異同無きを保さぬ。
 昭和29年の制定時の文言は、「自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、《以下おなじ》」であった。
 つまり自衛隊の指揮官ならば間接侵略と戦うのが本務なのだ。村山談話は間接侵略である。シナ・朝鮮の世界観を受け入れ、まさしく我が国の独立を脅かすものだ。よってオレはそんな狂った声明は認めずに、シナの歴史観と戦えるように部下を教育し、日本国を守るぜ、と理路整然と主張する統幕議長があらわれたら、兵頭はどうして支持しないことがあろうか。
 戦前の米国の排日移民法や、戦中の日系人の強制収容をとりあげて、米国(なかんずく日露戦争後のサンフランシスコの政治と経済のボスたち)による過去の人種差別を糾弾する話もOKだ。連邦の排日差別立法が日米戦争の前駆ムードをつくったことは、昭和天皇も晩年に回顧して認めておられたと記憶する。だが……。
 「コミンテルン」と「真珠湾」を結びつけた時点で、田母神論文は有害文書以外のなにものでもなくなってしまった。そのレベルのこじつけは、第一次大戦前から情報戦のつわもの揃いだった米国政府を馬鹿にするものであるし、近代以降の現在までの全日本人を、陰謀にひきずりまわされるだけの無能者あつかいするものでもある(旧陸軍の満州組も靖国で怒ってるよ、きっと)。そこが分からないのだから田母神氏もその支持者も「タラズ」なのだ。
 過去の政戦略の分析と現在および未来の政戦略の分析は、同じ頭でなされるだろう。日本の参謀総長には政戦略の複雑さに対する想像力がない。これがリアルに知られてしまった。情報分析の次元馬力の小さな者が参謀総長に出世し、真珠湾に関して米国を逆恨みしている。なおかつ日本人は「仇討ち」が大好きだ(清沢洌の戦争日記を読め)。終わったぜ、「日米同盟」は……。
 シナ政府は、田母神論文は日米のヴァーチャルな互恵関係をリアルに破壊するだろうとすぐに読めたから、田母神論文には噛み付かなかった。有能な弁護士は、敵の自殺的発言は法廷で当座、スルーしておくものだ。それは、しっかり記録されているのだから、あとでいくらでも役に立てられるのである。
 田母神氏の2008年論文とそれをめぐる政府要路、政党、議会、ならびに大手マスコミの言論は、日本の「指導的5%層」が、うわべから想像される以上に無教養なのではないか、世界も歴史もロクに想像できていないのではないかとの疑念に根拠があることを、米国の「指導的5%層」に明証してしまった。これにより、日本の核武装もほとんど不可能になった。これが2008年の最大の事件だ。これが兵頭の今年の総括だ。
 よって、来年からは、「核ナシの単独防衛」を考えなくてはならなくなった。
 まあ、なんとかするしかあるまい。すでに並木書房さんに1冊の企画を提案したところです(『予言 日支宗教戦争』とは別)。
 清沢の戦争日記(死後に『暗黒日記』というしょうもないタイトルで発売されたのは不幸だった)は「読書余論」でも取り上げた、。
 この中で清沢は、日本の庶民には当然と思われている「仇討ち」(殊に、非血縁の手による仇討ち)の発想が、英米はおろかドイツでも通用しない話であることを何回か書き留めている。
 北鮮に日本人を攫われたから、米国に戦争してもらう――などという、今年目覚める以前の中西先生らが陥っていた発想は、〈非血縁の仇討ち〉を期待するものだったのじゃないでしょうか。
 江戸のかたきは長崎で一本取っていい。それがフツーの外交だ。そのフツーの外交が、日本にはできず、なぜか一足飛びに「討ち入り」を冀求してしまうのだ。