クリントン(夫)氏の平壌行きについて。

 『ワシントンタイムズ』によると、北鮮は早くも2009-春から人質2名に国際電話を許していた。7月には、クリントン(夫)が来いと公然要求した。
 クリントン(夫)は、2000年に北鮮に行きかけたことがあった(しかし代わりにオルブライトが行った)。
 さらにクリントン(夫)は2009-5に京城で金大中と会ったときにも北鮮にまさに行こうとしかけた。
 7月段階で人質2名は労働キャンプではなくゲストハウスにいた。
 米政府が韓国と日本にこの件を知らせたのは、クリントン(夫)が平壌を離陸する前であった。ちなみにクリントン(妻)はアフリカ行き予定。
 『ロサンゼルスタイムズ』によると、キム=クリ会談はまず3時間15分。
 『ワシントンタイムズ』によると、ついでディナー2時間。その後、さらに1時間半会談。
 訂正があります。以前の記事で、米空軍がストライクイーグル×12機を半島に増派した意味は、SSMを持ちたがる韓国をなだめるためではないかと書きました。
 それは間違いでした。今の解釈はこうです。
 平壌に向かう前のクリントン(夫)の交渉力に迫力の裏打ちをしてやるために、米軍は協力したんでしょう。
 また、8-11の韓国ロケット打ち上げ予告や、〈700kmのSSMを持ちたい〉との韓国軍人の発言も、金正日に対して「アメリカには韓国SSMカードがあるんだぞ」とあらかじめ知らせようという、アメリカ政府の意図を体したものだったのかもしれぬ、と、思い直しております。
▼ところで1999年に(株)データハウスさまから刊行された『あぶない28号』第5巻をお読みになったという方は、全国的には少ないのではないでしょうか?
 10年も前の寄稿だから、クリントン氏訪朝を機に、ここに〔補足〕を加筆して再録をしても、許されましょう。(たまたま入稿データが残っていたのです。)
★「ザ・ルインスキー戦争」〈ユーゴ戦線編〉に関する、いとも高位な御方よりのコレクト・コール/兵頭二十八
 それは奇妙な電話であった。さいきん乃木将軍のことばかり調べていてニュースを見るのをすっかり忘れていた余の茅屋へ、なぜかアメリカ合衆国大統領を名乗る男が話をしたいとかけてきたのだ。――リリリ~ン!
クリ「やあ! このカスレ声が誰かは分るね? いまホワイトハウスからかけているんだけど、早速ビジネスの話に移ろう。私も超多忙なのでねえ。」
兵頭「誰かと番号を間違えてるんじゃないの? テリー伊藤とか、落合信彦とか。」
クリ「彼らは金正日やCIAのナントカから電話はかかってきても、アメリカ大統領のコレクト・コールを受けたことはあるまい。」
兵頭「詳しいな……えっ、待てよ、コレクト・コール? ふざけるな、そんなセコいアメリカ大統領がどこにいるんだよ。もう切るぞ……あれっ、切れない?」
クリ「フフフ……(フ×20)。わが国の最先端の通信技術を侮っては困るぞ。このラインは君の方からOFFにすることはできんのだ。NSAに頼めばホワイトハウスは電話代を全部他国人に請求できるのだよ。」
兵頭「この野郎、なんて奴だ。」
クリ「改めて挨拶する。わが名はアメリカ合衆国大統領クリントン。君は“クッリー”と呼んでくれて構わない。」
兵頭「嘘ばっかりつきやがる。どこのアメリカ人が自分の苗字を“クッリー”なんて略すんだよ。」
クリ「いや、相手によって特別な愛称を許すのがアメリカ式なんだよ、ジミー。」
兵頭「俺に勝手に愛称を付けるな、クッリー!」
クリ「有難う。しかし君は『戦車マガジン』の編集員だった時、ある朝、神保町に出社するや突然に『みんな、今日からオレのこと、“ジミー”って呼んでくれよな!』と宣言し、以来社内はずっとその名で通していたそうじゃないか。」
兵頭「なんでそんなこと知ってるんだ。まあいい、早く要件を言ってくれ。電話代がかかってしょうがないから。」
クリ「ほう、行徳のスーパーのトマト売りのバイト料が入ったばかりで、懐は潤っていると思ったのだがね。」
兵頭「それがさあ、年末に〆縄と子供スピードくじを続けて売ったときには稼ぎもよかったんだよ。したっけ今回は4日間しか……、ちょっと待て。そこまで知っているところを見ると、三十八歳にして身も心も清い、この一介の軍学者のことはすべて調べあげた上のコレクト・コールのようだな、クッリーとやら。」
クリ「君が自分からバラしてるのじゃないかね。それにわがアメリカ合衆国が、軍学者というよりプータローに等しき君ふぜいに訊ねることなどない。私はわが国の立場を世界に説明する責任があるから、こうしてわざわざ、いぶせきトキヨーのよしずがけ文化アパートにまでかけてきてやっているのだよ。」
兵頭「大変だねえ、大統領も。だけど、やっぱり番号間違えてるよ。」
クリ「君は『Voice』という、日本で最もクオリティが高く、無法者から歴代首相にまで広く支持されている三千万部雑誌に寄稿しているだろ。国務省のデータベースはそこを重く視たようだ。」
兵頭「褒め殺しだって。それじゃ。一銭も出ないよ。」
クリ「じつは“C”で始まる某国が、日本の影響力あるオピニオン・リーダーの取り込みにかかっている。共産主義者がよくやる手だ。」
兵頭「そういや前に日共が福田和也にアプローチしてきたとか言ってたっけな。しかしそんな工作を、あのチリまでが展開し始めたとは……。」
クリ「いやいや、Cで始まる国は他にもあるだろう。よく考えてみるのだ、ジミー。」
兵頭「キューバ。」
クリ「うーん、少し惜しいかな。」
兵頭「カリフォルニア。」
クリ「国じゃないぞ、……たしか。」
兵頭「コートジボワール。」
クリ「わざと言っとるだろ。」
兵頭「すまんすまん、クッリー。あんたが本当のアメリカ大統領かどうか、チョイと試させてもらったまでだよ。」
クリ「よろしい。この私が君らの理解を得たいのは別なる儀でもない。コソボをめぐる事態のことなのだ。」
兵頭「ああ、あれってツチ族とフツ族の、どっち勝ってんだったっけ?」
クリ「ジミー、それは違う土地だ。」
兵頭「おや、ツチが違いましたか……ナンちってな。」
クリ「君の言いたいことは分る。日本人にとってユーゴスラビアの紛争など、地球の果ての部族間抗争と異ならず、所詮リアリティはまるでない、と……。」
兵頭「現代人のリアリティは、ヴァーチャルとかいう前に、見事にバラバラだよね。今のアメリカの場合だと、せっかく予算を通した超高価重爆のB1BとかB2に、対空砲の上を飛ばせてみるのがまず最高のリアリティなんだろ。」
クリ「いや~、湾岸戦争では、何でアレやらコレやらの最新装備を投入しなかったんだと、控えに回された兵器のメーカーとその末社議員の突き上げがキツかった~。その教訓てワケ。」
●ハイテク談義に花が
兵頭「でもいいのかよ。新兵器は技術的奇襲にこそ意義があるというのに、それを第三世界相手にサッサと使って運悪く撃墜されて残骸をロシアに運ばれてしまっても。」
クリ「ああ、3月27日の夜に墜とされたF117のこと? ありゃOKだ。B2に比べたら古いステルス技術だし、それをロシアが知ったとすれば、次の新機体の開発理由がまたできるわけだから。」
兵頭「ロシアはイラクから巡航ミサイルの部品を密かに入手してる筈なのに、それをすぐコピーする国力はもうないだろ。GPSで爆弾が自分のコース修正をする技術とかも。」
クリ「ジミー、それは合衆国のリアリティではない。われわれには常に強敵が必要なんだよ。強敵が居て、はじめて生きていられるんだ。」
兵頭「修羅道か。大坂夏の陣で死に損ねた宮本武蔵と変らんよな。しかしF117撃墜で、世界の精密兵器業界は、これまで旧式と思っていたロシア製対空ミサイルSA3の指令誘導式というコンセプトを、対ステルス技術として見直すことだろうね。」
クリ「うひょー、ますます結構! それを凌ぐステルス機の開発理由ができる。」
兵頭「ところで、放送局を吹き飛ばしたのは、心理作戦機のEC130Eを使う準備なのだろう。」
クリ「よく分ったな。あの飛行機は早く使いたくてたまらない。なにしろ上空からテレビ放送ができるんだから。CGで作ったミロシェビッチの不倫映像を全ユーゴに向けて流してもいい。全セルビア人がその画面にクギづけになっているところへ、トドメはピカチュウのパカパカでいったろかい!」
兵頭「アパッチ攻撃ヘリコプターを展開させたのは……。」
クリ「陸軍のアパッチと空軍のA10対地攻撃機とは任務競合関係にあってね。A10だけ出しておくと、ヘリのメーカーや陸軍予算にたかっている吸血議員どもが黙っちゃいない。そういったバランスをちゃんと計れるから、私はモニカ・スキャンダルなどではビクともしないのさ。ああそれからね、三菱重工と富士重工に言っといてくれんかなあ。観測ヘリなどといいつつ誰が見てもタンデム複座の対戦車ヘリでしかないOH-1を自主開発したところまでは許してやってもいいが、それを本格的な攻撃ヘリにして米国からアパッチを買わんのだとしたら、第二の中島代議士を出してやるぞ、って。」
兵頭「いいけど、日本企業の役員はそういう話にはまるで鈍感だよ。で、聞きたかったのは、地上軍は出すのかっていうことさ。」
●地上戦は第三次世界大戦に?
クリ「まさか。捕虜を納屋の壁にはりつけにして生き皮を剥いだり、赤ん坊を棒杭に串刺しにして表情ひとつ変えない連中のリアリティを、90年代に青春していたアメリカの兵士たちに2年ばかりのローテーションで見学させろとでもいいたいのか? 私は『カラマーゾフの兄弟』の中で、トルコ人がブルガリア人にした話として、『ひどいのになると乳飲子を空[くう]へほうり上げ、母親の目の前でそれを銃剣で受けて見せる奴さえある。』(米川正夫訳)と語られている箇所を見て、いったいいつの話かといぶかしんだものだが、あの地域ではこういう伝統がいつでも復活するに違いない。」
兵頭「あんたがドストエフスキーなど読んでいたとはね。」
クリ「子供用の絵本でね。」
兵頭「たしかにクッリー、過去に残虐の歴史を持つ社会の集団無意識の中に、そうした話が異民族の蛮行のイメージとして何百年も余喘を保ってきたのは明らかだ。例えば『資治通鑑[しじつがん]』という中国の史書の「唐紀・会昌3年」には、西戎である『吐蕃』同士のみせしめの伝聞として、『嬰児を槊[さくじよう]上に貫きて盤舞[ばんぶ]す』と回顧されているよ。これも伝聞にすぎないわけだが、支那事変中にこの類型をもってする反日宣伝が勃然とたくましうされている。」
クリ「それは西暦にしていつ頃の話なのだい。」
兵頭「『会昌3年』」を西暦に直すと、843年にあたるようだ。学生時代、『ヴァイキング・サガ』(プェルトナー著、木村寿夫訳、1981年刊)という本を見て驚いたことがあるのだが、この同じ843年の6月24日にナント市を襲ったヴァイキングが、『男女のきらいなく大虐殺を行ない、勢いあまって乳児たちを捕え、球戯の玉のごとくに空中に投げ、落ちるところを串刺しにした。』と報告されていたよ。東西軌を一にして似たような蛮風が流行したのかしらん。」
クリ「ヴァイキングについては、あの当時の文書記録はカトリック修道僧が書き残すものがほとんどだろうから、教会財産を掠奪され続けた恨みがあって、その残虐性を誇張しているかもしれないなあ。まあ、一つ言えることはだ。バルカンは未来永劫、フランスにはなれないんだよ、ジミー。陸水を集めて最寄りの外洋に直行する流れがなく、水系は内陸部をいびつに結びつけている。ライン河やピレネー山脈のような“壁”も無い。問題は宗教ではなく地理なのさ。水が地域を統合する代わりに、人々を憎み合わせている。神に呪われたこんな地を治められるのは、やっぱり新しいオスマントルコかナチかスターリニスト/マオイストでしかないのだよ。それがシラクあたりに分らんといけないから、アメリカ空・海軍が主力となって爆弾を落し続けるのが一番いいんじゃないのか。ブレア? あ~、英国人もイカレた奴らさ。北アイルランドで永久戦争を続けていながら、自分たちは対ゲリラ戦は得意だと思ってる。百年前のボーア戦争と一緒にするなって。」
兵頭「それはアメリカ流の地球観じゃないけれども、アメリカ流の戦争観ではあるよね。それにユーゴは戦後、チトーみずからが『歩兵は戦車をこうやって攻撃しろ』と、そればかりずぅーっと教え続けてきた全人民防衛の国。歩兵の対戦車戦意がイラク兵とは段違いだから、地上部隊の投入はセルビア軍人の望むところかもしれない。地雷も持ってるしね。」
クリ「投入するとしてもだ。主力は砲兵、つまり長射程砲と多連装ロケットだな。これは安価に掃討戦を続ける決め手だと、イスラエルと南アが教えてくれたよ。」
兵頭「ただ、サダム・フセインと金正日はNATO地上軍の投入を鶴首して待ってるに違いなかろう。米国は小戦争を二つ同時にできる備えはしてきたけれども、三つ同時は無理だから。」
クリ「もちろん、奴らもバカじゃない。工作船の侵入にしても、グァムでの米豪加の合同演習のため第7艦隊が日本をお留守にしている間を狙ったようだし。」
兵頭「それと、3月25日に自衛隊の新戦力のE767早期警戒機が部隊運用を始めたタイミングにも関係あるかもね。あれはたぶん日本海のまん中からでも北朝鮮の港の船は全部見えるから。」〔※2009-8時点での補足。おそらくP-3Cの一部にとりつけた合成開口レーダーの性能にシナが興味を持っていたのでしょう。〕
クリ「“三カ所同時戦争”に発展すると、局外の国が何をしでかすかじっさい心配なのだ。もし僕が日本の首相だったら、半島でのミニ紛争が起きたら間髪を入れずに竹島に第一空挺団を降下させるからね。」
●君はこの衝撃の結末に堪えられるか
兵頭「ロシアがバルカンに介入したら、北部方面隊と空挺団に別海で“関特演”をさせ、『三島返還』で手打ちを迫るというのもアリだぞ。国後までは北海道から自衛隊のヘリコプターの作戦半径だから、ロシアはけっきょく保ち切れない。そのコンセンサスの上に択捉島の放棄を宣言すれば、戦後日露関係を清算できる。マイナスばかりじゃないよ。ときにクッリー、あんたはベトナム戦争での徴兵反対運動は正しかったと思っているかい?」〔※2009-8時点での補足。領土問題を常に近未来の地上戦の成算の観点から考察できるロシア人には、3島返還というオトシドコロこそが、実はいちばんリアリティがあります。でも日本人でこの考察ができる日本人は当時、オレ以外にはいませんでした。今となっては、もう遅いです。〕
クリ「当たり前だよ。わが国が好景気なのはいつからだと思う? インドシナからヤク漬けの人殺しになって帰還してきた70年代の若者を、80年代のホームレスとして処理してからだ。またあの暗黒の歴史を繰り返すなんて、冗談は止めてくれよ、ジミー。」
兵頭「てことはだ。“N”で始まる兵器を使うこともあり得るね。あんたのキャラクターから考えると。」
クリ「いいや、ナイフなんか趣味じゃないよ。」
兵頭「あれは“K”だろ。ほら、Nで始まるあのすごい兵器さ。」
クリ「ニコンかい?」
兵頭「ま、あれも光学兵器といえなくもないが、他にないかな。ほら、大戦略におあつらえ向きの……。」
クリ「うむむ……、ニンテンドー?」
兵頭「よく思い出すんだ。地上軍なんか投入しなくても、ミロシェビッチとサダムと金に一発づつで、アメリカの頭痛のタネを奇麗さっぱり片付けてくれる、あの……。」
クリ「えーと、えーと、ノーシン、じゃなさそうだし。『頭痛がサ~リドン』とか。ちなみに北鮮が撃ってくるのはサリン入りノドン……ナンちってな。」
兵頭「クッリー。どうしても口にしたくないわけだ。」
クリ「すまん、ジミー。女には口にさせても自分は口にするな、というのが親父の遺言、いや、わが国の方針なのだ。それに私は最近、恐ろしい夢を見るのだよ。」
兵頭「どんな? まさか、アメリカから最新型の原子力潜水艦が外国に亡命しようと霧深い軍港をすべり出していくが、乗員を見たら全員エイプ(猿)だった、なんてのじゃないだろうな。」
クリ「ふざけないでくれ。シリアスなのだ。」
兵頭「すまなかった。ミスター・プレジデント。」
クリ「私は……砂浜を歩いているのだ。辺りは廃墟のようだ。まるで、核戦争の数世紀後を想わせる……。」
兵頭「ほほう。」
クリ「すると、ある彫像[トルソ]にばったりと出くわす。私は砂浜に両手をついて身もだえし、『こっ、ここは、ニッポンだったんや~』と叫ぶのだよ。」
兵頭「いったい何を見たんだ? 何でアメリカ大統領が関西弁なんだ。」
クリ「私の見たそいつは、砂に半身が埋まった、食い倒れ人形だったからだぁ!」
兵頭「お前、やっぱりアメリカ大統領なんかじゃないだろ。……あっ、切れた。」
(テケテンテンテン……)