新刊紹介:『誰も語らなかった防衛産業』(並木書房)

●新刊紹介:『誰も語らなかった防衛産業』(並木書房)
 桜林美佐さんの新著が届いたので拝読しました。
 例によって手間のかかった取材であります。(1年くらいかかっているのではないでしょうか。)
 しかも、わたしなんぞの入り込めないところを幾つも取材しておられます。
 「……防衛関連産業を取材させてもらったが、取材するにあたり相当の手続きが必要だった」「一般に防衛産業への取材は、かなりハードルが高いといえるだろう。町工場レベルであっても情報管理は徹底している……」(p.75)。
 まさにその通りでありましょう。
 これを、小生らグータラなロッキングチェア批評家どもの代わりに桜林さんが身を挺してやってくれたというところが、じつに貴重なのであります。
 たとえば、三菱長崎機工。たしか旧海軍の魚雷を造っていたところじゃありませんでしたっけ? 今でもかなり「秘度」の高い工場のはずですが、その中に入って取材をしておられる。よく許可が出たもんです。脱帽です。
 日本製鋼所の室蘭製作所。この中に日本刀を鍛刀しているセクションがある……という話は聞いたことがありましたが、正面から取材を申し込んでみる気力が、ワタシにはありませんでした。それを桜林さんは、北海道住民でもないのに、サクッとやってしまっています。脱帽です。
 原子炉の圧力容器を作れる工場だからこそ、こんどのヒトマルの砲身だって、完全国産ができたんですなぁ。(つまり、ヒトマルTKは輸出の制約も少ないってことだ。)
 弾薬メーカーの旭精機。オレはこの会社にインタビューできるなら聞きたいことが山とある。しかし取材のカベがいかに厚いかも分かっているから、ハナから諦めているわけ。ところが桜林さんは何かマジックをもっているらしく、この会社にもあっさりと入り込んで取材をなすっておられる。脱帽です。
 下請け工場の取材もまたすごい。
 極端な話、〈百種類の部品を1個づつ納品してくれ〉と迫られてしまう下請けの特技工場さん。10個のロットで不具合が1個ならば予備の感覚で乗り切れるが、1個の発注しかないのにその1個が検品に不合格だと、それを作りなおすためには、2倍の労力・資材を投入せねばならない。
 これではとてもやっていられないという本音。同情できますね。
 防衛大綱が決まるまでにあと半年というグッド・タイミング。多くの人に読んでもらって、日本のダメさ加減についての認識をあらたにしてもらいたいですね。特に、〈日本の兵器技術は世界一〉だとか迂闊に思い込んでしまう、昔の石原慎太郎氏式な夜郎自大たち。もう日本の武器なんか欲しがる外国はいないんだよ。こっちから営業かけて売り込まぬ限りはね。それもオフセット条件(部品の国産工場まで建ててターンキーでひきわたしますとか、その兵器を装備する部隊の訓練までぜんぶ面倒みますとか)付きじゃないと、インドだっていまどき武器を買ってくれやしないのです。
 こういうすぐれた取材本を読んだ上で、ネット上に流れているリーク情報に気をとめていると、事態の真相にいくばくか接近できる気がしますね。たとえばアパッチの件で富士重工が防衛省を訴えたのは、当然、防衛省の方から「訴訟にしてもらった方が、手続き的に、補償がしやすい」というサゼッションがあったんでしょ? 大手マスコミはそういう真相を報じないから、まるで富士重工と役所がバトルを始めるみたいな印象しか与えませんけどね。
 あとぜんぜん関係ないんですが、ネットで『ガンズ&アンモ』をみていたら、米国で売られている「AR-15」自動小銃(ただしフルオート機能無し)用に、ニコンがすごいスコープを市販してるのな(M-223 シリーズとかいう)。ビミョーに兵器周辺的な器材なら、日本のメーカーは、すでに国際的な売り上げ実績を積んでいるわけですよ。パナソニックのラップトップもIED処理ロボットの遠隔操作用に使われてるしね。
 軍用に転用できぬ民生品などない。これを日本人は知るべきだね。
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