特別UP版《摘録とコメント》──海は汚れない──

▼米国原子力委員会・編『原子兵器の効果』武谷三男・他訳、1951-3科学振興社・刊
 1948に編集企画。ロスアラモスがデータ協力した。
 ウラン238、235、トリウム232などが不安定なのに天然に産するのは、その半減期が非常に長いから。
 遅い中性子は、高エネルギーの高速中性子よりも原子核に捕えられる確率が大きい。
 ウラン238は高速中性子によって核分裂する。235は高速中性子によっても、また遅い中性子によっても核分裂する。プルトニウム239は、ウラン235と同じように、高速中性子でも遅い中性子でも核分裂する。
 原子番号が増すと、中性子の数も増えないと原子核は安定しない。中性子の数が増えると引力が増して、ある程度の斥力を中和する。だから、不安定で、より分裂しやすい。
 原子核の結合力は、分子の化学結合力より大である。だから、放出されるエネルギーも桁違いとなる。
 この本では、広島原爆と長崎原爆はキッカリ20キロトンの出力であったと仮定し、それを標準(ノミナル)原爆として話をすすめる。
 ウラン235の1kg(2.2ポンド)が完全に核分裂すると、20キロトンのTNT爆発と等しいエネルギーが出る。だからノミナル原爆を想定すれば話としては都合が良い。
 このノミナル爆発のエネルギーは、2×「10の13乗」カロリーである。
 弱い地震のエネルギーは、ノミナル原爆の100,000,000個分のエネルギーに等しい。
 ※まだ臨界量という訳語はないようで、「限界の大きさ」と書いている。
 ウラン238は、中性子を吸収する非核分裂をかなりの程度おこなう。これが核分裂と競争すると、連鎖反応は不可能になる。
 核分裂で飛び出す中性子は高速だが、低い原子番号の原子核に衝突すると著しく遅くなる。※原発の減速剤に重水が使われている理由。
 プルトニウムは「パイル」または「ニュークリアリアクター」でつくる。同位元素235と238を含む純粋のウランの棒を石墨[ママ]の枠組みの中に挿入する。※黒鉛と表記されるべきか。ただし黒鉛は炭素であって鉛と関係ないからこの訳語自体も科学的でないきらいがあるが。
 原子雲の上昇速度は、高度1万フィートでは毎時200マイル、高度3万フィートでは毎時12マイル。
 出力が大きいほど、この雲は高く上昇する。アラモゴルドでは4万フィートまでであった。
 大きな森林火災や、ヨーロッパの都市に対する大空襲のあと、軽い驟雨が降っている。
 ビキニのエーブル実験でも2~3時間後に軽い驟雨があり、弱い放射能を含んでいた。この「雨」の放射能は人を病気にさせるほど強いものではない。
 海軍が海面の波を油でしずめることをオイルスリックという。海上核爆発でもこのスリック海面がまず広がる。
 海上核爆発では、<落下する水しぶきのぶ厚く高い円筒壁の輪>=ベース・サージが、高速でまわりに広がる。この現象は、1947年のテキサスでの大量の通常爆薬の水中爆発のときには観測されていない。核爆発のときだけに観察されるものである。そしてベイス・サージの水滴は強い放射能を含んでいるから、これを被った船舶や陸上の建物は、強い放射能で汚染されてしまう。
 都市に対する核攻撃でおそろしいのは、このベースサージをわざと発生させるように、都市に近接した河川や海の水中で弾頭を炸裂させることだろう。都市は高濃度に汚染されてしまう。ただし破壊される範囲は狭くなる。
 ノミナル爆発でのベースサージの壁の厚さは300フィート。
 ノミナル原爆で最大の毀害面積を生じさせるためには、高度2000フィートで爆発させる。ただしその場合、その直下の地表でも、核シェルター用によく設計された鉄筋コンクリート建物ならば、破壊されず、内部の人間は守られる。
 ノミナル原爆の火球は1,000,000℃に達するが、この起爆高度が低すぎて火球が大地に接すれば、土壌を蒸発させるために、厖大なエネルギーを消費してしまう。そのため、水平方向への衝撃波や熱放射は半減してしまう。
 粘性の湿った土は、軽いローム質の土壌よりも50倍もよく地中爆発の衝撃波を伝播する。
 煉瓦構造の壁は爆風にまったく抗堪できない。ガラス窓はまちがいなくすべて破壊される。建物に風が通り抜ける通路があると抗堪力が増す。
 ※戦前の日本では台風の暴風雨圏に入ると木造3階建ての大きな学校校舎は倒壊をさけるために窓を全開にしていた。もちろん休校。
 爆風波は1秒も持続する。通常の爆弾なら千分の一秒である。
 鉄骨ラーメン構造の工場は、屋根が剥がされ、鉄骨が曲がる。
 最も重大な結果は、各所で水道管が破壊され漏水するので、消火栓の水圧がゼロになってしまうこと。
 163ページ。丘陵で保護され無傷で済んだ長崎市内の住宅地の写真。※この写真が戦後、流布していないことこそ、情報操作である。
 広島よりも長崎の方が生じた荒廃の面積がより小さかった。
 広島ではグラウンドゼロから8000フィートにおいても屋根瓦が飛んだ。
 広島のグラウンドゼロから700フィート水平に離れた地点にあった地上3階建ての鉄筋コンクリートビルの写真。外壁は窓以外はなんともない。屋根だけが内側に凹んだ。ただし屋内には火災が生じ、可燃物が燃え、これによって漆喰が剥げ落ちた。
 関東大震災以後、法令が整い、1945時点で日本の建物は「100尺規定」があった。すなわちビルを100フィートより高く造る事はできず(旧丸ビルの高さ)、また重力の0.1倍の横荷重に耐えるように定められていた。これは核爆発の横風に十分に耐えられた。
 177ページの写真。破壊された工場の内部。当時は工作機械毎の電気モーターではなく、工場のどこかの単一動力源からベルトをリレーして工作機械を駆動していたことがわかる。このベルトのリレーの位置関係が爆風でずれるから、機械はまったく使えなくなる。
 またベルトは頑丈なので、建物が爆風でぐらつくと、機械をひっぱりあげる作用をし、土台からずれさせてしまった。
 鋼鉄鈑金製の煙突は壊れた。鉄筋コンクリート煙突は残った。
 グラウンドゼロから260フィートの鉄筋コンクリート橋梁はビクともしていなかった。
 土壌は、半径2000フィート以内では、最大1フィート、沈下した。この沈下が場所によってまちまちなので、埋設水道管が破損した箇所があった。
 爆心から6600フィートにあったガスタンクは破壊されガスに火がついたが、爆発はしなかった。
 アメリカ製の自動車は、爆心から3000フィートにおいて、おおきなダメージを受け、燃えた。
 18インチの覆土をしただけの、木枠組みの浅い防空壕は、爆心から900フィートから無傷のものが見られ、半マイル以上になると、被害をうけたものはなかった。
 長崎では爆心から8500フィートまで家屋の構造上の重大被害あり。広島では7500フィートまで。※リアル出力の差による。長崎の方が強力な爆発だった。
 ノミナル原爆が地下40~50フィートにめりこみ、そこで起爆した場合は、空中爆発にもとづく被害半径の「1/2~2/3」の半径にわたって被害をひきおこすだろうと予測される。
 このとき、もし深いところに岩盤が存在すると、衝撃波が反射するため、被害面積は広がる。
 もし地中50フィートでノミナル原爆が炸裂した場合には、直径800フィート、深さ100フィートのクレーターができる。吹き上げられた土は風下1マイル、風上0.2マイルに落ちる。
 ノミナル原爆を水中で起爆させると、半マイル以内の軍艦に対してひどい浸水被害を与えることができる。その最も適当な起爆水深は、水面下「1/4」マイルである。
 海水の浅いところでノミナル原爆を炸裂させた場合、爆心から2700フィート内にある潜水艦は、沈没するだろう。
 原爆のガンマ線が大気の酸素と作用してオゾンができる。このオゾンは赤外線を吸収する。また水蒸気は紫外線を吸収する。
 衝撃波によって衝撃をうける面積の比は、近似的に、爆弾のエネルギー放出量の「2/3」乗に比例する。
 広島と長崎の爆発は上空2000フィートで行なわれた。直下の地表部では瞬間温度がおそらく3000~4000℃になったろう(pp.233-4)。※高性能爆薬が近くで爆発したときの温度と桁違いに異なるわけではない。フォークランド海空戦でアルゼンチンのミサイル攻撃で大火傷を負った英艦乗組員の画像を参照すると納得できる。
 白い衣類の熱線火傷に対する皮膚の防護効果は顕著だった。爆心直下ではダメだが。
 白地以外の衣類は、熱線火傷を防いでくれなかった。模様の部分もヤバイ。
 原爆の赤外線の大部分は、爆発してから0.3~3秒後に放射される。だから、爆発に気づいて1秒以内に防禦することができれば、無防備で立ち尽くしていた場合の1/3の赤外線を浴びるだけで済む。
 火災によってひどい被害をうけた地域は広島では4.4平方マイル。これは長崎の4倍である(p.250)。※出力の差からは説明できず、地形の差がこれを説明する。
 広島では爆発後30分でファイアストーム現象が生じた。周囲から風がふきこむ現象で、2~3時間持続した。この風は、火事の延焼を外縁方向には阻止するはたらきもしたが、ストーム内部は家屋は丸焼けとなった。
 閃光熱と火災。これによる火傷による死者が、広島でも長崎でも、全死者の半分以上を占めたはずである。また全負傷者の原因の3/4を占めた。※民間防衛は第一に大量火傷患者の救済対策を立てねばならない。
 水中または地中爆発では初期放射能はすべて吸収されるので、二次放射能だけが問題となる。
 ふつうのコンクリートはアルミニウムと同じ比重。したがってコンクリートとアルミの放射能防護力は同じである。だからもし、厚いコンクリート壁と薄いアルミ壁があったらば、厚い方の壁に依るべし。
 ガンマ線を防ぐためにある重さの鉛が必要だとしたら、同じ効果をコンクリートで得るためには、その必要とされた鉛の重さと同じ重さだけのコンクリートを打つ必要がある。
 ガンマ線の強さは、その発生源からの距離の2乗に逆比例していると考えればよい(pp.272-3)。※すなわち可視光線の法則と同じ。
 ノミナル原爆の場合、距離2100フィート以内では、衝撃(物理)的&熱的な破壊作用が圧倒的なので、放射能対策よりもそちらを先に考ることだ。また9000フィート以遠では、輻射線の被害はほとんど生じない。ただし数発の核爆発が繰り返し起きれば、その距離でも被曝量は無視できなくなるが。
 ノミナル原爆の爆心から2100フィートにおいて、ガンマ線を400レントゲンの致死的被曝量以下に抑制するためには、厚さ20インチのコンクリート、もしくは3インチの鉛の壁が必要である。
 固めた土のブロック効果はコンクリートの0.6倍だと計算すればよい。だから30インチの厚さで覆土すれば、その防空壕は、20インチのコンクリートの天井を持ったと同じことである。
 これが核シェルターの最低設計基準となる。
 ノミナル原爆から出る中性子は、半マイル以内の暴露人体に対しては致命的である。中性子は1秒で2000フィート到達するので、半マイル以内で爆発を目撃してから防禦することは不可能。
 中性子からの防禦のためには、セメントの中に、褐鉄鉱、磁鉄鉱などの酸化鉄を多量に加えたり、鋼の砕片を混ぜると効果的である。
 速い中性子は、遅い中性子の5倍ヤバイ。グラウンドゼロから2400フィート離れた場所では、厚さ18インチのコンクリートが、速い中性子を十分の一に減らす(p.289)。
 遅い中性子は、空気中で散乱をくりかえしながら地表に到達するので、一枚壁でのブロックは不可能である。つまり、頭上や横合いや背後からも飛んでくる。よって、天蓋つきの全周シールドの中に入っていなければ防げない。
 尤も、速い中性子やガンマ線や赤外線火傷や飛散物を防いでくれるから、完全暴露よりは一枚壁に依った方が、随分有意義だ。
 ノミナル原爆の空中爆発の場合、空中で発生した、もしくはばら撒かれた放射性物質は、人員殺傷原因としては無視できる。
 中性子をうけた物が放射性を帯びることがある。この現象は木材と繊維では無視できる。ガラスはやや注意がいる。
 ノミナル原爆では、ウランにせよプルトニウムにせよ、じっさいに分裂するのは1kgで、他は飛散する。が、火球がそれを高空までもちあげてくれるので、飛散したプルトニウムによっては、地表に有意味の被害は生じない。
 100kgのプルトニウム239は6000キュリーのアルファ線を出す。同量のウラン235は0.2キュリーにすぎない。
 アルファ線は、たった2インチの空気で吸収されてしまう。また、普通の衣類は貫通できない。それゆえ、プルトニウムやウランが地表に露出して在ったとしても、人間に害はなかった。
 アルファ線がヒトにとって致命的になり得るのは、それらの放射線源が肺に吸収され、血管内に入った場合である。また、胃腸の中に、プルトニウムの混じった飲食物が入り、血管に吸収された場合もヤバイ。それらはラジウムと同じく骨に集まる。そして造血作用を阻害する。
 核爆発の技術が未熟で、高空で100kgのプルトニウムが飛び散ったとしても危険はまず無い(p.301)。※ダーティ・ボムの限界。それは食品汚染をしない限り意味はない。
 プルトニウムで地球全体を危険にするには何百万のノミナル原爆を炸裂させなければならない(p.313)。
 ノミナル原爆の火球は半径500フィートになる。
 長崎ではグラウンドゼロから半径2000フィート以内に核分裂生成物のだいたいが残ったが、爆発の数分後でも、その地域に放射能による危険はなかった(p.315)。
 中性子が海水に当たるとナトリウム24という放射性同位体ができる。この半減期は14.8時間である。つまり海水も長期間汚染はされない。
 水中爆発ではほとんどの中性子は水素に吸収され、放射能をもたない重水をつくって終わる。
 また熱エネルギーが水に奪われるので雲も高く上らず、したがってフォールアウトは半径数千ヤードにすぐ落下する。
 ノミナル原爆が空中爆発した場合、6時間経てば、その地表を歩いて避難しても危険はない(p.317)。
 直径5ミクロンより小さい粒子はブラウン運動に翻弄されるので空中から地表になかなか降ってこない。
 直径1ミリのフォールアウトは風速10マイル/時だと4マイル風下に運ばれる。
 水中核爆発のベースサージの放射能は、爆発後1分と4分の間で400分の1に減る。つまり要警戒なのは爆発してから4分までである。この間には霧を浴びないようにする。
 ノミナル原爆が地中50フィートで爆発すれば、クレーターの直径は800フィート、深さは100フィートになるだろう(p.335)。
 その地域は強い放射能で汚染されるので、何時間たっても、自動車で通過することも薦められない。
 ベータ線を出す放射性物質は、皮膚に密着させたときが危険である。もし皮膚についたら、家庭用クレンザーで洗いおとすべし。それがない緊急の場合は、紙、藁、木の葉、砂などで力いっぱいこすって皮膚から取り除け。ただし皮膚を傷つけてしまっては何にもならない。
 放射性に汚染されたモノを焼却しても放射能はなくならない。だから焼かずに土に埋めること。
 水は蒸留すれば放射性の塩分や残滓物は残されるので飲用できる。ただし加熱沸騰させても放射能は消えはしない。そこを勘違いしないこと。
 建物や船の放射能を洗浄しようとする場合、作業は、より被曝の少なかった内部から始めるべきである。
 露出したコンクリートが汚染された場合は、塗れた砂の吹きつけ(サンドブラスト)が除去に有効。
 漆喰の壁が汚染されたら、ぜんぶ取り除くしか方法はない。
 缶詰の中味は核戦争後も安全である。食べてよし。
 土壌表面は、1フィート厚の客土をすればよい。深いところの土と入れ替える。
 貯水池が核攻撃された場合は、その水は、数日間は使わない方が良い。
 長崎では爆心から14000フィート離れたところで、広島では12000フィートはなれたところで、熱線火傷患者が出た。※出力の相違による。
 日本人は白人よりもケロイドがおきやすい。焼夷弾空襲でもケロイドになっている(p.396)。
 イペリットも皮膚の変色をきたす。
 4年間の追跡調査の結果、ヒトの眼は原爆の放射線からほとんど障害をうけないらしい(p.398)。
 人体内に吸収されるベータ線の危険度を1だとすれば、ガンマ線も1、アルファ線は10~20、遅い中性子は5、速い中性子は10である。ただし空気や衣服や皮膚を貫通する力が、ガンマ線と中性子は桁違いに強いのだ。
 アルファ線は皮膚すら貫通できない。だからのみこまぬ限り安全なのだ。
 5ミクロン以下の塵だと肺から血管に簡単に入ってくる。その塵がアルファ線を出している場合は、危険である。
 手に大量のベータ線があたると、数日して手がはれあがる。それは数週間で水泡潰瘍となる。
 放射能に被曝して4カ月いきのびれば、助かったと言える。
 下痢がなかなか治らなかったら腸管が障害を受けている可能性がある。
 放射線を死ぬほど浴びると咽喉のリンパ組織に腫脹ができる。これは疼痛性で厄介である。呼吸にも嚥下にも苦しむ。そして細菌感染もしやすい。
 脱毛開始は13~14日目から。2週間で止まる。
 永久的な禿は生じない。
 腎臓は放射能に対して例外的に抵抗力があるらしい(p.423)。
 放射能を浴びてから3か月の間は子供をつくらないこと。二十日ネズミの実験によれば、一定期間後ならば催奇性はみられなくなる(pp.427-8)。
 都市内の防火空地は、最低でも巾100フィートないと無意味である。
 すべての消防署は、厚さ2フィートの鉄筋コンクリート造りとすべきである(p.454)。
 458ページ。長崎のグラウンドゼロのごく近くの丘の側面の避難用横穴の写真。この中にいた人は無傷で助かったと。※この写真が戦後、流布していないのも、情報操作である。
 半地下の群集避難所も有効である。※スタジアムは半地下とするがよい。
 2つの市の現地調査によれば、シェルターに扉が設けてなくても助かった例が多い。扉の有無よりも、入り口を外部に対していちど直角にまげておく配慮が、はるかに重要だった。
 ガンマ線より熱線の方がはるかに遠くまで届くので、とっさに伏せる行動は無意味ではない。伏せたら10秒間は立ち上がらないこと。
 爆発後、1分間は、窓に近寄るな。すごい風がくるから。
 爆発地点の上空を飛行機に低空でパスさせてガンマ線を計測すれば、汚染強度はおおよそ把握できる。
 ズボンのすそは長靴の外側で縛り付けろ。すきまからチリが中に入らぬように(皮膚に密着させることが危険なので)。
 避難時の手袋は軍手で十分である。頭は毛髪を完全に帽子か布でくるむように。そこにチリをつけないように。
 爆発の初期に放射能を被曝してしまったら、その後の比較的に弱い被曝線量のことなど気にせずに、地上を歩いてでも早く安全地帯に脱出して治療をうけろ。爆発の初期に被曝を避けられた人は、しばらくシェルター内に籠って、線量が自然に十分に減ってから地表を移動した方がよい。
 地球の全耕地をプルトニウムで汚染し、栽培された穀物を1年間摂取すれば危険なレベルのプルトニウムが体内に残る、という環境を作為するためには、ノミナル原爆を75万5000発、同時に爆発させる必要がある──という計算根拠(pp.507-9)。
※「没シナリオ」に使ったデータを一部割愛しています。


無責任なTBSのあおり報道

 毎朝、ネット上に配信されている四大新聞と首都民放TVキー局(ただしテレ東はサービスが無い)の最新ニュース・ヘッドラインをブラウジングしているわたしですが、毎度ながら、北鮮の核ブラフ/ミサイル・ブラフの片棒を担いでいるとしか見えぬのがTBSです。この局は、内部に総連系の工作員でも飼ってるんじゃないか? 奇怪すぎる。
 『SAPIO』系の軍事評論家のひとたちも、北鮮が原爆を兵器として持っていると、何年も前から、現在まで、相変わらず絶叫してますよね。兵器を爆発させるのに、なんで「準備」が要るの? 「予告」が必要なワケ?
 これらのふかし(宣伝)そのものが、北鮮が核武装できてないって証拠でしょ? 頭に虫わいてるんじゃないか。
 不意にドカンとやったあとに「持ちました」と放送するだけでいいでしょ? 国外で爆破テロや誘拐を平気でやらかし、ミサイルを何発も平気で発射できる国が、どうして国内での爆発テストをためらうと思いたいのですかね。そんなにあなた方はマッチ・ポンプして儲けたいのか。
 中西輝政先生。情報、情報と強調なさっていますが、その前に、ヤクザのかけひきってやつを勉強した方がいいですよ。あなたが「北鮮も核武装している」と真顔でお書きになる度に、日本は米国のパワー・エリートから蔭で哂い者となるんですぜ。それが回りまわって、シナから日本が舐められる一因となるんです。
 2人のストレンジャーがいるとします。1人は、かつて街で一、二回、拳銃を発射したことがある前科モノ。もう1人は、その種の前科は皆無ですが、口では「オレはハジキも持ってるんじゃ~!」と、しじゅう怒鳴りまくってます。どっちから「拳銃を撃ち込む」と脅されたときに、みなさんは本気で対策を考えようかという気になりますか?
 すぐに実験しそうにないとの米国報道が伝わると、すかさず「11月にやる!」だ?
 笑かすんじゃね~よ。


驚くべき完成度じゃった~~

 BIGLOBEで『Thunderbirds』(※これを「雷鳥」の意味で外人に対して使ってもまったく通じましぇんから)の無料配信をチビチビとやっているので、懐かしさのあまり昨日、2つのエピソードを続けて見ちまいました。内容の高さにはブッ飛びました。
 そしてこれもいつも痛感することだけれども、ガキの頃リアルタイムでTVドラマや映画をいろいろみていたが、その深い意味はぜんぜんとれちゃいなかったのだな~──と再確認。40歳すぎないとわからんことってあるよネ、やっぱし。
 まあわたしの場合、そもそもあの悪党にテレパシーであやつられる弟と、ぺネロープの執事のパーカーのキャラの区別がつかなくて、その設定に非常に悩まされたものです。どうやら別人だったのか。てかパーカーはもとヤクザかよ。
 それと「ブレインズ」はドモリのキャラだった! それを和訳すると「あの…」となるわけだ。邦訳も苦労してるね。リアルだわ。
 それで、「CRY WOLF」(直訳すれば“狼少年”)というエピソード、なんと、オーストラリアの沙漠のまんなかでアメリカの偵察衛星からの画像情報信号を受信する秘密の家が舞台ですぜ。これを子供向きのマリオネーション・ドラマで見せてたってんだから凄すぎますぜ。
 救難組織に対して、いたずら電話はかけるなよ、という社会教育もしてます。
 もう一本はタイトルを見損なったが、無人運転の超高速「モノ・トレイン」(懸吊式モノレール)の制動装置が欠陥で、壊れた鉄橋の前で止められず、社長と見学者が死にかかるという話。たまたまドイツのリニア実験線事故があったから、シャレになっとりません! 感心したのは、シティの「投資勧誘」について子供に教育する内容になっている。しかも、笑いも取る。この達人!
 おそらく『サンダーバード』シリーズの日本放映からもう数十年経つはずですが、少年に社会教育をし、しかもSFサスペンス・ドラマとして十分に盛り上げることのできた企画は、日本製には皆無のはずです。
 30分でいろいろな情報を盛り込みながらハラハラさせたり笑わせたりするってのは大変な脚本スキルです。いかに時間の進行を短縮してみせるか。動作や反応の連鎖の途中を省略して切り替えたシーンでオーディエンスをアッといわせるか。その技法の見本をみせてもらいました。こういう名作は不滅だぜ。


「読書余論」の2006-9-25コンテンツがでました。

内容は、
 ◎橋川文三・他『戦争責任』1960
 ◎竹内洋『丸山真男の時代』2005
 ◎ハンス・モーゲンソー『世界政治と国家理性』昭29
 ◎日本中央競馬会『馬の科学』
 ◎上垣外憲一『雨森芳洲』1989
 ◎伊藤鋼一『警視庁・特殊部隊の真実』2004
……その他であります。


夜明けは近い

 イギリスのガーディアンという新聞のウェブを見てたら、ロンドンで無料の新聞が2紙も創刊されたので、既製有料新聞の各社がパニクってる、という話が……。メシの時間のためアーティクルぜんたいの前半分しか読み得ませんでしたが、1部が50頁もあるやつを、地下鉄の駅で通勤時間帯に配っているらしい。
 これは日本でも誰かがおっ始めるんじゃないですか? てか、やるべきですよ。
 最終的には宅配業者などと結託して、戸別配達にもすることですよ。
 イギリス人の心配は「フリー・ペーパーはクオリティ・ジャーナリズムを亡ぼすのではないか」というものなんですが、日本にはもともと「似非クオリティ・ジャーナリズム」しかない。ですから、フリー・ペーパーの撹乱によって、既製メディアの進歩が期待されます。
 メジャー紙のなかでも左前のとこから、さっさとフリー化に踏み切った方がいいかもしれませんね。一歩遅れた社が、経営の上でたいへんなことになるのではないでしょうか。これも時代の流れでしょう。
 そうやって「部数だけ誇るマスゴミ」が淘汰された暁に、有料でなおかつ真の「クオリティ・ジャーナリズム」が、やっと日本でも可能になる筈です。
 余談。朝鮮日報の日本語版に、アメリカは無人偵察機のグローバルホークを日本とシンガポールには売るのに、なぜ韓国には売らないんじゃ、と出ていました。この記者さんには、理由が分るはずだと思うのだが、なぜそれを書けないのかにむしろ興味が湧きました。韓国軍が高性能のオモチャを手にしたら、それを使って偉大な韓国大統領が日本の領空侵犯挑発を愉しむことになるのは目に見えてるじゃないですか。日本にSAMをぶっ放させたいのか。もうひとつ。画像信号のダウンリンクは高度な暗号です。これを完全にアメリカ軍の監督に委ねるという契約がなければ、アメリカはグローバルホークを他国に売りません。ところが韓国政府には、暗号通信の上でアメリカとは手を切りたいという志向がある。先の偵察衛星の打ち上げをアメリカに依頼しなかったことでも、それは推定されるのではないでしょうか。


その情報を待っていた!

 海軍割烹術参考書は戦後に売られた版があるのですね? どうもありがとうございます。
 じつはこれを出版したいという人がいて、相談をうけたのですが、戦後にプリントされた版があれば、そこに著作権が生じていますから、権利関係がややこしくなるので、「出版などやめとけ」というアドバイスをすべきところなわけです。それで全国のディープなマニアの皆様のお知恵を拝借しました。どうもありがとうございます。
 まあ、オレも無料奉仕でリサーチャーをやっちゃうんだから、人が善いわネ。
 (しかしOPACにヒットしないってことは、よほどマイナーな私家版?)
 それで問題は解決しましたが、こんどはまったく個人的な興味が湧いてきました。そのテキストに忠実にしたがって調理をすると、果たして許せる味がするんでしょうか? 現代人の味覚に合ってますでしょうか。お気づきの点等をお知らせくだされば、さいわいです。


法哲学が無い法曹界

 高裁や最高裁で覆ることの確実な象徴的な反日判決が、またも東京地裁の札付き法廷で出されました。
 民主主義体制では国家は有権者たる国民が選んだものです。その現在の国家の象徴に、税金で雇われている公務員が、公然と敬意を払うべきなのは、公序良俗です。
 公序良俗を破壊し、公立学校の教職員という官職に必要な適格性を欠く者は、校長が一存でクビにできるように、諸制度をあらためる必要がありましょう。
 戦前の内務官僚で、東条内閣時代には東京都長官(今の都知事)、小磯内閣で内相を勤め、敗戦後に「A級戦犯容疑者」として巣鴨プリズンに収監され、不起訴釈放となったあと、参議院議員に当選し、第五次吉田内閣の文部大臣に就任した、大達茂雄という人がいます。盟友の緒方竹虎(やはりA級容疑をかけられたが不起訴)が、日教組対策として起用した人事でした。
 昭和28~29年頃、各地の公立中学校で、教員をふくむ極左集団が、ソ連国旗や北鮮旗を振り回して大騒ぎを起こしていました。そもそも朝鮮戦争で米軍に直近の後方基地を提供している日本国内に暴力革命を起こさせようとしたモスクワ共産党の指導で、このような組織が日本の教育現場には扶植されていたのです。
 朝鮮戦争のさなかの昭和26年1月に日教組が作った「教え子を戦場に送るな」スローガンなどは、<日本をはやくソ連軍に支配してもらいましょう>の言い換えに他なりませんでした。
 大達は病身でしたが、日本の小中学校の教室に極左組織が反日教育を持ち込むことを阻止すべく、教育公務員が学童に暴力革命を宣伝することを禁ずる法案をつくり、自宅に集団でおしかけられるなどの数々の脅迫にも屈せずして、ついに国会でこれを可決成立させたのです。しかしこのときの苦労が祟って大達は昭和30年に胃癌で死去しました。
 大達は、最悪事態が来る前に、それを予測し、対策をとることができた人物でした。昭和19年にサイパン島からの東京空襲が始まる前に上野動物園の猛獣を処分させたのもその一例でした。戦後、左翼はこの件で大達を悪役に仕立てる情報工作を展開しています。要するに、日教組と真正面から戦って勝った空前絶後の文相である大達が憎くてたまらず、なんとしてでも叩きたいのでしょう。
 大達の後継の歴代文相たちの反日対策は、不甲斐ない事勿れ主義に堕しがちでした。その間に、自由主義の哲学をもたない共産主義シンパの法曹家が、大量生産されました。
 卒業式の国旗掲揚や国歌斉唱をめぐっては、日本の各地の弁護士会も、ずっと前から、一様な反対表明を出しているようです。いったい、これは何を意味するでしょうか。日本の弁護士は皆、反日外国人の手先にでもなっているのでしょうか?
 日本の戦後インテリに与えられた、脱モラルの教育の成果は、こんなところにも見ることができるでしょう。
 前にも『正論』で書きましたように、弁護士にも二種類います。企業から仕事を依頼される弁護士と、企業の仕事は取りたくても取れない弁護士。収入は、前者が後者の数倍から数十倍になるでしょうか。もちろん、この分かれ目は能力次第です。弁護士の世界も、学者や評論家と同じで、ピンキリです。
 現実として、非常な苦労をして司法試験に合格したのに、あまり儲かっていない弁護士さんも、少なくないわけです。
 ところが、反日団体は、こうした「インテリ集団内のおちこぼれマジョリティ」を救済する「互助」の仕組み作りが、いやに上手いのです。
 反日訴訟にかかわらせることにより、能力が劣った弁護士たちに、生計の道を確保してやっている。これなど典型的な「組織の効率」でしょう。保守運動にはこのような効率的な組織がありえませんので、個々人の自腹を切っての政治活動が多くなります。いきおい、反「反日」訴訟など、したくてもなかなかできることではない。ヒマもカネもないわけです。
 それで構造的に、反日訴訟ばかりが濫訴されることになっています。まあ、大した税金の無駄ですよ。
 有能な弁護士たちも、自分の顧客企業のための仕事で手一杯ですので、反日活動などに関与しているヒマはありません。しかしもし弁護士会の少なからぬ構成員が、「おちこぼれ互助」の仕組みとして、日常的に反日言論を展開しているとしたら……?
 たとえば弁護士会内の役員選挙に名乗りを上げるのも、ヒマな反日弁護士が多くなるでしょう。そうでなくとも、人数の多い反日弁護士たちに媚びなければ、こうした選挙には当選できないでしょう。
 もともと日本の法学アカデミズムの世界には、左翼的解答をデフォルトで「よい子」と認定する空気がありました。戦後の日本では「近代的自由主義とは何か」は教えられず、「左翼的正しさとは何か」が教えられてきたのです。法学の場に、肝心の法哲学が欠けている。
 その結果、反日活動に理性(内心)では賛成していないマトモな弁護士が、おちこぼれの反日弁護士たちが弁護士会の政治活動の牛耳をとることは黙認してしまっている、という現状がありそうです。
 いっぱんに裁判官は「よい子」の選りすぐりですので、地方裁判所レベルでは、タテマエとホンネの区別がつかなくなった、おかしな人も多いんでしょう。
 ここで問題とすべきは、自分たちは企業を顧客として大いに儲かっているので、自分に害が及ぶのでなければ、所属する弁護士会としてどんな政治アピールを出そうが、勝手にしていいよ、という態度をとっている、少数のエリート弁護士たちのモラルの欠如ではないでしょうか。
 要するに法哲学の教育が日本ではできていないために、法曹エリートが政治的に中立を選び、結果として左翼反日組織の活動だけが有利に推進されているのです。ここで話は、教育改革に戻るでしょう。
 戦前の内務官僚の大ボス・平沼騏一郎は、明治初期に勉強した人で、当時の欧化の時代風潮として、東洋哲学を学ぶヒマがまったくありませんでした。それで、地位を得てからあわてて、共産主義に対抗できる理論を探し、みつけたのが「儒教」です。しかしそれにはほとんど大衆への説得力がありませんでした。
 今日でも、教育改革(つまり脱左翼教育)のてがかりを「教育勅語」(つまり朱子学)に求めようとするアホンダラ保守言論があとをたちません。「教育勅語」の反動的精神は、「五箇条の御誓文」の自由主義精神とはまったく相容れません。明治維新の神髄は「五箇条の御誓文」にこそあります。「2ちゃん」バカ右翼にはここは判らぬところです。
 近代日本は「自由」だけは教え得なかったという反省が必要です。


特別掲載・HG対談。

※なぜか「武道通信かわら版」に最新の「HG対談」が掲載されなかったので、こちらに掲載させて戴く。どうせ無料記事だから問題はないだろう。
兵頭 夏休みも終りましたね。このまえある打ち合わせで上京して気付いたんですが、湿度が高いうえに気温が30℃近くなると、人間は首から下の感覚を努めて麻痺させることで、首から上の活動を維持しなければならなくなる。「クールビズ」なんてもうなまぬるいので、いずれ半裸で仕事する日も近いのではないかという気がしました。リーマンが半裸で、ニートが着ぶくれ。そういう逆転が起きる(笑)。
後藤 いや大阪では連日35℃を超えてましたから、30℃ならまだ涼しいですよ(笑)。ところで最近おどろいているのが、灘高を出て東大に行かず、あえて地方大学の医学部を選ぶという子が増えているようなんです。
兵頭 ラク~な勤務医となって、趣味に生きようとでもいうんですかね? たしかに開業医の産科医なんか拝見しますと、ホントに年無休の24時間シフトとしか見えない。あれは、生命誕生に立ち会う体験そのものが<報酬>になっていて、それが先生のモチベーションを支えているのに違いない。皮膚科や眼科や内科なら、もっと休めるようですからね。それと、歯科医はもう逆に、クリニックが余り始めたのではないかと感じます。
後藤 どうもその子たちは、町医者になるつもりのようなんですよ。また東大を出ても役人になろうとしない者が増えているそうです。去年は入省した人数において東大出を非東大出が上回ったという話でしてね。しかし東大が天下国家を語らなくなったら、日本は終わりじゃないですか。
兵頭 まあ、流行りすたりはあるんでしょうなぁ。ちなみにアメリカ軍の強みは、ウェストポイント出ではない将官の方がずっと多いことなんで……。つまり、最良の指導者や指揮官のタマゴは、どこで孵化するのか、分からないのです。
後藤 若いエリートが、さいしょから小賢しく、計算高く、保身の策を講じて行くようでは、日本という土台が崩れます。そしたら、趣味に生きられる環境だって、なくなってしまうはずですよ。
兵頭 そりゃそうですね。ところでわたしはテレビは夕方のニュース以外ほとんど視ない上に、子供にあわせて9時台に早寝しちまうので、完全に世の中の話題から取り残されているのですが、ちょっと前にボクシングが八百長だかヤクザだか何だかでずいぶん盛り上がったそうですね。
後藤 世間では大きな話題ですよ、それ。まあ、すべてを端折ってコメントしたいと思うことが二つあります。一つは、プロは客を呼べる者こそが偉いので、実力だけで勝敗を決めるアマチュア・スポーツとは分けて考える世界だということ。もうひとつは、亀田家の息子たちがぜんいん親孝行であることを、なぜ世間はもっと肯定的に評価できないかということです。
兵頭 後藤さんはたぶん、二十数年以上も前からの業界の裏の事情なんかも、そこらのニワカ評論家さんたち以上に全部ご存知な上でそう仰るのでしょう。確かに、「極道の父親を殴り殺してリングに上ってきました」なんていうヒーローが登場したら日本は終りますわな。
後藤 こんな時代ですからね。僕は、彼が非常に親孝行であるという一事をもって、他はチャラで現時点では良いのではないかと考えています。19歳ですから。問題があっても治る余地は充分にあります。
兵頭 あの試合に関するたくさんの批評を読んでいると、日本の世界チャンピオンはみなニセモノなのかと錯覚してしまいますが……。
後藤 いや、本当に凄く優秀な子は、いてるんですよ。今は、亀田選手以外に5人の世界チャンピオンが日本にいます。でも、名前と顔を世間にいっしょに覚えられている選手はいない。これは日本のボクシング業界の怠慢なんですよ。プロなのですから、強ければ良い、では通用しないのです。強さのみでムーブメントを起こせるのならばともかく、現実には、その強さの証明をする晴れ舞台がなさすぎるわけです。そんな舞台を整えてくれる人達への恩返しは、集客でするしかないでしょう。
兵頭 客が入らなければ興業に利益は出ない。プロだからこそ、実力だけで勝負することは許されんというハナシなわけですね。
後藤 その通りです。そもそも日本では、残念ですがボクシングが人気スポーツであるとは言えなくなってきた。
兵頭 根本は、ヘヴィー級が少ない国民の体格と、格闘文化の違いでしょうか。あと、高度成長を達成した後の、庶民の生活の雰囲気と、どうもマッチしませんな。
後藤 昔は人気、あったんです。娯楽が少なかったから。でも今は、K-1や、総合格闘技がでてきて、ボクシングから受けられる刺激が小さくなったんです。
兵頭 軽いクラスでないと、日本人が世界チャンピオンになりにくそうですよね。それは、柔道以外のすべての競技でそうかもしれませんが。
後藤 体重が軽いと、どうしてもパンチでのKOは少なくなる。観ている方は、KOや一本で勝負がついていくK-1や総合格闘技の方を楽しい、と思うわけです。その点で、最近の柔道はずいぶん面白くなりましたよ。ちょっと進行が遅いと両者が消極的だと見なされて指導が入りますからね。だから動きっぱなし。素人が見ても面白いです。とうとうテレビの良い時間帯に、民放局が放送するようになりました。
兵頭 亀田人気と辰吉人気とは、どう違うんですか?
後藤 ボクシングジムの経営者さんに聞いたところですと、辰吉人気の時には練習生が増えたけど、亀田では増えてない。だから、今起きているのは本物のブームじゃないと言うわけです。
兵頭 サッカーや野球とは、ちょっと勝手が違いましょうからねえ。
後藤 しかしですね、そういう、「ボクシング人気」なんてありえないかもしれない今の日本で、亀田人気が出た。この人気の火を消したら、おそらくボクシング業界全体がまた沈み込むだけですよ。にもかかわらず、業界関係者で亀田批判をしている人間は、非常に大人気なく見えます。不愉快であるなら、黙っているというくらいがマナーだろうと思いますよ。
兵頭 昔の某著名選手のときだって「疑惑」はありましたからね。また昔は所得税がベラボーに高かったこともあり、大御所の元プロファイターほど、自分のファイトマネーの手取額には納得していないだろうと想像されます。そのときは若くて、ジムの会長が怖くて文句がいえなかった江戸の仇をいま、長崎で討つような感じのコメントもあるのかもしれません。ファイトマネーに納得しているプロ選手なんて、この世にいるわけはないんで、それは同情もできるのですが……。しかし後藤さん、「人工的にブームは作れる」ということだけは証明されたのではないですか?
後藤 それは違うんです。TBSがああやって人気と視聴率を作れるのならば、誰だって、どこのテレビ局だって人工的に人気者を作るはずですよ。ところが現実には、皆が一生懸命それを作ってやろうとするわけですが、結果的には作れてない。他もやろうとしてできないわけです。ですから経営コンサルの僕の眼からみますと、他人がおこしてくれたムーブメントを上手に自分も利用できないのは、経営手腕が問われます。だって、キックボクシングとか、空手などの隣接業種で起きていることではない。まさに自分のいるボクシング業界で起きているムーブメントでしょう。
兵頭 なるほど。やっかんでいる暇があったら、自分で盛り上げてみせろ、と。ていうか、後藤先生をコンサルに雇えよと(笑)。
後藤 亀田人気の火を他のボクサーの人気にも飛び火させる努力をしないと、ボクシングという競技に活気が出ないのは自明でしょう。まぁ、現役のボクサーに、それを求めるのは酷かもしれませんけどね。そこまで求めると、プロレスラーになっちゃうかもしれないので……。
兵頭 おっ、それ。「プロレス流プロボクシング」というのが、あってもいいんじゃないですか? 「ナントカ・ギャラクティカ・マグナム~~!」みたいにね。場外まで吹っ飛んでいくという……。撃剣興行の前座に、誰かやってみせてくれないですかね(爆)。


遊就館で英語のレッスン1

“The U.S. economy made a complete recovery once the Americans entered the war.”
 ……これが岡崎久彦先生が問題にされていたパネルじゃないかと思いました。9月8日時点ではそのまんまでしたね。報道ではとっくに交換措置をとっているように印象されたんですけどもね。(館内は撮影禁止でしたので、メモに基づいています。よって不正確のことあり。)
 サラッと眺めた限りですが、英文と日本文を微妙に違えてあり、その違え方は、「シナ人が悪いのだ」という説明に関しては、兵頭は好感をもちました。つまり、ちゃんと英語で宣伝しようとしているのです。
 たとえばシナ大陸における「過激な反日行動」を“anti-Japanese terrorism”と英訳しているのは、行き届いた配慮ではないでしょうか。和文もよく考えてますよ。
 また、第二次山東出兵の済南事件のところ、「革命軍の略奪暴行が」とあるところは“when communist troops attacked”と訳してある。なかなか気が利いてますよ。
 ところがこのパネルを考えた人は語学の能力は抜群で気も利くのに、どっか毛が三本足りないらしく、反米的なスタンスの日本文の説明の部分を、大いに力瘤を入れて、ご丁寧に英訳しちゃってくれているわけです。
 なにしろ幕末から一貫して反米スタンスの説明ですよ。「ここは水戸の藩校か?」と思いますよ。それですべてがブチ壊しだ。
 そんなもん英文で読まされたら、来訪したアメリカ人が不愉快になって、本当はシナが悪かったんだと説明した部分だって信じたくなくなるでしょ? そんなことも分らんのか。まるで「宣伝」センスが無いよ。いったい誰に向かって英文で宣伝しとるのかい? そんな部分は英訳しなければ良いでしょ? 日本語で書いとくのは主義の自由で勝手ですけどね。じぶんから墓穴は掘るなよと。
 このような墓穴を掘っている原因は、明白なんです。「真珠湾攻撃は悪くなかった」という反駁を、わざわざ来館したアメリカ人に対して試みたいからなんですよ。イタすぎるぜよ、もう。
 たとえば、あるパネルの年表は、1941年7月26日の日米通商航海条約の廃棄からスタートしている。しかしね、その措置は、海南島から南部仏印に進駐する日本軍の大軍が出航したのが確認されたから、とられたわけでしょ。しかも米国国務省は日本の駐米大使に事前に警告を与えていました。進駐すれば制裁するぞ、ってね。日本政府はそれを無視して堂々と進駐を強行したので、警告を与えていた米国としては、それで制裁をしなかったらますます舐められるだけじゃない。
 で、このクロニクルをオミットした上、それを英文に訳して展示したら、逆効果しか発生しないってことが、わからんのですな。ずいぶん頭悪いと思いますよ。
 しかも“Economics constraints improved by the U.S., Great Britain and the Netherlands”って何だい? (館内は撮影禁止でしたので、メモに基づいています。よって不正確のことあり。)「経済制裁」の英訳は違うと思うんですがね。「経済制裁」は国際連盟も公認していた平和的な外交手段でしたよ。その連盟規約づくりには、日本は常任理事国として関与してるんですぜ。
 日本人向けの展示とアメリカ人向けの展示をハッキリ分けることをお奨めしますよ。コースも分けてね。アメリカ人には「蝋人形」ジオラマだけみせてりゃいいんです。それがサービス精神ってもんでしょう。
 あと、リニューアルされた遊就館の中を観て歩くのには1時間では足らず、90分はかかるということを確認しました。