越鳥 南枝に巣をかけ、胡馬 北風にいななく。

  Rodger Shanahan 記者による2019-7-22記事「Tanker-for-Tanker」。
       ジブラルタルでイランのタンカー『グレース1』を拿捕した英国がイランから報復されるのは確実だったのに、なぜむざむざと『MV ステナ・イムプロ』をイランに拿捕させてしまったのか? 謎だ。
 とうじ、ただ1隻、ホルムズ海域に所在した英フリゲート『モントゥローズ』は、もっとIRGC(イラン革命防衛隊)のボートを間近で凝視し続けることで拿捕を防ぐべきではなかったのか。
 じつは、すぐ近くに2隻目の英国商船『MV メスダー』が航行していた。もし『イムペロ』が拿捕できなかったらイランは『メズダー』に矛先を変えただろう。1隻のフリゲートで2隻のタンカーは直衛できなかった。
 参考事例。2007-3-23にイラン・イラク沖海域で『HMS コーンウォール』から派出された水兵+マリンズ計15人が、1隻のダウを密輸容疑で捜索していたところをIRGC(イラン革命防衛隊)が包囲して15人を拉致。2007-4-4に解放した。この海域ではイラクとイランの海面境界が画定されていなかった。
 次。
 Jonathan Swan 記者による記事「Why Trump keeps Bolton」。
    セントパトリックデイにアラルランドの首相をオーバルオフィスに迎えていたトランプが、ボルトン補佐官を振り向いて軽口。
 「ジョン。アイルランドは、君が侵攻したがっている国のひとつか?」
 このノリは、トランプが日頃、ジョン・ボルトンとどんな話をしているのかを物語って余りある。
 シチュエーションルーム内を知るインサイダーによると、トランプはボルトンであれ誰であれ、からかう。
 たとえば財務長官のミューシンに向かっては、君の中共との貿易交渉の態度は弱すぎるぞ、実業家だったときはそんな弱腰ではなかったはずだ、と揶揄したという。
 昨年のシチュエーションルーム内では、「オーケー、ジョン。つまり君はこれらの全部に核をぶちこみたいんだな?」と訊き、全員大笑いだったという。
 ただしトランプはボルトンをぞんざいに扱うことはない。
 ボルトンに批判的な人物いわく。ボルトンは、自分がトランプの将棋の「歩」であるとは、周りから見られたくない。
 トランプはボルトンのことを、ブラフのカードだと考えているようだ。特にイランや北鮮に対する。だから、周りからいくら促されても、トランプはボルトンを馘にしていない。
 先の論者いわく。狭い取調べ室の中でボルトンを「バッド・コップ」として隣に控えさせておき、トランプ自身は「グッド・コップ」となって敵首脳に「まあ、カツ丼でもどうだ」と懐柔にかかる。これが作戦なのかも。
 こんなこともあった。閣僚ルームでオランダの首相と会見したとき、トランプは、オランダを含む欧州の国々が、NATOとして申し合わせて決められた国防費の対GDP比率を達成していないことを非難。そして右横に座るボルトンの方を向き、「だがジョン、君はNATOが好きだよな?」。
 ボルトンがごく簡略にNATOを擁護すると、トランプは再びみずからの抱く不満について、述べ始めたという。
 某元補佐官いわく。トランプがボルトンの提案について激昂することもある。だが概してトランプはボルトンのことを、「よく準備している、頭の良い奴」と評価しているのだ。
 ボルトンは以前、マティス国防長官の意見に一歩もひかずに果敢に反対した。そこを、トランプは高く買っている。
 これはボルトンの前任のマクマスター安全保障問題首席補佐官にはできなかったことだ。マクマスターは三ツ星大将なので、四ツ星大将のマティスを「サー」とか「長官」と敬称で呼ぶしかない立場だった。民間人のボルトンにはその遠慮は無い。
 あるときマティスがシチュエーションルーム内で歴史についてレクチャーし始めた。するとボルトンが話の途中でテーブルを叩き、「ジム、止めてくれよ。今の90秒だけで君はすでに三つの間違いにとらわれている」と遮ったという。
 その場にトランプはいなかったが、あとでその模様は伝わった。
 ボルトンをわざわざ助けてくれそうな同僚は政権内に存在しないので、ボルトンはいつでも大統領から解任され得る立場である。
 そしてボルトンはそれを怖れていない。彼は自分の所信にのみ忠実に、ふるまい続ける決意を疾うから固めている。
 ボルトンがこれをやるべきだと強く信じたときには、彼は人の同意を待たないでさっさと前進しようとする。これが周囲を怒らせる。
 トランプの親友たちはトランプに、ボルトンがお前を戦争に引きずり込むぞ、と警告する。トランプは彼らに、その心配は無いと答えている。
 以前、トランプは親友たちに語った。ボルトンが毎日3つの戦争を始めようとするが、私が制御しているんだ、と。
 周辺者が最も怖れているのは、イランとの戦争である。イランとの戦争は大したことがないとトランプが信じているのではないかとも心配する。
 ある人の証言。ヴェネズエラ問題をトランプたちが話し合っていたとき、トランプは、同国のレジーム・チェンジが必要であるという目的に関してはボルトンに同意していたが、ボルトンが急ごうとする手段に関しては不賛成だった。
 トランプは、人民が独裁者マデュロを打倒するなどというお花畑シナリオを全く信じていない。どこの誰であれ、独裁者があっさりと権力を手放すわけがないことについて、トランプはよく分かっている。
 共和党支持者として米国有数の献金者が3人いる。シェルドン・アデルソン、ポール・ジンガー、バーニー・マーカス。いずれもトランプ政権がイスラエルを守ることを望んでいる。そのうち、アデルソンは、ボルトンを強く擁護している。