ハケット小説は、台詞がクールだった。それに尽きた。

 Dr Martin Brown 記者による2020-1-9記事「Why the future of history still matters. An addendum」。
  英国のハケット将軍が書いた『第三次世界大戦』。未来史、というスタイルの、テクノ・スリラーだった。70年代からよく書かれたジャンルだが……。

 記者は、ハケットがこれを書いた動機は政治的な大衆プロパガンダであったと証明できる。
 当時、英国内で、もうデタント時代になったんだからNATOがソ連軍に対するガードを高くしている必要はないという風潮があり、それに対抗する必要を感じた。

 「ハケット研究」と区分けすべき評論が、ローレンス・フリードマンや、ジェフリー・ミカエルズ、アダム・セイップらによって書かれてもいる。

 ハケットの文書は、ロンドン王立大学のリデルハートセンターに収蔵されているが、それを確かめると、彼は、ソ連軍に対するNATOの抵抗力がおそろしく限られていると見積もっていたことがわかる。

 ハケットは、この小説の草稿の段階では、西ドイツ駐留のNATO軍はいったんフランスまで退却させられてしまって、ふたたび西ドイツを取り戻すまでに2年以上かかったというあらすじを考えていた。

 もしその線で完成させていたなら、書籍は、NATO各国首脳を不快にしただろうことは間違いない。

 ハケットと彼の執筆協力者グループは、さまざまなシナリオを検討した。18日で終わる電撃戦。1年以上の長期戦。核兵器が海上や宇宙空間だけで爆発。あるいは核がNATO内の小国に脅しとして落とされるといったケースまで。

 けっきょく「欧州限定で、勝てる、通常戦争」という枠内におちつけたのだが、ハケットご本人にとっては、これは不本意だった。

 じつはハケットは草稿を米軍のウィリアム・デュピュイ将軍(1982にエアランドバトルをまとめることになる人)と、西ドイツの退役将軍ユルゲン・ベネッケに見せていた。すると2人とも、これでは希望がなさすぎる、とダメ出ししてきた。

 その1年前、フランスのゴリゴリの反共将軍ロベール・クロスが『防備のないヨーロッパ?』を公刊し、そこではソ連軍が48時間でNATOに勝利してしまうと主張していて、多数の人々を憤激させていたのだった。

 ハケットの目的意識は明瞭で、誰にも隠されていない。世論を喚起し、もっと駐独英軍の通常戦力に予算を投じていかないと危険だ――と、同意してもらいたかった。

 英労働党内閣は1975年版の国防白書で、デタント時代なのだから通常戦力の予算は削減していいんだという方向を打ち出していた。まさにこの白書に対するアンチテーゼとしてハケットの『第三次世界大戦』は書かれている。

 ハケットの最終目標は、通常戦力の再強化、モスクワの動機を健全に疑い続けること、NATOのガードを高く維持させること。

 おもしろいことに、マックス・ブルックスの『世界戦争Z』は、ゾンビ黙示録の未来記だが、この著者が、ハケットから影響を受けたんだと言っている。

 そのブルックスは今、ウェストポイントの近代戦研究所のフェローとなっており、SFを通じて軍事科学を教授するテキストも2冊、共編している。

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 Gregory B. Poling 記者による2020-1-10記事「The Conventional Wisdom on China’s Island Bases Is Dangerously Wrong」。
    中共は砂盛島を軍事基地として対米戦争に活用しようと思っているわけじゃない。
 砂盛島を足がかりとして、周辺における、軍隊ではないパラミリタリーなプレッシャーをMaxにして、東南アジア諸国に、南シナ海のEEZについての権利要求をあきらめさせようとしているのだ。

 しかし、すでにスプラトリーの3つの砂盛島に72棟の航空機格納庫が整備されている。パラセルのウッディ島には16棟だ。

 比島沖まで、沖縄の米空軍基地からは1300海里、グァムからは1500海里もある。
 緒戦の有利がどっちにあるかは、あきらかだ。

 スプラトリーにはシナ軍のミサイルが300基、ウッディ島には100基、展開されている。 ダンカン島には、中共は、対潜ヘリ用のヘリポートを整備した。

 米軍は潜水艦で密かに近寄って、水中から巡航ミサイルを発射することで対抗するしかないが、潜水艦には他に攻撃したい目標がいっぱいある。

 ※そこで次のような武器が西側には必要になる。途中まではごく低速のUUVで、長距離を潜航し、敵の砂盛島にじゅうぶん近づいたところで、弾頭のロケット部分だけが分離して水上へ飛び出し、そこから先は、短射程の巡行ミサイルとなる、使い捨て・射ち放し式のシステム。これなら、貴重なSSNアセットを無駄使いせずにすむだろう。

 巡航ミサイルによる滑走路攻撃というものが、いかに一時的な効力しかないのかは、2017年にシリアで実証された。米軍は59発のトマホークを放ち、うち58発がシリアのシャイラット空軍基地に着弾した。ところが、同基地の滑走路機能は、被弾後、たったの数時間にして復旧しているのである。

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 ストラテジーペイジの2020-1-11記事。
 米軍自殺統計。
 米軍は2011年にはイラクから、2014年にはアフガニスタンから、基本的に撤収を開始し、それにともなってこれら地域では戦死者は減っている。ところが両地域にかかわった将兵の自殺者は2015年からどんどん増えている。なぜか。

 ストレスだ。
 海外の遠隔地に長期間、それも何度も派遣されることは、軍人を精神的に疲弊させる。

 ※いま、米国では、「イランとの戦争が近づいたので選抜徴兵が始まる。こんどから女も徴兵される」といった嘘情報が乱れ飛んでいて、民心を撹乱している。つまり、80年代にはあれほどイランを憎んでいたアメリカ人だったが、それじゃ明日、戦争しますかと言われると、イラク=アフガン帰りの廃人たちをさんざん見ているから、誰もそんな気になれない。イラン内部も、失業と麻薬蔓延でとんでもないことになっている。いつ、反聖職者特権暴動が起きてもおかしくない。IRGCの本質は、聖職者特権に不平を鳴らす平民どもを処刑する治安機関なのだ。だからスレイマニ爆殺というのは、いいところを衝いた。あれはイランの大衆にはウケたのである。というわけで、もうどちらも、戦争なんかできやしない。