豚斬りの真実!

(2008年10月12日に旧兵頭二十八ファンサイト『資料庫』で公開されたものです)

(グロ注意! Caution ! Might be Too Visual for you, children)

(兵頭二十八先生 より)

 古い撮影(ネガ写真)だ。
 このたび、版元の並木書房さんが、本書を増刷してくださるというので、あらためてプロモーションの一環として、ここに掲載することにした。
 本書中の挿絵のモノクロ写真よりも、よりヴィヴィッドなイメージをお伝えできれば幸いである。

豚頭を前に……籏谷師

 肉屋さんから買ってきた豚の頭を前に……。籏谷師が手にしている真剣は、据え物切りをするときの専用のものだそうだ。幅広で、長く、そして重い。

斬!

 動物の骨も歯も基本的にカルシウムからできているのだろうが、歯の硬さは、骨の比ではない。おそらくほとんどの斬り手は、顎のかみ合わせの部分に切り込んだ場合、(上顎までは切断できても)下顎の歯のところで、刀身がガッキと阻止されてしまうのではないか? そのように、兵頭は観察した。
 三島由紀夫の斬首のときにも一刀目は奥歯に当たって止まった(そして刃こぼれした)と伝えられるし、野生の犬科の動物の共食いでも歯の部分だけはたいてい残されるものだと報告されているし(初期南極探検の極限事情下では、その歯も残らなかったというが)、また、古代メソポタミアでは猪の牙だけを寄せ集めて王様のヘルメットが作られていたというヘロドトスの記述が発掘で確認された例もある。つまり防刃素材として、動物の歯は、それほどすごいものなのだ。

豚の下顎部に注目

 犬や猫や豚が人間のように口を利くことはない。それは舌を容れる口腔の形が細長すぎて、舌を内部で自在に動かす余地がないためである。

めったにない機会なので、お弟子さんの全員が試みる

 この他に、じつは、わたしが後で思いついたために撮影ができなかった実験の一つとして、「押し切り」があった。わたしの関心は、柳生流の本に書いてあるように、ふりかぶっている敵の腕に我[われ]の刀身をピタリとつけて押し切った場合に、それでどのくらいの深い傷を負わすことができるのか――だった。
 この実験については、立会いもせず写真もいただいていないので、あくまで伝聞を「推測増幅」するのだが、どうも、居合いのプロたちががっかりするような薄手しか与えられないようである。(おそらく骨の部分で止まるのだろう。)
 しかし、これこそ真剣の真実ではないかとわたしは思った。だからこそ、敵の腕の内側、つまり動脈が走っている側を正確に狙う必要があるのだろう。それを修練するのが、柳生流なのだろう。

刃こぼれの真実

 本書114ページのモノクロ写真を、ここではカラーでお見せしよう(ネガ画質だが…)。豚の頭を切るだけでもこうなる。白い筋が見えるのは肉の脂。
 「実戦で『折れないし曲がらない』とコンバット・プルーフされた名刀が、初回納品時の形で後世まで残ることはない」という真実が、この一枚でご理解いただけるだろう。「刃こぼれしない」といわれる名刀は無いからだ。
 (すなわち、「初回納品時の形で伝存している名刀」は、どれもコンバット・プルーヴンではなく、実戦に持ち出したら、折れたり曲がったりする危険があるわけ。)
 そして、研ぎ師たちは、こうなったのをどうやって修繕していたのかについては、是非、本書をご講読くだされたい。
 刀は、それが実戦で「名刀」だと証明される都度、サイズがどんどん小さくなって行く宿命なのである。

さらに安全帽も試みんとす(これは試斬前の pause の写真)

 2005年製のFRP製の安全帽は、刀剣の斬撃に対してはかなり安全なのだな、という印象を兵頭はうけている。
 ということは、カブトで頭部を脳震盪から防護できている武士なら、(その手に槍や弓がないとすれば、)むしろ太刀などは投げ捨ててしまって、首をすくめて姿勢を低くして敵将にタックルし、短刀で「道具外れ」を狙った方が、手柄首を獲りやすかったのかもしれない。
 敵の刀剣の「物打ち」より内側でこちらの背中を割られる心配はなさそうだし、「押し斬り」も背中に関しては恐ろしくないとすれば……。
 あんがい、「組み打ち」には合理性もしくは必然性があったのではないか? すくなくとも、それは「蛮勇」とは違ったのではないか。

モノホンの戦争用の鏃(ヤジリ)と、鏑矢

 昔も狩猟中に誤って弓で同僚を射殺してしまうということがあったらしい。このようなやじりを大物猟にも使ったとすれば、それも得心ができる。

鉄扇(てっせん)

 ホネの部分だけが鉄で、そこに和紙が張ってある。

鉄扇の正しい持ち方

 なるほど、防ぐだけではなく、突くこともできるのかと分かる。

(管理人 より)

 世紀の快作『陸軍戸山流で検証する日本刀真剣斬り/並木書房』。もちろんこのサイトをご覧頂いているような兵頭ファンならば、まさか一冊も買っていません等という事はあってはならないのだが、もしそうなら6冊買ってください。このページは、『陸軍戸山流で検証する日本刀真剣斬り』の終わらないエピローグ、止まないアンコールの1つなのです。