荒地実験場2014年前半報告(2014-8-26 記す)

(2014年8月31日に旧兵頭二十八ファンサイト『資料庫』で公開されたものです)

(兵頭二十八先生 より)

 地球人口は、増えやすい条件が与えられれば、とめどなく、しかも急速に増える。じっさいに今、爆発的に増えているさいちゅうだ。
 人類のエネルギー消費量は、「人口×経済発展」に比例して増える。消費されるにともない、石油もガスも、掘り出しやすい鉱区から消えていく。
 かたや、石油やガスの採掘技術は、ゆっくりしか進歩しない。それゆえエネルギー需給は逼迫する。エネルギーの生産価格や取引価格は、高騰する。
 地球上の土地(可住地と可耕地)は有限であり所与である。そして今の食料生産は、石油・ガスに決定的に依存する。
 以上から、いつの日かわれわれの入手可能な食糧の売価も高騰してしまうことは必然である。

 では、わたしたち地方住まいの暇人は、近未来の「細民飢餓」を回避するため、何をすべきか?
 もしあなたが、放任で勝手に山野に増殖する有用植物を一つでも発見、もしくは改良することができたなら、あなたは人類全体を救えぬにしても、地域の人々、または家族や知人を、救えるかもしれない。
 すくなくとも世の中は、前よりも明るくなるだろう。

 このような課題意識から、わたしは自宅(借家)と続きの荒地(いつかは宅地開発されるのだろうが…)にて、細々とした「環境美化・兼・実験」をスタートした。それによって判ったことや判らないことを写真でリポートすることで、日本の各地域に居住している同憂の士を鼓舞できたなら、望外の幸せと思う。

 世の中、じつにイライラさせられるニュースが多い。「どいつもこいつも……」と、しじゅう、うめきたくなる。だが、植物の時間は人間のサイクルとはぜんぜん別に流れている。観察のためにそれと付き合っているうちに、人もまたマイペースの落ち着きをとりもどすことができる。

 以下、「4-10」等の数字は撮影月日を示す。すべて2014年である。一帯は函館市内の、標高50m前後のところに位置する。隣接して二級河川の谷があるので、低湿地ではない。

キバナセツブンソウ 4-10

 この荒地実験場で越冬したうえ春最初に咲くのは球根の黄花節分草である。北海道専用の園芸本で、早い早いと定評ある球根、たとえばチオノドクサやクロッカスやプスキニアよりもずっと早い。ただしフクジュソウには確実に負けるはずだ。写真奥の列はシラー。手前のロゼットが実生のヒゲナデシコだとは、ことし、咲いてみるまで分からなかった。

エゾエンゴサク 4-28

 エゾエンゴサクは昔から地下の球根を食べられる植物として知られていたようなのだが、通販で入手した球根はウサギの糞のように小さく、春に生えて来た茎も踏み圧にとても弱く(この荒地は人の出入り自由なため子供が踏むことあり)、こんなものを人が掘りはじめたら瞬時に根絶やしとなるだろうと思われた。自生地も山の南斜面に限られるようで(カタクリと並んで同じ時期に開花する、いわゆるスプリング・エフェメラル)、とても、山林豊饒化の切り札にはならないというのがわたしの見立てだ。

ノラボウナ 5-7

 アブラナ科の菜花が、なんのマルチング(藁とかビニール膜などをぴったりと被せて覆うこと)もしないのに北海道で越冬して多年草であることを証明し、しかも、基部が木化するなんて、信じられますかい? このノラボウナはオランダ人がジャワあたりから長崎に持ち込み、江戸時代の埼玉県で最初に普及し、「三倍体」のためまったく進化(性質変化)せずに今日まで細々と伝わっているという。なぜ南方の植物がこんなにも寒さに強いのか、不思議というほかはない。写真中央の長い根は、川土手に自然に生えている別な植物。その左右の2株が、2013年3月に種をじか播きした、のらぼうな。

ノラボウナ 7-2

 2年目のノラボウナが開花するとこんな感じ。ここはオニグルミの叢林端で、頭上が日蔭なのでこの程度だが、今年、ある人に種をお分けして本式の畑で栽培してもらったところ、初年にしてとてつもない巨大株になった。こいつは園芸植物としてもっと全国に普及させ、山林や荒野を豊饒化させ、近未来の飢饉に備えたらどうかと思う。なお、無農薬だとタイミングが悪ければ紋白蝶の幼虫に葉が食われまくる。が、一回越冬したあとなら、さんざんに食害されても枯れ死ぬことはない。イチオシの奇蹟の植物である。

ノラボウナ 7-16

 野外で自然越冬させたノラボウナは、7月にはタネ化してしまう。このサヤの中に大量の種が詰まっている。食用とするのは葉の部分。必要量だけ切って、短時間、煮る。味には何の癖も無い。

カマシア 5-25
カマシア 6-2

 球根のカマッシアは、北米インディアンが食用にしていたというから、当地での適性を見るために植えてみた。球根は、何年も植えっ放しにしておくと、相当に太るようだ。しかし調理法を工夫しないと毒だそうである。こいつは折鶴のような形状の葉が特徴的だ。そしてその占有面積がけっこうある。花色が薄いのでずいぶん近づかないと目立たない。また、子供はこの花茎を打ち倒したいという欲望を禁じ難いようである。打ち倒されると、二番手の茎は出てこず、その年はもうおしまいだ。4月くらいにさっさと咲いてしまえばいいのに、5月下旬まで開花しないからいけない。葉は8月になると枯れてしまう。
 「子供からの攻撃」という攪乱要因にもじゅうぶんに耐える高勢の耐寒多年草は、「ヘリオプシス・サマーナイト」だと思っている。人の背丈ほどにもなる黄色花だが、茎を10本ばかり途中からヘシ折られてもすぐ新枝を出してそこから再開花。植えて1年目から叢林状を成し、台風でも倒伏しないで、たちまち自力で元の姿を取り戻す。花期も長い。しかし、こぼれ種で増えないから、荒地には広まらない。
 「サマーナイト」に比べると、商品名「宿根ヒマワリ」の類は、花色は類似だがトップヘヴィーで、それほど高勢でもないのに強風一発で茎が折れるか倒れるかする。

シレネ 6-4

 2013年に苗を買って自宅の庭の方に定植したら、春からやたらに花盛りが長く、晩秋までタネを製造し続けたのがシレネ・ウニフロラである。そこからとれたタネをすぐに荒地に播いたらどうなるかと思ってやってみた結果が、コレ。ヒゲナデシコにさきがけて、一斉に開花した。もともと這性のはずなのに、二代目は立体ボリュームがある。野草のミミナグサの親類だけあって生命力は強そうだ。
 まだ越冬力は確かめ得ていないけれども早春に築山の頂上に苗を植えた「シレネ・ファイアフライ」という通販商品の方は、霜にも負けなかったしスタートダッシュが早い上に花期も長くて驚いた。1株で草叢を成す勢いである。

チャイブ 6-6

 2012年にタネを撒布した覚えのあるチャイブ。しかし発芽しなかったように見え、完全に忘れていた。それが、2014年にとつじょ、姿を見せた。葱らしい匂いが爽やかである。

サポナリア 6-10

 サポナリアとはソープワートのことで、これには比較的高勢のものと這性のものがある。写真のピンク花は這性。2013年に苗を買った株のタネをとってすぐ播いたら、それが荒地のあちこちで、この春、開花した。派手色の花は、咲き始めのヒゲナデシコ。
 立ち性のソープワートは、7-3にマレーシア機が東部ウクライナで撃墜されたときに現地で野草として開花していた模様。それは、墜落現場の村人が、満開状態のソープワート(もちろん一重)の花束を手向けていた写真にて、承知ができた。この荒地実験場だと立ち性の一重のサポナリアのいちばん早い開花が7-27であったから、ウクライナよりも函館は寒い(もしくは日照が悪い)ということが分かる。

イブキジャコウソウ 6-11

 イブキジャコウソウは、イチイの木の下に植えると、のびのびとは増えないように思われる。春に郊外でいろいろと観察すると、イチイの葉からしたたり落ちる雨水には、どうみても、スミレなどの野草を抑制する成分(アレロパシー)が含まれているとしか見えない。しかし、当地の気候で越冬することだけは、確かめられた。

Evening Primrose 6-15

 イヴニングプリムローズとは待宵草。ジョンソンズという英国のタネ会社の種(ファーストイヤー・ペレニアル・シリーズ)を2013年3月下旬に地面に直か播きしたところ、その年は無開花で冬となり、すべて無駄になったかと思っていたら、2014年にとつぜんコレですよ。場所は、荒地ではなく庭と私道の境目。「昼咲き月見草(オエノテラ)」は以前、通販の苗で買ったことがあるが、みるみる衰弱して消滅した。ところがこのジョンソンズの実生の方は、越冬した上、勝手にどんどん増殖し続けている。ひとつの花は2日でしぼむが、次から次と開花し続ける。脱帽の品種と思う。
 写真の黄色い花は「ダイコンソウ」で、越冬株。右の白いサルビアも越冬株で、こいつは花期が滅法長い。ちなみに青いサルビア類は、当実験地では一冬で全滅する。

ヤツシロソウ 6-16

 カンパニュラのグロメラータ(九州ではヤツシロソウという)。カタログスペック的には、地下茎でどんどん増えるというところが、いかにも頼もしそうなわけであった。しかし、昨年秋に苗を3株、互いに数十m離して植えて越冬させてみた結果は、しょぼいにも程があるじゃないか、という実感であった。
 だがこれよりもっと期待を外されたのは「ヤナギラン」だ。他の雑草に負けないように急速に高勢化し、地下茎で増えるだけでなく、シュウメイギクやコウリンタンポポのように綿毛の種で広範囲に子孫を増やすというカタログスペックなのだが、結果は、3株のうちひとつも1mにも届かず、花芽もつかなかった。来年は、より詳細にリポートできるだろう。

ジョチュウギク 6-22

 まんなかの赤い花は、越冬した除虫菊。ただ、この場所はオニグルミの葉が繁るにつれ急速に日蔭化するので、増殖ペースが遅い。隣のシャスターテイジーも、越冬して株が大きくなったのに、2014年につけた花芽は開花しないでそのまま夏にすべて枯れてしまった。

オオルリソウ 6-23

 ミックス種袋に入っていたのだと思われるのが、このオオルリソウ。一年草なのに、何もしなくったって、どんどん増え拡がる。こいつが枯死したときにできるタネは「ひっつき虫」の中でも、衣服からひきはがすのが最も手間である。背面通気性の除草用手袋の布部分などは、すぐボロボロにほつれてしまう。

アスチルベ 6-23

 越冬した上、ひなたではびこりだしたアスチルベを、半日蔭に移植した。これで来年どうなるか観察する。このアスチルベの隣に苗を植えたアガスターシェは、一冬でほぼ全滅してしまった。半日蔭でも越冬する上に、ずいぶん旺盛に増殖するとわかったのは、カクトラノオだが、これは食用にならない。
 写真奥の谷際の土手に生えているのはキクイモ。半日蔭でも巨大化する。地下に多数のイモが成り、春に出てくる芽は、一、二度毟ったぐらいでは、じきに復活してくるタフネス。寒冷地の原野山林にも向いた、文句なしの放任救荒植物だろう。右手の黄色いのはカンムリキンバイで、まだ越冬はしてない。

ヒゲナデシコ 6-25

 2013年の早春に、残雪の上から、いろいろな花種がミックスされている袋を、複数、ぶちまけた。このうち、多年草は、その年に開花したものはほとんどない。そして、一部は「謎のローゼット」として越冬した。このロゼットが2014年春からだんだん成長してヒゲ状の花芽が見え、さらに開花が始まって、そこでやっと「これはヒゲナデシコ/ビジョナデシコかもしれない」と見当がついた。
 この植物のすごいのは、冬季、雪の下でも青々とした状態を保っていることである。しかも、ロゼットが見当たらなかった場所からも、ぞくぞくと立ち上がって開花する。湧くが如き出芽現象は、夏になっても継続している。また、花後にできるタネが大粒で量が多い。この調子だと来年はこの多年草で荒地が埋め尽くされるかもしれない。たまたま、種の性質と、土や気象が、ベストマッチしたのであろうけれども……。

ダイヤーズカモマイル 6-25

 ダイヤーズカモマイルのダイヤーとは染物師のこと。この黄色が、かつては染料になったのだという。多年草なのに、こぼれダネでやたらに増える。そして幼葉の姿でも確実に越冬する。手前の黄色い花の草叢は、2013年夏に咲いたダイヤーズカモマイルの種を秋に無造作にバラ播いた結果だ。タンジーもこのようにして初冬に撒布すると実生で無造作に増えるけれども、ダイヤーズカモマイルほど急速に成長はしてくれない。
 これと近縁といわれる矮勢の植物にマトリカリア(フィーバーフュー)がある。2013年に苗を3株植えたが、冬の間に文字通り、消滅してしまった。

クロタネソウ 6-28

 1年草なのに、いちど播いたらあとは全自動で(ただしチシマザサの伐採や、ブタクサ、セイタカアワダチソウ、ダンドボロギクのような雑草の抜き取りは必要だろう)毎年春からはびこってくれて、範囲も逐次に拡がるのが、写真手前のクロタネソウだ。花がなければ一見、背の低いコスモスのようでもある。
 通常タイプのコスモスも、いっぺん生え始めたら、絶えることはまずない、強健そのものの1年草だが、まだこの時期には、出現しない。

マーシュマロウ 6-29

 「マシュマロ」の語源は、マーシュ(沼地)のマロウ。根が子供の喘息止めの薬の原料になったそうだ。その花がコレ。手前の鉄砲ユリと比べて、高勢なのがわかるだろう。こいつは実生なのである。豪雨でよく冠水する地点に2013年に播き、同年は矮小ながら少数の開花を見た。それが2014年にはこんなになった。ここまで、周辺の除草以外は、まるっきり放任である。このあと、2日ほど風雨が続いたら、倒伏してしまった。ひきつづき、放置で観察中。

ブッドレア 7-2

 花が咲いてないので分かりにくいが、やはり未開花のシャスターデイジーの株の奥にブッドレアのボサが立っている(エニシダのような感じで)。2013年春に定植したのに、この夏も開花の兆しがなかった。よほど日照をよくしないとダメなのだろう。函館は、海際であるためか、朝に晴れていても午前中に海霧で曇ることが多く、しかも、真夏になっても北海道の内陸部ほどには高温が立て続かない。だから、この地で「半日蔭」のロケーションにするということは、きわめて日照条件が悪いことになってしまうのかもしれない。

ガウラ 7-3

 2013年に苗を買って定植した白花のガウラの種を取り播きしたのが、この手前の叢。ヒョロヒョロの茎1~2本で越冬し、7月にはもうコレである。このあと一斉に開花して、親株をしのぐ規模となった。ガウラの右奥は、荒地への展開力ではアップルミントなど問題にしないほど旺盛な自然進出を誇る野草の「フランスギク」。自転車置き場(砂利地面)に宿根しているのが毎年邪魔なので、早春に掘り取って無造作に移植したのが、こうして開花している。しかし、わたしが伐開するまでは全面チシマザサに覆われていたこの実験場には、フランスギクはさすがに入り込めてはいなかった。

ベロニカブルーエンペラー 7-13

 2013年早春に種苗店の裏庭みたいなところに並んでいた、前年の売れ残りのベロニカブルーエンペラーとやらの古い休眠株を買ってきて、半日蔭へ定植したところが、少し葉が出ただけでその年は開花どころでなく終了。そこで2014年早春にこんどは場所を、西陽以外はすべて当たる「築山」の東斜面に移してやったら好調であった。手前の白花は、ジョンソンの実生のヒルザキツキミソウ。左手奥は、実生でしかも越冬したコケコッコー花(ホリホック)と、苗で越冬したベルガモット(前年は倒伏したが、今年は支柱なしで倒伏せず)。築山の内部には、荒地の各所で掘り出した石ころと、チシマザサの切断した根が堆積している。その上に、1袋198円のツルハドラッグの土をかけたのである。

バーベナボナリエンシス 7-14

 バーベナボナリエンシスは、別名「三尺バーベナ」。こいつが北海道で越冬しますと確約している園芸本は、1冊もないであろう。しかし、ものはためしで昨秋に苗を定植しておいたら、この通り、開花した。あとは、こいつから実生で拡がって行くかどうかが、注目点である。枯れた茎の上にタネができているのは、苗の位置の目印として輪状に植えておいたアリウムの地上部残骸だ。アリウムは球根だから早春にいちはやく開花して、その下に休眠苗があることを示してくれる。

ガウラのピンク 7-15

 ガウラについては某タネ会社の説明が、耐寒性に不安があるようなことを注記しているために、園芸書もことごとくそれを踏襲しているが、この荒地での実験の結果、ピンク花も白花も、ここでの越冬には何の工夫もいらないことがわかった。このピンク苗は2013年に定植し、接地部は冬までに木質化してずいぶん頑丈になり、難なく越冬した。その右隣は、野生の2年草のモウズイカが生えてきたので、刈らずに残して観察をしているもの。モウズイカの手前は、実生のルピナスである。その右の草叢は、天下無双のしぶといハーブではないかと思われる「アップルミント」。しかし除草を一切止め、チシマザサやススキを伸ばし放題にすれば、日照がなくなって、アップルミントも消える。

ブローディア/トリテレイア 7-15

 一般に北海道の花壇では、球根植物は、そうでない植物よりも早く、4月とか5月に開花してくれるので、いかにも珍重したくなる価値があり、人々は賞翫するわけである。ところがこのブローディア(別名トリテレイア)は、7月中旬に開花する。もうその頃には、どの庭も花だらけで、存在が埋もれる。
 左手のコンクリート塊は、冬の前に顔なじみのハシボソガラスのカラ吉夫婦のためにオニグルミの実をトンカチで割ってやる場所である。「駐車場のクルマに轢かせるなどという手間のかかる真似をするまでもねえ」と手助けをしてやったら、カラスもいろいろなことを教えてくれるようになった。慣れるにつれ、笹刈りなどをしているわたしのすぐ近くで、地中に半分埋もれているオニグルミを掘り出してみせる。「こいつを割ってくださいよ」というわけだ。しかし春は、人間の方が見つけるのが早い(発芽するので)。発芽直後のオニグルミは、地中からゆっくり引き抜いたあと(これはカラスの技能では絶対に無理)、殻に軽いショックを加えるだけで奇麗に二つに割れる。それを石の上に放置すると、カラスが飢えている場合は、ついばむのだけれども、秋の胡桃に比べて、さすがに人気は落ちるように見受ける。
 人にもカラスにも発見されなかったオニグルミは、最終的に野鼠が齧っていると思われるのだが、いまだに野鼠の死体も生体も、この荒地で目撃したことがない。余談だが、烏が上空から地上の人間に挨拶するときは、人間の目の周りに届いている太陽光線を一瞬影で遮るような、巧妙なフライ・パスを為す。

ゲラニウム・ジョンソンズ・ブルー 7-16

 通販で苗を2株買ったものだが、1年目の夏からすごい繁茂であったゲラニウム・ジョンソンズ・ブルー。2年目もたいしたものである。築山左麓のは、2013年に植えたアルストロメリア。これも融雪期冠水にめげず、快調。

コマチリンドウ 7-18

 マルチングなしでは越冬しない可能性が大なのが、小町リンドウ。しかし、非常に条件のわるい場所で、こいつはかろうじて越冬した。だから、築山に移植して、養生することにした。

ソリダスター 7-18

 左端の草叢がソリダスターで、この写真の1週間後に開花した。手前の黄色い花は、「中葉シュンギク」のタネ袋をバラ播いたもの。1年草だが、シュンギクほど安価に、且つ急速に「花畑」を構築できる市販のタネはないだろう。遠方の黄色いのは、ダイヤーズカモマイルである。

South side 7-19

 実験荒地はわが借家の北側に広がっているのだが、南側には狭い庭がある。そこでも植物越冬をいろいろ実験する。とはいえ、この写真に写っている多年草は、ローマンカモミール(白花)を除くと、まだ当地での越冬力は確認できていない。
 左端の「ヤグルマギク」(青花)は、一年草なのに、翌春になると勝手にこぼれ種で再生し、株数が減らない。
 それに比べると「アグロステンマ」「ペインテドセイジ」などは翌春はきれいに消滅してしまう。やはり一年草の「クリムソンクローバー」や「マリーゴールド」は翌春すこし再生はするものの、株数は播いた年よりもぐっと減ってしまうと分かってきた。
 左手中央のモサモサフワフワした絶妙な触感の多年草は「トードフラックス/リナリアブルガリス」。苗のくせにスタートダッシュが遅い気がするが、黄色の花も咲かないうちから周辺に増え始めるという、はかりしれない増殖ポテンシャルを秘めている。
 アキレア(ピンク)の左の株は、実が食べられるワイルドストロベリーなのだが、この苗は残念ながらランナーで野放図に増えていってくれるタイプではなかったようだ。アキレアの手前はカラマツソウの一種。

テウクリウム 7-19

 テウクリウムは、こじんまりしているため、広い荒地ではほとんど目立たない。爆発的に増えるという風でもない。これと相似形の草姿の、ベロニカ・ロンギフォリアの方がずっと高勢で、株も豊かなので、荒地では目立つ。しかしテウクリウムが土のかなり悪い環境で越冬したことは確かである。

シュッコンカスミソウ 7-20

 2013年に市内の苗店で安く買った宿根かすみ草が、越冬して今年は巨大化した。

エロディウムマネスカヴィ 7-20

 ピンク5弁花のこの苗は今年の春に通販で買ったものだから、まだ越冬の実績がない。したがってここでは紹介すべきでもないだろうが、霜の降りる早春にマルチングなしで荒地に定植できたタフさと、開花の早さと、花期の長さを好感した。その背後の叢はセンダイハギ(黄花)で、もう花は終わっている。センダイハギは知らぬ間に長い地下茎を伸ばす。翌年春に、もとの株から1m近くも離れたところから複数の芽が出てくるのである。

チョロギ 7-22

 朝鮮わたりのミニ芋であるチョロギは、種芋を植えたあと放置しておけばよいそうなので、救荒作物としてすぐれているのではないかと思う。こいつは春に種芋を植えたもので、まだ越冬の試練にはさらしていない。リヤトリスのように上下に延びる花穂にご注目。こいつは園芸品種として改造の余地があるんじゃないか? 放置なのに花期もかなり長い。
 園芸家から好まれることは、人為的な拡散につながってくれるので、現代の救荒作物としては、ひとしお高性能だと言えるのである。
 写真の奥は、春に苗を植えたのにとうとう花芽すら見せなかったフランネル草(リクニスの赤で、凝った品種ではない)。どこが「こぼれだねでも増え、強健」なのか。

イヌゴマ 7-31

 種を播いたおぼえのない植物がいつのまにか勝手に生えてくるのは、面白いものだ。ピンクの花を咲かせているのは、多年草のイヌゴマ。事典では雑草扱いなのだが、これは充分に園芸品種化する価値があるんじゃないか? 地下茎でたくましく増殖する。隣の黄色い花の方は、まだ同定できていないのだが、一年草のコウゾリナかもしれない。この黄色い花は、枯れると綿毛化して種を飛散させる。だから来年は、一面に広がっているかもしれない。

チコリ(1)
チコリ(2)
チコリア
チコリー 8-4

 古くからイタリアでサラダ菜とかにされているチコリアを英語でチコリーという。和名ではキクニガナとか呼ぶらしいが、葉を一枚、洗って食べてみれば納得する。この苦さのおかげで、無農薬でもぜんぜん虫に食害されることがない。今年、わたしは3種類のチコリの種を春に荒地にじか播きした。ひとつは「三笠園芸」のチコリーウィトロフ。もうひとつは、玉川園芸の「チコリウムインティビュス」。どちらも通販。もうひとつは地元のホーマックで早春から売っていた「ロッサ・ディ TV」(愛媛県の Life with Green 株式会社がイタリアから輸入している Cicoria Rossa di TV)だ。このうち、ロッサ・ディ・TVがすばやくトウ立ちして開花した。葉の葉脈が白く、その周りの葉表が、赤黒く汚れているかのように見えるタイプだ。
 チコリーの特徴として、同じ袋の中のタネなのに、生えてくるものに、さまざまな個性が発現する。葉の形、茎の出かた、じつに千差万別なのだ。ところが、花だけはどれも同じ形らしい。早朝に青く開き、夕方までには、白くなってしぼむ(宿根亜麻も似たような直径でほぼ同色の一日花を次々に咲かせ続けるのだが、白化はしないで落下する)。
 ただしチコリーには、播いて1年目には、開花しないで葉ばかり繁る、という、観賞を排除して食用専用に改良が進んだ2年草のタイプがあるらしい。どうもロッサディTV以外は、それかもしれないと疑われる。巨大化するのみで、いっこうにトウ立ちしない。つまりタネをつくろうとしない。
 日本の寒冷地の山林を豊饒化してくれるのは、たぶん、畑用に改良されたものよりは、多年草としての野生の特徴を濃く残しているものではないかと愚考する。ひきつづき、観察を続けたい。

バーベナハスタータ 8-5

 バーベナハスタータが北海道で越冬することは、道東の非常に厳しい気候の土地でこれを栽培している人のブログ・リポートがヒットするから、予期できたことであった。予期できなかったのは、いきなりこんなに高勢になるということ。おなじく昨秋にクガイソウの苗も定植したのだったが、そっちは人の背に迫るどころか50cmくらいで開花すらせずに今年は終了しそうである。
 写真の左下には宿根のセントレアが見えている。これは今年の春に苗を植えたものなのだが、まったく離れた場所に、播いた覚えがない実生の宿根セントレアがとつじょとして生えてきて、夏に開花までしたのには驚いた。

カラミンタネペタ 8-6

 2013年に苗を買ったカラミンタネペタの枯れ茎(種付き)を、その秋に離れた場所に投げておいたら、それが2014年にこんなになった。しかし、親の株が青白い花であったのに、こっちはピンク系である。花のつきかたもぜんぜん違って見えるので、カラミンタではないのかもしれない。

アピオス 8-13

 2013年は半日蔭に種芋を植えて、ついに開花しなかったアピオス。今年は西日以外は当たる場所に、別な種芋をあらためて植えて放任したところ、このように開花した。さてここからだ。こんどは同じマメ科の「葛」との交雑に挑む。葛は道南が自生北限なので、そっちを大きく育てるのにまた2年は必要みたいだ。半日蔭で開花しないのでは、おそらくアピオス単体では、山林の豊饒化は無理である。しかし一冬で地下部分までは死滅しないことは確認ができている。

オオマルバノホロシ 8-18

 とつぜん生えてきた野草。ナス科で、オオマルバノホロシという。ホロシとは皮膚病の名だそうで、秋に赤くなったときの実がそれに似るのだそうである。その実は人間には毒だという。おそらく野鳥が糞とともにこの地にもたらしてくれたのであろう。木の実や草の実のなかには、1羽の野鳥に全部をいっぺんに食べ尽くされてしまわぬ戦術として、適度に有毒となって、できるだけ多数の鳥にいろいろな方角へタネを運んでもよらうよう仕組んでいるモノがあるようだ。

クラリーセイジ 8-18

 このシソ科のクラリーセイジが2014年6月に花芽をつけたときは、なんという植物なのか分からずに悩んだ。開花した姿を事典と照合したら、「ジュウニヒトエ」に似ているようだが、こっちのは高さ64cmもあり、しかも野草のジュウニヒトエは北海道には生えていないことになっているではないか。
 全草から爽やかな芳香が立ち上っており、ハーブのクラリーセイジなのだと遂に分かった。そのタネを、2013年3月にこのあたりに4袋もブチまけていたのをすっかり忘れていたのである。1年草だから、来年は再生しないであろう。


(管理人 より)

 こんにちは。前回に引き続き草花である。
 福岡の実家から車で一時間くらいの距離に、古湯温泉という全国的には全く知名度の無い温泉がある。先日帰省した際に浸かっていた。

 本当に山奥にあるので、露天風呂からの景色が素晴らしいのである。山々の緑をじっと眺める事ができるのだ。
 にぎやかさでは別府に及ぶべくもなく、知名度では箱根にかなわず、風情では函館の温泉に比べるべくもないが、景色は本当に美しい。

 都会の喧騒や猥雑さも大好きなのだが、花を、草を、木々を眺めるのは楽しい事だ。私は東京に転居してより強くそう思うようになった。