これは欧米マスコミでは普通の書式なのだが、日本の新聞屋がネットに書く時事解説文はこの流儀でないことが多くて、しばしばイライラさせられる。
とくにスマホで閲覧している場合に、解説記事の第1ページでは要点がわからないときはどうするか。誰もそんな記事を2ページ以降までも進んで読もうとは思うまい。みんな、忙しいんだよ。
次。
Mark Lynas 記者による2020-4-6記事「5G: What’s behind the latest COVID conspiracy theory?」
5Gの電波が住民の免疫を低下させ、新コロに罹りやすくする――などといった新手のコンスピラシーセオリー(陰謀論)が欧米では流行している。
さいきん、英国でスマホ中継タワーが燃やされた。おそらく5Gに関するコンスピラシーセオリーを信じた者たちの犯行だろう。
米国のセレブの中にもこのルーモアを信ずる者がぼちぼち現れているのを見るのは残念なことだ。
こうした人々の深層意識の中では、電波(レイディオ)が、放射能(レディオアクティヴ)を連想させ、したがって、電磁波関連のあらゆるキーワードが、容易に「チェルノブイリ事故」「原水爆」のイメージに直結し、そこから「発癌」の恐怖が湧き出すのであろう。
科学的な話をしよう。電磁波スペクトラムのうち、DNAなどの分子のつながりを断ち切る力がある(分子をイオン化できる)スペクトラムは、「最も波長が短い側の紫外線~もっと波長の短いX線~さらに波長の短いガンマ線」である。
波長の長い側の紫外線から、もっと波長の長い可視光線、いっそう波長が長い赤外線、さらに波長が長いマイクロ波・短波・中波・長波などの電波には、原子から電子を叩き出すことができるほどな物理的な力はない。すなわち分子をイオン化できない。
したがって、マイクロ波(携帯用の無線電波)は、X線やガンマ線のような機序では、生体に癌を生じさせることがない。
マイクロ波には、物体を熱する力がある。この力は電子レンジで利用されている。
しかし携帯電話やワイファイのマイクロ波は、出力が微弱なので、人間を加熱してしまうような害を生じないのである。
携帯電話が人を発癌させないことは、統計学的に証明できる。世界中で数十億の人々が携帯電話を使うようになってきているが、過去から現在まで、どの地域でも、その利用者数の増加と、発癌者数の増加は、相関を示していない。
これに対して、自動車を運転しながら携帯電話でテキストメッセージを送受している人の数と、交通事故の数は、明瞭に、統計学上の相関をあらわしているのだ。
したがって、携帯電話は、交通事故死傷者を増大させる。これは統計学的な真実である。
現実が、無秩序や混乱そのものであるとき、人々は、そんな真相を受け入れるよりも、誰か悪い者がどこかにいて、そいつがすべて裏でこの混乱を意図的に作っているのだと思う方を選びたくなる。その方が、頭がすっきりするからである。気が楽になるのである。
コンスピラシーセオリーは、キャパシティの足りない大衆の頭をすっきりさせてくれる薬である。大衆は、それを信じることにより、自分の頭が人よりもよくなったようにも感ずる。麻薬のようなものである。だから、流行する。
次。
James Hamblin 記者による2020-4-6記事「Why Does the President Keep Pushing a Malaria Drug?」。
マラリアは、蚊が人の血液に原虫を寄生させる病気である。ウイルス病ではない。
ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine)は、マラリアの治療薬のひとつとして数十年前から知られている。
2週間前、フランスの医師ディディエー・ロール(Didier Raoult)が『微生物学』誌に論文を発表した。彼は新コロ治療にこの薬を使ってみたという。
6人の新コロ患者に対して、ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine)を、抗生物質アジスロマイシン(azithromycin、別名 Z-Pak)とともに投与したという。ふつう、抗生物質は、細菌を殺すもので、ウィルスには効かぬはずだ。
しかし6人ともに、6日後には、新コロ陰性になっていたという。
この報告に注目したフォックス・ニューズの常連解説屋であるメフメット・オズ医師が、番組上で21回、ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine)の効能を宣伝した。
ラウル医師は、数年前から、気候変動や、ダーウィン進化論にも文句をつけている、ニュース上の著名人である。
1月21日、ロール医師はユーチューブに投稿。そのなかで、中国でコロナウィルスで人々が死んでいることは事実だが、わたしははあまり心配していない――と語っている。
オズ医師らは先週、ホワイトハウスに、新コロに関するアドバイスをしたという。ヒドロキシクロロキンで100%患者は治ると吹き込んだらしい。あきらかにトランプはその信者になった。
ホワイトハウスにはすでにアントニー・ファウチという感染症のスペシャリストがアドバイザーとしてついているのだが、そのファウチはヒドロキシクロロキンについては一蹴している。
ラウルの報告の中でも、別の3人の患者にヒドロキシクロロキンを投与したけれどもそっちは6日経っても重症であってICUで治療されているところだというし、また他の1人は副作用がひどいためにヒドロキシクロロキンの投与は止め、さらに別の1人は6日目に死亡した、と書かれているのだ。
然るに、ロールの報告が公刊された翌日、トランプは、ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンを一緒に服用することが、薬学史上の最大級のゲームチェンジャーになるかも、とツイートした。
その後もトランプは、この療法を持ち上げ続けている。
持ち上げ方は、4-4のツイートではかなり大袈裟になっている。
トランプは、290万処方回数分のヒドロキシクロロキンを国家備蓄させる、と言い、さらに、トランプ自身、この薬を服用し始めるであろう、と語った。
過去2週間、わが合衆国大統領は、世界で最も著名な医薬上の誤報伝達者になってしまった。
致死的副作用などの危険があるのに、専門家のファウチの諫言に耳を貸さず、米国民にヒドロキシクロロキンの服用をそそのかしている。
ヒドロキシクロロキンは、関節リューマチや皮膚結核(狼瘡)のような自己免疫疾患の治療にも役立っている。すなわち免疫反応を緩和してくれるのだ。
しかし免疫システムにブレーキをかけすぎれば、こんどは感染症の罹患性を高めてしまう。
またヒドロキシクロロキンの副作用としては、精神疾患、失明、心臓発作を招くこともある。
だから心臓や肝臓の既往症のある患者への投与は特に慎重でなくてはならないのだ。
トランプは3-28にFDAに対し、ヒドロキシクロロキンを新コロ治療薬として緊急に承認しろと迫った。
ワシントン大学の医師たちいわく。猿の腎臓の培養組織の上で新コロのウィルスが増殖するのを抑制する効果が、ヒドロキシクロロキンにはあると認められた。しかし、生きている器官に関して抗ウイルス効果があるのかは、未知である、と。
他方、上海で、30人の新コロ患者にヒドロキシクロロキンを試したところ、7日経っても、ヒドロキシクロロキンを投与しなかった患者とウィルスの数に違いは認められなかったそうである。
別の報告。62人の軽症の新コロ患者でヒドロキシクロロキンを試したところ、咳や熱が抑制されたと。しかしこの実験チームは、重症の新コロ患者への投与を見送っている。それによって却って症状が増悪するかもしれなかったからだ。
トランプは4-4の記者会見で、いったい患者たちが何を失うってんだ。ヒドロキシクロロキンを投与すればいいんだよ、と語り、それに対して記者たちが同席のファウチへ質問をしようとしたところ、トランプは、ファウチには回答を許さなかった。
そんなことをやっていれば、われわれが失うものがある。それは、マラリアの治療が必要な人に、ヒドロキシクロロキンが行かなくなってしまうという事態だ。
病院へ向かう自動車のスピードは速めるべきだからと、道路の一時停止標識をぜんぶ撤去したなら、誰の福利になるんだ? 死人が増えるんだよ。そこを考えるべし。
4-4にトランプは言った。皮膚結核の人は新コロに罹らない。なぜならヒドロキシクロロキンを投薬されているからだ、と。
しかし、そんな研究は、存在しない。