エネルギーと食料を自給自足できない中共にとって、海洋とは、現代の《鬼門》でしかない。新刊『封鎖戦』はその末路を予言します。

 Francis P. Sempa 記者による2020-8-31記事「Classical Geopolitics for the 21st Century: Geopolitics, Geography and Strategic History」。
      英レディング大学のジェフリー・スローン教授は、米海軍大学校でも教えている人。彼が、コリン・グレイの『超大国の地政学』(1988)いらいの、地政学関係の大作を書いた。
 そのタイトルを『地政学、地理学、そして戦略史』という。

 スローンの定義。地政学は、地理学、戦略、そして歴史の相互作用であると。
 スローンは、マッキンダー、スパイクマン、マハンまでさかのぼる。

 マッキンダーの主著は3つある。『歴史の地理的旋回』(1904)、『民主主義の理想と現実』(1919)、『球形世界と平和戦略』(1943)。

 スパイクマンの主論文は、「地理学と外交政策」(1938)、「外交においての地理学的目標」(1939)。また主著としては、『世界政治の中の戦略』(1942)、『平和の地理学』(1944)。

 スローンはマッキンダーとスパイクマンの類似点と相違点を注意深く読み解く。
 このふたりとも、ユーラシア大陸が世界最大の人的・物的資源庫なのだと看做した。ふたりとも、海は障壁であると同時にハイウェイだと看做した。

 こんにち起こっている「グローバリゼーション」は、マッキンダーが予想していたことだった。

 WWI後にボルシェヴィキがロシアを支配したら全世界が危険にさらされると最初に警告した政治家はマッキンダーだろう。彼は1920に内戦中のロシア南部に外交使節として派遣され、デニキン軍支援を模索する中で、世界初の全体主義政府の形成を目撃しているのだ。

 マッキンダーは見た。ボルシェヴィキ軍隊を統合していたのは、「恐怖」の力であった、と。
 そして帰国後に英政府に忠告した。デニキンに資金援助するだけでなく、東欧諸国を組織して白軍を支援させるべきである。ボルシェヴィキは英国にとって脅威になるだけではなく、世界の民主制度にとっての禍いとなるから。

 FDRは、海軍長官だったWWI中、マハンの愛読者だった。大統領になってからは、スパイクマンと親近になった。イザイヤ・バウマンという地理学者が、米国戦争内閣に助言していたのだが、そのバウマンの委員会に、スパイクマンが居たのである。

 マッキンダーの著作の功績は、国家指導者層を啓蒙しただけでなく、ちょくせつに国民にも政府の世界政策を理解させたことである。彼の『デモクラシーの理想と現実』は初版が1942だが、ペーパーバックが1944に出て、戦後の東欧をどうしなければならないかについて世間を教育した。米雑誌の『フォーリンアフェアズ』にも戦争中に彼は寄稿した。それが「球形の世界の平和戦略」である。

 スパイクマンの2作も戦中に出版されている。これらの著作が人々に、戦後の対ソ冷戦について考える資料を与えた。
 ユーラシアの全体主義は「封じ込める」しかないのだと、マッキンダーとスパイクマンが教えたのである。
 スローンにいわせると、1946のケナン論文も、冷戦初期のNSC指針も、皆マッキンダーの言い換えだ。

 スローンは、ケネディとジョンソンの対インドシナ政策を非難する立場である。しかしトルーマンは正しかったと評価する。
 また、ニクソン政権のインドシナ政策を褒める。
 米国にとって、地政学的に、インドシナは、重要ではなかったのである。そこに気づいたから。

 スローンいわく。一帯一路の意味は、中共が、ランドパワー兼シーパワーを追求するという宣言。
 これはマッキンダーの悪夢である。ユーラシア大陸の支配者が海洋も支配するようになったら。

 ※マッキンダーの一大欠落が、「石油地政学」の観点をもたなかったこと。中共内に人ばかりがいても石油がなければスーパーパワーとはなれない。ユーラシアの資源は偏在しているのである。ゆえに支那にとっては逆に海洋がアキレス腱になっているのだ。マッキンダー信奉者のスローン氏もそこには気づいていないように見える。ということは、みなさんは小著『地政学は殺傷力のある武器である』をお読みになったほうが、はるかに勉強になるだろう。

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 Steven Stashwick 記者による2020-8-28記事「Chinese Military Experiments With Using Commercial Vessels as Helicopter Bases」。
   中共軍は、「重量物運搬船」が、ヘリ空母の代用として臨機に使えるのではないかと考え、実験をしているところ。
 『Zhen Hua 28』という民間船が使われている。

 これは米海軍がもっているEDS《遠征用ドック・シップ》やESB《遠征用シー・ベース》の、当座代用品のつもりなのであろう。

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 ストラテジーペイジの2020-8-31記事。
   ロシアのゴルシコフ級フリゲートの新造2艦が「フィリン」という敵眼幻惑用のストロボライトを装備した。
 500m先のボートを照射すると、敵は何も見えなくなる。
 「フィリン」は2018年からある。