熱電対の新発明。

 Robert F. Service 記者による2020-9-11記事「Energy ‘scavenger’ could turn waste heat from fridges and other devices into electricity」。
    熱電素子の良いものがないか、多年、捜し求められている。
 それは、熱そのものの良伝体であっては、困る。電子の流れだけを取り出したい。
 熱が輸送されてしまうと、2極間の温度差が逓減するから、発電セルとしては、よくないのだ。

 もうひとつの課題。数百度の熱源からでなくて、冷蔵庫の廃熱レベルの熱源を、利用できないものか、と。

 そこで、武漢にある華中科技大学は、この熱電素子を、固体ではなく液体でこしらえ、かつまた、電子のやりとりはするが、熱の移動は抑制する、うまい方法を考えついた。

 研究陣は、ドミノ牌サイズの箱容器で熱電素子をこしらえた。箱の天井と底には電極がある。
 底の電極を、熱い板の上に載せる。天板はそれより50度、温度の低い物体に、当接する。
 容器中には、液状のフェリシアン化合物。電荷4のイオンが混じる液体だ。

 この箱の中では対流が起きる。底の熱い電極に接したイオン溶液は、その電子4個のうち1個を放出する。そしてその荷電状態で容器内を拡散的に上昇して、こんどは天井の冷えた電極に接し、そこで電子1個を受け取り、また拡散的に下降する。このサイクルが繰り返される。

 だが、それだけだと、熱の移送もなかだちされてしまう。
 そこで、研究陣は、この溶液中に、プラスに荷電した有機化合物のグアニジンを加えた。

 グアニジンがあると、冷極において、フェリシアン化合物は結晶化し析出する。つまり固体の分子になるので、熱を伝えにくい。したがって冷電極から熱が逃げにくくなる。
 ※昔の軍艦の蒸気ボイラーに入れる真水がなくなったら、最後の非常手段として海水を焚くことができたが、やがて塩が析出して熱交換パイプにびっしりつく。それは断熱材がはりついたも同然なので、その蒸気ボイラーはエンジンとしては機能できなくなる。それと同じ機序。

 つごうのよいことに、比重の大きなフェリシアン化合物の結晶は、液体サーモセル内の冷極にくっついていることなく、じきに沈降して、やがて熱極に達すれば、また液状に復帰してくれる。

 この研究成果は『サイエンス』誌に今週、掲載された。
 このサーモセルを20個集合させると、ペーパーバック本のサイズとなるが、それによって、LEDライトぐらいは点灯できる電力を、50度の温度差の廃熱から、得ることができる。

 ※ここでひとつの夢がひろがる。原発から出てしまった放射性廃棄物を封じ込めたキャスクを北海道の寒い土地へ深々と埋める。このキャスクは半永久に発熱している。その上に、じゅうぶんな体積の熱伝導体を重ね置く。その熱伝導体の頂部を、このサーモセルの底部の熱電極とし、サーモセルの天井部の冷電極は、地表に露出した岩盤の直下に位置させる――。いかがですか?



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