小川寛大さんの快挙――中央公論新社から『南北戦争』爆刊!

 奥付によると12月25日刊行。
 ひとばんで読める分量(200頁)にまとめているというところが、まず壮烈。《すべてを見渡した》人でなくば、こんなことは不可能だ。

 小生、次著の執筆にかまけ中のため、まだ「はじめに」と「もくじ」と「おわりに」しか読めないでいるけれども、それだけでも考えさせられた。

 現代合衆国のキャラクターを確定したといえるこの大戦役、米国にも、《決定版全史》は無いのである。誰が通史を書いても、集中砲火を浴びるのだ。米国の図書館には、だから、おびただしい《部分研究》《私説》の堆積山塊だけがある。

 となると、むしろ海外の人(ただし南部に味方した前科がある英国人ではダメ。おそらくリデルハートもそれで遠慮した)が、客観的な南北戦争通史に挑める好ポジションにある。
 しかし当然、言語や文化の障壁から、それはすこぶる付きの難事業だ。
 よって、誰も書けなかった。

 決定版通史がないのでは、ヨコのものをタテにするのが得意な日本の出版社にもどうにもならず、これまで邦語の活字でも空白のジャンルだったのであろう。

 おそらくあちらのケーブルTV局の企画でも、南北戦争の通史は企画として通らないと思う。
 ごくたまに、南北戦争の特定の会戦の再現シーンなどがあるが、考証をわざといいかげんにしている。それは、なまじリアリティを出そうとすれば、たちまち十字砲火が飛んでくるからだ。

 ベトナム戦争以前の映画産業は、北部の立場から南北戦争に触れるにしても、気を遣って、かならず「ディクシー」のBGMをどこかに入れた。リップサービスだとはわかっていても、それを聴いた南部人は鳥肌が立ったはずだ。
 「ヤンキードゥードル」のメロを聴いても北部人が独立戦争を想起して鳥肌が立ったりすることはない。

 1980年代から90年代に、米南部と日本は同じ敗戦者として似ているんだという論筆を散見した。ぜんぜん、違う。
 南部はロバート・E・リーの神格化に戦後、成功している。日本は逆に全神話を破壊させられた。昭和前期の日本の高級軍人は、命がけのようでいて、じつは命がけではなかった。国家の指導者層としてはいかがわしく、まがいものであった。
 リンカンは大統領就任前から暗殺団の攻撃をかわしている。在任中も、いつ殺されてもおかしくなった。まがいものではなかった。こんな政治家は日清戦争以後の日本にはいない。
 グラントが大統領退任後に世界を周遊して日本にも立ち寄り、明治の国会開設について助言を求められて応答した内容が残っているが、一読、彼の資質が只者で無かったことが知られる。

 日露戦争以後、米国に《留学》をゆるされた若い帝国軍人エリートは少なくなかった。だが誰一人、どこへ行っても史跡にぶつかったはずの南北戦争の研究を、こころざした者はいなかった。
 山塊が大きすぎ、彼らの目は低すぎたのである。

 次。
 Victor Abramowicz 記者による2020-12-21記事「A Missile Spotter’s Guide to North Korea (and Beyond)」。
    液燃の「火星16」を、たとえば地下で燃料充填して、それを発射地点まで車両で移動させる、ということは、不可能なのであると知って欲しい。液燃のミサイルは、発射するその場所に立てて静止させてから、燃料充填をスタートするしかないのだ。

 というのも、筒体は限界まで軽くこしらえねばならないために、輸送中の振動や、横向きの荷重には、構造が耐えられないから。
 ICBMとなれば、なおのこと、「こわれもの」として扱われる必要があるのだ。

 おそらく「火星16」は全重110トンになるはず。そしてその85%は燃料の重さになるはず。

 北鮮のロケットはソ連技術が源流である。ソ連では、燃料注入口と、酸化剤注入口に、それぞれ特定の色を塗ることを指定していた。「火星16」の表面には、黄色い丸蓋と、赤い丸蓋が見えるだろう。それである。

 「なんとか4型」ミサイルには、この黄色丸と赤丸がない。だからそっちは固体ロケットだと推定できる。

 液燃ロケットは複数のセクションを継ぎ足し溶接してこしらえる。「火星16」はその溶接痕の上に塗料を塗って見栄えをよくしている。この塗料の重さはものすごく不利なのだが。

 「なんとか4」ミサイルの方は、そんなペイントでごまかすまでもなく表面が滑らか。これは高張力合金か炭素繊維で一体成形しているからだ。
 固体燃料ロケットは筒体全体が燃焼室なので、より、工作が難しいのである。

 ※SSGNの『ジョージア』が、イランにみせつけるがごとく、ペルシャ湾に入った。トマホークを射つならインド洋からでも届くのだが、このメッセージをテヘランはどう受け止めるだろう? あのクリントンですら、トマホークの発射だけは気軽に命令できた。トランプにもそのくらいできるだろう。だが、本当に射つ気なら、事前にSSGNの存在は知らせない。これは実戦となると腰が抜けてしまうトランプ氏の、せいぜいの虚勢なのだろう。



南北戦争-アメリカを二つに裂いた内戦 (単行本)


アメリカ大統領戦記1775-1783: 独立戦争とジョージ・ワシントン1