工兵革命!

 偶然のついでにユーチューブに目を転じたら、すごいモノを見つけて、まったく、今年一番、驚かされた。
 これは旧日本軍のすべての問題を解決したかもしれないスーパー大発明だとピンと来た。

 Yvon Martel というカナダ人が完成した「MTT(マイ トラック テクノロジー)136」および「MTT-154」という、モノトラック(単装軌)の電動牽引車である。
 154型だと、176万円くらいのようだ。(1カナダドル=80.83円として。)

 いったいこの商品がいつから存在するのかと思って英文HPを見たがよくわからない。しかし和訳紹介が遅くとも2014年2月にはUpされているとわかった。

 マルテル氏(たぶん仏語圏のカナダ人だと思う)の古い特許は1992に取得されており、いちばんあたらしい特許は2018年。今は息子さんが技術部長らしいが、この車両は、営々と小改良が重ねられているに違いなさそうだ。つまり爆発的にヒットもしていないが、市場から見放されてもいない。

 辞書なしでフランス語サイトを斜め読みしたため間違っているかもしれぬが、マルテル氏は2018-3に引退したようだ。同姓同名者の死亡記事も数件、ヒットするけれども、確かめている時間が惜しい。とにかくこのすばらしい着眼の車両の説明をさせてくれ!

 ずしりと重いリチウム電池パックが中心だ。それとモーターを、1本の履帯が囲む。履帯巾は20インチらしい。両サイドはアルミ板である。
 履帯の上面にはカバー(泥除け)がない。履帯の表面は、全部、むきだしだ。これが無限の可能性を約束する。コロンブスの卵だ。

 側板の後端の両サイドから、操舵用の支持棒が斜め後ろへ突き出し、それはバーハンドルとなって結合している。これを人が握り、体重をかけて操作することによって、1本軌条ながら、左右に操向ができるのだ。

 この車両は基本的に牽引車である。人は乗れない。うしろにスレイ(橇)やミニトレーラー(アキオにタイヤを履かせたようなもの)を曳く。そのトレーラーに、子供がオモチャのダンプカーにまたがるようにして大人が乗って操縦することができる。また、ミニ耕運機のように、人が徒歩姿勢で操縦してもよい。

 気になるバッテリーの持久力だが、最低でも45km、好条件ならば連続220km走るという。速力は時速4kmから40kmらしい。カナダの湿地での運用に堪える、完全防水・防湿なので、水中でも動く。厳寒中でもバッテリーの性能を維持する技術の特許も取っている。

 マルテル氏はさいしょ、マルチなオフロードヴィークルを創るつもりはなかった。加齢とともに徒歩行動力が衰える人たち向けに、移動手段を与えたかったようだ。
 だが試作してみて、もっと可能性は広いと察した。そうはいっても、マルテル氏も息子も、この車両の真の軍事的な価値がわかってない。考え方がナチュラリストすぎるのだ。

 排気ガスを出さないとか、そんなことはどうでもいいのだ。
 むしろ提案したい。トレーラー上に「発発」(発動発電機)を搭載して牽引し、走行中に充電できるようにしたらどうだと。これで帰り道の電池切れの心配はなくなるだろう。

 これは「防弾板」をトレーラー上に立てただけで、戦間期の「カーデンロイド」豆戦車の革新版になり得るし、また、「97式小作業機」のようにロボット化して地雷啓開、鉄条網爆破にも使えるはずだ。音が静かだから敵陣でもこの接近に気づかない。

 だがその前にマルテル氏の宣伝を聞こう。
 彼いわく、モーター走行は静かなので、本機はオールシーズンを通じた狩猟用に適しているという。山野を静かに跋渉し、キャンプ用品を運搬し、獲物をトレーラーや橇に載せて運搬して帰ってこられる。

 だったら当然、これは「偵察隊」で使えるよね。
 積雪地の偵察隊のひとつのジレンマが、「スノーモビル」は便利だけど、冬以外は役立たずな装備になるので、オートバイとの「二重装備」が申し訳がなかったってこと。
 しかし「MTT」なら、オールシーズンで走れるので、二重装備のジレンマから解消されるかもしれない。

 「試製56式特殊運搬車」「61式特殊運搬車」をご存知だろうか? アメリカのメカニカルミュールを模倣しようとしてまったく日本の山地地形に適合せず、大失敗した4×4試作車だ。
 これも「モノトラック」の装軌牽引車とすれば、簡単に成功できたはずだ。重心はこれ以上ないほど低いし、常に人が押し曳きして補助できる。

 「MMT」は階段の上り下りもできてしまう。「メカミュール」ならば横転するような斜面を平気で機動できるし、メカミュールの車幅だとひっかかってしまう細い「杣道」も通過できる。まさに日本の山林や離島向きなのだ。

 履帯の上に一切、カバーがないということは、分厚い特殊履帯をとりつけることもできるということだ。
 旧陸軍が昭和9年に北満の湿地を念頭して完成した「湿地車」の、それ自体が浮き袋になっている履帯だって、「MTT」になら、装着ができるだろう。

 「モノトラック」ではロールに対する安定は無いから、浮航などは考えなくていい。むしろ完全防水の電池駆動式なのだから「潜水渡河」をさせたらいい。これがロープをひっぱり、門橋を彼岸へ渡すことができるだろう。

 沖からドラム缶をイモ蔓式にひきあげるウインチにもなる。そのままジャングル内までひきこめる。これが昭和17年にあったら、ガダルカナルはどうなっていただろうか?
 尖閣にはぜひ、持ち込むべきだ。

 車体がこれだけ細いと、野戦築城した狭い地下トンネル壕内での重量物輸送にも使える。ひきずればいいのである。

 軌条痕を1条しか地面に印しないということは、敵の偵察機が上空から「2条」の履帯痕を探しても、こいつだけは見つからぬ。他のタイヤ痕等にまぎらかすことがたやすい。

 そしてもっと便利なのが、「モノトラック」ならば、鉄道の線路の中間の、枕木の上を走ったっていいわけ。いままで、これができた牽引車は存在しなかった。

 接地圧が十分に低い装軌牽引車は、そのまま農作業をさせるのにも、問題がない。離島で開墾までしてしまえる。嗚呼、これが昭和17年にあったなら…………。



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(管理人Uより)

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