NF文庫『地獄のX島で米軍と戦い、あくまで持久する方法』の新装版が刷り上りました。

 月末には書店でみかけられるだろうと思います。
 じぶんで読み返してあまりの情報量の多さに「この著者にはようついて行けん」と投了したくなるほどです。わしも歳をとったね。

 次。
 2021-1-14記事「China’s Digital Currency: Mao Would be Proud」。
   過去十年、中共社会は民間主導でキャッシュレス経済への移行を始めた。アリババとテンセントが設計したモバイル決済システム――アリペイとウィチャットペイ。それによって西側先進国のカード決済システムを静かに飛び越した。

 モバイル端末を所有するシナ国民のうち87%が、これら革新的サービスにアクセスしている。つまりついに中共が世界の先頭に立った。その仕掛けが、非共産党員であったジャック馬の功績だとは、中共党としては認めたくないだろう。毛沢東もできなかったことをジャック・マーがなしとげたのだから。

 しかし欧米はこれらのシステムが個人のデータを収集できる仕組みになっていることを警戒する。トランプは中共製の8種類のソフトウェアアプリとのビジネスを大統領命令で禁止した。その中にはアリペイとウィチャットペイも含まれる。

 国際銀行間決済システムSWIFT上を動く通貨のうち、人民元は2%しか占めていない。これではドルやユーロの世界経済秩序に対抗できない。

 まずはアジア諸国との決済を「デジタル元」にして行き、さらにゆくゆくはドル=米国に金銭力で対抗しよう、というのが北京の大構想だ。

 いま北京支配者がアントグループ(アリペイAppの親会社)をいじめているのは、アントグループが集めに集め、溜めに溜めている厖大な内外個人情報を、中共党がすべてかっさらって、世界個人情報の一元一党支配を実現したいからだ。カネは権力のゴールではない。情報が権力の基礎なのだ。

 ジャック馬は数ヶ月前、公然と批評した。中共の昔ながらの銀行は、質屋のメンテリティで運営されている、と。そしてその後、行方不明になった。

 中共党は、デジタル決済を民間に任せるつもりはまったくない。そのシステムまるごと、中共党が支配する必要があると考えている。

 ビットコインやエゼレウムのようなクリプト通貨についても同様だ。これらの仮想通貨は、国家統制からは離れた匿名国際通貨になる、と西側では謳われたものだ。だからシナ人には人気である。しかし当然ながら中共党指導部は、そんな通貨圏をゆるすつもりはまったくなく、仮想通貨も含め、一切の経済情報を党の最上階級が完全管理しなければならないと考え、その方法を模索しているのだ。

 すべての人民のカネ遣いを党が把握し、それを、ソーシャル信用(党が定める社会階級制度)と結合させる。党にふつごうなやつは金持ちにはさせないし自由も与えない。党に忠義なやつは金持ちにさせてやるし、いろいろ遊ばせてやる。税金はうむをいわさず党が必要なだけ取る。誰も脱税不可能。というか、納税の事務が存在しない。知らないうちに天引きされる。税率というものも存在しなくなる。デジタルだからこんな簡単なことはない。犯罪者や反政府主義者は一切の経済活動ができなくなる。公共交通機関を利用できなくされ、通交関所を通過できず、施設建物に入場を拒否され、いかなる買い物も不可能になり、自然死する。

 欧州人の意識は遅れている。スウェーデン政府だけが、デジタル通貨の創出に意欲的である。
 デジタル・ユーロが必要だという声を、フランクフルトは無視し続けている。

 プライバシー・プルーフを担保したデジタル版の欧州中央銀行券というものは設計可能である。まさに欧州がその分野でのパイオニアになれる条件を備えているのに、何をボヤボヤしているのか。
 手始めにユーロ経済をデジタル化せよ。

 ※『米中AI大戦』でもちょっと書いたが、贋札率がきわめて低く安全度の高い「円券」は、その個人保有者の自由をそこねずプライバシーを担保させている点で、日本社会によるすばらしい発明品だと申すべきである。国家発行のデジタル通貨と個人のプライバシーが両立するなんて言っている連中は、おめでたすぎるぜ。停電中の中共の諸都市で今、決済やソーシャルクレジットがどうなっているか、是非、知りたいもんだ。



地獄のX島で米軍と戦い、あくまで持久する方法 (光人社NF文庫)