敵は南シナ海に出ると見せていつでも東シナ海に出てこられる。いちばん防備の弱いところがやられる。これは当然の兵法だ。

 David Heath and Gus Garcia-Roberts 記者による2021-1-29記事「Luck, foresight and science: How an unheralded team developed a COVID-19 vaccine in record time」。
   モデルナ大成功物語。『USAトゥデイ』の長編記事だ。

 2016年にズィカ熱が流行したとき、最高速度でワクチンが開発された。
 国立ワクチン開発センターのバーニー・グラハム博士。今67歳。

 彼が新ワクチン開発を頼む相手として選んだバイオテク会社がモデルナ社だった。

 「mRNA」に焦点を当てれば、最速でワクチンが開発できるはず。

 グラハムとモデルナの社長とはずっと前から、「mRNA」に焦点を当てた新ワクチン開発技法で協働してきた。それで、武漢ウイルス用のワクチンを創ろう、とグラハムからeメールでよびかけたのが2020-1-6のこと。
 グラハムのボスのそのまたボスが、ファウチ。そういう人脈。
 グラハムがファウチに資金を頼むときに「12ヵ月から18ヵ月でワクチンを用意できる」と請合った。それですぐにファウチはプレスに対し、ワクチンができるまでには早くて1年か1年半かかる、と公言した次第。

 2020-1-10時点で中共の科学者は、この新種の病気のことを「武漢海鮮市場肺炎ウィルス」と呼んでいた。

 新コロの「mRNA」だけを脂肪でくるんで、それをヒトの腕に注射する。これで新コロに対する抗体ができるはずである。簡単に言うと。

 2020-1-19、米国内での初の新コロ患者が確認される。武漢からシアトルに戻ってきたのだが、海鮮市場には立ち寄っていないという。4日前から咳が出て、嘔吐していた。35歳。
 1月19日から数えて8日前に、グラハムのチームは、新ワクチンに必要な遺伝子コードを書き上げていた。数週間以内に臨床試験を始めたかった。

 エボラのときにできた手順に従って、この「最初の男」は、ものものしく隔離された。

 かつて、新ワクチンが4年以内に創られたことはなかった。だから18ヵ月以内でできるという政府のアナウンスを聞いたとき、専門家は、それは賭けだと思った。
 人体実験の前段階の鼠実験の結果は、グラハムを勇気づけた。

 グラハムはカンザスの歯科医の息子だった。

 たとえばポリオワクチンの場合、ホンモノのポリオのウィルスを殺し、その不活化したウイルスを注射することで人体内に抗体ができるように誘導する。
 しかし「RSウイルス感染症」の場合、この方式の予防注射だと無効、もしくは逆効果になってしまう。グラハムは若いときにこの課題と格闘した。

 ウイルスの表面のたんぱく質が、その形状を変える(ロリポップ形からティーカップ形へ)ことは、2013年に、RSウィルスについて発見された。武漢肺炎ウイルスも、じつは同じなのである。

 ウイルスの表面が変形する前の蛋白質にあわせて、ヒトの有効な抗体をつくらせないと、予防にはならない。これが最新式のワクチン製造にむすびつく新知見であった。

 2月下旬、シアトルでヒト試験が始まった。18歳から65歳までの15人の被験者グループ、これを4グループ用意した。事前検査にも手間がかかった。その全員に試製の新コロワクチンを試し射ちする。1人について二回射つ必要があった。いちどめと二度目とのインターバルは28日である。
 ある人は3月16日に最初の1本を射たれている。

 この人体実験により、副反応の有無をみきわめ、適量を把握し、ちゃんと抗体ができるかどうかを調べる。

 このファーストフェイズのトライヤルにネット経由でボランティア登録してくれた人々には1100ドルが提供された。

 ファーストフェイズでいきなり誰かに副反応(注射局所の痛み、倦怠感、悪寒、関節痛、頭痛、リンパ腺の腫れ、めまい、吐き気、発熱など)が現れれば、そのテストは中断される。

 注射後2時間、安静にして、監視を受ける。まったく、問題はなかった。

 こうして、中共の学者が新コロの遺伝子配列をネット公表してから僅か66日後という驚異的なスピードで、新コロ・ワクチンが爆誕した。

 5月9日、最初の治験の結果がまとめられた。

 最大許容注射量を確かめるテストはパスされた。このテストは被験者に発熱が起きるまでやるのだが、それ以上の危険はない。

 5月18日、モデルナ社の株価は、前年12月から比べて、250%爆上がりした。

 モデルナ社は、600人のボランティアを使ったフェイズ2のテスト計画を発表。フェイズ3では3万人に射つつもりだった。まさに時間との戦いだ。

 安全性は最初から確かめられており、あとの心配は、効き目だけであった。

 歌手のドリー・パートンは新コロ対策のために100万ドルを寄付した。最初の大口寄付。その一部はモデルナのフェイズ1試験に役立てられたと、専門医学雑誌が報じている。

 大量の人体実験はものすごい人手間を要するので、費用も莫大。これが製薬会社の悩みである。

 そこでトランプ政権は、承認前のワクチンを前払いで買い付けることに決めた。
 ドリー・パートンの多額寄付のニュースから2週間後の4月16日、米厚生保健省は4億8300万ドルをモデルナ社に与えることを決めた。後日、試験費用として別途4億7200万ドルも計上されている。

 ゴールドマンサックスによれば、今年のモデルナ社の稼ぎは132億ドルになるだろうという。

 6月27日、モデルナのフェイズ3の人体実験開始。
 3万人に2回の注射をして調査するには、8週間かかるはずであった。

 モデルナ社は2010年にできた。創設者は2009年にレトロウイルスのワクチンに使うためのRNAの複製法を掴んだ。さかのぼればその技法の出発点は2006年の京大の山中伸弥による発表である。
 RNAはとても壊れやすい。だから、つくったあとの保管がむずかしいのだ。

 8月6日にトランプが「われわれは非常に早くワクチンを得る」と選挙用に放言したものだから、世間は、トランプによる政治的承認だとしたらモデルナワクチンは危ないんじゃないかと疑うことになった。
 直後のCNN調査では40%の人はそのワクチンが承認されても射つつもりはないと回答した。
 トランプは構わず、「ワープスピード作戦」だとブチ上げた。

 このトランプ発言からひとつきせぬうちに、アストラゼネカの新ワクチン人体実験で脊椎に炎症を発症した人がいるという話が世界をかけめぐった。この患者の症状の原因は、ワクチンとは無関係であったことが、後から確かめられているが、庶民は新薬について警戒することになった。

 馬鹿トランプは懲りずに9月7日にまたしても、大統領選挙の投票日前にもワクチンはできる、と示唆した。
 これでまた世間に新薬に対する疑いが拡がることを懸念して、世界の9大ワクチンメーカーは合同でステイメントを公けにし、安全テストは科学的に厳密に進められていることを強調せねばならなかった。

 FDAだってもちろん、安全性と有効性についての事前に決まっている確認手順を経ていないクスリを承認することなどないのである。

 欧米では新薬テストに人種多様性が求められる。
 しかしモデルナ社は当初からここに注意が足りず、白人ばかり被験者として集めてしまったようだった。黒人と中南米系がデータとして足りないのだ。9月下旬になって彼らはこのことに気づき、青ざめた。武漢肺炎によって米国では黒人が白人の3倍、死んでいる。

 あわてて追加募集をかけたが、米国社会は厄介だ。黒人だけ被験ボランティアに募集しようとすると、そういうことが人種間の分断を助長するんだと言って、人種条件のついた募集に反対する声が、マイノリティコミュニティから上がるのである。

 この痛恨の不注意のためにモデルナ社のテストは2週間、スケジュールが遅れた。そのため、ファイザーに抜かれ、新コロ・ワクチンの先頭ランナーではなくなってしまった。

 FDAは、75%の効き目が認められないワクチンは承認しない。しかしモデルナ・ワクチンと同じ理論でつくられているファイザー・ワクチンは、は、二度射ちすれば90%の効き目があると認められた。
 これは生理食塩水のプラセボを射たれたグループと比較されるのである。

 FDAがファイザーを有効と認めたということは、モデルナも承認されたに等しいのであった。
 11月16日、モデルナの試験結果が公表された。モデルナ・ワクチンを二度射ちすれば94%の効き目があると。
 かつて1955にポリオワクチンが完成したとき、その効き目は90%であった。

 ふつうFDAはデータの検証に数ヶ月をかける。こんかい巻き上げられたのはそのデータ検証作業だった。2週間半でFDAはモデルナを承認した。とても効き目があると分ったから、早くされたのである。

 テスト工程において、副反応としては、注射した局所の痛みくらいしか報告されていない。
 注射後に死んだ人が6人いたが、心臓麻痺とか自殺とか、いずれにせよワクチンが原因ではなかった。

 FDAの承認条件は、18歳以上に対する使用、である。
 18歳未満にはまだテストをしてないから、当然だ。



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