パーフェクト・アーミーなどない。

 ストラテジーペイジの2021-3-1記事。
   2019-9にイランは、数日間にわたって、18機の自爆型UAVと、7機の「Ya Ali」空中発射巡航ミサイルを、サウジ領内のアブカイク精油所など2箇所に向けて発射した。この数字はサウジ側が数日後にまとめた公表値である。

 「Ya Ali」はレンジ700kmで、イランが2014年頃に完成した。こんなものをシーア派のゲリラ風情が自製できるわけがないのである。まして空中発射などしようがない。イランが直接に関与しているのだ。

 これらの飛来物の阻止になぜサウジは失敗したか。その理由も分かってきた。
 イランの爆装UAVと巡航ミサイルは、どちらもGPSを頼りにして、プリプログラムされた巧妙な飛行コースを辿っている。敵は、サウジのペトリオット・システムの配置を事前に掌握していて、そこを避けるようにして飛ばせたのだ。ペトリのフェイズドアレイ・レーダーは、見張り方位角の巾が120度であり、360度を警戒するシステムではない。その設計上の欠点をもののみごとに衝かれた。

 発射はイラク領内から行なわれ、飛翔コースは海上を避けている。ペルシャ湾上は、米海軍のレーダーが隙間無く覆っているので、探知されないように、海岸線よりも内側の陸上を飛翔させるようにしたのだ。

 それでもクウェート軍は、自国の上空を通過したUAVを何機か探知していたが。

 飛翔物はアブカイク南方を目指し、そこで大きく転針した。そうすることで、すべてイエメン領内から飛来したかのようにみせかけようとしたのだ。

 発射したもののうち「三分の一」以上は目標に到達せずに途中で墜落したようである。

 イランが特攻UAVのメリットに気づいたのは、イエメンから短距離弾道弾を発射してもサウジのペトリで空中撃破されてしまうと思い知らされたから。それで2016年頃から、ペトリの裏を掻くにはUAVがよさそうだと見定めた。

 2017年前半、イランは4機のUAVをオマーンに陸揚げして民間商品としてトラックで陸送してイエメン領内まで持ち込み、そこから発射して、サウジ軍とUAV軍の防空レーダーを直撃させた。フーシが発射声明を出した。
 このUAVの名は「アバビル」である。このUAVはテロリストも扱うことができる。
 誘導は、対電波ホーミングではなく、プリプログラムされたGPS座標に向かうものだ。

 「アバビル」は全重83kg。ウイングスパン3m。ペイロード36kg。巡航速度290キロ/時。滞空90分可能。

 ※てことは最大で435km離れたターゲットしか狙えないことになる。爆装無人機を1400kmも飛ばすことは現状では非現実的なのである。

 自爆させない場合の着陸回収はパラシュートによる。

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 Joseph Trevithick 記者による2021-3-1記事「Everything New We Just Learned About The 2020 Iranian Missile Attack On U.S. Forces In Iraq」。
    2020年1月8日にイランの地対地弾道ミサイルがイラク内のアルアサド空軍基地の米兵を襲った。6発が着弾するところを、上空から無人機が撮影していた。そのビデオがこのたび秘密解除され、CBSの「シックスティミニッツ」で全米放映。

 当時のエスパー長官は、11発の「Qaim 1」ミサイルが命中したと語っている。

 またイラク北部のクルド自治区の高官いわく。同地にあるエルビル国際空港(米軍が駐留)に向けて、2発の短距離弾道ミサイルが発射され、1発は途中墜落したが、1発は着弾した、と。

 とうじ、アルアサドに勤務していた米陸軍のアラン・ジョンソン少佐。イランは同基地に対して27発を発射するつもりでいたらしいと。

 またCBSによると、トータルで16発がアルアサド基地に着弾し、その他に5発の失中または不発があったと。

 これにより110人の米兵が爆発の衝撃波で脳にダメージを蒙った。死者は出ていない。

 昨年中に明かされた話。イランのミサイル発射をSBIRS衛星群が探知し、速報された結果、基地では着弾前に将兵が基地の外の砂漠へ移動したり、基地内のシェルターに入る余裕があった。

 基地の列線にはふだん10機の各種航空機が所在する。

 CBSが初公表したこと。米軍は事前に兆候を掴んでいた。というのも、イラン政府が、アルアサド基地が写っている民間衛星写真を購入したと知ったので。
 セントコムの司令官、マッケンジー海兵隊大将いわく。イランは、購入した衛星写真の最後の1枚を、1月7日にダウンロードし終えている。そのことを情報部局から知らされたので、すぐにエバキュエーションを進めたのだ、と。
 おかげで、死者を出さずに済んだし、51機の航空機が基地の外に所在することになった。

 ミサイルは、クラムシェル形ハンガー複数を損壊させた。

 アルアサド基地の上空からこの模様を撮影していたのはおそらく陸軍所有の「MQ-1C グレイイーグル」だろう。ミサイル着弾の直後に地上からも同期襲撃があるのではないかと考え、基地では他に数機の「グレイイーグル」を待機させていた。

 ミサイル着弾により、光ファイバーのケーブルが切断され、アルアサド基地から、通信衛星の地上局にデータを送ることができなくなった。だから、せっかく「グレイイーグル」が全貌を撮影し続けていたビデオ映像は、11発着弾した「Qaim 1」ミサイルのうちの前半の6発分の着弾シーンしか、録画されていないのだろう。

 ※ということは無人機映像の録画は米本国でしかやっていないのか。セントコム司令部はフロリダ州タンパのマクディル空軍基地内にあるので。

 アルアサド基地内には、全将兵を1000ポンド級の弾頭のついた地対地ミサイルの爆発から守る地下シェルターは準備されていなかった。どうしても基地内に残留しなければならない要員の多くは、せいぜい60ポンド級の弾頭がついたロケット弾の破片を防げる程度の、簡易な退避壕に入るしかなかった。

 ※CBSは「Qaim 1」の弾頭重量が1000ポンド級だと報じたようだが、正確には730kgではないのか? この点はハッキリさせる価値がある。というのも、2020-1の攻撃では、地上爆発によって、弾着点から30m以上離れたバンカーに入っていた米兵多数が気絶しているのである。ロケット弾も、数よりも弾頭威力が重要だという知見が、ゲリラやテロ国家や、各国軍隊の間に拡散するかもしれないのである。

 基地にあった複数のシェルター。1箇所にはせいぜい10人しか収容できない規模であった。

 バイデン政権が、イラン系ゲリラによる2021のエルビル空港へのロケット弾攻撃(契約軍属1名死亡)に対する報復の空襲を命じた数日後の週末に、CBSはこの番組を放映した。
 ※偶然ではないだろう。

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 Rachel Zhang 記者による2021-2-27記事「You’re Thinking About Home Heating Wrong」。
    とにかく家庭エアコンのためには電気式のヒートポンプを使え。それがエコだ。

 2019年のデータ。米国で燃やされた化石燃料の総量のうち15%は、自動車が燃やしたという。
 だから、個人として地球のエコにいちばん貢献する行動は、自動車を捨てることだ。だがアメリカに住んでいて、そんなことができるわけがない。

 北米の家庭暖房は、石油、プロパンガス(これは田舎に多い)、天然ガスを燃焼させるシステムがほとんどだ。
 クルマを捨てるかわりに、これをリフォームしよう。

 熱交換器(ヒートポンプ)は、原理的に、冬季には暖房として使える。外気から熱を屋内に移転させるのだ。ただし外気がメチャクチャ低温だったら、とうぜん、そこから熱をとりだして屋内を効率よく温めることはできななかった。
 この寒冷地向きの熱交換器の効率が最近、向上しているのが、エコ運動にとっては朗報である。それに賭けよう。

 テキサス州では、発電所の多くも天然ガス火力である。※だから大停電時に州外輸出を禁ずる必要があったのか。

 まずいことに、家庭用の天然ガス暖房システムは、それを機能させるために、電力を必要とする。停電時には、使えない。

 米本土において、家庭内での天然ガス消費は、ほとんどが、暖房用かボイラー用で、ガスレンジで燃やされるガスは2%にすぎない。

  ※この記者さんは、病的なグリーン化運動家である。米国市民でも真の貧困層はマイカーなど持てはしない。バスがたのみの綱だ。それを、私有車は捨てられない、と繰り返し断言するのだから、身勝手なダブスタにもほどがある。じぶんでそこがおかしいとも気づけぬらしく、米国流の狂妄発言者の好見本だ。逆にわれわれはこのすばらしい提案集から、実用的な教訓を汲み取らねばならない。「メイン州のような寒冷地の住民は決してヒートポンプになど期待せず、むしろ天然ガス供給グリッドを整備しといた方がいいぞ」「テキサス州のような暖地でも、電源無用のポータブルな化石燃料燃焼ストーブがあると、たのもしい命の保険になるぞ」「新コロ不況で世帯収入が激減しているときに、エコのための自宅リフォームなど不要不急の大出費をするのは自殺行為だぞ」……などなどだ。

 ※ところでわたしは昔、気象予報士の劇画原作の中で一人の放火犯人を登場させ、杉の山林を焼き払う者は現代の日本ではヒーローだ、と言わせた。あれは、1985年から花粉症に悩まされていた(したがって当初は誰にも理解してもらえなかった)私の心の叫びであった。その後、北海道に転居したので、杉花粉の悩みとは無縁になった。だがいつの間にか内地には、私の80~90年代の心の叫びを継承する者が登場しかねないという情勢になっているようではないか! 全国でなかば放置されている杉の山を、果樹園か何か、もっと人の役に立つ林相に安易に変えてしまえるうまい方法を、みんなで考えようぜ。



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