今回、現代戦争史上初めて、一国軍の損害の過半が、相手軍の無人システムによってもたらされた。

 Nicole Thomas, LTC Matt Jamison, CAPT(P) Kendall Gamber, and Derek Walton 記者による2021-4-4記事「What the United States Military Can Learn from the Nagorno-Karabakh War」。
   ナゴルノカラバフ自治区は、80年代にソ連が設けた。アゼルバイジャン領内でありながら、住民の95%がアルメニア人なので。
 ソ連が崩壊すると、ナゴルノカラバフの住民はアゼルとの完全分離・独立を欲した。

 こうして自治区軍 vs.アゼル政府軍の内戦が始まった。ロシアは双方に武器と傭兵を供給した。
 1994にロシアは両者を手打ちさせた。しかし双方が不満だった。いらい、協定侵害行為は7000を数えるという。

 2016-4に「四日間戦争」勃発。
 この結果は、アゼルバイジャン政府に、武力行使だけが情況を好転させると確信させた。
 そして4年間、イスラエルやトルコと組んで熱心に軍備改革を進めた結果が、2020に実ったといえる。

 2020年の短期決戦は、スタートから44日間で停戦となった。アゼルは、ナゴルノカラバフの「三分の一」を武力回収できた。

 2020-9-27の開戦からわずか6日目にして、アゼル軍は、250両のAFV、ほぼ同数の砲兵、39の防空システム(その中には、ロシア版ペトリオットである S-300×1も)を、破壊したと公報主張。

 アルメニア軍は、アゼル軍のUAVのために武装解除されようとしたのであった。

 アゼルとトルコの紐帯は強力だ。言語が相通ずる。そしてアゼル難民が大量にトルコ領内に居る。だからトルコ人の意識では、アゼルは近隣国だが、ネイションとしては別ではなく、ひとつだ、と思う。
 いま、アゼル国内にはトルコ国旗がひるがえりまくっている。

 アゼルがソ連邦から離れたとき、アゼル政府は「汎トルコ」アジェンダを掲げた。
 このイデオロギーが、トルコからのあらゆる援助を惹き付けた。

 1992にトルコとアゼルは軍事援助、訓練支援、合同演習に関して合意。
 さらに1999に両国は、経済開発の共通ゴールを策定した。

 トルコ、アゼルバイジャン、ジョージアは、カスピから地中海に達する原油パイプラインを共同運営している。BTC(三国の首府の頭文字)ライン、という。

 このパイプラインを通じて原油を西側に好きなように売れるために、アゼルの収益はものすごいことになった。2011年の統計では、アゼル人ひとりあたりの平均年収は7190ドル。アルメニア人は3526ドル。ジョージア人は4022ドルだ。

 ありあまる資金をアゼル政府は兵器調達に突っ込んだ。2006~2019の総額でみると、アゼルは290億ドルを軍備に投資した。かたや同期間のアルメニアは60億ドルである。

 15年間経済が成長し、余剰資金を軍備に傾注し、トルコを同盟者にもった強みが、とうぜんのように発揮されたのである。

 10種弱の無人機をアゼル軍は揃えている。今次紛争で最も活躍したのは、トルコ製の「バイラクタル TB2」であった。同機は、小型のレーザー誘導兵装(スマート・マイクロ・ミュニション)を4発、翼下に吊下できる。
 加えて、イスラエル製の自爆無人機を2種類、使った。「ハロプ」と「スカイストライカー」である。

 また「オービター1K」もカミカゼドローンとして用いた。
 ロシア製の古い「AN-2」有人機(複葉)を、無人ISR機や無人自爆機に改造したものも、複数機、投入した。

 アルメニア軍も無人機を有していたが、いずれも国産の小さなもので、偵察任務以上の仕事はできなかった。※まさしく今の自衛隊の現況だろ、それ。

 アゼル軍はまず、低空を低速で飛行できる「AN2」を囮として敵SAM陣地上空に放ち、敵SAM陣地の所在を確認した。その確認位置に対して「TB2」や自爆型無人機が差し向けられ、高空から精密攻撃した。

 つまりワイルドウィーゼルの仕事をぜんぶ、無人機のセットだけでやり遂げたのである。

 もうひとつ特筆されること。今次ナゴルノカラバフ戦争では、回転翼機の出番は無かった。

 「TB2」の高度は十分に高く、旧ソ連製の「2K11」「9K33」「2K12」「9K35」といった地対空ミサイル・システムでは、探知ができても撃墜までは無理であった。

 ロシアがアルメニアに供給していた「Polye-21」というECM装置は、アゼルのドローンを妨害した。ただし、さいしょの4日間だけであった。

 「Buk」と「トール」の2つのSAMシステムは、紛争の後半になってロシアから供給され、アゼルのドローンを数機、撃墜できたようである。しかし日が経つにつれて、これらのSAMシステムも、無人機のために撃破されて沈黙した。

 「S-300」はそもそも対無人機の機能を期待されておらず、開戦早々にロイタリングミュニションの餌食になった。

 アゼル軍は特殊挺進隊を開戦の数日前からアルメニア占領区内に浸透させ、空き家のなかなどで待機させていた。「破壊活動グループ」と称していた。

 アルメニア側では、「アルメニア人ではない謎の人々が町の中に住みつき始めた」ということだけは、わかっていたという。

 「破壊活動グループ」は、攻撃型無人機の兵装誘導補助だけでなく、精密誘導ロケット弾の火力要請もした。空地連絡係でもあったのだ。
 ※そしてじつはトルコ人であったというオチか。

 要するにNATO軍がアフガン討匪作戦で磨き上げた、挺進火力誘導員の仕事を、アゼル兵はきっちりとこなした。レーザー照準/標定装置を携行していたことは言うまでもない。

 現地ナゴルノカラバフは高山帯であって、戦車などは高速で所要点まで移動ができない。よって、歩兵+無人機のコンビが最強なのである。

 留意が必要なこと。現地は植生が乏しい。そのため対空偽装が簡単にはできない。これが無人機側をとても有利にした。地上の敵軍配置を、高空から確実にみきわめることができた。

 偵察用無人機は、「精密グリッド・コーディネーション」を味方ロケット砲兵に提供することができた。アゼルの長射程砲兵は、連絡された座標から10m以内に着弾させることができた。

 両国側によって公表されているビデオは、双方ともに地上軍の偽装についてはアマチュア級であったことを教えてくれる。どちらの軍も、上空からは丸見えに等しかった。

 無思慮に開闊地に展開しようとし、同じ場所に何十分もとどまっていたり、移動が平時ペースのノロノロ運転であったり、人員・車両・装備を蝟集させすぎていた。それで偽装ゼロなのだから、対地攻撃機にとっては好餌以外のなにものでもなかった。

 AFVが新式であるか旧式であるかは、何の関係もなかった。AFVの中に乗っている人間が、空からの脅威を油断なく意識できていたかどうかが、生死を分けている。上空の脅威に対する直感が働かない乗員は、乗っている高額な高性能戦車もろともに、吹き飛ばされた。

 アゼル側は、所定の高価値目標を爆砕してしまうや、すぐに、次等の価値ある目標を即興で探し当てて、その場で無人機で攻撃できることが、ビデオからよくわかる。
 このことはまた、トルコとイスラエルから供給されている精密弾薬/自爆無人機の数がおそろしく豊富で、タマ惜しみをする必要がアゼル側にはなかったことも教えてくれる。ふつうは、数人ばかりの兵隊がこもる塹壕をレーザー誘導爆弾で狙ったりしないものである。

 『ナショナル・インタレスト』のエピスコポス記者は、トルコ軍は事実上、参戦していたと断言する。特殊部隊員や、トルコが雇い挙げたシリア人傭兵を、戦線へ派遣していたと。



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