スカイストライカーについての解説補足。

 『尖閣諸島を自衛隊はどう防衛するか』ですっぽりと落としてしまった「スカイストライカー」の解説を、ここでしておこうと思います。
 以下、2019-1-11のANNA AHRONHEIM 記者による記事「Israel’s Elbit Systems sells Azerbaijan SkyStriker suicide drone」や、メーカーであるエルビット社の宣伝HPなど、複数の英文記事を、ざっくりとまとめました。

 スカイストライカーは2017のパリ航空ショーに出されている。
 無人偵察機の「スカイラーク」を原型とし、それを自爆機に改造したものである。
 本機の運用は、1ヶ月弱の教育訓練で可能になるという。
 基本、スクリーン上でアイコンをドラッグするだけ。それで突入ターゲットを指定する。
 走行している標的に命中させるときには、機体に内臓しているAIを働かせ、命中前の数秒の操縦を自律的に行なわせる。

 もし本機を偵察機として回収して再利用したいときは、パラシュートまたはクッションを抱かせて飛ばす。
 射出は空気式カタパルトによる。

 値段だが、1機だけなら100万ドル弱。大量発注の場合は、どんどんそこから値段が下がる。。
 すでに大量受注しているが、どの国が買うのかはエルビット社は秘密にしている。これ、2017-6時点の話。

 スカイストライカーについては、2019-1-11の『エルサレムポスト』紙が、イスラエルからアゼルバイジャンに売られていたことを報じた。
 航続距離の長い、精密突入自爆型無人機である。

 メーカーのエルビット社は、この牽引プロペラが電動モーター駆動なので音が小さく、敵を奇襲しやすいと標榜している。

 内臓爆薬重量は5kgと10kgを選べる。
 最長で2時間、戦場上空をロイタリングできる。
 最大巡航速度は100ノット=185km/時。
 カタパルトから射出して、6分半で20km先に到達する。無線が通じるのは、その辺までだ。

 カミカゼ攻撃するときのダイブ速度は300ノット。標的を直撃したインパクトで自爆する。
 「アゼリディフェンス」というアゼルバイジャンのウェブサイトによれば、このUAVを輸入した国はアゼルバイジャンが最初なのであると。

 同ウェブは、アリエフ大統領がイスラエルのIAI社の「ハロプ」工場を視察している写真とともに、10機以上の「スカイストライカー」が倉庫内に並んでいる写真を掲げた。

 アゼルバイジャンはイランと国境を接するが、イランと敵対するイスラエルは、このアゼルバイジャンを最大の原油輸入先とするようになっている。そして近年、イスラエル製の武器が大量にアゼルバイジャンへ供給されている。

 SIPRIによれば、2017年にアゼルは1億3700万ドルの兵器をイスラエルから買った。イスラエルの武器産業にとっては、アゼルは輸出先として三番目の上得意だ。

 2018にイスラエル国防省は、自爆無人機「オービターK」のアゼル売り込みにさいし、メーカーのアエロノーティクスディフェンスシステムズ社が、アゼル軍から「ライブ・デモンストレーションとして、そいつをじっさいにアルメニア軍陣地に対して突っ込ませてみせてくれ」と頼まれたというスキャンダルの対応に追われた。

 アエロノーティクス社は、2011年に、アゼル国内に無人機組み立て工場を建設してやっている。そこでは「アエロスター」ならびに「オービター」シリーズが製造されている。

 2016-4のナゴルノカラバフ紛争〔四日戦争〕では、アゼル軍は、イスラエル製の「ハロプ」自爆機をアルメニア軍のバスに命中させ、兵士7人を殺した。

 このできごとの直後、駐イスラエルのアルメニア大使は、イスラエル兵器をアゼルとアルメニアの双方が買っていることを明らかにした。※具体的アイテム名は不明。

 メーカーのウェブサイトによると、スカイストライカーの内臓爆薬は基本的に5kgで、それは胴体の中にある。
 電気モーターを採用したのは、低空でロイタリングさせたいため。
 爆薬5kgとすればそのぶん電池を追加して積めるのでロイタリングは2時間。
 爆薬10kgとすれば滞空時間は1時間に縮まる。

 スカイストライカーは、巡航段階とロイタリング段階では、完全自動システムにできる。管制所からの遠隔操縦は必要がない。
 電磁波と光学センサーによって標的にロックオンするのも自動化させられる。

 ダイブ突入するとき、風速20ノットの風が吹いていても、精度は狂わされない。
 こいつは低コストなので、ばんばん飛ばしてやることができる。

 アゼル軍は2019-9時点でスカイストライカーを操縦している。訓練で標的を攻撃する模様を、広報ビデオで公表した。すでに同国軍の装備になっているようだ。

 ※「ハーピィ」との違いは先尾翼型ではないことで、これは「アバート」(直前の攻撃中止コマンドとその実行)を難しくするはずだが、アゼル軍としたら、そこはおかまいなしだろう。たぶん「ハーピィ」より安価ではないか。ということは、「ハーピィ」よりも、こっちが多用されたか。

 ※謎なのがセンサー。牽引式プロペラだから、機体頭部にはセンサーが配せないはず。写真を見ると胴体のケツに光学センサーのようなものがある。いったいどうなってんの?

 次。
 JOHN VANDIVER 記者による2021-4-6記事「Coronavirus concerns have Army looking at biometrics to replace plastic ID cards」。
  営門通過などに必要なプラスチック製IDカードがウイルス媒体になるというので、廃止が検討されている。

 次。
 James Barber 記者による2021-4-5記事「How Ernest Hemingway’s WWI Service Changed 20th-Century Fiction」。
   米国では高校生はたいていアーネスト・ヘミングウェイの『老人と海』を教科書で読まされる。
 PBSはこのたび、ヘミングウェイのドキュメンタリーを制作した。3部作。
 制作チームは、2017にPBS用に『ベトナム戦争』をつくっている。

 1914勃発のWWIに出征したかったアーネストだが、1899生まれで、1917-7-17に満18歳になる(それより若くても家族が同意すれば義勇志願入営できたはず。米議会の対独宣戦は1917-4-6)。近視だったので陸軍は無理ではないかと思い、志願入隊はせず、赤十字の救急車要員となって、イタリア戦線へ。この体験が1929の『武器よさらば』に投入されて、彼の小説家キャリアが始まった。

 ※むしろ徴兵されるのを厭う気持ちがあって、赤十字ボランティアを選んだのかもしれない。最前線を恐れたのではなく、陸軍の初年兵教育期間をサバイバルする自信がなかったのではないか。しかしこの疑いをはさむことは、米国文学界ではタブーだろう。

 戦間期にはスペイン内戦に報道記者として飛び込む。この体験は1940の『誰がために鐘は鳴る』になった。

 ※もし弔いの教会の鐘が聞こえてきたら、誰かが死んだな、と思うのではなく、それはお前のために鳴っているんだと思え、という英国の説教詩から。

 ヘミングウェイは4回結婚した。その最初の妻の声のナレーションは、メリル・ストリープが担当する。

 イタリアに渡っていきなり最初の仕事は、弾薬工場の爆発事故でバラバラに飛び散った35人の女工たちの遺体を拾い集めることであった。

 やがて、救急車のドライバーとなり、イタリア軍負傷兵を野戦病院からもっと後方の町の病院まで退げるピストン輸送に従事。正面の敵はオーストリー軍であった。

 この仕事はいわば裏方であり、前線は見物できない。そこで、自転車で煙草や菓子を最前線に届けてやる職種に志願。
 塹壕内で物品を配っているとき、3mの距離に敵の迫撃砲弾が着弾した。

 この爆発で、1名即死、1名は両足をうしなった。ヘミングウェイは200個以上の弾片を浴びた。頭部裂傷が、やや深刻で、彼はそれから死ぬまで、不時に意識不明となる後遺症に悩まされる。

 1961に彼が自決したのも、爆圧脳ダメージが原因なのだという説明が米文学界ではなされている。※たいへん格好の良い説明なのだが、作家は病気だけで自殺したくはならない。ひとつ確かなことは、面白い作品、野心的な作品を書いているさなかに自殺した作家はいない。皆、マンネリ作品しか書けなくなってから、自殺する。

 衛生隊がアーネストをミラノの米国赤十字治療所に担ぎ込む。その途中、敵の機関銃弾でまた両足に被弾した。
 意識は清明で、他の負傷者を先に手当てしてくれ、と彼は言った。

 いちばん大きな破片を頭部から摘出する手術は麻酔無しだった。医師はアーネストは生き残れないと考え、神父に最後の典礼をしてもらった。

 アーネストは生き残った。そこからさらに後方の病院へ送られ、そこで残りの弾片が全身から摘出された。

 ※『人物で読み解く日本陸海軍失敗の本質』に収録した桜井忠温の壮絶な負傷と比較してみて欲しい。



尖閣諸島を自衛隊はどう防衛するか 他国軍の教訓に学ぶ兵器と戦法


人物で読み解く 「日本陸海軍」失敗の本質 (PHP文庫)