丸く沈め。

 REIS THEBAULT 記者による2021-5-17記事「Space Force officer is removed from command after accusing the military of pushing an agenda ‘rooted in Marxism’」。
  『マルクシストが米軍への浸透と米政府顛覆を策謀』というタイトルの自費出版。アマゾンの書籍の特定ジャンルにおいて好売り上げをマークしている。

 著者は米宇宙軍の現役の中佐、マシュー・ローマイヤー。
 国防総省のいくつかの政策がマルクシズムに根差すものだとして論難攻撃。CRT=クリティカルレイスセオリー(米国の黒人は90年代以降も依然として制度的に抑圧されているとする)にも噛み付いた。
 これで問題にならないわけがない。彼は指揮職を解かれた。

 ローマイアは2020に宇宙軍に来る前は空軍に10年以上勤めていた。

 プロモーションのためのポッドキャストでの発言が特に問題にされた。禁じられている政治党派活動であると。
 ローマイアは出版の前に軍内の広報将校に相談していたし、弁護士たちに原稿も読ませていた。
 ただし直属上司には、著作執筆中であるとは知らせていなかった。

 ローマイアはコロラドの宇宙軍基地で、飛来するミサイルの警報を担任する部署に配されている。
 2006に空軍士官学校卒。それから戦闘機パイロットと同教官を勤めた。

 ローマイアは保守派コメンテイターにインタビューされて、オースティン国防長官の名を挙げて、軍内に米国社会分断を目的とする策謀が進行中だと語った。

 ※アンチCRTはトランプ時代からの流行で特段の珍しさはない。「いわれある差別」の「いわれ」をなかなか言語的に明確化できないもどかしさが、トランプブームを生む。日本人ならよくわかるはずだ。近頃のブームの注目点は、アンチ中共用語がよく使われるようになっていること。北米において中共が脅威認知度の筆頭に躍進しているので、軍隊内部でも毛沢東豆知識がクイズ教養化してきた。誰でも何か語れる話題に昇格したわけだ。70年代にも『刑事コロンボ』の中で軍の研究所が『易経』を実践しているというシーンがあった。だがその研究は深まらなかった。やはりシナ語の壁が高すぎた。今回もどうなるかわからない。流れとしては、こういう雰囲気の中から、本格派の研究者も育つ可能性はある。とりあえずは兵頭の『新訳孫子』を英訳しておけ。話はそれからだ。

 次。
 Adam Kehoe 記者による2021-5-17記事「What We Know About The High-Tech Balloons Lingering Off The Coasts Of The U.S. Recently」。
  「レイヴン・アエロスター・サンダーヘッド」。高空の一点にとどまることのできる風船である。

 先週から西海岸と東海岸で、複数のバルーンが放流された。概ね、空軍の訓練空域に。

 サウスダコタ州にある「レイヴン・インダストリーズ」の子会社が「レイヴン・アエロスター」社である。

 このレイヴン・アエロスター社は、アルファベット社(グーグルの親会社)と協同して、インターネット接続を気球局によって改善できないかを探る「プロジェクト・ルーン」を推進中。

 この風船を目撃した一般人はびっくりする。高空の1点で静止しているように見えるからだ。

 サンダーヘッドは、SPB=スーパー・プレッシャー・バルーンである。その下にゴンドラが吊るされている。ゴンドラには、ペイロード、飛行制御システム、ソーラーパネル複数。

 風船は南瓜形。素材はポリエチレン布。

 大小2タイプあり。
 「サンダーヘッド200 SPB」は、容積6万4000立方フィート。「サンダーヘッド400 SPB」だと、容積40万立方フィート。

 「200」型は高度5万フィートから6万フィートまで上昇できる。
 「400」型は高度9万2000フィートまで行ける。

 外からは見えないが、大きなメイン風船の中には、小型風船「バロネット」が入っている。これが操縦を可能にする秘密メカ。

 すなわち、バロネットが外気を出し入れすることによって、全体の浮力を変え、高度を自在に調節できる。

 これが水平静止を可能にする。上空の風は、ちょっと高度が違えば、向きもまったく変わる。だから、地上コントローラーがそれを精密に掌握していれば、適宜の高度に昇降させることによって、だいたい常に同じ水平座標附近にとどめおくことができるという寸法だ。

 この気球の最長浮揚時間は、30日だという。

 ノーフォーク基地の近くでは「ハイポインター100」というXバンド・レーダーを搭載しての実験もなされている。軍港に対する敵の奇襲を見張る機能を試した。もちろんこうした飛行実験には事前に関係各官衙の許可が必要なことは言うまでもない。

 「レイヴン・アエロスター」は昨年、米海軍から5年間にわたり研究開発予算を貰う契約をとりつけた。

 同社は、アフガニスタンのような土地を気球で見張れないかという研究を2011年からやってきた。年季が入っているのだ。

 メキシコからの麻薬密輸を防ぐ必要がある南部諸州も、2019から同社の研究を賛助している。



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