豪州ではなくニューメキシコを選ぶしかなかった英国宇宙ロケットの宿命。

 AFPの2021-7-11記事「’Experience of a lifetime’: Billionaire Branson achieves space dream」。
    英国の大富豪、リチャード・ブランソンは、自身が所有する「ヴァージン・ギャラクティック」の宇宙船に搭乗して打ち上げられ、大気圏外まで行って戻ってきた。日曜日。

 同氏は、宇宙旅行に一般の観光客を呼び込んで、大儲けしようと考えている。

 ジェフ・ベソスは7月20日に、やはり所有する会社の「ブルー・オリジン」で宇宙旅行する予定。ブランソンはそれよりも先駆けることができた。

 今回の飛行では、ブランソンと3人の乗客+2人のパイロット(どちらもヴァージンの従業員)が打ち上げられた。到達高度は86km。それはNASAが定義する「宇宙」の条件を満たす。

 宇宙船の名前は「VSS ユニティ」。

 滑空で着陸した時刻は「マウンテイタイム」(米アリゾナ沙漠あたりの時刻帯)で9時40分であった。
 ヴァージンの打ち上げは、巨大ジェット輸送機の片翼下に吊るして高度15kmまで上昇してもらい、そこから切り離してロケットでマッハ3まで加速するという方式。

 ヴァージン・ギャラクティカはこの飛行のために17年間、開発努力を続けてきた。すなわち設立が2004年。この間、1人のパイロットが死亡している。

 70歳のブランソンには孫がいる。

 「スペースX」を保有しながら自身はまだ宇宙に出たことのないイーロン・マスクは、すぐにツイッターに祝辞を書き込んだ。

 ブランソンは、みずから、熱気球の世界記録をつくったこともある冒険野郎。

 「ユニティ」号が最初に宇宙空間まで到達したのは2018年だった。

 発進基地は「スペース・アメリカ」と称す。「ジョルナダ・デル・ムエルト」沙漠に滑走路がある。最寄の町は「トルース」か「コンスィークェンス」という寒村。
 地元ニューメキシコ州が、相当の資金を負担してやっている。

 会社ではこれから2回、さらに実験的飛行を試み、2022年前半から、いよいよ旅行代金を徴収して宇宙観光客を公募する。
 目標は、年に400回、往復飛行させることだという。

 すでに乗船券は600枚以上、売れた。最低20万ドル、最高25万ドルという。

 ベソスが搭乗する「ニュー・シェパード」ロケットは、高度60マイル以上まで上昇するはず。宇宙境界と公定されている「カルマン線」を超える。

 ※ブリテン島はユーラシア大陸の西端に位置し、真南にもイベリア半島がある。もし地球自転まわりに宇宙ロケットを打ち上げると、残骸がフランス領土や西ドイツ領土へ落下することとなり、とても政治的に実行不可能だった。同じような立地のイスラエルはどんな力学的な不利を忍んでも地球自転とは逆まわりにロケットを発射することで、自前の偵察衛星を軌道投入している。英国はしかしこの地理的な絶対不利性を克服不能と見切って、早々と宇宙開発をあきらめた。人形劇の『サンダーバード』は、南太平洋の孤島に基地があることになっている。英国もフランスのように赤道近くの殖民地やコモンウェルス領土から宇宙ロケットを打ち上げることができただろうが、資金不足であきらめたと思われる。ヴァージンの、空中発射式の宇宙観光ロケットは、冷戦期に米英関係をすごく悪化させた「スカイボルト」空中発射式ICBMを連想させる。ケネディが一方的にこの合同開発プロジェクトを中止したために英国は、古い「Vボマー」を飛ばし続け、且つ、米国設計のSLBM一式(ただし肝腎の核弾頭を除く)をめぐんでもらうしかなくなった。さらに英国人「宇宙飛行士」は米国のシャトルにお客さんとして便乗するだけであった。こんな屈辱の自国史を、70歳のブランソンは銘記しているはずである。とすればブランソンは、米国沙漠に運用基地を置くのも、本心では面白くなかったはずだ。できれば、代替不時着場に不足のない豪州のクインズランド州あたりに基地を開設したかったはずだ。だがそこには「グレートバリアリーフ」という邪魔物が立ちはだかる。世界遺産の海にロケットの残骸を落とせない。それに、英本土からのアクセスが悪すぎる。フランス領ギアナはフランスの港湾から船で大西洋を南下するだけですぐ着くが、ロンドンから豪州北東岸となったら、そうはいかない。かつてあらゆる点で恵まれていた英国が、こと宇宙に関しては、運が悪かった。