バイオメトリック端末などは問題じゃない。旧政府のデータベースが押収されたことがヤバいのである。

 Eileen Guo & Hikmat Noori 記者による2021-8-30記事「This is the real story of the Afghan biometric databases abandoned to the Taliban」。
    タリバンが押収したデバイスの中にHIIDE、すなわちバイオメトリック端末があった場合、どうなるのか?
 そのシステムは、米兵が調べたアフガン人1人について、指紋、彩虹、顔面イメージなど40項目もの個人情報と紐付けていた。DNAによって親類や先祖まで分かってしまうのである。

 ただし端末を拾っても、その中にはデータは入っていない。端末は、入力や照合の道具なのである。データが入っているサーバーは、どこか別な場所にある。それが米国内であれば、DoDの専門部署が外部からの不正アクセスを防護しているはず。

 それよりも懸念されているのは、アフガニスタン政府が抱えていたデータベースの方だ。そこには百万人単位で自国民の個人情報が登録されているのだ。

 米国政府が、アフガン政府に資金を提供して、APPSというデータベースを構築してやった。「アフガン・パーソナル & ペイ・システム」の略。

 このAPPSを使って、アフガン政府は、軍人と警察官に給与を支払っていたのである。
 公安系の人物が誰なのか、ぜんぶタリバンにバレてしまうだろう。

 APPSは2016年から構築されはじめた。背景には「ゴースト・アーミー」、すなわち腐敗したアフガン政府官僚が、存在しない兵隊や警察官をリストに書き加えて、その給与〔ほとんど米国や日本が出していた〕を中抜きする悪事の横行があった。
 APPSにあらためて登録された軍人と警察官の数だけでも、50万人以上。

 新兵がひとり採用されると、ただちに、APPSのデータベースに登記された。
 そうした個人情報は、当人が軍隊や警察を退職したり、死亡したあとも、ぜんぶ、残るようになっている。

 この膨大なデータを、今回のような非常事態時に消去破棄する方法は、システム構築を請け負った米国民間企業のエンジニアたちは、まったく考えてもいなかった。

 そしてこのAPPSのデータフィールドの中には、アフガン政府内務省が保管しているバイオメトリック・データに照会アクセスするための各人のID番号が含まれている。これがヤバいかもしれない。

 各将兵が受けた専門教育の分野も、わかってしまう。

 アフガンでは新兵が入隊するには、部族長級の2名による身元保証が要る。その部族長の名前も、このデータベースを見れば、バレバレだ。

 どういうわけか、この軍人データベースには「好きな果物」「好きな野菜」を書き込むフィールドまである。そんなことまで、タリバンに把握されてしまうのだ!

 タリバンの側でもじつは「IT」はとっくに駆使されている。すでに2016年に、タリバンがクンドゥスでバスの乗客多数をつかまえて、指紋照合スキャナーによって、処刑すべき人物を選り分けていた、という証言があるのだ。

 米軍が無人機による爆殺ミッションを決行するときに参照しているのはABIS=自動バイオメトリック・アイデンティフィケイション・システム という。このデータベースはDoDが管理している。
 それによく似たシステム「AABIS」を、アフガニスタン政府の内務省が、持っていた。もちろんABISに準拠して構築したのである。

 詳しい人によると、AABISは2012年時点においてアフガニスタン国民の80%の個人情報をカバーしていたという。人数にして2500万人となろう。

 AABISとは別に「e-tazkira」というシステムも構築の途中にあった。これはアフガンの全国民に電子IDカードを持たせようという計画であったが、620万人くらい登録されたところで、政府が消滅した。

 アフガン政府は、選挙の不正投票行為を防ぐために、バイオメトリック・スキャナーを使うつもりであった。2019年の選挙が、インチキだらけだった。

 現代では、端末などリスクではなく、むしろ、データベースそのものが、社会の巨大リスクたり得る。

 ※この記事を読んでいて、日本の「デジタル庁」とやらが将来やらかしそうな失敗が心配になってくるのは、俺だけかい?

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 Prime Gilang 記者による2021-8-29記事「MQ-9 Reaper Releases Hellfire R9X “Flying Ginsu” Missile, Two ISIS-K Leaders Die」。
   ISIS-Kの幹部2人を殺したヘルファイアは、非爆発弾頭の「R9X」だった。
 投下機体は「RQ-9 リーパー」。

 落下中に長い十字翼が展張し、それが大鉈のように自動車を真上から切り裂く。

 現場は、カブール市内の東側だったという。

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 indomilitary の2021-8-30記事。
   インドネシア軍は、2019-8に、中国製の「CH-4 レインボー」無人攻撃機を受領していたが、このほど、ようやくその試験が終わり、これから実戦投入できるようになったという。
 兵装は「AR-2」というヘルファイアもどきである。
 航続距離は250km。

 トルコのロケトサン社は、ドイツ-スウェーデンが開発した巡航ミサイル「タウラス KEPD 350」のそっくり品「SOM」を国産化した。それをバイラクター社の「アキンジー」無人攻撃機から発射できるという。

 「アキンジー」は13時間もの滞空が可能である。
 SOMは、海上の敵艦の180km手前からリリースされる。最終誘導は赤外線画像識別による。

 SOMの動力は「Kale KJT-3200」エンジンである。マッハ0.94を出してくれる。
 弾頭重量は230kg。全重は600kg。長さ3.6m、ウイングスパン(投下後展張)2.6m。
 射程だけを稼ぎたいならSOMは800km飛翔する。2013年にトルコは試験でそれを実証している。