韓国の軍事予算は総額でロシアも抜く勢い。兵隊の成り手は年々減少するが、予算だけは増やして行ける。この有利なポジションをどうやって対北鮮の軍事力構成に転換すれば合理的か?
考えてみよう。
今回実験した新型弾道ミサイルは、心理的に北に対して効き目があった。生半可なハードニングでは、非核の弾道弾で貫徹されてしまうと北鮮は悟った。
それについては前から考えていて、ついにサイロ式を諦めた。また、平地に地下司令部を置くことも、諦めた。
山の中腹のトンネル内なら、そこまではRVは貫徹はしてこない。もし上から米軍によって核を撃ち込まれても、ある程度、もちこたえるだろう。だからもう、トンネルしかないのだと北は結論したはず。
司令部機能も、兵器も、山中の横穴トンネルに隠遁させるしかないのだ。
ICBMを列車化するのは、旧ソ連式だと、いろいろと無理があった。ロシアもそれで諦めている。
しかし、いま中共が砂漠の「東風41」新基地で実験している方式なら、それほど無謀ではなく、有事にも生き残れる可能性がある。
つまり、発射はハードニングされた垂直坑、もしくはトンネル出口のすぐ先のオープンエア地でするものの、ミサイルの平時の貯蔵は「地下鉄」方式にし、また、そこから発射場所までの短距離移動も、鉄道貨車でさせるようにするのだ。もちろん、できるだけ、トンネル内を動かすだけにする。
北鮮が今、必死でめざしているのは、ICBMに関しては、この方式だろう。
韓国は予算と兵器量産力に余裕があるので、「大型弾頭・低空・低速の無人特攻機」のスウォームを陸地から放てば、北鮮内の全鉄道を寸断することが簡単にできる。
スウォーム無人機に対して、予算難の北鮮は、防ぐ手段がない。持っているSAMの数の数十倍も飛来するのだから。
すべてのトンネルの出口を、特に念入りに特攻されれば、列車機動式の弾道ミサイルは身動きもできない。
とうぜん、北鮮はそこまでも考えているはずで、発射までのサイクルを地下トンネル内だけで完結できるような方式を、今、計画しているはずだ。しかし工費を工面し、必要資材を調達することは、不可能に近いだろう。
わが国が心配するべきなのは、北鮮の「イスカンデルM」もどき、北鮮の巡航ミサイル、北鮮のSLBM、韓国の「ヤホント」もどき、韓国の地対地弾道弾、韓国のSLBM、韓国のトマホークもどき、韓国の新型空対地ステルス巡航ミサイル……そのすべてが、日本全土の原発「建屋」(使用済み燃料棒貯蔵プール。そこは非装甲)にとっての深刻な脅威だということ。
原発を全廃しないという人は、原発「建屋」をこれらの近隣脅威からどうやって防護する気なのか、その方策を提案できなくては、政治家としては失格だろう。
次。
Vann H. Van Diepen 記者による2021-9-16記事「Initial Analysis of North Korea’s “New Type Long-Range Cruise Missile”」。
9月13日の声明では、新開発の「ターボファンエンジン」〔朝鮮語を直訳するとタービンブラストとなり、それはターボファンの意味であるらしい。ターボジェットではなく〕が性能要求に応えたと言っている。
※トマホークのエンジンも超小型のターボファンである。ターボジェットではなく。ターボジェットでは燃費が悪くて長く飛べぬ。
北鮮じしんが、今回の巡航ミサイルを過去2年間開発してきた、と声明している。弾頭威力試験もやっている、と。
三代目は2021-1に第8回の党会議に対して、北鮮がすでに「インターミディエイト・レンジ」(=3000kmから5000km)の巡航ミサイルの開発を前進させた、と報告している。
しかし9-13の巡航ミサイルは1500kmで落ちたらしいからこれは「ミディアム・レンジ」と呼ぶのが正確であろう。
地上発射式の巡航ミサイルは、1983年に米国が完成したものが始祖原型である。翌1984にロシアがトマホークをまずコピー。ついで中共は1996にトマホークのコピーに成功〔時間がかかったのは、小型エンジンがネックだったろう〕、パキスタンは2010にトマホーク・コピーに成功〔拾った不発弾をリバースエンジニアリングしたともいう〕、インドは2013にトマホークもどきの国産品をテスト、そして韓国が2006にトマホーク・コピーの配備を開始した。
トマホーク系巡航ミサイルは、胴径が50cmから60センチしかない。北鮮がこのサイズに原爆を小型化できているとは信じがたい。三代目は2021-1の報告で、核弾頭をもっと小型で軽量にしなければ戦術兵器にできない、と言っている。
同じ報告書の中で三代目は、《インターメディエイトレンジでしかも通常弾頭の巡航ミサイル》にも言及している。
おそらく北鮮はロシアの「Kh-35」対艦巡航ミサイルを2014年より数年前に買い、それをコピーして「クムソン3(KN-19)」ミサイルを2014に国産化した。この「クムソン3」のエンジンを改良して、今回の巡航ミサイルに搭載したのだろう。
9-13に、何度も飛行テストしてきた、と言っているから、9-11が初飛行だったのではないのだろう。
「2年間」と言っているのは嘘だろう。その数倍の年月を費やさないと巡航ミサイルは完成しない。2年間というのは、開発の見通しが立ってきて、三代目から事業が発破をかけられたピリオドを言っているのだろう。
巡航ミサイルは北鮮に多くの有益なオプションを与える。
巡航ミサイルを迎撃するには、弾道弾を迎撃するのとはまったく別のアセットが必要である。
弾道ミサイルと、多数の巡航ミサイルを混用することで、周辺の敵陣営の防空力は弱められてしまう。
巡航ミサイルは、艦載することによって射点を広い海上に移せるだけでなく、飛行コースを大廻りさせることにより、敵陣営の予想外の方角から敵国の要所を襲撃することができる。
同じ排水量の小型潜水艦に、巡航ミサイルであれば、SLBMよりも何倍も多い本数を搭載することができる。これは大型潜水艦を急に増やせない北鮮としては大メリットである。
ほとんどの水上艇、偽装商船、偽装漁船に、巡航ミサイルを、こっそりと、敵には見えないように、搭載することが可能である。したがって奇襲がたやすい。
理論的には長射程巡航ミサイルから対艦バージョンもつくれるが、目標発見と途中指令誘導の手段が、北鮮には無いだろう。
※しかし軍港内に碇泊中の敵艦船を無差別に襲撃するならば話は変わる。
次。
Joseph Trevithick 記者による2021-9-15記事「North Korea Is Now Launching Ballistic Missiles From Trains And That’s A Big Deal (Updated)」。
発射車両は、有蓋貨車で、その天蓋が開いて弾道ミサイルを屹立させる。さらに貨車の側面は、ブラストを逃がすため、開口部が開く。
発射したミサイルは、米軍が「KN-23」と呼ぶ、「イスカンデルM」もどきのようだ。
「KN-23」も、2019の試射写真と、2021-3の試射写真ではサイズが違う。大型化しているのである。
ミサイルを列車に乗せることのひとつのメリットは、偽装列車を使えること。ミサイル発射車両や運搬車両のように見せてじつはただの貨車にすぎない「囮」を多数、走らせておけば、敵の第一撃を分散できる。
※客車とみせてじつはミサイル発射車両……という逆パターンは、ほとんど不可能だろう。というのも鉄道ミサイル発射連隊は、列車1編成まるごと「移動兵舎」でなくてはならないのだ。そんなめんどうくさい外見の客車を北鮮の予算で造っていられるわけがない。
ソ連はかつてICBMのRT-23「モロデツ」〔=SS-24〕を鉄道発射式にしていたことがあった。
それをロシアはまた復活させようかと考えたこともあった。「バルグズィン」という名で。
しかし、ハイパーソニック滑空RVの「アヴァンガルド」が有望になったので、「バルグジン」はキャンセルされた。
※サイロ式ならミサイルを無限に重くできるが、鉄道式では重くすることに制約がありすぎる。それに、発射連隊が常に列車暮らし、というのも、不経済&不人気すぎたのだろう。それが米露では列車式がアイディアのみで放棄されている理由だろう。ソ連は貴重な実験をしてくれたわけだ。