NRAからの反論。

 Sean Spoonts 記者による2021-10-28記事「The NRA, Nemesis of ‘Woke’ Hollywood, Could Have Made Alec Baldwin’s Set Safer」。
   元海軍の軍人で、今はNRAの立場を代弁する記者に言わせると、ボールドウィン事件の報道はいろいろおかしすぎる。

 まず「ミスファイアー」という動詞を「暴発させる」という意味でボールドウィン側が使っているが、「ミスファイアー」の意味は「不発」だ。大手のマスメディアがこぞってその動詞の誤用流通を手伝っている。どうかしているのではないか。

 ※オンライン辞書で調べてみたら「アクシデンタル・ディスチャージ」という二語の長い表現にしないと日本語の「暴発」の意味合いが出せないみたいだ。これは意外だった。もし英語圏に重厚な「銃文化」があったならば、かならず、これを短い一言で伝えられる単語も昔からあるはずだからだ。そこで念のためスペイン語とイタリア語で「accidental discharge」を何というのか、入力してみたところ、やっぱり一語では出てこない。今回の最大の発見也。この際ついでなので、室町時代から江戸時代のわが国で銃の「暴発」のことを短く言い表す名辞があったかどうか、ご存知の方はご教示ください。わたしは思い当たりません。

 「プロップ・ガン」(小道具銃)という表現もいかがなものか。今回の事件で発射されたのはまぎれもない実銃で、ボールドウィン本人もそれはよく承知していたのであるから。

 かりに、撮影現場に必要であった虎が、スタッフやキャストを殺傷したら、その虎は「プロップ」と呼ばれるか? そんなことはあるまい。ホンモノの虎が人を噛むのだ。今回は、ホンモノの銃が人の命を奪った。

 今回の事件現場のセット村では、現地警察が、500発以上もの空砲・擬製弾・実包を押収しているという。

 また事件が起きる前にすくなくとも3人の人間が、カメラマンを殺したその銃に触れている。一人はアーマラー。一人は助監督。もうひとりはボールドウィン本人だ。実弾が入っていないかどうか、確かめるチャンスは、つまりは3回はあった。

 大きな責任のある24歳のアーマラー、ハナー・グティエレスは、アーマラーとしての特別な訓練を何も受けておらず、通用するライセンスも持っていないことは明らかである。彼女の親父が有名なハリウッドのアーマラーであったことは、彼女の仕事の質にまったく関係がない。

 米国の映画・テレビ業界では、今日、生きた「動物」の扱いが、すっかり改善され、配慮が行き届いている。
 「認証されている動物安全の代理人たる米国動物愛護協会(American Humane Society Certified Animal Safety Representative)」――略してAHS――という組織が、撮影現場で、動物への加害や虐使がなされていないかどうかを、見張っているからだ。

 映画会社は、撮影の開始前に、脚本をAHSに開示して承認を得なくてはならない。

 そのさい、動物ハンドラーとして誰を使うのかも申告する。そうした動物ハンドラーは、しばしば獣医の肩書きも兼帯していることが多い。AHSは、そのハンドラーたちの名簿を審査し、十分な資格があるということを、正式に承認する。

 この手順を経ることで製作者は初めて、映画のテロップに「本編の撮影中、いかなる動物も虐害されてはおりません」と表示する「お墨付き」を頂けるのである。

 当然ながら、撮影に持ち出された動物によって、周りの人間が危害を受けることがないようにも、AHSは注意を怠らない。

 動物に関連したこれほどシリアスな対応と比較して、火器に関するハリウッドの態度は、杜撰だ。

 たとえば、ワーナーブラザーズスタジオのウェブサイト「safetyontheset.com」には、「撮影セットにおける安全」遵守事項が列記されている。
 いわく。
 すべての火器は、それが装填されているものと思え。
 馬を用いる撮影で、火器を使ってはならない。
 じぶん自身を含め、何人に対しても銃口を向けてはならぬ。もしそうするように命じられたときには、正規の専門家に相談すること。
 可能なかぎり、実銃ではない模造の火器を使用すべし。
 撮影現場にもステージにもロケ地にも、実包は持ち込んではならない。

 ここには「アーマラー」という言葉は出てこない。
 映画会社はアーマラーを抱えているが、そのアーマラーに資格を与えているのは、その映画会社のユニオン(労働組合)なのである。連邦政府が資格を認定してやっているわけでも、火器の安全に関する訓練に携わっている、いわばAHSに類似した専門機関〔ようするにNRA=全米ライフル協会のこと〕が認定してやっているわけでもない。

 ハリウッドは、リベラルの巣窟といわれている。にもかかわらず、あきれるほどに銃器が好きである。
 銃メーカーがハリウッドに「支持をお願いします」と頼む必要はない。
 映画製作者の方から「おたくのホンモノの銃器を使わせて欲しい」と頼んでくるのである。

 映画『ダーティ・ハリー』シリーズとS&W社製の.44マグナムは、きってもきれない。この巨大リボルバーは、「イコン」に昇格した。それはクリント・イーストウッドのおかげである。この拳銃は、お世辞にも、良い銃だとは言えないものであった。大きすぎ、手にあまる。反動は強すぎ、連射は6発しかできない。

 じつはこのハンドガンは「ノヴェルティ」(面白グッズ)としてメーカーが発表したものなのである。最初に「.44マグナム」という実包ができたのだ。当時はそれが世界最強の拳銃実包だった。その新実包のために、それを発射できる拳銃を、なかばジョークでこしらえてみたのだった。

 ところがこの、実用品ではないノヴェルティ拳銃が、バカ売れすることになった。「ダーティ・ハリーの銃」だとして知名度が広がったおかげで。いまだに売れ続けているのだから、映画の影響力とはおそろしいものである。

 ※はずかしながらわたしも当時、MGCのプラスチック製の「.44マグナム」を通販で購入。黄色い紙のスタート用平玉(たしか0.1グラムか0.05グラム? ふつうの赤い平玉(巻き玉ではなく)の数倍の薬量だったが、当時の爆竹よりは遥かに少なかったと記憶する)をカートリッヂ前端に詰めてシリンダーにヒビを入れてしまったものである。しかもわたしは人の至近の背後でこのスタート用雷管を装填した「.44マグナム」を暴発させてしまったことがある。あれが実銃だったら、中学生にして人殺しだったわけである。このトラウマがあるので、わたしは今回のボールドウィン事件を嘲笑する気にならないのだ。

 雑誌『エコノミスト』が2015に特集している。銃器を使った暴力表現が含まれるため「PG-13」に指定されている映画の製作数は、1985年から比べて3倍に増えたとしている。

 またハリウッド映画に使われた実銃のバリエーションを数えた人がいて、その種類は2010年から2015年までの5年間で51%増えているという。

 大昔、ハリウッド映画の仇役は、映画の最後に、主人公の放つ、ただ1発の銃弾で殺されるものであった。

 ところが今はどうだ? キアヌ・リーブズ演ずるジョン・ウィックの飼い犬1匹を殺したロシア・マフィアは、その報いとして77人も殺されねばならない。1時間41分の尺で。こんなシリーズが4作、つくられている。
 しかも死に役は、1発では死なせてもらえない。こっぱ微塵になるまで銃弾を撃ち込まれねばならない。

 銃器メーカーとハリウッドは、結びつくことで互いに利益を最大化させてきた。だったら、なぜ、映像業界は、もっとシリアスに銃器の取り扱いの安全をこころがけないのか?

 政治と偽善がある。
 アレック・ボールドウィンは長年、一般市民が銃を所持することには反対を表明してきた人物である。
 反NRAの「ノー・ライフル・アソシエーション」が発した公開書簡に、彼も署名している。

 その公開書簡にいわく。
 米国政治に対するNRAからの寄付金の影響力をなくすることで、米国社会の暴力性を減少させたい、と。

 なるほど、ハリウッドは反NRA政治によって暴力の少ない世界に移行したいのか。これは『ジョン・ウィック 5』や『ジェイソン・ボーン』の7作目がどんな脚本になるのか、楽しみにせざるを得ないね。

 ハリウッドのスターたちと製作者たちがもし、厳格このうえない銃器管理を映画業界に導入したいと望むのなら、彼らは逆にNRAを必要とするんですぜ。

 NRAでは「認定射場安全管理責任者(NRA Certified Range Safety Officers)」という資格を制定している。米国では随一の専門資格だ。今後、ハリウッドが雇うアーマラーには、この資格を持たせるしかないのではないか。

 この認定資格を取得するのは、かなり難しいぞ。
 まず「NRA火器インストラクター」という前段の資格を取ったあとでないと、射場安全管理責任者にはなれない。

 米国で火器の安全に関するエキスパートといったら、それはNRAなのだ。
 民間の射場で掛けている保険がある。この保険の適用には、「認定射場安全管理責任者」を置くことが必須条件である。だからNRAの「認定射場安全管理責任者」は、いいかげんなものではありえないのだ。

 またNRAの資格を与えられているインストラクターは、米国のほとんどの場所で、拳銃の非開示的な携行が、警察によって許されている。それほどに、信用がある資格制度なのだ。
 そうしたNRAのインストラクターが、全国の警察署の射撃教習にも、派遣されている。

 実銃を使った映画ロケが行われる州では、その現場に必ずRSO=Range Safety Officer が臨場しなければならないと州法で規定するべきだ。そしてRSOには、もしもスタッフとキャストが安全準則を満たそうとしない場合には、その撮影を禁止にできる権能が与えられるべきである。

 次。
 Rachel Cormack 記者による記事「This New Super Sub Can Dive to 1,000 Feet and Move Faster Than a Bottlenose Dolphin」。
   オランダのレジャー用潜航艇のメーカー「ユーボートワークス」の新製品。『スーパー・サブ』という。
 水中で8ノットを出せるようになった。
 1回の充電で、8時間潜航できる。リチウム電池。
 全長17フィート。
 自重1万9841ポンド。

 トリム30度での急速浮上もできる。
 最大深度は1000フィート弱。

 操縦手1名とお客2名を、涙滴形のコクピット内に座らせられる。
 予約はすでに始まっている。生産型の第一号艇は2023年に引き渡される。