屋上支線形風力発電装置はなぜ有望か。

 支線塔(guyed mast・ガイドマスト)は、わが国の中波ラジオ放送用の電波塔でよく見られる型式だ。

 通例、角度120度の間隔で3方位に地表のアンカーまで引っ張った鋼鉄ワイヤーの支線で、中心の主檣(非自立構造)をささえている。

 支線は一段(3本)のこともあれば、二段(6本)のこともある。主檣の頂冠までの地上高が100mもあるのなら、支線は二段にされるのが普通だ。

 主檣は今日では中空鋼鉄管のことが多いが、昔は鉄骨トラス構造のこともあった。

 以上は一般的な形式だが、提案したい屋上発電設備では、このスタイルを反転させる。

 すなわち、中心に直立させるのを、自立式鉄塔とする。装置の中心のこのタワーは、装置全体の「主柱」である。

 その主柱の頂部や中間部から、3方向といわずに、4方向、5方向、6方向、……多方向に、斜めの鋼鉄ワイヤーを張り下ろす。さながら、Maypole(五月柱)のリボンの如く。

 このワイヤーは、途切れの無い連続縒り線ではなく、途中で多数の「継ぎ手」がある。
 その継ぎ手の単位ごとに、数珠あるいは管状ビーズのように、多数の小直径の風圧感応ローターが、ワイヤーに串刺しにされる格好で配列される。

 発電力を欲張ると、この風車を大径化させたくなるだろうが、それはよくない。暴風時に自壊しやすくなるからだ。
 発電力を欲張らずに、ひとつひとつの風車を小直径にしておけば、台風に吹きまくられても、自壊し難いであろう。

 もちろん、微風時にはまったく発電しなくなるが、それでOKだと割り切るべし。
 ビルのオーナーが「再生可能エネルギー」に関して「意識が高い」と世間に示すことのできる、視覚的宣伝になってくれることが、この装置の最大の眼目である。

 日本のビル街の単調な矩形のスカイラインも、複雑化して、あらたな美観を呈するだろう。

 発電した電力は、ビルの揚水ポンプの駆動エネルギーの一助にする。それだけでいい。

 既にビルの屋上にヘリポートが設けられている高層ビルや病院ビルには、この発電システムを設置することはできないだろう。

 しかし、ヘリポートの設けがない低層~高層ビルには、この発電システムは、問題なく適応する。
 空調用クーリングタワーや無線のパラボラアンテナ等の機能に、ワイヤーが悪干渉することもない。
 干渉しそうなワイヤーは、張らなければいい。それだけなのだ。

 この方式の強みとして、「着雪・着氷を気にしなくて済む」ことも挙げられるだろう。

 風を受ける回転体が、算盤珠状に区切れて並んでいるため、支線上には雪は積もらない。着雪しなければ、着氷も大きく発達しにくい道理だ。

 大都市の、ビルの屋上の面積は、合計すれば、膨大なものである。
 いままで、その屋上の直上の空間は、まったく無駄に放置され、すこしも有効利用されてこなかった。
 ビルの屋上部こそ、恒常風の宝庫であったというのに……。

 メイポール形風力発電設備は、この空間と自然エネルギーをフルに活用する。
 設備の総重量は、十分に軽くできる。よって、ビルの耐震強度に悪影響を及ぼさない。

 ところで、これに関連する業界の用語を調べていて、面白いことを知った。

 英国では「送電鉄塔」のことを「パイロン」と通称する。米語では「トランスミッション・タワー」である。
 ところが米国で「パイロン」と言えば、それは道路上に置き並べる「コーン」の意味になるらしい。

 また「ハイドロタワー」という英語があって、水道管でも渡すのかと思ったら、そうではなく、これは、水力発電ダムから電力を送り出す送電線の経路に樹つ鉄塔のことなのだそうである。