Sabine Hossenfelder 氏による2021-11-20の語り「The 3 Best Explanations for the Havana Syndrome」。
※これはユーチューブ番組のテキスト起こしである。
「ハヴァナ・シンドローム」は2016後半、在キューバの米国外交官たちがさまざまな謎の健康不調を愁訴したのが早い報告だった。
続いて、在シナ、在ロシア、在オーストリーの米国外交官たちも、類似の愁訴を始める。ついには米首都、ホワイトハウスの近くでも症例が報告された。
特に酷くやられたのは、モスクワで仕事をしていたひとりのCIA職員で、彼は退職を余儀なくされた。
数週間前、また新しい症例がニュースになった。ひとりのCIA職員がインド訪問中に具合を悪くしたというのである。
ハバナ症候群のすべての健康被害愁訴者に共通しているのは、繰り返し「音」が聞こえるというもので、しかしながら、その音源については、皆目、分からないのである。
どんな音か? APの記者が、録音を取得した。録音された場所は、在キューバのひとりの米外交官の私邸内であるという。
※ユーチューブのコンテンツでその音を再生できるようだ。
ただし、キューバに赴任して体調を悪くしたすべての米政府職員が「ミステリアスな音」を聞いているのではない。
また、ここで録音が公開された音と同じ音が、他の健康被害者たちをも病気にしたのかどうかも、確かめられてはいない。
医師たちは、ハヴァナ症候群を説明するには、三つの仮説があり得るという。
ひとつ。集団ヒステリー(噂に怯えた者の思い込み)。
ひとつ。マイクロ波(高周波の電波)。
ひとつ。超音波。
集団ヒステリー仮説は、在キューバの外交官らに関しては否定されている。現地で米軍病院の某医師が診断し、ほとんどの愁訴者の「内耳」がじっさいにダメージを受けていることを確認した。あきらかに、外部からの「力」が、内耳に作用したと考えられるという。
ただ、この症候群を発症する前の患者の内耳の健康状態のデータが不完全で、ロクに揃ってはいないために、患者がいつそのダメージを蒙ったかを、特定することができないという。
※日本外務省は海外赴任予定職員の内耳の写真を出張前に撮影してデータ保存しておくべきだね。用心に越したことはないから。
米国で2018年、この症候群について調べた作業は、しょうもない水準であった。
しかし2019年に神経学者たちが『全米医学協会雑誌』に寄稿したものは、説得力ある証拠を示している。
その研究チームは、ハバナ症候群に悩んでいる米政府職員40人の脳を核磁気共鳴撮影。それを、別な48人の無関係な患者(ただし年齢、性別、学歴ができるだけ比較対照に似ている人)と比較してみた。
何が判ったか。
両グループの灰白質には、なんらの顕著な差異も認められない。
思考や企図にかかわる実行制御分ネットワーク(executive control subnetwork)領野についても同様。
だが、白質に、顕著な差異が認められた。白質は、ニューロン同士を結びつける組織を内包する。
ハヴァナシンドロームの患者たちは、この白質が、縮んでいた。ふつうの人よりも、体積にして、27立方センチ、白質が減っていた。これは白質の総体積の5%が失われていることを意味する。
※3センチ×3センチ×3センチだな。
この発見の「p値(有意値)」は、0.001以下である。※とうてい偶然だとは考えられぬ、という示唆。
また、脳の左右半球のあいだのつながりに関して、ハバナ症候群の患者たちは、あきらかに「より低い平均拡散」(lower mean diffusivity)を示した。 ※MRI業界の術語らしい。
それが何をもたらすかは未解明だが、他の人と比較してこの差異があることだけは、p値が0.001以下で、あきらかに有意と思われる。
聴覚をつかさどる脳領域の機能結合も、低下していた。そのp値は約0.003である。
※p値が0.05よりも小さいなら、まず偶然ではないと人を説得できる。
空間識をつかさどる脳領域の機能結合も、低下していた。そのp値は0.002である。
これらの数値から、論文の主筆者は『NYT』記者に説明した。ハバナ症候群の愁訴は、心因性や精神性の想像産物だとはほとんど考えられぬ。リアルに実在する障害だ。
キューバでハバナ症候群にかかった最初の患者の話は、半年間、報道機関に漏らされてはいなかった。
しかるに、その半年のうちに、セベラル人の同じような愁訴をする患者が病院にやって来ているのだ。このことは、ハバナ症候群が集団催眠術ではないという情況証拠になるだろう。
それらの患者は口々に、奇妙な鋭い音が聞こえるといい、ただしどこからやってくる音なのかは特定ができないと訴えた。
ではこの病状を引き起こしたのは、マイクロウェーヴなのだろうか。
冷戦中、モスクワの米国大使館は、46時中、マイクロ波で覆われていた。ソ連当局の狙いはよくわからなかったが、米国外交官を病気にしてやろうとしたのではなく、信号防諜の意味があったのだろう。つまり、米国大使館の敷地内の傍受アンテナで、モスクワ市中をとびかういろいろな無線信号を採取されるのを邪魔してやろうとする目的の電波輻射であった。
しかし1970年代に、駐ソ連大使のウォルター・ステッセルは、ひどい病状を呈した。眩暈と貧血。片目の出血。これは一体……。
今日、秘密解除されている公文書によれば、1975年にヘンリー・キッシンジャーは、ステッセルの病気がマイクロ波と関係があるとみなしていた。そしてそのことは秘密にしておかなくてはならない、と電話で語っていた。
ステッセルは白血病で死亡した。66歳。発病してからおよそ十年後である。
では超短波の電波は、ハバナ症候群の原因か? 不審がある。ならばどうして「音」を感ずる? 人の聴覚には「電磁波」は聞こえないだろう?
ところが、聞こえるのだ。
米国の神経学者のアラン・フレイは1960年に、あるレーダー技師の耳には、マイクロ電磁波のパルスが聞こえるということを知った。そして確かにフレイ自身にも、それは聞こえたのである!
そこでフレイはいろいろな実験をしてみた。
たくさんの実験台の人たちに、低い出力の、マイクロ波帯のパルスを浴びせては、何か聞こえるかどうかを、尋ねたのだ。もちろん、安全な保護体制を講じた上でだ。
結果、すごいことがわかった。
みんな、電磁波であるパルス波を、音として知覚したのだ。それも健常者だけじゃない。聾唖者であっても、電磁パルスの「音」を聞くことができるのである。今日、この現象を「フレイ効果」と呼ぶ。
電磁パルスが音として認識される機序は、フレイによれば、こうだ。
まず電磁波の放射源からやってきたエネルギーは、人間の頭蓋骨の表面に近い組織にて、吸収される。
その組織内で、吸収されたエネルギーが熱に変わり、短時間、昇温する。
といっても、摂氏にして、僅々「500万分の1度」の温度上昇にすぎないのだが。
それでも組織全体は、この昇温によって「膨張」し、またすぐに「収縮」する。
この膨張と収縮が反復されると、圧力波が生じ、内耳の蝸牛を刺激するに至る。脳神経は、それを「音」として解釈するわけである。
そのようにして人体内で創り出された「音」の周波数は、興味深いことに、人体が浴びたマイクロ波の周波数とは相関が無い。
これは「共振・共鳴」現象なのだ。あなたの頭の大きさや、あなたの頭皮組織の振動特性が、特定の、聞こえる音を創り出すのだ。
ハバナ症候群患者が訴える《怪しい音》の正体として、その起源がマイクロ波であることは、まったく、あり得るだろう。
1970年代に、米国の電気技術の教授 ジェイムズ・リン は、みずからを実験台として、実験室内で、超短波を浴びてみた。
そして何篇もの研究報告を公表している。彼が記述している自覚症状は、ハバナ症候群そのものである。
サンディエゴ大学の、ベアトリス・コロム教授は長年、マイクロ波の健康におよぼす影響を調べている。そして、中共で酷い目に遭っている米国外交官たちを助けようと、助言をしている。
BBCに対して彼女は説明した。外交官といっしょに海外で暮らしている家族は、市販の道具を使って、マイクロ波攻撃を受けているかどうか、確かめられるという。
NYTの記事によれば、マイクロ波の輻射装置は、誰かを密かに攻撃する兵器としては、サイズが大きすぎるきらいがあるという。
しかし国家機関やそうした分野のプロが製作すれば、その輻射装置を、ヴァン型商用車の車内に、収められるだろう。その乗用車を、敵性大使館の近くに位置せしめればよいのだ。
最後に残る疑問は、そんなイヤガラセ攻撃をしてロシアや中共にはどんな得があるのか、だ。
いくつかの国では、暴徒を遠ざけるための警察の装備として、超音波発生装置が採用されている。これについて全米聴覚医学会は昨年、警告した。その超音波を浴びせられることにより、いろいろな障害や後遺症が出るおそれがあるぞ、と。列挙されている症状は、ハバナシンドロームと大きく異ならない。
2018年にミシガン大学の研究者たちは、一仮説を唱えた。中共のスパイ道具として超音波を発するものがあって、それが複数仕掛けられると共鳴が生じ、耳に聞こえる音になるのではないかと。つまり、仕掛け方が下手であるためにバレるのではないかと。
この仮説の難点は、すべての拠点でシナ人スパイは下手ばかり打っているのかという反問を解消できないことだ。
英国リンカン大学のフェルナンド・モンテレグレ教授は「こおろぎ」の専門家。彼は、ハヴァナ市内で録音された、その謎の音響は、「インド短尾コオロギ」の泣き声と、音波形がマッチする、と主張している。
中共国内で報告された「ハバナ症候群」は、キューバでの被害が公けに報じられた後の報告なので、あるいは、そっちに関しては、集団ヒステリーかもしれないという疑いの余地はある。